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古代の悪遺

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古代の悪遺

リアクション





 1:Prologue  



 警報装置が鳴り響く、冷たい壁のその奥での一幕―――

 
 物々しい機材たちに囲まれた中央制御室で、調査団たちは制御装置の修復を進めていたが、状況は思わしくなかった。
 制御装置そのものの故障箇所を探るのも困難を極めていたが、その修復のために一旦システムを止めようとしても、命令を受け付けなかったのである。
「全部が全部狂ったんじゃないのが問題だな」
「軍事施設ですからね」
 調査員の一人が操作パネルに乱立するエラーを忌々しげに眺めながら応えた。
「ダメです。正規の解除手段は、有権限者の命令でしか受け付けません」
 判っちゃいたことですが、と苦い声に、クローディスも「そうだろうな」としか答えようが無い。
「駄目もとで構わない。とにかくあらゆる手段を試して、データだけでも取っておけ」
 救助を待つしか手段は殆ど無い状態であるとは言え、ただ待つのでは時間の無駄だ。
「そっちの状況は」
 仲間同士で指示を出し合いながら、解決の糸口を探そうとするメンバーを見やりながら、クローディスは通信機に呼びかけた。
『今のところ、変化はありません』
 幸い、通信妨害などは無いようで、外に残っていたメンバーからはすぐに返答が返って来る。
 襲い掛かってきた機晶ワームの攻撃を何とか潜り抜け、入り口付近の岩陰に隠れているようだ。勿論、全員無事、とはいかなかったようだが、メンバーたちは勤めて冷静に入り口を観察した結果をクローディスに告げてくる。
『遺跡の外に出てくる様子は無いですね。俺たちを見失っている、というより攻撃対象とみなしてないみたいです』
「施設内部にいないものは対象にならない、ということか?」
『断定は出来ませんが、途中まで追いかけてきてたのも、引き返したようですから、恐らく』
「そうか」
 ひとまず外へ危険が拡大することはなさそうだ、とクローディスは息をつく。
 だが、最悪の事態が一つ減っただけで、状況が好転したわけではない。
「まだ情報も手も足りない。すまないが……」
『判ってます』
 返答に間は無かった。
『だいたい、俺たちだけ見捨てて逃げるわけには――……』
「どうした!」
 唐突に途切れた通信に、緊張の走った次の瞬間。
『遅くなったな』
 調査員のものではない声が、通信機から聞こえてきた。緋山 政敏(ひやま・まさとし)だ。
「君は?」
 知らない声にやや声を硬くしたクローディスに、政敏は努めて力強い口調で名乗りを上げる。
『SOSを受けてきた契約者だ。状況を教えてくれるか?』
 一瞬、間に合ってくれたかという安堵に息を吐き出すと、クローディスは表情を引き締めて説明した。
「故障しているのは、一部の制御装置だということは判明している。だが、その故障すら特定できていないのが現状だ」
 さらには、軍事施設であるために、強制終了や動力カットなどの操作や命令を受け付けないということ。パスワードや認証カードといった類のものは見つかっていないこと等、状況としては最悪に近い旨を伝えたが、政敏はそれを聞いても慌てる様子無く、他にもいくつかの質問をしたあと、不意に首をかしげた。
「主電源をオフにしたら、止まっちゃったりしないかな?」
 その冗談めかした物言いに感じる余裕に、クローディスの顔に、僅かに笑みが浮かぶ。
「試しては見たが、家電のように「コンセントを抜けばいいじゃない」とはいかなかったよ」
 同じように冗談で返し、すぐに表情を引き締め直すと「兎も角、聞いての通り、状況は芳しくない」と声を尖らせた。
「命を懸けてもらう分際で言うのもなんだが、急いで欲しい。責任はいくらでも負うけれど、それで命が救われるわけではないから」
『勿論』
 短いが、決意のこもった言葉が返る。
 そんな政敏に、内部の守護者たちのことを説明していたが、一瞬、政敏の通信が、誰かと相談するような間があいたかと思うと「そういえば、聞いておかなきゃならないんだが」とふと躊躇うような声が続いた。
『そちらの人数は?』
 その質問には、一瞬クローディスの言葉も詰まる。
「……訪れた時は15名”だった”が、今、戦力になるのは8名弱だな」
 戦力、と括られたのは、怪我人や死者を省いての人数だ。
 その意味を悟って、無駄なことは何も言わず、政敏はただ「わかった」とだけ答える。
『大丈夫、すぐそちらに向かうから、あと少しだけ頑張ってくれ』



 通信を終えると、クローディスはそのやり取りに視線を向けていた仲間たちに強く頷いて見せた。
「応援が来てくれたようだ。すまないが皆、もう少し付き合ってもらうぞ」
 残っていた調査員たちは、無言で頷いて見せると、すぐにそれぞれの仕事に取り掛かり始めた。
 その様子を見ながら、クローディスは集まってくる情報を、訪れるはずの救援にすぐに渡せるようにと整理し始める。
 と同時に、思わず、といった調子でひとり呟いた。

「全く……お前が絡むと、本当にろくなことがないな、スカーレッド」