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パラミタ・オーバードライブ!

リアクション公開中!

パラミタ・オーバードライブ!

リアクション

「基本コンセプトは重装甲型、拠点侵攻または拠点防御向けのセッティングだが、ホバー戦車、重装甲仕様で白兵戦も可能なセッティングはこんなところか。みと、索敵は任せる。前進するぞ」
 相沢 洋(あいざわ・ひろし)は機体をB陣の最前線へと推し進める。
 巨大なホバー戦車を人型に無理やり纏め上げたような、人ともいえず戦車ともつかない、一種異様な姿をしている。両肩にマウントされた榴弾砲と、取ってつけたような腕がガトリングシールドを保持し、そのシルエットは威圧感をさらに押し上げていた。
「ダメージコントロールならびにレーダー管制管理完了。問題は機体性能ですが、強襲戦仕様ですから何とかなるでしょう」
 乃木坂 みと(のぎさか・みと)はパートナーの腕前を信じ、すべてその意に沿うようにする。
紫月 唯斗(しづき・ゆいと)、スサノオ、参る!」
 そこにいっそ小柄な機体が彼らの前に立ちはだかる。あんなデカブツに突っ込まれては自陣の被害は甚大なることは明白だった。
 洋は舌打ちをした。高速機動型とブチ当たってしまったか、スピードに物を言わせて懐に入られては敵わない。一旦後ろに下がると、ゾリア・グリンウォーター(ぞりあ・ぐりんうぉーたー)が自分が守っていたB陣の防衛ラインをせり上げ、後詰についてくれた。
「フゥハハハー! 戦争は火力にょろよ〜!」
 ザミエリア・グリンウォーター(ざみえりあ・ぐりんうぉーたー)が、建物を盾にしたポジションを守りつつ周囲の索敵を続けている。
 彼女らの機体もまた、キャタピラの下半身と、肩部腰部に二門ずつ所持した滑空砲をたのみにした重装甲・高火力型である。
「唯斗、やるのだな!?」
 エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が、目前の巨大な影に対して、パートナーに勝るとも劣らない意気込みを見せた。
 しかしその姿はミニマムなデフォルメだった、エクスだけではなく、同乗したパートナーたちは全員その姿である。皆何だかんだで気に入ったらしく、ちまこまと役割を分担してコクピットの中を駆け回る。

「ああっ、まるでドンキホーテみたい…!」
 咲夜 由宇(さくや・ゆう)は、ごつごつと巨大なロボットに、小さな戦士が立ちはだかるような光景をそう例えて心を痛めた。
「由宇ちゃん、どうします? …って、行くつもりなのね、いいですわ」
 アクア・アクア(あくあ・あくあ)が声をかけたが、すでに方向を定めていた彼女には届いていなかった。
「加勢しますっ!」
 風車と騎士の間に、ギターを抱え、ひらひらしたメイド服とブリムをつけたような機体が滑り込む。長い髪のような放熱索がなびいて光を跳ね返し、ギターのネックに模したレールガンの砲口を向けて見得を切った。
 敵の後方から、さらに砲弾が飛んでくる、咄嗟に由宇はギターをかき鳴らし、指向性のある妨害音波を放つ。
 信管の誤作動を誘発して空中で爆散させ、彼らのいるところに破片が降った。
 その隙に唯斗はでかい戦車に向かっているが、二人ともを近づけさせないようにガトリングがぶち撒かれ、距離を保つしかなくなってしまう。でかいくせにそのガトリングは的確に照準をロックし、その隙に肩の榴弾砲がチャージされていく。魔力充填式の、見た目よりもどでかいやつだ。
「この弾幕では…耐えられまい! みと、敵方位軸合わせろ、魔力充填、弾種、魔力式爆裂徹甲!」
 ガトリングで散らされ、追い込まれ、榴弾を叩き込まれる。唯斗は大太刀で砲弾ごと切捨て、連射を避け、分厚い装甲に包まれたコクピットではなく、はるか上方にある頭部をにらみすえた。
 由宇の援護を受け、体を駆け上った唯斗が一撃を食らわせんと大太刀を振りかぶる。
 人戦車の中で、洋がニヤリと笑った。
「オーバードライブ発動! 目標補足! 奴等ごと敵陣に目掛け…ぶっ放す!!」
 ほんの少し姿勢を下げたデカブツの肩から、息継ぐ暇もなく大量の榴弾が放たれる。照準は自分だけでなく、A陣を視野に入れたあらゆる場所に向いていた。
 ―至近距離だ、かわせない。
「絶刀草薙っ!」
 リミットのひとつを外し、大太刀にこめられたエネルギーをオーバーロード、その刃は砕け散り、代わりに巨大な光が現れる。
 ここでこの榴弾の雨を食い止められなければ、自分もろとも弾は自陣に降り注ぐことになるのだ。
 自陣への直撃ルートを打ち払うように榴弾に光を叩きつけたが、いくつかは取り逃してしまうことになる。
「あんた、危ない!」
「逃げてください!」
 分析と戦況把握を担う紫月 睡蓮(しづき・すいれん)が、僚機への余波を計上して退避を叫ぶ。
「キャアアアッ!」
 唯斗と睡蓮の警告は間に合わず由宇は吹き飛ばされ、目前で榴弾がはじけてセンサー類を白く塗りつぶした。
 コクピットごと揺さぶられた衝撃で彼女は気を失い、キャパシティを超えた入力に、一時的に計器・モニター類が全てシャットダウンした。
「由宇ちゃん! しっかりなさって!」
 暗闇の中でアクアが叫ぶ、操作を奪って手探りでその場から移動しようとするが、ゆらりと伸びてきたたおやかな手がそれを阻んだ。
「…何やら、…楽しそうじゃのう!!」
 モニターが一斉に回復、機体の脚が地面を蹴り上げて、バク転の要領で姿勢を戻す。
「あはははははははっ!」
 ギターを掻き毟って妨害音波を解き放てば、進路を追うガトリングの砲口が鈍った。間髪いれずブレードを抜き放ち、報復に洋の戦車へ向けて切りかかる。ガトリングを保持していた腕を片方斬り飛ばして本体を飛び越えた。
「被弾しました、損傷箇所、右腕です。戦闘継続はかろうじて可能ですが、ガトリングの照準システムにエラー。先ほどのフルバーストで榴弾砲は使えません、今撃つと砲身が吹っ飛びます」
 頼みの主砲もエロージョンを起こしかけている、片腕では十全にガトリングを取り回せない。
『そこな男、後は任せたぞ。そやつの首級はくれてやろう』
 由宇はそれだけを通信で言い捨てると、先ほど右腕を斬り捨てた相手にもう目もくれずに、もう一台の不遜な砲台目掛けて駆け出した。
「…さっきの姉ちゃん、なのか? どこか打ったのかな」
 しかしぼんやりとはしていられない。すかさず二つ目のリミットを外した唯斗は、両の拳にエネルギーを纏って洋の機体に突っ込んでくる。
 真っ直ぐに向かってくる相手に照準は無用だ、ガトリングを無造作に向け、撃ち放とうとしたその筒先から、不意に敵が掻き消えた。
「何っ!?」
 腰のワイヤーアンカーを地面に突き刺して進路を修正し、腕のアンカーが敵の左腕を捕まえ、さらに引き戻す。ワイヤーのテンションが引き千切れるギリギリまで引き絞られる。
 絶対的な重量の彼我は、高速で唯斗の機体を洋へと近づける結果となった。
「打ち砕け! 破光掌!」
 引き寄せたアンカーを切り離し、そのまま頭頂部へと飛び上がって両の拳で殴りつけたが、両マニュピレータは限界を迎え、とうとう爆発音をあげて砕け散った。
「きゃあっ!」
 まだ相手は倒れない、最後のリミッターを外すしかない。全てのエネルギーが右足のスラスターに集束された。
「これで終わりだ! 閃光撃!」
 ブーストされた蹴り技はとうとう頑丈につくられた頭を蹴り潰したが、その勝利と引き換えにして、スサノオはすべての攻撃手段を失った。

 建築物の上から踊りかかるメイドロボを、ザミエリアはかわし切れなかった。向かって来る敵影を察知していたのに、敵のスピードが上回ったのだ。洋の人戦車同様、懐に入り込まれては成すすべがなかった。
 高笑いを上げながら、スピードと高度の乗ったビームブレードが、キャタピラに深々と突き刺さる。
「ちくしょう!」
「無様じゃのう! 這い蹲るがよいぞ!」
 もう別人格モードの由宇は止まらない。地面に縫いとめられたゾリアの機体は上半身を回転させて、のしかかる由宇をはね飛ばした。由宇は大きく跳び退って距離をとろうとする。
「こうなったら…全門砲撃!」
 追い込まれたオーバードライブは、さらに向かってこようとした敵のカウンターのように発動した。
「至近距離での重火砲の連撃、耐えられるモンなら耐えてみろです!」
 肩と腰の滑空砲から、榴弾が大量にたたき出される。
 こちらもオーバードライブを発動、装甲を外向きに爆散させ、リアクティブアーマーの働きを負わせる、瞬間的に衝撃を緩和して耐え切った。さらに左腕を犠牲にしてコクピットと頭を守る。
「何!?」
 そのまま体ごと突っ込むように取り付いて右腕だけでレールガンを引き起こす。装甲の隙間に直接砲口をつけ、チャージされていたエネルギーを全て叩き込んだ。人間ならば肩口を上から見た、鎖骨の隙間にあたる。真っ直ぐにナイフを突き刺したなら、心臓にまで到達する場所だった。
 電装部に衝撃がもぐりこみ、装甲の内側でスパークがはじける。
「うわああああっ!」
 力を失ったゾリアの機体の、その首を引き千切ることは容易かった。

 ひと時静まり返ったフィールドで、プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)が、機体のダメージ状況を評価する。
「両腕は圧壊、右足のフレームもガタガタ…もう立っているのも不思議なくら…わっ!」
「うおっと…!」
 がくんとスサノオが膝をつき、動かなくなったデカブツの上から最早耐え切れぬというように力なく地面に転がり落ちる。落下の衝撃でさらに機体のあちこちがスパークして吹っ飛び、動くこともままならなくなってしまった。
 しかしその名が示すように、勇猛な戦いができたと思う。考えうることはやりつくした。
 コクピット内でころころと転がったパートナーたちが起き上がり、完全に手足を投げ出して運命を待つ彼の周りできゃあきゃあとさえずる。
「まあ、あとは野となれ山となれ、ってな。エクス見ろよ、空が綺麗だ」
 生き残っているカメラが、秋の高々とした青空を映す。
「本当だな、これほど晴れやかな空は、そうそうないな」
 そして、もはや身動きできない彼らの上に、暗い影がさす。
「…唯斗」
 不安げなエクスたちを、唯斗はそっと手のひらで覆った。
 しょうがないことだ、英雄だが乱暴ものでもあったスサノオの役割には、誰かに大きな場面を譲ることも含まれているのだから。
 たとえば、その栄光といったものや…

 緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)の操る、大きなマントを羽織り全容の知れない機体から、巨大な鎌が振り下ろされた。

「頭、打っちゃったんでしょうか…。また記憶がないです…」
 うーんと由宇はうなる、吹き飛ばされたあたりまでは記憶があるのだが、気がつくとこの有様だ。
「めちゃくちゃな由宇ちゃんも…素敵…」
 おまけにアクアはうっとりと、よくわからない台詞で彼女に熱いまなざしを送るのであった。
「あああ、なんかすっごく楽しかった覚えはあるんですけど…一体なにが…もう…」
 左腕は吹っ飛んでいるし、オーバードライブを使ったようだし、さっきの場所へ戻ってみると、首を切られてしまったさっきの騎士さんがいた。あの風車を倒せたけれど、その後の隙を突かれたかしたのだろう。
「せっかく助けに入ったのにごめんなさい、あなたの分までがんばりますね!」
 残った力は少ないが、やれるだけはやろう。そう誓って由宇はその場を離れた。

「すみません、護衛を頼んでしまって…。愛機に似たデザインにすると、どうしても機動にポイントを振れなくて」
「かまいませんよ、位置取りは重要ですからね」
 A陣側を目指して住宅地を通過しながらあたりを警戒し、もうすぐ丘のふもとに差し掛かろうとする二機があった。
 天司 御空(あまつかさ・みそら)は道連れになった味方に謝り、ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)は気にするなと返す。
 淡々と白滝 奏音(しらたき・かのん)がいくつかの想定ポイントの索敵を行い、進路を見通している。
「御空、可視範囲に機影はありません」
 そして前を歩くウィングの背中を見つめ、にやりと御空の唇がつりあがる。
 精神感応で彼の意を汲み、奏音のサイコキネシスが、コクピットにのどこかに取り付けられているIFF応答装置を一瞬でガラクタに変える。
 スナイパーライフルの照準は既に定められていた。

 突然ウィングの背後で、IFF反応が消失した。
「どうしました?!」
 まさかどこからか攻撃を受けたのかと、振り向ききる前に至近距離から放たれた大型スナイパーライフルの弾をくらい、もんどりうって倒れこむ。追い討ちに脚にサブの魔力充填式のライフルを打ち込まれ、ダメージ表示とエラー音がコクピットの中で暴れまわる。
 手早く状況をチェック、左肩が動かない、右脛のシャフトがねじまがった。
 リジェネレーションシステムを機動、関節機構を組み替えて、砕けたシャフトとは別の予備シャフトをメインに切り替える。機動レベルは落ちてしまうが、脚だけは回復させなければ。至近距離でよかった、空気抵抗が少なく初速の落ちきらない弾は、貫通力のほうが上回り綺麗に突き抜けて余計な損害を被らずにすむ。
 動きが止まったウィングへ、ずしんと音を立てて御空が近づく。
 ―裏切りか、ありえないことではなかったですね。
『申し訳ないけど、スコアに数えさせてもらうよ』
 外部スピーカーが嘲りを垂らし、今度こそ頭を吹き飛ばそうと次弾を装填する。
 倒れこんだままのウィングがライフルを持ち上げるのが見え、ミラージュを発動。機動力で劣るこちらの回避策は、自機のデコイ映像を出して相手に誤認させることだ。
「ECM!?」
 奏音が動揺する、ぐにゃりとモニターがゆがみ、レーダーもカメラもノイズだけを写す。
 彼らには見えなかったが、ウィングはいくつかの装甲を開いてジャミングシステムを発動していた
 ライフルはひととき手を止めさせるための囮。次は本物がくる。
「離れるぞ!」
 とにかく後ろへ下がり、通り過ぎたばかりの住宅地に紛れ込む。

「我ながら不甲斐ありませんね、油断してしまうとは…」
 ようやく体を起こしたウィングが、機体の各所をチェックする。
「左腕は捨てるしかありませんね」
 修復システムごと破壊され、もうどうしようもなくなっている。そこで右脚の自己修復機能がようやく完了した。
 右脚の出力と強度が落ちているが、動けないよりはよほどいい。