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紅葉が散る前に……

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紅葉が散る前に……

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「いりにゃーが思ったより元気で良かったのです」
 桐生 ひな(きりゅう・ひな)が楽しそうに笑顔を見せ、御堂 緋音(みどう・あかね)は、ぎこちなく頷く。
「う、うん」
 ひなはイリーナと山で会う約束をしていたらしく、夜に山に来ることになったイリーナは、わざわざひなに会うためだけに昼にちょっと山に来て、ひなはそんなイリーナを喜んで迎え、明るく弄って別れたのだった。
「最近、いろいろ大変だったから、元気付けたかったんで」
「うん、良かったですね」
「……どうしました? 緋音ちゃん」
「あ、う、ううん」
 顔を覗きこむひなを見て、緋音は慌てて首を振る。
 イリーナは大切なひなの親友で……でも、緋音にとっては気になる存在だった。
 今日はひなと楽しく過ごすと思っていたから、2人が約束していて……ということに、ちょっと疎外感や寂しさを覚えたのかも知れない。
 紅葉饅頭ネタを話そうとしたひなだったが、そんな緋音を見て、話題を切り換えた。
「とっても綺麗な紅葉ですが、お弁当が気になるのですよ」
「ひなには景色よりお昼ごはんですね」
 くりすと微笑み、緋音は少し先を指さす。
「もう少し先まで行って、景色がいいところに行ったら、お昼にしましょう」
「はーい」
 2人は仲良く山の上のほうに歩いて行った。
 そうしているうちに、緋音のちょっとした寂しさは、紅葉の中に溶けていった。

「わーー、マヨ醤油焼おにぎり!」
「ひな、マヨ醤油好きだから、作ってみたんですよ」
 目を輝かせるひなを見て、緋音がうれしそうに微笑む。
 ひながうれしいのが、緋音にとっては何よりもうれしい。
「料理はあまりしないので、お口に合うといいのですが……」
「うん、いただきまーす!」
 うれしそうにひながおむすびを食べる。
 偏食のひなだが、大好きなマヨ醤油なので、喜んで食べた。
 家庭科能力の高い緋音の握るおにぎりは形もキレイで、ひなは大満足だった。
 しかし、緋音はと言うと、ちょっと落ち着かなげだ。
(あーんとかしたほうがいいのですかね? あ、でも……考えるだけで恥ずかしいです。おむすびだと難しいし……)
 悶々と悩む緋音に気づいてか気付かずか、ひなは笑顔で緋音の方を見る。
「どうしたのですか? 緋音ちゃん」
「あ、いえ」
 緋音は考えていたことを悟られないように、慌ててバッグからデジカメを取り出した。「これで今日の思い出に、ひなと写真を撮ろうかなーって思って」
「わあ、いいですね」
「こんなに日に照らされて紅葉が輝いていて。それに地上も紅葉の錦に彩られて、カラフルな絨毯みたいになっていて……こんな一瞬を、ひなとの思い出にしたいんです」
「ふふふ、ロマンチックですね」
 ひなは喜び、道を歩いてる人に、写真を頼んだ。
「すみませーん、撮って頂けますかー?」
「はーい」
 ミレーヌ・ハーバート(みれーぬ・はーばーと)が元気に答え、デジカメを受け取る。
「いいですかー、撮りますよー?」
「いいでーす」
 ひなが緋音にぺったり近づき、二人が紅葉と共に写真に収まった。
 
 写真を撮ってもらい、二人はミレーヌにお礼を言って別れた。
 緋音がデジカメをしまうと、ひながお菓子を取り出して、ニコッと笑顔でそれを向けた。
「ポッキーゲームしましょ、緋音ちゃん!」
「ぽっきーげーむ……?」
「そうです、はい!」
 ひなは緋音の口にポッキーをくわえさせ、逆の方をパクっと口に入れた。
「ん? ん?」
 何か言いたそうな緋音だったが、口にお菓子をくわえてしまっているので、何も言えない。
 そうこうするうちに、ひなが端からあむあむとポッキーを食べていき。
「……ちゅ」
 2人の唇が紅葉まい散る中で、重なった。


「いいねえ、2人でデートなんて」
「デートだったのか? あの2人」
 ミレーヌの言葉に、クライブ・アイザック(くらいぶ・あいざっく)は驚く。
「でも、確か幼なじみとか言ってた気がするけどなあ、学校で」
「幼なじみ=恋人じゃないってことには、ならないでしょ?」
「え……?」
 その言葉にクライブが驚き、思わず、ミレーヌを見る。
「はい?」
 振り返ったミレーヌは紅葉を背に、なんだか可愛らしく……。
「あ、い、いや、なんでもない……」
 なぜかドキッとしてしまったクライブは、慌ててミレーヌから目線を逸らした。
(何か鼓動がやけにうるさいのは何でだ?)
 クライブは自分の胸を抑えて、その鼓動を抑えようとする。
 しかし、空いた方の手が何かに触れた。
「え……?」
 振り向くと、ミレーヌがクライブの手を握っていた。
「えへへ」
 うれしそうに微笑むミレーヌを見て、クライブがまたドキッとする。
「本当に綺麗だね、紅葉」
「あ、ああ……」
 クライブはそう答えたものの、どこか落ち着かなげだった。
 ミレーヌはそれに気づかず、楽しそうに紅葉を見て、歌を口ずさんでいる。
 そして、クライブの横顔を見て、ちょっと頬を染めた。
(やっぱり、クーはカッコイイなぁ〜)
 ところが、そこでパッとクライブが手を離した。
「もういいだろ」
 ぶっきらぼうに手を離され、ミレーヌは一瞬ポカンとして固まり……そして、泣きそうな顔をになった。
「ど、どうしたんだよ!」
 泣きそうな顔を見て、クライブが慌てる。
「だって……」
 クライブがそんなに嫌なのを気づかずに、一人で機嫌よく歩いてたりして……私ってばバカだ。
 そんなことを想い、泣きかけるミレーヌを見て、クライブが慌てて腕を差し出す。
「え……?」
 意図が読めずにクライブの顔と腕をミレーヌが交互に見る。
「俺の腕の間に、手を通して」
「え……え……?」
「腕を組もうってことだよ」
 クライブが率直に言うと、ミレーヌはやっと気づき、笑顔になった。
(現金な奴……)
 そんな風に思いながら、泣き顔が途端に笑顔になったことに、クライブはホッとした。
「ほら、スコーン焼いて来たんだろ。さっさと眺めいいところに行って、食おうぜ」
「うん!」
 ぎゅっとクライブの腕に抱きつき、ミレーヌはうれしそうに頷く。
「あ……そうだ」
 歩き出そうとして、クライブが足を止め、ミレーヌの方を向く。
「クリスマス、暇か?」
「え、うん。暇だけど……」
「よし、それじゃ決まり、どこか行こうな」
「……うん!!」
 クライブの言葉がクリスマスの約束だと分かり、ミレーヌは今日一番の笑顔を見せるのだった。


 男同士の恋で、しかも妻のいる身の人の内妻をしている。
 カシス・リリット(かしす・りりっと)の立場は、いろんな意味で理解されづらいものであったが、しかし、同性カップルもたくさん来ているし、山は広く意外と人に会わないので、2人で気にせず歩くことができた。
「俺のカシスは、秋の山は嫌いかな?」
 ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)の言葉に、カシスは頬を染める。
「そ、それよりリュースのことはいいのか?」
「いいよ。相手の女の子に任せる。それよりも……」
 じっとカシスの黒い瞳を覗きこみ、ヴィナが笑う。
「夫婦の思い出作りがあってもいいじゃない」
「人のいるとこで恥ずかしいこと言うな馬鹿!」
「周りに誰もいないから大丈夫。それに、カシスの声の方が大きいよ。遠くの人が来ちゃうかもよ?」
 ヴィナに指摘され、ハッとして、カシスが口を閉じる。
 そんなカシスを見て、ヴィナはくすくすと笑う。
「平気だよ。普通にしてれば誰にも聞こえないし……邪魔されない」
「邪魔って……何の」
「さてね。カシスが想像したようなことだよ」
 赤くなるカシスを見て笑いながら、ヴィナは山を登り始める。
 しかし、ある程度行くと、インドア派のカシスは疲れてしまって、座り込んでしまった。
「いっつも部屋の中にばっかりいるからー」
「……反論のしようがない」
 カシスは途中にあったベンチに腰掛けながら、溜息をつく。
 しばらくしても経ちあがらないカシスを見て、ヴィナが手を伸ばした。
「はい、行くよ」
「え?」
「手、出して」
 言われるままにカシスが手を出すと、その手をヴィナが取って繋いだ。
「ヴィ、ヴィナ……」
 こんな風に手を繋いでるのを誰かに見られたら……んと思ったカシスだったが、ヴィナは迷わずその手を引いた。
「早くしないと日が暮れちゃうよ」
 そう言われては手を離すこともできず、カシスはヴィナと手を繋いで山を登った。
「あー、と……」
「ん?」
「……よかったらクリスマスも一緒に…………いや、何でもない」
 消え去りそうな声で言ったカシスのそれが、ヴィナに聞こえたかどうか。
 それはきっとクリスマスに分かることだろう。