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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)
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 東の谷を見下ろすテング山。
 これへ兵を進めていた天霊院 華嵐(てんりょういん・からん)。ここを取られまいとする敵の士気は高く、制圧は容易でないと判断した天霊院は、一時、安全な場所に陣を張って見張りを立て兵の再編成と策をもってあたることとした。
「……と。いいかな? オルキスは、残りの兵を少人数ずつに分けて伏兵配置とし、……」
 真剣な表情で華嵐の指示を聞いては頷く、オルキス・アダマース(おるきす・あだまーす)天霊院 豹華(てんりょういん・ひょうか)の二人。
「とにかく、こちらの動きが掌握されている上に昼間では攻めようはない。夜陰に乗じ……」
 と、そこへ、
「え、橘カオル? 一隊を率いて麓まで来ていると。よし、出迎えよう」
 華嵐はすぐに、麓のカラスの守備を蹴散らして訪れた橘 カオル(たちばな・かおる)と合流できた。そこには、友軍テング勢200も一緒であった。
「よう。華嵐」
「橘カオル。よく来てくれた。思ったより敵は厄介で、攻めあぐねていたのだが……策はある。テング殿も、協力に感謝致す」
「此方こそ、宜しくですぞ。必ず我らが山を奪回したい。地理は分かりますのでな」
 テングの長も、教導団の二人と結束を改めて誓う。
 華嵐は、今夜にも夜襲をかけるつもりであることを明かした。
 敵将は……
ブラッディマッドモーラ(ぶらっでぃまっどもーら)
「……我がテングの盟友を幾人と知れず斬り殺した、鴉賊の頭領格ですな。
 皆、歴戦の士であった者なのに……」
 ごくり。唾を飲むカオル。「えーと……。オレは……」
「うん。カオルは、李少尉の救出を一に考えてくれれば良い」
「あ、あぁ。はは、は」カオルとしても何よりそれを優先したいつもりであった。「(華嵐も知っているのかなぁ……? オレと、メイリンのこと(※カオルの妄想))」
「む? どうした? 無論、重要な任務であるからな」
「あ……ああ! だよな。ん、任せてくれ!」
「ブラッディマッドモーラは、自分が討つ」
 テング長、カオルも、真剣な眼差しで述べる華嵐を見る。
「華嵐」「むう。きゃつは手強いですぞ?」
「それも策の内。そのまま一気にテント山にまで攻め込むための布石とする」
「テント山……か」



 東の谷にそびえる二つの山。厚い雲がとぐろを巻いて、その頂の付近に渦巻いている。
 テング山、そしてテント山。
「レオ君レオ君、ルイン交代するよーっ!」
 ルイン・ティルナノーグ(るいん・てぃるなのーぐ)が駆けて来る。
 陣地から、山を見上げる、レオンハルト。
 山あいから吹きつける冷ややかな風。雲行きも怪しくなり始めている。間もなく夕暮れだ。テング山を上手く撹乱せしめれば、次は。
 レオンハルトのすぐ近くにイリーナ。今は軍人の眼差し。
 後方では、陣地を守るレーゼマン、ルカルカ、ラハエルら。
「ん?」
 黒ずんでいく河面に、何かがうごめく。
 銃を手に歩み寄るレーゼマン。
「……」
 河面は静かだ。
「むっ」
 銃を向けるレーゼマン。「……ちっ。ただのカエルか」
 再び、河面がゆらりと動く。
 戦が近付いている。



3-02 決戦の谷へ

 東の谷へ流れ込む東河の本流を、一隻の船が下っている。
 船には、たくさんの箱が積まれている。
 東の谷で激戦を続ける教導団の仲間に届けるための、重要な物資だ。そう、船は前章で本営から東の谷行きが決定されたメンバーらの乗る、船。
「絶対に、無事届けてみせますよ。そして、俺は……
 って、可奈?」
「むむ?」
 つまみ食い中の、松本 可奈(まつもと・かな)
「夢見ちゃん……のパートナーのアーシャちゃんも、食べる?」
「ええ。可奈様。頂きます」
 夢見の? そう、船は、湖賊の船である。ここに、湖賊の影番と言われる夏野夢見(なつの・ゆめみ)の存在が見え隠れする(すでに、湖賊砦を管理するあのテバルク兄弟を裏で操るまでになったと噂れる)。影番は戦いに出ているので、パートナーのアーシャ・クリエック(あーしゃ・くりえっく)が船を出させた次第だ。
「夢見はまたトリ男と二人……きーっ」
「ァ、アーシャちゃん? 大丈夫?」
「え、ええ。大丈夫」
 道明寺迦陵(か・りょう)は互いのパートナーと共に、船室にいてくつろいでいた。
「お茶でも……如何ですかな?」
「ありがとう。落ち着きます」
 道明寺のパートナーイルマ・スターリング(いるま・すたーりんぐ)は、お茶をしつつ勿論、
「パクパク。パクパク」
「……いつも、登場するときのパターンが同じですな?」
「ヘ? ……(ほわほわ〜)」
「いや、……もう何も言うことは」
「フフ」
 そんなやり取りを見て微笑するマリーウェザー・ジブリール(まりーうぇざー・じぶりーる)。「失礼……」彼女も、上品に茶を口にする。
 一条アリーセ(いちじょう・ありーせ)は、これも前章にて示された考えの通り、四騎を東河拠点である湖賊砦に残し、残る四騎を連れて同船した。
「……カラスの鳴き声が聞こえた気が。
 ……気のせい、かな。ともあれ、東の谷ももうすぐのようですね」
 日は傾きかけている。船着点に着く頃には夜かもしれない。
「ん?」
 一条は、河面に目をやる。
「……」
 じーっと見つめる。東河は濁っていてこの辺りは流れも早く、一様に何も見えないが。
 シャンバラ兵が、一条のもとへ来る。
「アリーセ殿。どうなされました?」
「間もなく、東河船着点が見えます。次のカーブを曲がれば…… ? どうした?!」
 船の前方で、次いで右で左で、水しぶきが上がった。そしてすぐ、一条の間近にも。「はっ」一条はすかさず、短刀を抜いた。
「アリーセ殿、下がってくだされ!」
 兵らが一条の前に立ち、船縁をぬめりと這い上がってきたものに斬りかかった。