天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

ヒラニプラ南部戦記(最終回)

リアクション公開中!

ヒラニプラ南部戦記(最終回)

リアクション

 
水軍その後

 上陸作戦において、黒羊郷市内の制圧に大きな役割を果たした湖賊・教導団ら東河を上ってきた水軍。
「ありがとうシェルダメルダ、貴女に会えた事がこの地に足を踏み入れた俺にとって最大の幸運だ」
 そして戦いは終わった。もうお別れのとき。
 刀真は、ゆっくりと顔を近づけ、湖賊頭領にキスを。
「……」
 シェルダメルダは何も言わず、受けた。
「困ったら呼んでくれ、俺は貴女を必ず助けるから」
 そのあと。刀真は、南部を去る。
 刀真の右腕を恐る恐る触り、拒まれないことを確認してから……腕を組む玉藻
「これは悪くないな……いや、むしろ良い」
 胸があたるように。
「……」
「あの王家の幼子を我に預けておけば毎晩夜伽で可愛い声を……何だその、仕方ないな〜……と言わんばかりの表情は!? 頭を撫でるな!」
 


 
 教導団の者たちにとっては、戦いが終わって終わり、というわけにはいかない者もいた。
 本営に戻った彼女らは、ロンデハイネ(ろんではいね)を訪れる。
「お願いがあるのです」
 アーシャ・クリエック(あーしゃ・くりえっく)はパートナーの夢見のことを、
「夢見をこの戦いが終わってからも、この地にいられるような役職にしていただけたらうれしいのですが……。
 復興の支援もございますし、すぐには撤退しないと思いますけれど、わたくしはその後の事をお話ししておりますわ」
「ふうむぅ。役職といっても夢見は湖賊に就職したのだったのう」
「やっぱり、団員のまま湖賊の元で暮らすってのは、駄目でしょうか? 川から攻め上がってくるような事があった場合、顔が利く人物がいた方が交渉が有利に進むじゃありませんか。
 本音は"夢見もわたくしも、この絆を切らしたくない"ですけれど」
「……」
「あ」
 ついうっかり本音を言う。アーシャの変わらぬ癖である。

 更に……
 ジェンナーロ・ヴェルデ(じぇんなーろ・う゛ぇるで)は、ロンデハイネ中佐宛てとして、新しい兵科として舟艇科を設立するよう強く求める内容の書簡を送っていた。
「ふうむぅ。その訓練施設を南部に設け、船は湖賊に借りたりブトレバに発注、か」
 ジェンナーロはその一方ですでに湖賊やブトレバにかけ合っており、水軍の養成施設を設立できないか、相談に回った。とくに湖賊、それに水軍を誇ってきたブトレバも、協力は惜しまない姿勢を見せたが、しかしこのヒラニプラ南部にそれを作ることの意義に難ありなのではと付け加える者も多かった。
 ジェンナーロは更に更に、ディアーヌ・クライトン(でぃあーぬ・くらいとん)を引き続き、南部諸国における交渉にあたらせていたのだが、この内容もまた、南部水軍創設に限定されるものだった。交渉相手は南臣であったが、南臣はこれに協力するかたちでその後の教導団との関わりを保てることになる。が、それは随分後の話になる。南臣の物語は、後半へ。
 
 
 そして、ジェンナーロら教導団水軍や夢見ら湖賊として戦った者たちのその熱望と願いについては……
 (エピローグIII)53頁を参考にして頂きたい。

  

 
 一方、今回はついに【教導団の勝利の女神】を捨て去り、自らの野望に動き出したミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)
 ミューレリアは、自分たちの権利についてきっちりと主張した。
 ミューレリアはその後の教導団との交渉の結果、ブトレバの一部を切り取りそこをみずねこ王国として建国することが叶った。
「みずねこ王国の初代国王ミューレリア誕生だぜ!」
 小さい領土ながらも、自分たちの力で攻め取ったんだ。いや、教導団の策もあったが実際には国を乗っ取れていたかもしれないのだ。邪魔がなければ、詰みだった……惜しい、でも。「パーティはまだまだこれから、そんな気がするぜ?」
 しかし、ミューレリアはそれからしばらくすると、この地を去らねばならなくなる。
 この地での戦いは終わったのだ。ミューレリアはまた、ミューレリアの日常のなかでの戦いに戻っていかねばならないことになる。
 東河を吹いていく風が心地いい、夕暮れ。
 河縁りに腰かけて、ミューレリアはみずねこたちとお話しだ。
「世界は弱肉強食なんだ。程度や直接的・間接的な差はあるけれど、その本質は地球もパラミタも変わらない」
「にゃぁ、ぢゃくにくきゅうしょく……」
「私は力が欲しかった。勝ち抜くための権力が」
「みゅぅれりや……(それは、どうしてだにゃ?)」
「だから私はみずねこと手を組んだ。お互いにメリットがある形で。結果、私たちは王国を得たワケだ」
「うん。よかったにゃぁ。みゅぅれりや。これからも、よろしくにゃぁ」
「あとは、この王国って力をどう使うかさ」
「みゅぅれりやは、かえっちゃうの。さみしいにゃ」「さみしいにゃ」「さみしいよお」
「みずねこは、これからどうしたい?」
「みずねこも、かえりょうかなあ」「みんなのいるおうち? むらにかにゃ」「かえるにゃ」
「みずねこ……せっかく獲った国なんだぜ?
 もっと勢力伸ばす! 目指せ世界制覇。ってことも、やろうと思えばやってけるんだ」
「みゅぅ……」「みゅぅ……」「みゅぅ……」
「みずねこ」
 なんだか、悲しそうだな。みずねこには平和に暮らすっていうのが合ってるのかもしれないぜ……。戦えば、勇ましいやつらなんだけどなあ。暗くなっていく東河の水面を見つめ、フゥ、とため息をつくミューレリア。
「わかった。
 私は、行くぜ。ただし、王座をみずねこに渡して去る。みずねこにはそれだけの力があったってこと、ちゃんと覚えておきなよ。
 そしていつでも、みずねこ王国のつづきをやろうぜ? パーティはこれから」
 そう言って立ち上がり、みずねこたちと握手していく。
「みずねこ。みゅぅれりあがむらたずねてくれたゆうじょうわすれないよ。
 またこいみずねこみゅぅれりやのけつもつにゃ」
「えっ。ははは。何だそんなタフさがあるなら、国獲りとかやってけそうだけどな、みずねこ。
 まあいい。じゃ、私には元国王の肩書きと、いざという時の後ろ盾があれば十分さ」