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五月のバカはただのバカ

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五月のバカはただのバカ

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 ツァンダの街は今日もちょっとした騒ぎに巻き込まれていた。
 パラ実の自称正義のヒーロー『正義マスク』ことブレイズ・ブラス(ぶれいず・ぶらす)が実家の蔵にあったマジックアイテム『似顔絵ペーパー』の処分に困っていたところ、それをただの紙と勘違いしたツァンダの地祇の一人、カメリアが見知った人々の似顔絵と嘘設定を書いたせいで、多くの人々の偽者――フェイクが街に溢れてしまったのである。

 そんな中、毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)のフェイクは、本物の大佐に向かって言った。


「よろしい、ならば競争だ」


――と。


『五月のバカはただのバカ』


第1章


「うっきゃあああぁぁぁ〜っっっ!!!」
 真っ赤な顔をした神代 明日香(かみしろ・あすか)が、空飛ぶ魔法でツァンダの空を駆ける。
 その明日香が追っているのは、自分と全く同じ顔と服装をしたフェイクだ。
 ただし、似ているのは顔や服装だけで、その行動は全く異なるものだった。

「ま、待ちなさ〜い!!」
 前方を低空飛行して行く自分のフェイクを追いつつも、サンダーブラストで攻撃した。
「ふっふ〜ん♪ 当りませんよっ♪」
 だが、似顔絵ペーパーで作られたフェイク明日香は紙製なので本物よりも身が軽く、スピードに優れている。行動予測や超感覚を駆使して明日香の攻撃を予想したルートを辿り、建物の陰などを利用して防いでしまう。


 その超感覚のためにプリティな猫耳と尻尾が揺れて、プリティなまじかる☆メイド服のスカートのプリティな中身が丸見えになるわけだが。
 つまるところ、プリティなお尻を覆い隠した青と白のストライプが丸見だ。



「せ、せめて下着は隠してください〜いっ!!」
 その様子を見てさらに激怒した明日香はより一層激しく攻撃を乱発するが、周囲の被害が増える一方で全く当らない。

「イヤですぅ〜♪ 私は退屈な暮らしを捨てて自由に遊んで暮らすんですぅ〜♪」
 と、上空に逃げるフェイク明日香。


 そして、その際に丸見えになった青白の縞パンをカメラに収めたのが毒島 大佐である!!


「!? と、撮らないで下さ〜いっ!!!」
 カメラに映った映像では本物だか偽者だか分かりはしない。
 そんな映像を残されてなるものかと、明日香は大佐に向かってサンダーブラストを放つ!!
「――おっと」
 だが、大佐にはその行動は予想済み。バーストダッシュで一瞬のうちにその場を離れてしまう。
「早いっ!?」
 驚愕する明日香の背中に、ぞくりとした悪寒が走った。

「――ち。こっちのは見えないか」

 振り向くと、道端からローアングルで自分のスカートの中をカメラで狙っている大佐の姿がある。
「そんな、もう一人いるなんてっ!?」
 驚きと共にサンダーブラストを放つが、その大佐も驚くべきスピードのバーストダッシュで姿を消した。
 こちらの大佐はフェイクだが、やっていることに変わりはない。


 そう、フェイク大佐は本物の大佐に『パンチラ撮影競争』を挑んだのだッ!!
 どれだけ多くの女子のパンチラを撮影できるかで勝負ッ!!
 男の娘はありッ!!
 外見男性の女子は各人の判断ッ!!
 それによりどのように本物と偽者の決着が着けられるのかは――まったくの不明ッ!!



「わ、わけの分からない勝負しないでくださ〜いっっっ!!!」

 いよいよヒートアップした明日香は周囲にサンダーブラストを撒き散らして大抗議するが、ただでさえ動転しているところに自分のスカートを気にしながらの攻撃である。もとより回避に専念し、歴戦の立ち回りや隠れ身を効果的に駆使する大佐には当るはずもない。
「ほらほら、こっちを気にしていていいのか? そっくりさんがえらいことになってるぞ?」

 明日香は大佐の言葉に気付き、フェイク明日香に視線を戻した。
「ねぇ〜おにいさぁ〜ん♪ 私とイイ事しませんかぁ〜? 一時のあばんちゅ〜るってヤツですよぉ〜♪」

 するとまあ、フェイク明日香は通りすがりの男性にスカートの裾をひらひらと見せながら大絶賛誘惑中なわけで。

「いい加減にしなさ〜いっ!!!」

 遠距離魔法ではラチが明かないことを悟ったのだろう。空飛ぶ魔法で一気に接近した明日香は、両手でしっかりと握りこんだマジカルステッキをフェイクの胴体にねじ込んだ!!

「おふゥっ!?」

 すると、その途端にフェイク明日香はぼわんと一枚の紙に戻った。似顔絵パーペーの『普通紙』で作られたフェイクは、身が軽い代わりに耐久力がないのだ。
 そこには、カメリアが書いた一枚の似顔絵があった。
「全く……えらい目に会いました」
 明日香がその裏をめくってみると、そこにはこう書かれていた。


『小悪魔エッチなメイドさん神代 明日香』
 と。



                              ☆


「よし、作戦を続行するッ!!」
 毒島 大佐とフェイク大佐は次なるターゲットに走って行った。

 そこには、ディアーヌ・ラベリアーナ(でぃあーぬ・らべりあーな)が自分のフェイクを追って、小型飛空艇ヘリファルテに乗ったネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)と共に飛行中である。
 ディアーヌのフェイクもまた『普通紙』で作られているのだろう、ぽんぽんと軽やかに跳ね回って本物を翻弄している。

 フェイク・ディアーヌが何をしているのかというと、高く飛びあがってスカートの中から花粉を撒き散らして遊んでいるところだ。
「やめて〜!! どうしてボクがぽんぽんしてるの〜!!」
 ディアーヌは花妖精なのだ。そのスカートの中から放出される花粉には多少なりともの精神高揚の効果があり、多く吸い込むとそれなりに大変なことになることが実証されている。
 それもあって、人前で花粉を放出することは極力抑えてきたディアーヌなわけだが、自分と同じ背格好の花妖精が何の遠慮もなく楽しそうにぽぽぽぽ〜んとしているのを見ては黙っているわけにもいかない。


 ちなみに、スカートの中のどの器官から放出されているのかは秘密である。


「わー、これはたいへんだねー」
 と、ネージュは飛空艇を運転しながらも、きわめて他人事のように棒読みで呟いた。
「ぼ、ぼんやり見てないで手伝ってよぉ〜!!」
 ディアーヌはパートナーに抗議するが、ネージュは一定に距離を保って近づこうとしない。
「えー? だってその花粉吸い込んだらまたおかしくなっちゃうし、そこまで被害が大きいわけじゃないしぃ〜」


 すっかり状況を楽しんでいるネージュだった。


「わ〜ん、イジワルぅ〜っ!!!」
  と、半泣きで自分のフェイクを止めに入るディアーヌだが、自分と同じ顔が本人的に恥ずかしい行為をしているのに動転していて、動きにキレがない。
「外見的に可愛い女の子は当然アリだな!!」
「意義なしっ!!」


 そしてそのディアーヌのスカート中の秘密の花園を激写しようとしいるのが、毒島 大佐とそのフェイクであるッ!!


「と、撮らないでッ!!」
 当然本物のディアーヌは二人の大佐に抗議し、その行動を止めようとするが、実力的にも性格的にも全く功を奏していない。
「ふはははは!! 撮り放題だッ!!」
 フェイクは率先して前に出てフェイク・ディアーヌのスカートの中を撮影しようと覗きこむ。
 が。
「――ぬ、何も見えないではないか」
 フェイク・ディアーヌのスカートの中からはかなり視界が制限される花粉が噴出していたため、カメラには映らなかったのだ。
 ちなみに、精神高揚の効果はフェイクの花粉にはなかったようだ。

「ならば仕方あるまい、ターゲットを変更する!」
 と、大佐は本物のディアーヌに狙いを定め、粘体のフラワシを飛ばす!!
「ひ、ひぃぃぃっ!?」
 しかし、フラワシがディアーヌを拘束する前に、ネージュが運転する飛空艇がその間に割って入り、ディアーヌを攫った。

「――もう充分楽しんだし、これ以上恥ずかしい思いをさせるのもちょっとね」
 ネージュはそのまま飛空艇を操作し、フェイクのディアーヌの横にならんだ。
「えいっ!!」
 まだ空中を気持ちよさそうに跳ねていたフェイク・ディアーヌの頭に軽くチョップで突っ込むネージュ。フェイクはその衝撃で元の似顔絵ペーパーに戻った。

「もう、やっぱり遊んでたんじゃないかーっ!!」
 その気になればすぐにフェイクに突っ込めたネージュと並んで飛びながらも、ディアーヌは激しく抗議した。


「あはは、ごめんごめん。あんまり興奮すると花粉出ちゃうよ、ぽぽーんって」
「今は季節はずれだから出ないよーっ!! もーっ!!」


 すっかり真っ赤になってしまったディアーヌだった。


                              ☆


「お? 何だ、土下座の神ではないか。今忙しいのじゃ、またな」
 と、カメリアは天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)に向かって告げた。

「いやいやいや、ちょっと待てよカメリア。俺とそっくりな奴が出たって噂を聞いたんだが……」
 鬼羅はカメリアに食い下がった。カメリアは先を急いでいるのだが、フェイクが出たことについては自分にも責任があるので、無視もできない。
「あー……お主の似顔絵も描いたっけなあ……えーと、あれじゃな」
 カメリアが指差した先には、確かに鬼羅と同じ顔をした人物――鬼羅のフェイクがいた。
 だが、ひとつその外見には本物とは徹底的に違ったところがあった。


 普通、なのだ。


 鬼羅は日頃から奇抜で非常識な行動を好むため、セーラー服を始めとする女性物の服を着ていることがほとんどである。
 そうでなければ全裸である。

 だが、そのフェイク鬼羅は普通の男物の服を着ていた。
 黙っていれば端正な女顔の鬼羅、そのフェイクはまるっきり男物の服を来た女性である。

「ぬぁあああぁぁぁっ!! オレの顔で普通の格好なんかしやがって、恥ずかしいじゃねーかっ!!」
「え?」
 普通の格好のどこが恥ずかしいのか、と突っ込むカメリアを無視して鬼羅は自分のフェイクに突撃して行く。

「きゃああああっ! な、何ですかぁっ!!」
 と、フェイク鬼羅は突然現れた本物の鬼羅を見て、まるで変質者に遭遇した乙女のような悲鳴を上げた。
 どうやらこのフェイクは中身も本物の鬼羅とは違い、かなり女性らしい内面のようだ。

「オ、オレの顔でなよなよするなぁっ!! 確かに外見的にはオレもお前も女に見えるだろうけどなぁっ!!」

 だがその実、天空寺 鬼羅は男の中の男なのだ!!

「で、でも男なのに女性物の服を着るのっておかしいですよぅ」

 そのような正論を述べる可愛らしいフェイク天空寺 鬼羅もまた実は男の中の男なのだ!!

「うるさい!! 普通の格好など恥ずかしくてできるものか、漢ならば全裸で勝負だっ!!」

 そんな全裸のエキスパート、本物の天空寺 鬼羅はしかし男の中の男なのだ!!

「ど、どうして脱ぐんですかぁっ、きゃああぁぁぁ、やめてぇぇぇ!!」

 そしてことのついでとばかりにフェイクの服を剥ぎ取っていく生粋の変態、天空寺 鬼羅こそが男の中の男なのだ!!

「きゃあきゃあわめくなッ!! オレだってカメリアに鬼羅にぃって呼ばれてみたいんだ!!」

 もはや論点が全くズレている天空寺 鬼羅と全裸にされたフェイク天空寺 鬼羅はやはり男の中の男であった!!


 そこに現れたのは毒島 大佐とフェイク大佐の大佐コンビである。
「ルール確認ッ!! ただ女の格好をした男はッ!!」
「地獄に落とせッ!!」
「ただの全裸の男はッ!!」
「地獄に落とせッ!!」
「死刑!!」
「執行!!」

 二人の大佐はしびれ薬を散布して鬼羅の自由を奪った上で粘性のフラワシで鬼羅を拘束した上で焔のフラワシで鬼羅をウェルダンに焼いた上で輪ゴムピストルから数百発の輪ゴム弾を鬼羅に浴びせまくった。
 
「うわあああぁぁぁっ!?」
「きゃあああぁぁぁっ!!」
 完全に不意をつかれた鬼羅は、ロクな抵抗をすることもできずに全裸で倒れるのだった。
 フェイク鬼羅はその衝撃で元のペーパーに戻ってしまう。

「ミッション続行!!」
 と、颯爽と次の獲物に向けてダッシュして行く二人の大佐。

 その後に転がる鬼羅を見下ろして、カメリアは語りかけながらも去って行った。
「――そういえば、お主もあやつらとつるんでおるんじゃったな。儂はちょっと先を急ぐから少し休んでおれ――またな、鬼羅にぃ」


 と、自分の描いた似顔絵を鬼羅の股間に乗せて。


                              ☆