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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)
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Barbaroi 砂漠の勇者

 再び、砂漠。
 ――思えば……遠くへ来たもんだ。黒羊郷へ旅立った筈なのに、今じゃ砂漠のど真ん中。
 この砂漠で、難民たちが自給自足するための独自の集団を結成した霧島 玖朔(きりしま・くざく)伊吹 九十九(いぶき・つくも)御茶ノ水 千代(おちゃのみず・ちよ)水都 塔子(みなと・とーこ)ら。
 霧島はその集団「バルバロイ」のリーダーとなった。
 ただの士官候補生の俺が難民を率いているだなんて。これも全部自分で選んだことなのだから、最後までやり遂げなければ。――
 やり遂げるべきこととは……とにかく、自然としてこの難民が戦争によって生まれたのだ。彼らは少なくとも帰るべき場所もなく、頼れる相手もいない。皆で、生き残っていくしかない。新天地を目指して……
 そして今日も、砂嵐……。千代は、ふっと辺りを見渡す。皆幽鬼のようにただ嵐が過ぎるのを待ち、佇んでいる。と千代は、思う。そう、私も。……あれから何回も、髑髏の夢を見る。これは本当に夢? 私たちの行く末? と。
 千代は目を覚ますと、ベッドの上である。あたたかいまどろみの中で、
「コーヒーはどう?」
 素敵な彼氏がそう言ってサイドテーブルにカップを運んできてくれて(霧島くんに似てる、なあ……)、千代は「ありがとう」。微笑んで……彼氏の頬に口付けを……
 ――いや、違う!
 千代は、はっとしてまた、辺りを。……私は今、砂漠でTEA(ティー)として生きている!
「霧島、くん……?」
 姿が見えない。辺りは暗い。まだ、今は夜だったのか。もっとも、砂塵が来れば昼か夜かもわからないのだけど……今は、砂ばかりだが砂漠の景色がよく見えて、きれいな、静かな、夜だ。バルバロイとなった者たちが、静かに寝静まっている向こうに……
「霧島く……」
「お前が必要だ」
 と、九十九に告白している霧島の姿が。二人で横になって、「……ちょっとくっ付きすぎなんじゃない? というか、なんかイチャイチャしてないですか。……」千代は、目をそらせる。
「最後まで俺に付いてきて欲しい」(スキル「説得」使用。)
 九十九は、それを聞いて頷く。九十九も、霧島の真意を知り自分の気持ちを払拭したいとの思いがあった。九十九は、不安であったのだ。本当に私たちだけでできるのかと。だけど九十九はこうしてこの晩、自分の気持ちに決着をつけた。
 千代は……「夢? 私の欲望が何かよこしまなふしだならいびつな形をとって顕現しているのかもしれないわ。眠りましょう。いえ、目覚めましょう。……どっちだ。眠くなってきた」
 翌朝、九十九は今までと違い好意的な態度で、千代にも接してきてくれた。しかし千代は逆に戸惑った。
「(え、な、何が……? 霧島くんとの間に……??)」
 そんな悩める千代を元気付けるように、もちろん皆を元気付けるように、移動の合い間、休憩の時間に塔子は、踊った。故郷の、戦いの舞踏だ。
 子どもたちは、これを見てとても喜び、一緒に踊る子もいた。
 それから、塔子は、九十九と集団から少し先に出て、周囲を探索する。九十九は、トレジャーセンスでオアシスを探りあて、それを頼みに皆は移動を続けた。
 それに気になるのは、砂漠に点在するという蟻地獄の話だった。もともと難民である皆も、人伝くらいにしかそのことを知らない。砂漠の民なら、か……。
 塔子は、これを気にして周囲を注意深く見渡す。
 リーダーである霧島は、千代に協力してもらい、皆に納得してもらえるよう話し合いを持った。最終的に決めるのは霧島だとしても、皆の意見を聞くことが大事。選択を誤りそうなときには無論、意見を容れて決定を正しい方向に修正しなけばならない。そうやって生き残るためそれぞれが真剣に意見を持ち合い、それによって難民だった者らにも貪欲ささえ窺えるようになってきた。生きるのだ。何も、戦争に戦っている者ばかりが、戦の主役ではない。
 夜になると、塔子はまた、踊り、今度は千代も日本の歌を歌ったり、一緒に踊ったりもした。子どもらと話し、大人たちにも子どもだった頃の話や生まれ故郷の話、楽しかったこととかを聞いて、語り合い……ノスタルジーに浸っていればいいというものではなかったが、昼間の苦しい旅の一方で、安らぎの時間に相応しい慰めやある種の逃避だって、今は必要だったのだ。そうしてまた、明日歩くことができる。……

 ある日、新しく加わってきた難民に、気がかりな話を聞いた。吸血鬼の国。これまでにも、耳にしたことのある話だった。だが今や、その国は他に獰猛な獣人や様々の砂漠の魔物を引き入れた魔性の国家になっているのだと……屍さえも、兵になっている、と聞く。砂漠で倒れた、同じような難民たちさえ、死んでなお戦のためにその遺骸や魂を利用されているというのか。その国は、国土や兵力を更に拡大しようとしているようであると。
 九十九は皆の先頭に立ち、もし何かの際には、と剣の柄に手を置き、進む。付近には、幾つもの砂丘が立ち並んでいる。どこかに敵がいるかも……。
 塔子は、「そしてどこに潜むか知れない蟻地獄か。……しかし、吸血鬼とてそれを把握していない可能性が大きい。もし上手くすれば、地の利として有効に使えるかもしれない」
 だが。同じように、付近を探っている様子で砂漠の遠くを行く者の姿が見える。
「一見兵のようにも見えるが。斥候? どこの……まさか?」
 バルバロイの集団は、今、50人程には膨れあがっていようか。砂漠には、まだ、難民たちが戸惑い彷徨っているかも知れない。だが、その中には、人の姿をしていても、魔性の類の者も徘徊している、ということも……
 いちばん後方に近い辺りでは、進行中も話し合いを重ねながら、霧島と千代が、歩いている。
「ん、霧? 靄か……?」
「砂塵。違うわね……何故? 今まで砂漠に、こんな靄なんて……」
 九十九たちは、遥か先の方に行っているようだ。隊列が伸びている。霧島は、他の者に、早く先頭に追いつくよう急げと言った。
 そして千代は、危険を悟った。
 私……若い男の子を見守る女として、彼のことを守ります。千代は、そうやって心に思っていた。殺気看破は、すでに敵の存在を捉えていた。来る。
 絶対に、守る。
「アシッドミストか」
 霧島は処刑人の剣を抜き、さざれ石の短刀にもう一方の手をかける。しんがりになりつつ、急いで逃げる。
 どこだ? 音もない。異様な空気が流れる。
 笑い声が、ぶれて響いた。時間の流れが引き止められてでもいるように、手足が、思うように動かない。
「キリシマクザク 死ネ!! アハハハ」
 背の高い黒の衣の男が飛び出した。毒のナイフを手に、霧島に飛びついた。酸の細かい粒子がスローモーションで切り裂かれる。ナイフが。避けられない。
「ボテインヲ 殺シタ貴様ハ コノ メサルティム(めさるてぃむ)ノ毒牙ニカカッテ 死ヌ ノサ! アハ アハハ」
「霧島くん・・・・・・!」
 千代が男に体当たりする。「ギャァァァァァァァ」
 吹き飛ぶ男に霧島は処刑人の剣を振るい、刎ねあげた首は酸の靄の中へ沈んでいった。「ァァァ…………」
 恐ろしい敵の断末魔が消えると突如靄が晴れて、倒れ込む、霧島。ぶらりと手を投げ出した男の体。もう、動かない。首は十数メートルも飛ばされたところで髑髏になっていた。
「私の、見た夢…………」
 千代が、その近くに倒れている。
 身を挺して、霧島を守り通した。
「霧島くん……"砂漠の勇者"。バルバロイはあなたが……ウッ」
 千代の背中に突き立つ毒のナイフ。傷口は、深かった。
「御茶ノ水……」