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【祓魔師】人であり、人でなき者に取り込まれた灼熱の赤き炎

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【祓魔師】人であり、人でなき者に取り込まれた灼熱の赤き炎

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第2章 外法の魔術Story1

 敵前で呼び出すよりも、先に召喚しておいたほうがよいかと思い、樹は祈りの言葉を紡ぐ。
「我が血との盟約によりて、来たれ草本の精よ」
 彼女の言葉に応じた花の魔性が、魔方陣から姿を現す。
 “どの辺に花があるのかな”などと言う緒方 章(おがた・あきら)の呟きは、幸運なことに樹の耳には届かなかった。
「サボテン。今日はお前に…、……む?」
 さっそく指示を出そうとするが、相手はムッとした顔を見せている。
「(さぼ…いや、エキノと呼ばないと拗ねるんだったな)…エキノ」
「正確には、エキノプシスマルティプレックス・覇王樹です〜」
「…更に文字が増えたか。今回も頼むぞ…エキノ」
 常にフルネームで言うのは厳しいらしく、名前を略してしまう。
 章は“でも…心の中で考えた名前だよね、それ?”と思ったが、口に出したら鉄拳に沈められるため口を噤んだ。
「かか様たちをお守りすればよいのですね!?」
「うむ…、頼んだぞ。(騒々しいのはウチも小娘の所も同じようだな…)」
 太壱と雑談ばかりしているセシリアに目を向けてため息をつく。
「良いのかなぁって、時々思うんだよね、樹ちゃん」
「何がだ?」
「セシリア君もレクイエム君も“あの『先生』のパートナー”なんだよなぁ」
「いや、警戒は解いておらんよ…」
 かぶりを振って“まだ無防備に任せているわけじゃない”と小声で言う。
「それもそうでした…じゃ、早速依頼に行きますか…今日の作戦は?」
「―…そのことについてだが」
「呪力が辛くなったら言って下さい、苺ドロップあります!」
 樹の言葉を遮り、セシリアは持参した精神力を回復させる飴を見せる。
 “今回小娘は“苺ドロップ”を持ってきているようだが。その中に毒が仕込まれていると考えたら、任務が楽しくなくなるではないか”と、セシリアに聞こえないよう章に言い、彼は“逆に疲れそうだなぁ…”と言葉を返してへらっと笑った。
「…って、タイチのお母さん、そのエキノちゃんってドロップ作れるの?」
「エキノは花の魔性だからな。私が頼めばおそらく可能だろう」
「へぇ〜!そうなんですね」
 様々な能力を秘めているエキノを興味津々に見つめる。
「んもぅ、こんな時にメールだなんて…」
 任務が終わった後にしようかと考えたが、また送られてきてしまうと意識がそっちへ向いてしまいそうだ。
 ヴェルディー作曲 レクイエム(う゛ぇるでぃさっきょく・れくいえむ)は仕方なくアルテッツァからのメールを開く。

 -シシィの部屋の件-

『…ヴェル、この頃シシィの部屋に四字熟語の本が散らかっていますが
一体何事があったんですか? Alt』

「なんでアタシに聞くのよ。…ただ、四字熟語を勉強してるだけよ…っと送信!」
 娘に干渉しすぎだわ…と感じ、ため息をついた。
「取り込み中悪いが、作戦を確認する。対象はビフロンス、正気に戻すことが先決だ。私と忍び娘の弟の所の…魔鎧で魔性に対する抵抗力を上げ、アキラとバカ息子が、術による対象の追い込みを行う。我々で何ともならない輩は、忍び娘と黒いのがやってくれ。小娘と魔道書は宝石による軽減結界を頼む。解呪に関しては悪魔がやってくれ…以上、相違ないな?では、各自散開!」
「作戦はわかったわ軍人さん。で、アタシ達は索敵と結界張りメインよ!…分かってんの、セシル?正確にはアタシたち2人分の結界の後ろで、クローリス使いに踏ん張って貰うのよ!」
「わーかーりーまーしーたー、ヴェルレク!」
 まったく理解してないだろう態度で言われ、不機嫌そうな顔をするものの、速やかに対象を発見するべく文句は言わなかった。
「この間と同じように、わたしがタイチ。ヴェルレクがタイチのお父さんとお母さんよね!」
「そういうことだな。で、乗り物は?」
「この格好であると思ってるわけ?」
「マジかよ!?お袋たちは小型飛空艇に乗るっていうのにさぁ」
 小型飛空艇アルバトロスに乗り込む樹たちを横目で見る。
「バカ息子、脚力強化シューズがあるだろうが」
「ていうかさぁ、そっちの速度に合わせられねぇんだけど!」
「うるさい甘えるな」
「樹ちゃ〜ん、はぐれたら大変だよ?」
「―…仕方あるまい。お前らも乗れ」
 章に言われた樹は、しぶしぶ速度を落として2人を乗せてやる。
「えっと…今回の敵はどういう風に察知できるんだったかしらん?」
 小型飛空艇アルバトロスを片手で操縦しつつ、ヴェルディーはエリザベートからのメールへ視線を落とす。
「なるほどね…。黒フードが取り込んでいる可能性もあるから、取り込んだヤツのみを索敵してちょーだい、セシル」
「了解よ、ヴェルレク」
 太壱の傍を寄り添うように進みながらエレメンタルケイジに触れ、アークソウルに祈りを込めて精神を集中させる。
 グラキエスも仲間を支援するために、宝石の力でビフロンスを取り込んだ者を探す。
「(……熱い……。覚悟はしていたが……)」
 ―…だが、温度を上昇させていく山の熱のせいで祈りに集中出来ず、宝石は弱々しく光る。
「グラキエス様。…ブリザードで周りを冷やしてみては?」
「そうだな…」
 エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)の提案に、魔力を循環させ吹雪を吹き荒れさせる。
「(少しはマシになったが…、この禁紋の活性化は持続性がない。せめて、魔性と相対するまでは……)」
「暑いよりか全然いいね」
「さ…さぶえ…ナンで火山に来て寒くなんなきゃいけねーんだよバカ親父!」
 体感温度が急激に下がり、平然としている章に噛み付くように太壱が怒鳴る。
「えー、しょーがないじゃない?暑さより寒さのほうが楽だと思うけどなぁ」
 ぶるぶると震える息子の傍ら、のほほんとした口調で言う。
「ていうか、小型飛空艇…遅くねぇか?ツェツェは魔道書のに乗ってけ」
「タイチ作戦聞いてなかったの?それだと、離れて行動することになるでしょ」
「スピードが落ちすぎだってこと、人数的な」
「わ、分かったわよ」
「はぁ〜、静かで快適だったのに」
 騒がしいのが来たわ、とちらりと見て嘆息したヴェルディーは小型飛空艇アルバトロスを寄せ、セシリアを乗せてやる。
「……フレンディス、寒いのは平気か?」
「皆さんから少し離れていますから大丈夫です!」
 ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)とセシリアたちとの探知範囲が被らないように、彼に抱えられながら後ろにいる。
「冷えないように、もう少しくっついとけフレイ」
「マ、マスター…ッ。……はい!」
 少しずつだっこされることに慣れてきたが、それでもまだ恥ずかしいらしくフレンディスは顔を赤らめた。



「グラキエス様、ご無理なさらないように。私の側においでください」
 ブリザードの発動しすぎて、これからの活動に影響が出てしまうか…と感じ、エルデネストは背に氷雪比翼を広げた。
「すまない…」
「フフッ、いいえ。さぁ、お手をどうぞ」
 そう微笑みかけた彼は、ガディに乗っているグラキエスの手を握って抱き寄せる。
「―…また微震か」
 岩肌が左右に揺れ、空気にまでかすかに振動が伝わった。
「セシル、気づいた?」
 鈍い光を見せるアークソウルに目を落とし、ヴェルディーは傍らにいるセシリアに小声で言う。
「ええ、いるみたい」
 気配をたどり岩陰の方を見ると、ちらりと影が見えた。
 こちらに気づいたのか、それはすぐに離れていく。
 セシリアは気配が遠退いていった方向へ指さし、ベルクたちに知らせる。
「おっ、発見したようだな」
「待て…。―…アウレウス」
 追跡しようとするベルクをグラキエスが止め、呪いの抵抗力を与えるようにアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)へ顔を向けた。
 彼は黙って了解し、ウィオラに紫色の花びらを舞い散らさせる。
 花びらは弾けるように砕け、その粒は日の明かりを受けてキラキラと輝く。
「ありがとうな」
 ベルクはニィっと笑みを向けてフレンディスと共に影の主を追う。
「アウレウス……?顔色がよくないようだが…」
「いえ…ご心配は無用です、主」
 口ではそう言いながらもウィオラの能力を使った影響で、精神力をかなり疲労している。
 下級以上の能力を持つ者を相手にするためには、相応の抵抗力が必要となり、使役者である彼の消耗の負担が増してしまうのだ。
「ご指示通りに致しましたが、よろしかったでしょうか?」
「言わずとも考えが分かるんだったな」
 主の希望ならば苦ではない、それでいいと頷いた。
 逃げた影を追跡しているベルクは、駆け登っていく者の姿をようやく捉えた。
「へっ、見つけたぜ」
「―…貴様らごときに、捕まるとでも?」
「マスター…、あの者の姿が見えなくなりました」
 そこに何もいなかったように、黒フードの者はフレンディスの前から突然消えてしまう。
「不可視化したってことか」
「お前ら、祓魔師だな?燃えちまいなっ」
「なっ!?」
 自分たちが何者なのか、すでに知っている言葉に驚き、わずかに火炎爆発をくらってしまう。
「―…ちっ、避けきれなかったか。フレイ、怪我はないか?」
「私は平気ですが、マスターは…」
 フレンディスの顔を守った彼の手が焼け、痛々しく赤くなっていた。
「気にすんな、こんなもの後で治せばいい」
 ベルクは心配そうな顔をするフレンディスに笑顔を向けた。
「てめぇら、のんびり話している場合か?無様な敗北を与えてやるよっ」
 邪魔者は全て排除するべく、ビフロンスを取り込んでいる黒フードの者は、燃えるような炎色の手を彼らへ向けて紅の火の礫を放つ。
「(ダメージ感覚がない、呪いのほうか…)」
 火の礫を受けたベルクだったが熱さなどが感じられない。
「まぁ、メールの情報通りだな」
「けっ、ムカツク野郎だ…」
「姿が見えていることに驚かねぇってことは、祓魔師のことを知ってるっつーことだな?」
「さぁ〜、どうだったか。正直に答えるとでも?」
「まぁいい。こっちも2人だけで相手しようなんて思わなねぇしな」
 口元を笑わせると追いついた太壱たちが小型飛空艇アルバトロスから飛び降りた。
「(…バットの素振りのイメージで行くか!)」
 酸の雨を左右にふり集め、対象を足場の悪い位置へ追い込む。
「くっ、なめやがって。このガキどもがぁあ」
 よろけた拍子にフードから顔が見え、敵意に満ちた紅の瞳を太壱たちに向けた。
「焼けちまいなーーーっ」
 炎の髪がざわざわと揺れ、猛毒の熱気を漂わせる。
「タイチ、わたしの後ろに来て!」
 セシリアはアークソウルの力で彼を守るように立つ。
「美しい友情ごっこか?けっ、潰してやりてぇ」
 不愉快そうに言葉を吐き捨て、ファイアストームの炎でセシリアと太壱を囲む。
「2人で遊ばないでもらいたい」
 怒りの気持ちを抑え、グラキエスはエアロソウルで分裂させた祓魔の護符を、炎の怪物と化した者へ投げる。
「―……くっ、余計な邪魔しやがって」
 かわしきれず触れてしまった護符が眩い光を放ち起爆する。
「うわっ、ツェツェ。お前、何殴りに行ってンだよ!」
 自分の声が耳に入らないのか、セシリアは炎の怪物につっこんでいく。
「さっきのお返しよっ」
「バカか?てめぇから来るとはなっ」
 ラリアットをかまそうとするセシリアをかわし、炎の礫の餌食にしようと邪悪な笑みを浮かべる。
「おい、どっちか呪いの抵抗力を上げてくれっ」
「まったく1人でつっこんでいくとは…。エキノッ」
「はいはぁい、かか様」
「花…咲かせられるんだねぇ。…むぐっ」
「お、親父っ。お袋に聞こえるって」
 初めて見るエキノの花をのんびりと眺めている章の口を、太壱が慌てて塞ぐ。
 エキノによる花の香りはギリギリのところでセシリアに届いたが、その分…樹の精神力をかなり吸収してしまった。
 足元をふらつかせる彼女の身体を章が支える。
「すまない、アキラ…」
「セシリア君からアレをもらっていたよね」
「この際、止むを得まい」
 樹は苺ドロップを口に放り込み、ガリリと噛み砕いた。
「呪ってやる…、てめぇら皆…呪ってやるッ。フレイムスピリットで火の玉になっちまいな!」
 炎の怪物は紅の瞳をギラつかせ、呪術を使う手を緩めず叫んだ。
「こいつ…っ」
「あたんねぇーよ、バァカ。焦れ、怒れ、苦しめぇえ」
 太壱の術を神速で容易くかわしながらケラケラと笑う。
「(まるで悪鬼みたいですね)」
 フレンディスは白の衝撃のイヤリングを指先で触れ、耳についているのを確かめて清き光を纏い、裁きの章を唱える。
「ハハッ、その程度かぁ〜?」
「逃れられませんよ」
 静かに言い、酸の雨を全身に浴びさせてやる。
 連続術から逃れられず、対象は顔を歪めて舌打ちをした。
「魔性さんを解放してください」
 だが、相手は小声で何かを言うだけでビフロンスの狂気化を解除しようとしない。
「ほらっ、さっさとしろよ。…このヤロウ、何ぶつぶつ言って…」
「―……クク。燃えちまえ、ガキどもッ」
 目の前の2人から視線を外し、樹とエキノの周りに火炎爆発を巻き起こす。
「…お前が燃えないように盾になってやる…くっ」
 樹はエキノに覆い被さり、炎の魔法によって火傷を負わされた。
 それでもウィオラの花吹雪のおかげで、なんとか動ける程度のダメージですんだ。
「かか様…。ウチは傷ついても、精神力をもらって治るんですよ」
「なるほどな、そうだったのか。だがな…私は、お前が傷つくのは嫌なんだ…」
「いけません!かか様を守りするのが、ウチの役目ですっ。ウチは、かか様の使い魔…。使い魔が守られるのは変だと思います!」
「変…か。お前が無事ならいいんだ。私はそれでいい」
 使い魔が守られるなんて理解出来ないと怒るエキノの頬に触れ、火傷の痛みに耐えながら笑顔を見せた。
「タイチのお母さん!」
「セシル、アンタの後ろにもう1人いるわっ」
 樹の傷を治そうと駆けていくセシリアに、ヴェルディーが声を上げる。
 背の高い岩場を利用し、こちらの様子を見ながら接近していたのか、黒いフードを被った何者かが迫る。
「クソッ、オカマ野郎が。バラしてんなよ」
 からかうように言い放ち、わざとらしく姿を見せる。
「あ…アンタァァア、よくも…っ」
「キーキーうっさいなぁ〜。これだからオカマはイヤだねぇ」
「くぅ〜〜っ、2度までも!!」
「お、おいヴェルディー、宝石に意識を集中させろって」
「―…っ!そんなこと言われなくたって…」
 ベルクの言葉にハッとし、かぶりを振って相手のほうを見るが…。
「石像にでもなっておけ、オカマ野郎」
「あぁああっ!?」
 怒りで宝石の効力が低下してしまい、ペトリファイにかけられたヴェルディーは石にされてしまう。
 停止出来る者がいない小型飛空艇は、硬い土の上に落下した。
 セシリアに命のうねりで傷を癒した樹が走り、まだ動こうとする小型飛空艇を停止させる。
「魔道書は…、ふむ…壊れずにすんだようだな」
 石化を解除してやり損傷しているところがないか見る。
「まさか、アンタに助けられるなんてね」
 “オカマ”と呼ばれたことはまだ腹立たしいが、そうも言ってはいられず、樹に手を引かれて立ち上がった。