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リアクション
場所:舞台裏
少年と青年、二人の人間が密談していた。
「うむ。その依頼、たしかに引き受けた!」
「どうもありがとうございます」
「ククク、任せておけ! 俺の新しい発明品の実験にちょうど良い!」
少年の依頼は高笑いと共に受け入れられた。
◇◇◇
一人の少年が、人気の少ない裏通りで声を張り上げていた。
「よーし、みんな集まれー」
「おー」
「にーちゃん、なにー」
「おかしくれんの?」
「おこづかいー」
「ああ、やるやる! やるから、ちょっとお兄ちゃんの頼みを聞いてくれるかい?」
「おー!」
彼の周囲には、わらわらと集まる小さな影。
裏の準備は、着々と進行している。
場所:花嫁控室
ヴァージン・ロードを模した白い花道に、赤い薔薇の花びらが散る。
一人の花婿と二人の花嫁が歩いていた。
右側の花嫁は、ふわりとしたプリンセスラインのドレス。胸元の花が可愛らしさを際立たせている。
左側の花嫁は、すらりとしたAラインのドレス。シンプルな作りの中にフリルをあしらった上品なものだ。
そして真ん中の花婿は、白い国軍礼服に帽子を被った――女性。
花婿の名は、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)。
プリンセスラインの花嫁はリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)。
Aラインの花嫁はルカ・アコーディング(るか・あこーでぃんぐ)。
彼女たちは、タシガンの結婚式場のブライダルイベントに参加していた。
「んもー、ルカちゃんの礼服、カッコいいっ! アコちゃんのドレス姿も、いやん、かわいいわぁ〜!」
「リリアの花嫁さんも、可愛いね」
「ふたりとも、綺麗だよ。えへ、両手に花だね」
ルカルカは二人の花嫁の髪飾りを軽く直すと微笑む。
「うん。皆とてもよく似合っていて可愛いね。リリアは、次のお色直しにはマーメイドラインのドレスもいいかもしれない」
そんな3人を嬉しそうに眺めているのはエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)。
彼のドレスや小物の花についての助言は常に的を射ており、少女たちの模擬式に、文字通り花を添えていた。
「さあ、それじゃあ、行こっか」
模擬式に参加して、結婚式への純粋な憧れに胸躍らせるが、今はそれよりも大切な目的があった。
ルカルカ達は、自分たちの入る予定ではない部屋のドアを、わざと――うっかりを装って、ばあんと開けた。
「え――あら?」
そこにいたのは花嫁。
本日、挙式予定の本物の花嫁、名前をエリザベタという――が、多くの使用人に囲まれ準備をしていた。
遠野 歌菜(とおの・かな)がエリザベタの髪を梳り、月崎 羽純(つきざき・はすみ)がヘアセットの用具を並べる。
ドレス用の下着の紐を止めているのはリアン・アルタートゥーム(りあん・あるたーとぅーむ)。
「私も昔、タシガンの貴族に嫁ぐことになったことがあったのよ。それが、事故が起きてその話は流れちゃってね。何が起きるか分からないわよねー……」
エリザベタは無表情のまま、リアンの話に耳を傾けていた。
そこに、3人の乱入者。
ぽかんとした様子で入ってきた少女たちを見る。
「わあ、ごめんなさい! 部屋間違えちゃった!」
「うわあ、本物の花嫁さんだ、素敵ー!」
「今日が結婚式なんだね! おめでとうございます!!」
間違えた、といいつつきゃっきゃと部屋の中に入っていく少女たち3人とエース。
「あ、その、ありがとうございます……」
面喰いながら、祝福の礼を言うエリザベタ。
「ルカたちは、模擬式なんだよ。でもやっぱり結婚式には憧れるなぁ。一生に一度だし、ね」
花嫁の様子を見ながら、ルカルカはあらかじめ考えていた言葉を、しかし心からの本心をぶつけてみる。
「ええ。私も、本当に好きじゃない男の人と式をあげるのは嫌だから、ルカちゃんに男性役をお願いしたの」
リリアの言葉に、花嫁が、その場にいた使用人たちが居心地悪そうに顔を見合わせる。
その様子に気づかないふりをして、ルカルカたちは続ける。
「そうだね。自分の為の人生だし」
「後悔は、したくないね」
「大好きな人と結ばれてこその、幸せよね」
「そしたらどんな困難があっても、耐えて乗り越えていけると思わない?」
「思う思う!」
「あの……」
黙ってルカルカたちの会話を聞いていたエリザベタが、そっと口を開く。
「ご存知、なんですか? 私の、結婚式のことを……」
それには答えず、ルカルカたちは顔を見合わせる。
「一生の問題よ。やっぱり、愛する人と結ばれた方が幸せだと思わない?」
「紳士としては、女性に幸せになってもらいたいね」
リリアの言葉をエースが補足する。
「でも、私は……」
俯き言葉を濁すエリザベタに、最後の紐を結び終えたリアンが身を寄せる。
エリザベタの困惑も、今までのやりとりも気づかない風に。
「ほら、できた。ところで、結婚の前にあなたには何か未練はないの? 誰かに、伝えなきゃいけないこととか、ね」
「ええと……」
「ある、って顔してるわね。もしもあるなら、伝えておくわよ。こいつが」
「ええ!? なんだそりゃ聞いてないぞ!」
リアンに急にふられたのは吉崎 樹(よしざき・いつき)。
小物の準備をしていた彼は、突然のリアンの言葉に目を白黒させる。
「や、あ、その、な。俺が伝えてもいいし、自分で言うならそれでもいいし……」
「……」
花嫁は無言のまま。
何か言いかける風に口を開けるが、言葉は出てこない。
その視線の先には、一人の使用人。
使用人の方も、彼女の視線を受け戸惑ったように手を視線を左右させる。
エリザベタは無言のまま。
彼女が今置かれている立場。
ルカルカたちにかけられた言葉。
リアンの提案。
全てが彼女の中で渦巻き、未消化のまませめぎ合っていた。
「エリザベタ様の事情は、存じております」
そんな彼女の前に、本郷 翔(ほんごう・かける)が現れた。
まるで救いの手のように。
そっと彼女の耳に何事か囁くと、エリザベタは驚いたように翔を見る。
「私は、あなたの味方です。あなたを助けるために、ひとつの提案を持って参りました」
「それは……?」
「偽装結婚です」
「えーっ!」
翔の提案に少女たちから驚きの声が漏れる。
「何も驚くことはありません。よくある話ではないですか。形だけの結婚をして、夫は夫の、妻は妻の、それぞれの愛を全うするのです」
そこで、翔は自分の携帯を見る。
「丁度、相手のムティル様も同じような事情を抱えている様子。夫婦としてではなく、互いが幸せになるための盟友として相手を見ていただいてはいかがでしょう?」
「駄目よ、そんなの。結婚は、結婚式は、女の子の憧れなのよ」
「そうそう! 自分を偽っちゃダメだよ」
反論する少女たちを一瞥すると、翔はエリザベタに自分の携帯を見せる。
「私のパートナーが今、ジャウ家の方に同じ話を持っていきました。ムティル様の方でも、この話に異論はないとの連絡が」
「そう、ですか…… 何事もなく式を済ませて、そして今まで通りに…… それで、丸く収まるのでしたら……」
乱れる心を落ち着かせるように自分を抱き締めながら、エリザベタは翔の提案に聞き入っている。
「そうそう。世継ぎだって、人工授精とか何かしら他の方法がありますし。全てが、幸せになる方法を模索しましょう」
「……そうですね」
「……」
一部始終を黙って見ていた歌菜は、そっと控室から抜け出した。
羽純も急いでその後を追う。
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