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紅葉が散る前に……

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紅葉が散る前に……

リアクション

 のんびりデート……というカップルばかりではない。
 譲葉 大和(ゆずりは・やまと)遠野 歌菜(とおの・かな)は紅葉舞い散る中、決闘をしていた。
 紅葉の中に2人の騎士が立ち、互いを睨みあう。
 真剣勝負なので、カップルでも、見つめ合うよりも睨みあうというのが正しい感じだ。
 良く知った仲なので、お互いの手の内は良く分かっている。
 静謐な時間が流れ……パッと先に動き出したのは歌菜だった。
「はあっ!!」
 歌菜の『ランスバレスト』が炸裂する。
 力では敵わないので小細工なしでランスバレストの一撃にかけたのだ。
 しかし、大和はそれを完全に読んでいた。
 歌菜が隙だと思ったそれは大和が作ったものだった。
 大和の手中に嵌ったのだ。
 回避を行った大和はそのまま大きく踏み込んで、距離を詰め、歌菜の首に剣を当てる。
「……完全に読まれてましたね」
 歌菜が青い瞳が、大和の茶色の瞳を見つめる。
「大成功でした。歌菜さんはきっと大技狙いで来るだろうと思っていたので、隙を見せることまでちゃんと考えておいたのですよ」
 大和は歌菜にヒールしてあげながら、微笑みを返す。
「やっぱりただ体を鍛えるだけじゃ駄目ですね。作戦負けしてしまえば、どんなに強い攻撃を出せるとしても、無意味です」
「無意味じゃないですよ」
「え?」
「歌菜さんにこうやって、お願い事ができるでしょう」
「あ、は、はい」
 距離を近づけられて、歌菜は緊張しながら頷く。
「潔く大和さんのお願いをお聞きします」
「ありがとうございます」
 大和は微笑んだが、どこか緊張しているようだった。
「キス、させていただけますか?」
「え……っ」
 驚いた歌菜だったが、騎士に二言はない。
「わ、分かりました」
 緊張しながら、歌菜は頷く。
 歌菜が緊張すると、大和も緊張してしまうもので、二人はドキドキしながら、接近した。
 大和の手が、歌菜の肩に触れ、そっとその肩に手が置かれる。
 そして、唇にそっと触れるか触れないか程度の短いキスが交わされた。
「その、貴方に勝つことでしか、まともに口付けすらできない俺を許してください…」
 大和はそう言って、歌菜を軽く抱き寄せるのだった。


「わー……すごい、真っ赤ですねぇ……」
 ティエリーティア・シュルツ(てぃえりーてぃあ・しゅるつ)は秋の空に輝く紅葉を見つめ、溜息をついた。
「キレイだなぁ。この葉っぱが落ちちゃうの、勿体無いですね」
 ニコッと笑顔を見せるティエリーティアを見て、志位 大地(しい・だいち)はドキッとした。
「ええ、本当に綺麗ですね」
「そうですよね!」
 共感が得られたのだと思い、ティエリーティアは笑顔を見せる。
 もっとも大地が綺麗だと言ったのは、紅葉よりもティエリーティアの笑顔だったりするのだが。
「あっ!」
 上ばかり見ていたティエリーティアがフラットしかける。
「危ない!」
 大地がティエリーティアの腕を取り、その腕を引き寄せる。
 自然と抱きよせるような形になり、気づくと、ティエリーティアは大地の腕の中にいた。
「あ、ありがとうございます」
 少し頬を染めながら、ティエリーティアがお礼を言う。
 躓いた自分が恥ずかしくて、ティエリーティアは頬を染めたのだが、その様子が可愛いと大地は思っていた。
「ウサギマフラーが汚れないように気を付けて歩いてください」
 その言葉にちょっと恥ずかしくなりながら、ティエリーティアは大地の隣を歩くのだった。

 大地が絶景の紅葉の場所を探しあて、そこでティエリーティアが作ってきたお弁当を食べることになった。
「僕、ちゃんとレジャーシート持って来ました! ……あれ?」
 バッとレジャーシートを広げたつもりのティエリーティアだったが、バッとと表現するほどに大きくなかった。
「…………」
 明らかに一人用のシートを見て、ティエリーティアが黙る
「大丈夫ですよ、ティエルさん。座れないわけじゃないですし」
 大地がそうフォローし、二人は狭いシートの上で肩を並べて座った。
「ところで、その大きな袋は?」
「あ、大地さんのために、お弁当つくってきたんですよー!」
 気を取り直して、ティエリーティアがお弁当を取り出す。
 ティエリーティアらしい、うさぎさんの絵柄のお弁当箱で、その中には……。
「……これは何の料理ですか?」
「大地さんの国の典型的なお弁当、だと思うのですが……?」
 そう大地に質問され、ティエリーティアが質問に質問で返す。
 大地も17年間生きてきたが、こういう日本料理は見たことが無い。
 可愛らしいお弁当箱の中は、茶色と黒に満ちている。
 しかも、明らかに生っぽいものも含まれていた。
「…………」
 じーっとティエリーティアが大地を見る。
 その視線を受けて、大地は腹をくくって食べることにした。
「いただきましょうか、ティエルさん」
「はい!」
 元気に答えるティエリーティアだったが、何か動きがおかしい。
 大地が気になってみてみると、ティエリーリアの手には絆創膏が巻かれていた。
「あ、その……僕、家庭科が上手じゃないんで……」
 それで指が傷だらけになってもがんばってくれたのかと思い、大地はティエリーティアを愛しく思った。
「ティエルさん、ありがとう」
 どんな味でもいい。
 愛情がこもってるならばそれ以上の事はないと思い、大地はお弁当を食べた。

「はい、ティエルさん、生八橋とわらび餅。それから、シーラさんお勧めの緑茶です」

 大地が自分の大好きな二つの甘味と香りの良い緑茶をティエリーティアに差し出す。
「あ、ありがとう」
 自分が作ったお弁当で、自分が辛くなっていたティエリーティアは、大地がくれたものをありがたく頂くことにした。
「おいしい……」
「ああ、それは良かったです」
 ティエリーティアの口から思わず漏れたその言葉に、大地はうれしそうな笑みを見せる。
 微笑みを返そうとして、ティエリーティアは、くしゅんとくしゃみをした。
「大丈夫?」
「あ、は、はい、平気です。その……ちょっとだけ寒いだけで……」
 その言葉を聞き、大地はちょっとだけティエリーティアに体を寄せた。
「大地さん……?」
「狭いのでちょっと失礼しますよ」
 そう言いながら、大地は風の当たる方からティエリーティアを守ってくれた。
 2人は体を寄せ合って、紅葉を眺めつづけ、帰る時にティエリーティアは優しく言った。
「また見に来ましょうね、大地さん」