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ライバル登場!? もうひとりのサンタ少女!!

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ライバル登場!? もうひとりのサンタ少女!!

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第1章 火 蓋


 クリスマス・イブの夜。2人のサンタクロース少女の勝負が始まった。

 ここ、ヒラニプラ鉄道の小さな駅は、20キロ四方を荒野に囲まれているため、普段は訪れる人も少ないのだが、今夜に限り未だかつてないほど賑わっている。なぜなら、フレデリカが各校の掲示板に張り出した「サンタクロース募集」で指定された集合場所だったからだ。

 数日前からシャンバラ全土に降り積った雪も今は止み、荒野は雪原に姿を変えていた。夜もふけて、寒さはますます厳しくなってきた。そんなことはものともせずに集まった者たちの頭上をかすめながら、トナカイのひくソリが降りてきた。ソリから現れたのは、ミニスカサンタ姿の少女、フレデリカ・ニコラスだった。

「皆、来てくれてありがとう!」
 フレデリカは、そう言って集まってくれた者達に笑顔を向けた。
「サンタちゃーんっ!!」
 蒼空学園の小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が緑色のツインテールを揺らして勢いよく駆け寄り、フレデリカに抱きついた。
「久しぶりっ! 今年もお手伝いするね!!」
 美羽のパートナーでヴァルキリーのコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)もその後ろからやって来た。
「こんばんは。今年は僕も手伝うよ」
 フレデリカは美羽に抱きつかれたまま、コハクと握手をした。
「よろしくね!」
 ミニスカサンタ服を着たイルミンスール魔法学校の鬼崎 朔(きざき・さく)も、久しぶりに会うフレデリカに声を掛けた。
「去年約束した通り、手伝いに来たよフレデリカ。…私達が君を護るから、心おきなく配ってくれ」
 恋人とのクリスマスを諦め、朔は子供たちに夢を届ける為、フレデリカとの約束を果たしに来たのだった。
 パートナーで機晶姫のスカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)も元気いっぱいで参加を表明する。
「フレデリカ様、お久しぶりであります! スカサハ、お会いできて嬉しいでありますよ! それに、なんと今回スカサハは、自前サンタ服で配るのであります! やっふぅ〜! 今年も頑張るでありますよ!」
 パシャリ、と音がして、フレデリカが振り向いた。英霊の尼崎 里也(あまがさき・りや)が、サンタ服に猫耳としっぽをつけた格好で、写真を撮っている。
「久しいですな。フレデリカ。ふふふ…今年も可愛いです! 撮影は私に任せてもらいましょう。さあ、力いっぱい撮りますぞ!」
 里也はとても嬉しそうに、フレデリカを始め、可愛い子を片っ端から写真に収めていく。サンタの広報活動への協力らしい。
 そこへ、借りたサンタ服に着替え終わった剣の花嫁のブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)が合流する。
「里也、いきなり撮りまくってんじゃねぇよ! スカ吉、あんたははしゃぎすぎ! 去年となんら変わってねぇ!」
 そんなカリンを見たフレデリカは、あることに気がついた。
「カリンさんは、なんだか去年とイメージがずいぶん変わっちゃったんだね」
 去年は確か、こんなに荒んでいなかった気がする。
「余計なお世話だっつうの。ボクだって、好きでこんな姿になったわけじゃねぇよ」
 威圧してくるカリンに、フレデリカはしみじみと呟いた。
「1年って、長いね……。でも、今年もお手伝いしてくれるんだね」
「…ふん。別に…心配だったとかそんなんじゃねぇからな!」
 顔を逸らすカリンを見て、フレデリカは1年前のカリンと同じものを感じとり、朔とそのパートナー達に改めて礼を言った。
「来てくれてありがとう! また会えて嬉しいよ!」

 顔なじみの者達が再会を喜ぶ中、初めて会う者達もフレデリカの元へやって来た。
 イルミンスール魔法学校のフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛い)が笑顔で手を差し出す。
「初めまして。私もフレデリカって言うのよ。今日はよろしくね」
 サンタのフレデリカは驚きながら、差し出された手を握り返した。
「そうなの? よろしくね、フレデリカさん!……って、なんか不思議な気分」
「そうね、変な感じよね」
 2人のフレデリカはくすくすと笑いあった。
 そこへ、貸し出されたサンタクロースの衣装に着替えた蒼空学園の安芸宮 和輝(あきみや・かずき)が、パートナー達と共にやって来た。
「あの、フレデリカさん?」
「「はい?」」
 2人のフレデリカが揃って振り向いた。
「えっと……?」
 戸惑う和輝にサンタの孫じゃない方のフレデリカがくすくすと笑う。
「ごめんなさい、私じゃないわよね」
 サンタの孫のフレデリカが、改めて和輝に話しかけた。
「私が張り紙を出した方のフレデリカだけど……」
 和輝は、買い込んできた使い捨てカイロとハンドクリームをフレデリカに渡した。
「メリークリスマス。頑張っているフレデリカさんへのプレゼント…というか、借りた衣装の礼というか。使わないのでしたら、他の方にでも譲って下さい」
「ううん。使わせてもらうよ。ありがとう」
 サンタの孫のフレデリカは、少し照れながら和輝の贈り物をしっかりと受け取った。

 イルミンスール魔法学校の神代 明日香(かみしろ・あすか)も、笑顔でフレデリカに声を掛けた。
「お久しぶりですぅ、フレデリカちゃん」
「「え?」」
 またしても、2人のフレデリカが揃って振り向いた。
 サンタの孫じゃないフレデリカのパートナーで剣の花嫁のルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)が、苦笑する。
「このままだと紛らわしいですね。“フレデリカ”や“フリッカ”だと2人とも返事をしてしまうでしょうし、かといって“サンタさん”だと、他の皆さんも返事をしてしまうでしょうし。いっそ、苗字で呼び合うとかどうでしょう?」
 ルイーザの提案に、サンタの孫のフレデリカが首を傾げてサンタの孫じゃないフレデリカに尋ねた。
「フリッカって呼ばれてるの?」
「そうよ。あなたもじゃないの?」
「ううん。私は、リカって呼ばれてる」
 そうなんだと再び盛り上がりかけた2人のフレデリカを、ルイーザが咳払いで制す。
「では、愛称で呼び合いましょうか」
 2人のフレデリカは同時に頷いた。
「それじゃ、リカさん、サンタ服を借りるわね」
 サンタの孫じゃないフレデリカの言葉に、サンタの孫のフレデリカが返事をする。
「それじゃ、フリッカさん、お手伝いよろしくね!」
 サンタの孫のフレデリカは、サンタの孫じゃないフレデリカがパートナーと共にサンタ服に着替えに行くのを見送った。

 サンタの孫のフレデリカは、隣の明日香に向き直る。
「ごめん、話の途中だったよね。久しぶり、元気だった?」
 明日香は、フレデリカの手を両手でぎゅっと握ると、笑顔を向けた。
「はい。フレデリカちゃんもお元気そうで良かったですぅ。なにより、正式なサンタクロース就任、おめでとうございますぅ」
 思わぬお祝いの言葉に、フレデリカの顔が輝く。
「ありがとう。すっごく、嬉しい!」
「今年も、お手伝いさせてくださいねぇ」
「よろしくね! 今年はソリもあるし、私、頑張る!」
 フレデリカの言葉に、空京大学の如月 正悟(きさらぎ・しょうご)が苦笑した。
「そう言って、去年みたいに無茶したらダメだよ」
 顔なじみの正悟にフレデリカが笑顔を向けた。
「正悟さん!」
「今年も、手伝うよ。よろしくな」
 今年は自前のサンタ服で参加という正悟の後ろから、幼馴染で百合園女学院の川上 涼子(かわかみ・りょうこ)がひょっこりと顔を出した。
「フレデリカさん、私もお兄さんから聞いて、約束どおりお手伝いに来たよ!」
「2人ともありがとう、心強いよ!」
 コスプレイヤーの涼子は、本物のサンタ服を着てサンタクロースとしてプレゼントを配れるのがよほど嬉しいのか、フレデリカの前でくるりと回って見せ、サンタとしておかしくないか意見を求めた。
「うん、とっても可愛いよ。でも、……胸、キツそうだね」
 フレデリカがサンタ服に押し込められて狭そうな涼子のバストを見ながら付け加えたのに気付かず、涼子は嬉しそうに言った。
「これで私もサンタクロースだね!」
 その喜びを打ち消すように、どこからか高笑いが聞こえた。

「服を着ただけでサンタクロースだなんて、やっぱりあなたの協力者なんてたいしたことありませんわね!」
 いつからいたのか、プラットホームの屋根の上に、スネグーラチカの姿があった。

 スネグーラチカが乗った機晶ロボは、彼女の命令に応じて後頭部のウインチをフレデリカとの中間にある木の枝に引っ掛け、スネグーラチカを乗せたまま車輪を前進させて屋根の上から落ちた。
 ロープを軸に、振り子のように勢いよくこちらへ向かってくる全長3メートルの機晶ロボを避けようと皆が慌てて逃げ惑うのに構わず、機晶ロボはフレデリカの近くへと着地した。

 あわや跳ね飛ばされる所だった美羽が、コハクに庇われた体制のまま大声でスネグーラチカに抗議した。
「ちょっとーっ! あぶないでしょーっっっ!!!」
 しかし、スネグーラチカはそれをあっさり無視してフレデリカの前に立ち、話を続ける。
「わたくし1人にここまで沢山の協力者を集めなければならなかった臆病者のあなたらしいお仲間ですこと!」
 嫌味たっぷりに抗議するスネグーラチカに、フレデリカは肩をすくめて見せた。
「でも、協力者を募ってもいいって言ったのスネグーラチカだし、私、人数とか言ってないもん」
 ぷいと横を向くフレデリカの態度に、スネグーラチカの怒りはますます燃え上がる。
「よろしいですわ、こうなったら完膚なきまでに叩きのめして、どちらが真のサンタクロースに相応しいか骨の髄まで教えて差し上げますわ!」
 殺気立つ雰囲気に、涼子がたまらず口を挟んだ。
「あ、あのっ! 私、思うんだけど、サンタさんの仕事って勝ち負けなのかな? サンタさんを信じて毎日がんばってる子たちの為にプレゼントっていう「ありがとう」の気持ちを届けるのが仕事なんじゃないかな。だからね、やっぱり、皆で一緒に配ろうよ。スネグーラチカさんも、フレデリカさんも、いろいろ思うことはあるだろうけど、まずはふたりとも公認とか非公認とか関係なくて、サンタさんなんだから!」
 涼子の精一杯の気持ちを、スネグーラチカは鼻で笑い飛ばした。
「バカバカしいですわね。ここではサンタクロースはただの夢物語じゃありませんのよ! 時間内に確実にプレゼントを配る正確さ、スピード、対象にさとられない技術! どれが欠けてもサンタクロースにはなれませんのよ!」
 涼子の顔が曇るのを見て、フレデリカは守るようにその肩に手を回した。
「それだけじゃ足りないから、キミはサンタクロースになれないんでしょう?」
 フレデリカの言葉に、スネグーラチカの顔が怒りで真っ赤に染まる。
「……なれますわよ。あなたに負けを認めさせ、絶対にこの地区のサンタクロースになってみせますわ!!」
 スネグーラチカは、そう言い捨てると、機晶ロボと共に去って行った。何人かがその後を追っていく。

 フレデリカはやれやれとため息をつき、涼子に謝った。
「ごめんね、こんなことに巻き込んで。あの子、頭に血が上ると…いや普段から厄介で……」
 過去を思い出し沈み込むフレデリカに、明日香が声をかける。
「あのぅ、今年も一緒に配る人たちでスムーズに配達するために、連絡を取り合えるようにしたらどうでしょ〜。どなたか……」
 周りを見回した明日香の目が正悟に止まる。去年の連絡係の正悟は慌てて視線をそらした。
「い、いや、俺は、今年はフレデリカさんと一緒に配りたいなーとか思ってて……」
 そこへ薔薇の学舎の藍澤 黎(あいざわ・れい)と、パートナーのあい じゃわ(あい・じゃわ)が名乗りをあげた。
「その役目、我らに任せていただきたい。勝負ならば、双方の配達状況を把握しておく必要があるだろう? 私は、スネグーラチカ殿の配達状況を調べに回る」
 そう言う黎の隣にシャンバラ教導団のルカルカ・ルー(るかるか・るー)が並ぶ。
「フレデリカさん側の配達状況は私がカウントするね♪」
 2人の申し出にフレデリカが頷く。
「まあ、勝負っていうんだからそうだよね。じゃあ、お願いしちゃおうかな」
 黎は快諾し、ルカルカに目配せすると、じゃわと共にスネグーラチカを追って行った。

 そこへ、葦原明倫館の葛葉 明(くずのは・めい)が人垣を強引にかき分けフレデリカに詰め寄った。
「お願いしちゃおうかな、じゃないわよ! どうしちゃったのよ、フレデリカさん!! サンタじゃなく天狗にでもなってしまったのかしら!?」
 その勢いに押されながら、フレデリカが挨拶する。
「め、明さん、久しぶり……」
「久しぶり、じゃないわよ! なんだってあんな勝負を受けたの!? 協力して配達するならまだしも、勝負だなんて! 去年の子供達の事を考えて配っていた純真な心を忘れてしまったの!?」
 明の言葉に、フレデリカが真剣な顔をする。
「去年の子供達の事を考えたから勝負を受けたんだよ。去年みたいに、朝起きて、プレゼントがないなんて思い、もう2度と子供達に味あわせたくないもん。スネグーラチカともめる時間があるなら、私は1つでも多く子供達にプレゼントを配りたいよ。それに、スネグーラチカだってサンタクロース見習いだもん。子供たちには、無茶なことしないと………………………しないとおもうよ、たぶん。っていうか、しないとおもいたいなぁー…」
 フレデリカの様子にかなり不安が募る。明はわかったとフレデリカに頷いた。
「それじゃ、今度はスネグーラチカさんに説教よ!」
「えっ!? あの娘が素直に聞くかなぁ……」
「聞かせるの! フレデリカさんは子供達のために頑張るのよ!」
「うん!」
 明を見送るフレデリカの背後から、突然声が掛けられた。
「ニコラスさん……」
 驚いたフレデリカが振り返ると、蒼空学園のエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が怖い顔でフレデリカを見ていた。
「ど、どうしたの?」
「話は聞いたぜ。強化パ……あ、いや、機晶ロボと戦うってのは本当か?」
「………ちょっと、違うかな」
「ロボがいないのか!?」
「えっと、スネグーラチカが使ってるみたいだけど」
「いるのか、いるんだな!……くくく、ロボ…機晶ロボか……面白い!!」
「……えーっと?」
 困ったフレデリカの声に我を取り戻したエヴァルトは、こほんと咳払いをし、改めてフレデリカに話しかけた。
「まあ、なんだ。ニコラスさんは、とにかくプレゼント配りに集中してくれ。機晶ロボは必ず俺が乗ってやる!」
「のる?」
「あ、いや、倒してやる! 決してニコラスさんの邪魔はさせないからな、任せとけ!!」
 なんだか様子のおかしいエヴァルトにどう返事をしていいものか迷っているうちに、エヴァルトは機晶ロボを求めて去っていった。フレデリカの心配そうな顔を見たエヴァルトのパートナーでアリスのミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)は、フレデリカの元へ戻ると、小さな声で囁いた。
「あの、お兄ちゃんには、私たちがついてますから!」
 それだけ言うと、ミュリエルはエヴァルトのもう一人のパートナーで精霊のアドルフィーネ・ウインドリィ(あどるふぃーね・ういんどりぃ)と共に急いでエヴァルトの後を追った。

 ルカルカが皆に宣言する。
「そろそろスタートするよー」
 集まった者達は、フレデリカとの挨拶を済ませると、自前のサンタ服やフレデリカから借りた服で、それぞれの乗り物に乗り込んだ。
 黎と打ち合わせた時間に合わせ、大きな声で叫ぶ。
「スタート!!」
 一斉に、1日サンタクロース達が動き出す。
「みんなー! 頼んだよーっ!!」
 フレデリカは皆を見送ると、プレゼントの袋を担ぐ手にぎゅっと力を込めた。
「私も、頑張るから!」

 今、ここに、戦いの火蓋が切って落とされた。