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パラミタ・オーバードライブ!

リアクション公開中!

パラミタ・オーバードライブ!

リアクション

「A陣フロントラインへ到着、これより索敵に入る」
 リア・リム(りあ・りむ)が、ルイ・フリード(るい・ふりーど)へ報告する。
「リア、火気管制を頼みましたよ」
 振り向いてこちらを見るルイへ、こくん、と大きくうなずいた。口調は堅苦しいが、リアのそういうところは子供らしいとルイは思っている。
「ルイの期待には全力を持って応えよう。機体制御をルイへ譲渡する、今更迷子もあるまいな」
 彼らの機体は装甲と攻撃にポイントのほぼ全てを割き、近接戦闘をメインに据えた重厚なデザインだ。何よりその手にある鎖付きの巨大な鉄球が目をひいた。さらにはスパイクのおまけつきだ。
 リアはコンソールを軽やかに叩いて索敵焦点を模索する。
 この電脳空間というものが、もしかすると機晶姫の自分にとって親和性の高い場所だからなのか、それとも、ルイに背中を預けられているからか。
 まじめにモニターを睨みつけている彼の、少し下にある背中を見ていると、なぜか唇の端が少し上向いていた。
 ともかくも、ここは落ち着く場所だった。

 ルイはでかい足が踏みしめる足音や、ごつい腕がうっかり何かにぶつかって立てる物音を隠さない。敵に見つけてもらうことを優先し、エンカウントの確立を高めているからだ。
 そこにすらりとした女性型の機体が立ちはだかった。
四谷 大助(しや・だいすけ)、行くぞブラックマリア。よろしくなデカブツ」
 漆黒のボディに、腰背部からまるでロングスカート状の装甲を装備し、肩や肘のほか各部に白いフリルのようなラインを纏ったフロイライン。唯一戦闘用の攻撃的な部分は両手のフィストとブーツにあり、いずれも鋭いトゲを纏っていた。
「ルイ・フリード、ギガンテス。さぁかかって来なさい!」
 その光景を例えるなら、まさに弁慶と牛若である。
 ギガンテスが鉄球の鎖を唸らせ、吼えた。
「マキシマムパワーで行きますよ!」
「痛い目、見せてやるよ…!」
 グリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)がさらに大助を鼓舞する。
「あなたならアレくらい倒せるわ、本気出して行きなさい!」
 まずギガンテスから、肩のバルカン砲が浴びせられる、簡単にブラックマリアはかわし、十字槍を繰り出せば極太の鎖がその穂先を阻む。

 十字槍を深々と地面に突き刺し、横ざまに飛んでくる鉄球の鎖を防ぐ。受け止めた質量に槍がぐにゃりと曲がる。
 ギガンテスが自分の手の中に鉄球を取り戻そうと引き戻すが、そのわずかな差に簡単にブラックマリアは距離を詰める。
「はぁっ!」
 低い位置から強力な拳を腹部に叩き込む、全身を使って鉄球を振り回すには、数ある手足を狙うよりは中心部だと踏んだのだ。
「まだまだっ!」
 さらに拳のラッシュを浴びせ、肩にぶら下がるようにして、もう一度強力な膝蹴りをお見舞いする。重装甲の相手にどこまで効いているかは判別しがたいが、ダメージの蓄積はあるはずだ。
 リアが冷静に一連の損傷を評価する。
「ダメージ軽微、機体駆動率90%、想定内だ」
 飛び退ったブラックマリアが再び拳を振り上げる、応戦しようと鉄球を振り回す姿勢を見せるが、鉄球はフェイント、ギガンテスは鎖から放した片手をそのままなぎ払う、タイミングを外されて咄嗟に腕でかばったが、彼我の質量差に衝撃を止めることができない。
 体制が崩れ、今度は鉄球が直撃コースで振り下ろされたとき、ブラックマリアのフリルが光る。
「受け止めた!?」
「馬鹿な! 機体性能から見て不可能なはずだ!」
 ルイとリアが驚愕に目を見開いた、今まで避けるばかりだった鉄球を、膝をつきながらも受け止められては、次の手を出しあぐねる。
 肩のフリルが光を失い、大助たちは隠し玉を早々に見せてしまった焦燥を飲み込んだ。
 フリルに模したコンデンサに蓄えたエネルギーを消費して、一瞬だけダメージを相殺するフィールドをまとう、それがブラックマリアのオーバードライブだ。
 そのストックは5つ、あと4回までなら耐えられる。
 鉄球を放り捨て、お互いに構えなおす。女王の加護を信じてタイミングをうかがうが、しかし互いの手数を読みきれなくなり、どちらもしばらくにらみ合ったままになった。

「敵さん発見! まだこっちには気づいてないよー」
 トランス・ワルツ(とらんす・わるつ)が住宅の隙間から僚機のギガンテスと相対している女性型を確認する。
「おおう、なんか刺激的なおじょーさん!」
 七刀 切(しちとう・きり)は思わずそう評価する。失礼ながら、ちょっとボンデージにも見えなくもなかったので。
 ギガンテスが囮として引きつけ、我らがフォーゲルが奇襲する、チーム名【冒険屋マイスター】として、そういう役割分担なのだった。
「おおっと、2対1ってのは穏やかじゃないねぇ」
 海豹村 海豹仮面(あざらしむら・あざらしかめん)が割り入って飛びかかろうとしたフォーゲルを、その二刀で差し止める。
 外部スピーカーでわざわざなじられては、ヒットアンドアウェイはやめて、まずコイツからやってやるしかない。
「そいじゃぁあらためて、七刀切、フォーゲル。楽しませてもらうぜ!」
 フォーゲルのブラックコートからのぞく篭手は重厚で、全容は不明ながらも、おそらくコートの下のシルエットはがっしりとしているのでは、と思われた。
「んーこれだと、ルイんとこ行けそうに、っと…ないなっ!」
 手が放せない切のかわりに、ワルツがルイのところへ現状報告を入れた。
 こちらも相手に夢中になっているルイのかわりに、リアが応答する。
「ごめんね、私たち見つかって足止め受けてるの。だからそっちにいけそうになくて…」
『気に病むことはない、こちらもルイがやる気になってしまったからな』
 その間もフォーゲルと海豹仮面の機体は、大太刀と二刀の戦いを繰り広げていた。
 どちらも機動力は同等であり、差異はわずかな装甲の差であるために、切り結んでは離れるの繰り返しだった。
 どちらともなく住宅を蹴崩し、瓦礫をさらに破砕する。
 フォーゲルは腕を掲げてミニガンを叩き込んだ、余裕でかわされ、つぶては瓦礫をさらに細分化する。
 掲げた腕の下から懐に踏み込み、海豹仮面はフェイントを加えながら背面越しの逆手にブレードを突き出す。
 確実に敵の腹部に当たるか、避けられたとしても傷つかずには済まない間合いのはずだった。
「…何だと!?」
「残念でしたっ!」
 そこには頼りないコートの手ごたえのみ、あるはずだったボディは、実際にはもっとスリムにできていた。
 フォーゲルは自ら踏み込んで敵の右腕を捕捉しねじ上げ、そのまま引きちぎる。
「…くそっ!」
 海豹仮面の機体はばちばちという音を立てて吹っ飛び、フォーゲルはへし折った腕をぽいとほうり捨てた。
 エラー音がコクピット内に充満し、海豹仮面の耳を聾す。その向こうからでも、相手の嘲弄は伝わった。
「利き手がどっちかは知らないけどさぁ、まだ戦えるかなー?」
 言葉が終わらぬうちに、今度は体制を立て直しきれていない海豹仮面の左脚へと大太刀が突き立てられた。スパークする電流が大太刀ごしに伝わり、陶酔したようにセンサーの表示を揺らがせた。
「くううっ…」
 海豹仮面はコンソールにすばやく手を走らせる。個人の勝利は諦めたくはなかったが、最低限でも頭数は減らせ。
「!?」
 その時、無造作に転がった腕の手首からアンカーが伸び、フォーゲルの脚にからみつく。
 思わず足元を見たフォーゲルの首元に、海豹仮面の生き残った腕から放たれるワイヤーがさらに巻きつき、
 ―まだ足掻くか!?
 その手にブレードを携え、そのままワイヤーは巻きとられ…
「…しぶとかったな、自分」
「…なんの、君のロボットもなかなかトリッキーだった」
 双方共に、お互いに沈み込むように同時にコクピットを深々と貫き、首を裂いていた。
 ゲームオーバーになって呼び戻される寸前、お互いを称えあいながら、じゃあまたなと別れを告げた。

「…何コレ、ふざけてるの?」
 美鷺 潮(みさぎ・うしお)は思わずうめいた。大艦巨砲主義もほどほどにしろと言いたい、設定を皇 鼎(すめらぎ・かなえ)に任せたら、案の定この有様だ。
 ごつい、とにかくごつい。装甲は頼もしいし、大火力を支えるジェネレータも申し分ないけれど…
「対実弾系は完璧なのに、エネルギー兵装対策は…してないのね…」
「防御も回避も辞書にはないよ、懐にもぐりこまれたって、主砲が当てやすくなるだけよ」
 オペレーションのためにいろいろと装備を確認していると、出る出る出てくる不安要素。
「本当、あなた頭いいはずなのに馬鹿よね…」
「我々の種族ではご褒美ですっ」
 それを皆の前で言ったら、きっと袋叩きにされるだろうと潮は思った。
「さあ、今日は私が主役。今こそこの鍛えた腕を奮う時っ!」
「ゲームで、でしょ?」
 しらっと鼎が反論し意気込む、さくっと潮は切り捨てる。
 陣に属さず単独行動を選んだのは、なんでもいいから見かけたらこの大砲でぶっとばすためだ。ぶっとばせるなら、どっちにいたってかまわない。
 獲物を求めて丘のたもとに差し掛かったとき、そこに一機の敵と遭遇する。死角から突きかかってきた敵をとっさに潮が作動させ、フォースフィールドで機先をくじく。
 鼎は敵の装甲値を見てとり鼻で笑った。センサーに頼らずともわかる、こちらの一撃で吹っ飛ぶような機体だ。
「そんな機体で勝負する気なの。笑わせるね」
 突っかかってきた御剣 紫音(みつるぎ・しおん)が応戦する。
「俺の相棒ナメんじゃねーぞ、てめーみたいなメタボに当てられるかってんだ」
 装甲は薄いものの、要所に配置されたバランスがひどく有機的で、よりマッシブな印象をうける。複座式で胸郭部分が大きめになっている。
 ロングレンジスナイパーライフルを担ぎ、高機動型。スピードで引っ掻き回し、距離をとって攻撃するスタイルをとる機体だ。
「な、なんですって!?」
 見えないゴングがどこかで鳴った。半分八つ当たりなミサイルが、手始めに打ち込まれた。

「主様、無駄な動きをするでない! エネルギーの充填が遅くなる!」
「わ…わかった…」
 火気管制を担当するアルス・ノトリア(あるす・のとりあ)が、エネルギーのロス率に眉を潜めた。
 いつも穏やかな彼女がびしりと指摘する声に、操縦レバーを握る手に無駄にこもっていた力を抜く。
 結果的に動作がコンパクトになって、ほんの少し余裕が生まれる。
 このままわきの下をすり抜けられそうだ、次の布石を打つために、アストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)へと指令を飛ばす。
「レイア、やっちまえ!」
「主よ、了解した」
 スモークを含んだチャフをぶつけるように撒き、自らその中でバーニアを吹きさらに拡散すれば、敵はなんと無理やり煙の中にハンドキャノンを叩き込んでくる!
「もう、失礼な挑発しはったからやわ、後で謝らなあきまへんぇ」
 偶然その弾がボディをかすめた不運を、綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)がやんわりとそう突っ込んだ。

「あーもうちょこまかと! 当たりなさいよ!」
「誰が素直に食らってやるかって!」
「鼎、腕前見せてくれるんじゃないの?」
 ひっきりなしに飛んでくるミサイルを、サブマシンガンで打ち落とし、振り切れるものは振り切り、レールガンをすんでのところでかわす。相手の図体はでかいものの、ホバー移動で案外回頭速度は悪くない。
「きりがないな…」
 今のところすべての動作が回避のための消極的なものだ、攻めに転じる機会が欲しい。
 ドッグファイトを続けているうちに、いつの間にか丘に登る形になっていた。頂上に潮が先に陣取り、セオリーとして上を取ったほうが有利だ、鼎は笑い、紫音は歯噛みした。
 その頭上にに突然振ってきた影が、その拳で唐竹割りに潮を襲った。
「ィィィィイイイヤッホォゥ!!!」
 足元に潮の機体を沈め、トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)が哄笑する。
 少なくともその時初めてフィールドに振ってきた相手に潮たちは全く成すすべがなく、真上の敵に対しての意識もなかった。
「なにすんのよ!」
「うるせえな、悪ぃがアンタは俺の獲物なの!」
 一回り大きい右腕を誇示しながら、大見得を切る。そのまま鼎たちのほうは時間が切れ、悔しがりながら退場した。
 トライブの機体は右腕を振り回すためだけにまとめられている、装甲がほぼないにも関わらず、その仕草とあいまって、どこかミリタリー+ヤンキー的な印象がする。
「てめえ!」
 横から獲物をさらわれ、さらにはその卑怯な不意打ちに紫音は義憤を覚えた。
 まっすぐにトライブに向かって殴りかかる。相手はそれを受けてたつ、と思った瞬間、左腕がひょいと繰り出された。
「ほいっ!と」
「うわああっ!」
 鼻先、カメラアイ先で光弾がはじける。カメラ類が焼き潰され、何も見えない、かろうじて音やそのほかのセンサーは生き残っているが、普段どれほど視覚に頼っているかがわかろうものだ。
 どん、という音が響く、咄嗟にその音の方角を横に飛んで避けた。
 地面を殴りつけ、その反動で腕を振り回しながら、その遠心力をもってスピードと腕の攻撃力をあげる。それをカメラが効かないはずの状況で避けられた。こいつおもしれえ!
「よう、マジメにやってくれよ、勝つのは俺だけどな!」