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盛夏のフラワーショー

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盛夏のフラワーショー

リアクション

 二人を結ぶのは一人の地球人雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)の存在だった。今彼女は、樹上都市にいる。
(花でいっぱいの街、っていいわねぇ。ふふ、私とこの花どっちが素敵? なんて質問させたくなる殿方でも探しましょー。
 フラワーショー? 私は、私より綺麗な花には興味ないわよ。ふふ)
 美しい守護天使や花妖精の男性を目の保養にしつつ、一人のんびりと歩いている。
 彼女には何の憂いもない。たった一つのことを覗いては。それもきちんと対策はさせてある。
(キーアはちゃんとやってるわよね)
 フォスキーアセッカ・ボッカディレオーネ(ふぉすきーあせっか・ぼっかでぃれおーね)
 彼女はヴァイシャリー郊外、山中の別荘にいるはずだ。そして、“彼”を監視している筈だった。
 そして監視される大正・嘉月兔 ネヴィア(かげつと・ねう゛ぃあ)は、実質監禁状態にある筈だった。
 リナリエッタは、ネヴィアを憎んでいた。勿論中身は別人だと知っている、けれど世界で唯一憎む男と同じ顔は、視界に入ることすら許せなかった。
「二度とその顔を私の前に見せるな」
 その命を二人は忠実に守っている筈だった。
 ──けれど。
 花妖精であるフォスキーアセッカはネヴィアがそんな境遇で一人、別荘で花を大事に育てている姿に感じるものがあったのだろう。二人で監視という名で共に生活するうちに上も湧いたのだろう。
 この都市に二人で行くことを提案し、そしてネヴィアの提案で“変装”させられ、そのまま観光のはずがミスコンが始まろうとしていたものだから、何故だかネヴィアに押されて。
「ミスコンテスト? ふふ、キーア、君にぴったりじゃないか」
 フォスキーアセッカは、そんなことよりも、もっとしてほしいことは本当はあったのだけれど。
「大丈夫、君は今海……に咲いている金魚。その和服も似合っているよ」
 海でいいのだろうかとは思ったが、淡水魚なのは言わないでおく。結構いいことが言えたんじゃないかな、と思ったのだ。
 そして今彼女は、ステージの上にいた。
「ゴ、御機嫌よウ皆様」
 注目を浴びて緊張していたフォスキーアセッカだったが、観客席を見回せば、お揃いの浴衣を着たネヴィアが目に入った。
 その彼が何時もと変わらない笑顔を浮かべていたので、彼女の胸の中の緊張もすっと消えていく。
「私は金魚草の花妖精。フフ、真夏の原色の海ニ咲く金魚。地球の日本で言うと『風流』って感じカシら?」
 頭に咲く黄色い金魚草。日本では金魚の口のように見えからその名が付いたそうだが、、他国では竜の口だとも言われるらしい。
 ピンク地に赤や黒の金魚が泳ぐ浴衣に結んだ黄色の帯もまた、彼女の動きに合わせて金魚が泳ぐようだった。
(……楽シイわ)
 久しぶりに人前に出るのも悪くない。拍手を受けていると、お揃いの浴衣──こちらは紺地のネヴィアが嬉しそうにするのも、嬉しい。
(息抜きしてるカシら? 良かったら今日のコトを伝エタいけれド……)
 金魚草の花言葉は「おしゃべり」「でしゃばり」「おせっかい」があるからかどうかは分からないが、できれば二人が仲良くなってくれればいい、と思う。
 それが「清純な心」から来る「予知」になるのか、「図々しい」、「図太い」強さで達成できるのかは分からないけれど。
 ネヴィアがもし寂しさから花を育てているのだとしても、花は育っている限り共にあり慰めになるのだから。


「次もシャイな女の子の登場ですよー」
 司会の花妖精は手を広げて、次の花妖精を迎えようとする。
「拍手をお願いします」
 観客席から拍手が起こる。ぱちぱちぱち。
 ……。
「ラルムさんの登場ですー」
 ぱちぱちぱちぱち。
 ……。
「ラルムさん……ラルムさん?」
 一向に現れないので、司会がその名を呼んできょろきょろ壇上を見回した。
「ラルムさーん」
「そこですー」
 観客席から手を振ったのは、パートナーの師王 アスカ(しおう・あすか)だった。
「足元です」
「……わっ」
 タンポポ花妖精の司会は、黄色いサンダルでぴょんと飛び跳ねた。
 司会の彼女とて決して背が高いとは言えないが、更に小さくふくらはぎ程の高さのところに、彼女は立っていた。
 外見的にもまだ三歳ほどにしか見えない彼女は、緊張してプルプルしつつ、うるんだ青い瞳で司会を見上げる。
「……いぢめる?」
「いぢめませんよ〜。皆さん、こちらがラルム・リースフラワー(らるむ・りーすふらわー)さんです」
 司会はスタッフから椅子が運ばれてくると、その上に彼女を座らせた。
「それではアピールを、どうぞー」
 ……ぷるぷる。
「あ、アピールを……」
 ちょっと難しかったんじゃないかなと司会が思い始めた時、ラルムはアスカの言葉を思い出していた。
「他の花妖精の花も綺麗だけど、“自然の芸術”って言われる、リースフラワーだって負けてないわよぉ。
 しかも咲く場所が確定しているわけでもないから。いつ見れるかも分からないほど稀少な花なんだからぁ。せっかくの機会だからちゃんと見てもらえるといいかな〜」
 ラルムの緑色の髪に被せた赤い花輪、それが彼女の花だった。見た目は可愛くても、過酷な砂漠でも花を咲かせる力強い花だ。背の低い草むらに、円環状に花を咲かせるのが特徴。
 その中でもラルムが咲かせているこの花は、サザン・クロスと呼ばれている。花弁が丁度十字に咲くことからその名が付いたのだろう。ちなみに花言葉は『願いを叶えて』だ。
 震えながら勇気を振り絞り、か細い声で精一杯アピールする。
「……お花……みて……?」

「花妖精と言っても色々だな……出場できてよかった」
 十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)もまた、リイム・クローバー(りいむ・くろーばー)を見るために観客席にいた。
 リイムはムラサキツメクサの花妖精だ。
 リイムが「ミスコンに出てみたいでふ」というので、ダメ元で申し込んでみたが出場できてよかった。
 宵一はリイムの性別について心配を持っていたが、「いいですよ、花妖精であれば問題ありません」と受付嬢は気楽に言ったものだった。
 それでもステージ脇に行く前、彼は心配そうにそわそわしていた。
「ありがとうでふリーダー。でも優勝できるか心配でふ」
 そんな心配を吹き飛ばすように、宵一は彼の背中を軽くと叩いた。
「リイム、美しさというのはスタイルの良い美女とかが持っているだけじゃあないんだ。生きている者が皆それぞれの美しさを持っている。お前だけの美しさを観客に見せつけて来い、リイム!」
 そうして「花妖精のお姫様」になったリイムは、舞台へ舞い上がった。
「またまた小さな花妖精さん、リイム・クローバーさんのの登場です」
 今度は司会も見逃さなかったようだ。ラルムと同じくらいの身長、小さな身体には桜の羽衣を纏い、桜のペンダントを胸に、頭には三日月型の月光のティアラ。ガラスでできたシンデレララシューズをはき、背には究極互換翼エンディングロール──ブルーモルフォ蝶を模した飛翔用の羽根が付いている。
(うちのリイムが花妖精の中で一番可愛いて美しいの!)
 衣装コーディネートを担当したヨルディア・スカーレット(よるでぃあ・すかーれっと)は、観客席でうっとり見とれている。
 が、いけないいけないと思い直した。彼女は両手に持った魔杖キルシュを握りしめると、そこから魔力を放った。増幅させた魔力は桜吹雪のようにリイムの上を舞い踊る。
 “幸せの歌”を歌いながら踊るリイムを見ながら、ヨルディアは再び見とれる仕事に戻った。
「多くの美しい桜の花びらの下で楽しそうに舞うリイムの可愛いらしさは何者でも敵いませんわ」
 舞い散る桜の中を蝶の羽根で飛び回る花妖精に、観客も見とれて盛大な拍手を送った。