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あなたと私で天の河

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あなたと私で天の河
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●lullaby

「泪さんは、どの短冊をつるすの?」
 卜部 泪(うらべ・るい)に、刹那・アシュノッド(せつな・あしゅのっど)が質問している。
 このところ接点はなかった二人だけれど、会場で偶然再会していた。
 たまたま同じクレープ屋の屋台に並んでいたとき、泪と刹那は隣同士になったのだ。言葉を交わしたことで、二人はすぐに旧交をあたためた。
 かくて、刹那のパートナーたち三人も加わって四人、現在、ともに笹の前で短冊を書いているというわけだ。
「私はね……」
 墨に筆を浸しつつ泪は言った。
「白い短冊にしようかな? この祭を開いてくれたことに対して、涼司や環菜に感謝したいと思ってるの」
「素敵ですね」
 というアレット・レオミュール(あれっと・れおみゅーる)が選んだのは緑の短冊だ。
「私は……みんなの安全を祈願したいと思います」
「アレットらしい願いだねぇ」
 遊馬 澪(あすま・みお)は、冷たいかき氷を片手に、さらさらと紅色の短冊に書き込んだ。
 その言葉は、『皆が笑顔でいられますように』
「紅って、恋愛の短冊じゃありませんでした?」
 セファー・ラジエール(せふぁー・らじえーる)が指摘するも、
「わかってるよ」と澪は言った。「澪の愛する人が皆、健康でいてほしいと思ってるから……」
「いい話よね」
 と話しながら泪が短冊をつるすと、刹那が続いた。
「私は迷ったけど……黄色い短冊にしようと決めたよ。願いは、これ」
 その願いに、皆の口から感嘆の声が上がった。
『世界平和』
 刹那はこう書いていたのだ。
「なんとも大規模な願いではないですか」
 セファーは苦笑した。
 けれど彼は、そっと黒の短冊に同じ願いを書いていた。
 そして、刹那の見ていない隙に、これを笹につり下げたのである。
 刹那の願いは、セファーの願いでもあるのだから。

 コルネリア・バンデグリフト(こるねりあ・ばんでぐりふと)に付き従いつつ、森田 美奈子(もりた・みなこ)はなんとも呆然としている。疲れているのでも、体調が悪いのでもない。むしろ、桃源郷にいる気分だ。
(「パラミタに来て、さっそくのビックイベント……」)
 季節は夏だが、美奈子の心は春、真っ盛り。それというのも、
(「七夕といえば浴衣、浴衣から覗く美少女たちの白いうなじとか、風の悪戯でめくあがった裾から覗く健康的なふとももとか……」)
 実際、美奈子の求めるまさにその光景が、ほうぼうで展開されていた。
 美奈子は女性だが、むさ苦しい男より、美しい女性にこそ愛を感じる。控えめなチラリズムがあればなお良し、真剣に理想をいうなら、ホルスタインみたいな巨乳より、楚々とした体つきこそが最高だと思う。軽く会場を回っただけで、そんな理想に当てはまる少女たちを美奈子は多数目にした。そのたび、どれほどのときめきを感じただろう。
 どの少女たちも、いずれ劣らぬ華であった。
 ああ、切ないほどの美少女天国、こんな場所がかつてあっただろうか。今夜、美奈子は眠れるだろうか。
(「ビバ、タナバタ!」)
 そう叫び出したいほどの興奮に彼女は駆られていた。
「あら?」
 と、先を歩くコルネリアが足を止めたので、美奈子はふと現実に戻った。
「主人たるコルネリア様に付き従うのがメイドたる私の勤め、どこなりともお供いたします」
 さっと口上を発する。それがふさわしい場面かどうかはともかく、メイドらしく述べた。
 そして、夢ではないか、と思ったのだ。
 桜井静香とラズィーヤ・ヴァイシャリー、百合園女学院の誇る大輪二人がそこにいた。
 いや、美奈子はラズィーヤを見ていない。容姿は好みだが、いただけないほどバストが豊満だ。あれは、あまり触りたいとは思わない。さして興味も湧かない。
 だが桜井静香は、どうだ。彼女こそ、美奈子の理想にして究極の憧れだ。見よ、あの、慎ましすぎる胸を。
(「やっぱり手のひらサイズが一番! 上の人にはそれがわからんのです!」)
 もう美奈子はその空想のなかで、静香のちいさな膨らみに手を伸ばし、掌ですっぽりと包み込んでいた。許されるなら直に触りたい。それどころか舌で味わってみたい。
 優しくマッサージしたら、静香はどんな可愛い声を上げるだろう。
 舌先で転がすように味わえば、どれほど切ない表情を見せるだろう。
 いつの間にやら美奈子は、昔からの癖である妄想の世界に突入していた。
 ――なお、パラミタに来て日が浅い美奈子は、桜井静香に関する結構重要なことにまだ気がついていないということをここに記しておく。
「静香様、ラズィーヤ様、ごめん遊ばせ」
 コルネリアは二人に話しかけた。
「百合園中等部に転入することになりました、コルネリア・バンデグリフトと申します」
 美奈子も続いた。
「コルネリア様に仕えるメイド、森田美奈子です」
 言いながらチラチラとラズィーヤを窺った。
(「ここで好感触を得ておけば、私の学園ライフは薔薇色、むしろ百合色を約束されたようなもの……三歩下がって主人の影を踏まず」)
 そう考えて、コルネリアの後ろから動かない。これぞメイドのたしなみだ。
「そうなの? よろしくね」
「よろしく見知りおいてくださいまし」
 静香、ラズィーヤからそろって言葉を得て、しばし会話した後に背を見送った。
(「いいなぁ……」)
 少年のような身のこなしの静香の背を、じっと美奈子は見つめるのである。
「さて、短冊をしたためましょうか」
 コルネリアが提案した。
「私は、シャンバラ王国の繁栄と女王陛下の健康をお祈りしようと思っております」
 なお、本音は『胸が大きくなりますように』なのだが、それを言わないのが淑女、コルネリアのたしなみである。だからといって無論、王国の繁栄と陛下の健康を祈る気持ちに嘘偽りはないのだ。
「さて私……私は……」
 と、迷ったフリをしているが、じつはとっくに美奈子の願いは決まっていた。
 もちろん、『パラミタ美少女たちとキャッハウフフ』である。
 その『美少女』のなかには、(現時点ではまだ)静香も入っているのだった。
 美奈子が真相を知ったらどうなるか……は、乞うご期待ということで。