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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)
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戦いの続きから……

 第四師団遠征軍本営のある三日月湖より北。敵対国グレタナシァとの国境を守る岩城での攻防戦は激烈を極めた。
 最前線の任務にあたった【龍雷連隊】隊長松平 岩造(まつだいら・がんぞう)の生死も定かでないと言われた。援軍【黒豹小隊】の連れてきた彼らの最強の戦士(もとバンダロハム領主館のメイド)、ドリヒテガ(どりひてが)でさえ……
 あのときを、少し振り返ってみてみよう。
 ドリヒテガに降り注ぐ矢。ドリヒの体が見る間に朱に染まっていく。悲しい雄叫びを上げる、ドリヒ。
「ドリヒちゃん前ッ! 黒羊のやつらに肉薄すれば矢も届かないよ!!」
 黒乃が叫ぶ。
「ウ、ウァァァ!!!」
 ドリヒは最後の力を振り絞って突進した。兵が散る。だが、ドリヒの肩に頭に矢が突き立っていく。ドリヒは……
「ドリヒ……!」
 岩造は、三人のならず者と彼らの頭領に囲まれた。
「逃がさねえ」「殺す」「犯す」
「ファルコン!」
 部下の姿も、乱戦の中に消えて見えなくなった。
「貴様ら……!」
「龍雷の隊長か」
 巨大な朴刀を片手でかかえた首領が、岩造の正面に立ちふさがる。
「随分と、俺達の大事な仲間を葬ってくれたなぁ。許さんよ?
 このならず者首領メリガーゼカセが相手だ。死にな!」
 岩造の後ろをとっていた手練れの一人が、剣を振りかぶった。
 岩造はすんでに避ける。他の二人が同時に剣を上げたところで、岩造は煙幕ファンデーションを張った。「う、げほ」「ごほごほ」
 爆炎波を帯びた剣で、頭領に斬りかかる岩造。頭領は受けずに交わし、爆発を避けてから岩造を切り付ける。力は……互角か。今までにない手強い相手だ。
「貴様も力がとても強い。
 俺同様に、仲間への想いも、とても強い。龍雷の一員として仲良くできる道はないか?」
「俺と共に鍛え生き抜いてきた仲間の多くが、おまえたちに討たれた。
 おまえは、大切な部下や身内を殺した相手の、友にすぐなれるかな?」
「……」
 ファルコン、フェイト。無事なのか。もし討たれていたら……! そして龍雷の皆……
 後ろから、斜めから、煙を逃れたならず者の手錬れた戦士が切り付けてくる。頭領と、幾多の戦いと砂漠での生活を生き抜いて来た者たちだろう。岩造も、まだ数ヶ月ではあるが甲賀やナインらといつ攻めてくるやも知れぬ敵に怯え、前線での苦しく貧しい暮らしを送ってきた。もし甲賀が死んだら……
「うっ!」
 同時に攻めてきた一人の攻撃を交わしきれず相手の腕を断った。刀剣が落ちる。
 首領と仲間は、怯まず、剣を向けてくる。
 ならず者の十手が岩造の剣を絡め取った。右と左から頭領ともう一人が来る。
 左の男が、倒れた。
「我は龍雷の三郎なり!」
 足を引きずり、次のクナイを取り出しながら甲賀が来る。
「甲賀……!」
「馬鹿め。手負いがのこのこと。死ね!!」
 頭領が甲賀に襲いかかる。岩造は、残るならず者を斬り、頭領に突き進んだ。
 周囲ではまだ其処此処で、矢の雨が降り注いでいる。
 それが、やがて止むと、戦場にシャンダリアの歌が聴こえ始めている。
 勝敗はほぼ決したことになる。

「クレベール!」
「はっ!!」
 グレタナシァに向かって、逃げ散っていく敵達。
 黒乃は、この勢いに乗じ、隊員のパプディスト・クレベール(ぱぷでぃすと・くれべーる)に追撃を命じた。
「お任せあれ。
 よっしゃ行くぜぁ! はぁぁ!!」
 クレベールは、プーマ1号・クラウスマッファイ(ぷーまいちごう・くらうすまっふぁい)を駆って、退却していく敵を追いにかかった。
 付近のあちこちで、逃げ遅れたり傷付いた敵兵が、捕虜にされている。
「ふぅ。黒豹小隊は何とか、生き延びたようだね。
 だけどドリヒ……。岩造さんは? 三郎さんは……」
 岩城には、本営代表クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)少尉から兵を預かり前線に来たパティ・パナシェ(ぱてぃ・ぱなしぇ)や戦部少尉の部下グスタフ、孔中尉らも来ていた。力を合わせた奮戦の結果、敵を退けた。
 パティらは、追撃には加わらない方針を述べる。
「ここで深追いしたら、飛んで火に入る夏の虫にされちゃいますねぇ?」
 せいぜい国境付近まで敵の敗走を確認したら充分、との見解を示した。
 それはもっともな意見と言えた。
 だが、以下のことは後に、前線と本営に波紋を残していくことになる。
「それにクレア様・戦部少尉様からは、このまま本営戦力を北上させることは承認しない。との旨今しがた届けられました」
 400の兵はそのまま全て、本営に戻すことになる。
「しかし、国境防衛については……」
 甲賀が、ゆっくり歩いてくる。
「三郎さん。無事だったんだね……」
「それについては、おって本営のクレア様より、指示が出るでしょうねぇ」
「……了解致しました」甲賀は応えた。
「この度の本営からの援軍に感謝を。兵は、しかとクレア少尉にお返し致そう。少尉に、宜しく」
 こうしてパティは、兵を率い本陣へ引き返していったのだった。



 グレタナシァに撤退する敵指揮官ラッテンハッハを追ったクレベールは、十分に慎重をもって追撃にあたっていた。もともとは、偵察任務を得意とする者。それで黒乃も、彼に追撃を一任したのである。
 実際のところ周到なラッテンハッハは、幾つかのポイントに弓兵を伏せていた。クレベールは警戒を重ねたおかげでこれにかかることはなかった。
 ラッテンハッハは、無事、グレタナシァの長城門まで到達する。
 (が、各部隊が追撃を出したなら、それ次第で黒羊軍を撃破できる機でもあっただろうか。……(後にロンデハイネは、しまった、と思う。敵兵の追撃についての個別指示は、龍雷と黒豹にしか出ていなかったらしい。ロンデハイネは本営と前線との連携により敵を退けたことに間違いはないと両者を讃えたが、その後溝ができてしまったことには自責に駆られ、後にこのときの病症が再発する原因となってしまった。だが、むしろこうしてできる溝は大きく見れば後に軍の連携や連帯を強化する(軍そのものを強くする)ことにつながることもあるだろう、そう騎凛は思い、あえて今この溝を埋める必要もないだろうと思った。まだ先は長い。)

「はぁ、はぁ……! に、逃げ延びたぞ。く、教導団め……! まあいいわ、必ず……!
 開門! 開門!!
 黒羊の指揮官ラッテンハッハである。門を開けよ!」
 北の砂漠からの砂が風に乗って舞って来ている。
「……。ラッテンハッハである!」
 グレタナシァは、静かだった。間もなく、門が開く。
「……よし、全軍、城内へ。以降門は固く閉じよ」