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【祓魔師】人であり、人でなき者に取り込まれた灼熱の赤き炎

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【祓魔師】人であり、人でなき者に取り込まれた灼熱の赤き炎

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第8章 外法の魔術Story7

 二丁拳銃の銃声が高音を響かせ、それに合わせてセイクリッド・ハウルの咆哮が空気を振動させた。
「カティヤさん、そろそろ雨の効果が切れてしまいます」
「この効果で見えたり気配も感じられるから大丈夫よ♪」
「加速かけるんで、どんどんやってください!」
 遠野 歌菜(とおの・かな)はカティヤに加速をかけ、呪いの術をうたせないように攻め込ませる。
「ううむ、カティヤはチー……いや、なんでもないのじゃ」
 刺さるような視線を感じ、ジュディは言葉を止める。
 水のバリアまでかけられて守りの厚い姿が、ソレに見えてしかたながい。
「主に、我らの女神さまが壁になってくれるというのじゃから。安心して術を使える♪」
 ジュディは哀切の章の力を行使し、ビフロンスを取り込む能力を削ぐ。
「そうだな、女神さまは自ら盾になりたいと言っているようだからな。とってもありがたい」
 棒読みで言い、羽純はカルキノスに加速をかける。
「言葉だけだな、まったく。ひでぇやつら」
 女神さまことカティヤは便利に使っているように思えた。
 彼女に同情するように言うが、まったくそんなつもりはない。
 むしろ、カルキノスは羽純たちの仲間だった。
「集中しろ、火の玉にされても知らないぞ」
 白魔術の気を纏ったダリルは贖罪の章を唱え、カルキノスと淵に効果を与える。
「(はいはいっと、うちの白夜叉さま)」
 口にしたら後で大変なのことになるので、心の中で呟いて裁きの章の酸の雨を降らせ、器の魔力防御力を下げる。
「―…やつらの姿が見えなくなってしまったな」
「もう1度、可視化の雨を使うとなると時間がかかってしまう。俺が教えたほうがいいか?ダリル」
「残りは3つか。持久戦はこちらのほうが厳しそうだ。いっきに片をつけよう」
 ダリルは羽純に頷いてエアロソウルで見えた者の位置を伝えてもらうことにした。
「裁きの章を中心に使ってくれ。後はジュディがやってくれるはずだ。…手前に1、後ろ斜め左に1、上空真上に1!」
 適格的かつ速やかに伝え、魔性を取り込む力を弱めてやる。
「助けに来たのよ、正気に戻って!」
 カティヤが取り込まれたビフロンスに呼びかける。
「ウソ…、悪い、…ヒト」
「違うわ!私たちはそのために、捨ててはいないものっ」
「ぅ、ぁあ、あなた、…ヒト?」
「あのね……、正確にはヴァルキリーだけど。私たちが使う術は、そいつらみたいな外法じゃないの。(どうしたら分かってくれるのかしら…)」
 同じような言葉を繰り返され、信じてもらえない。
「一つ質問にお答え頂けますか?ビフロンス様、貴方は合意の上でその男に取り込まれたのでしょうか?それとも、強制的に取り込まれたのでしょうか?」
「無理やり、…キライ、ヤダ…ヒト、…はヤダ」
「もし、強制的なのでしたら私たちと共に行動致しませんか?害を成す存在でないのなら私たちとしても祓う必要など無く、むしろ分かり合い友好的に共存していきたいと思っている者ばかりですのよ?」
「(黒フードの者の姿が変わってゆく…)」
 歌菜の視線の先にいる者の肌は、鉄が熱く燃えているような色味だったが、うっすらと灰色がかった白色に変化していった。
 燃える炎の爪は不健康そうな人間な色になる。
「あう、あぁあ、壊したい…壊したい、壊さなきゃ…っ」
 正気に戻りきれていないのか、赤い炎の髪をした小柄な少女のような魔性が呻く。
「器がホシイなら、ここにある。さぁ、使えよ!」
「ぁ、…ァアアァアッ!!」
 ビフロンスはフードで顔を隠している者の中へ引き寄せられそうになる。
「―…ったく、懲りないやつやな!」
 白魔術の気を纏った陣は、エレメンタルリングをはめた手でビフロンスを引きずり出す。
「やりなさい、リトルフロイライン」
 綾瀬はリトルフロイラインに黒フードを狙撃させて止める。
「ちょっと辛いかもしれないけど、我慢してね」
 ルカルカはパートナーたちとアイコンタクトし、悔悟の章の重力の術で狂ったように叫ぶ魔性の体力を落とす。
「しょぼぼーん、オイラの出番ないにゃー」
「そうでもないぞ」
 逃走しようとする黒フードの者たちを見ろと、磁楠がクラマの肩を指でつっついた。
「スペルブックの章は、主に…邪悪な者を対象に効果があるのだからな」
「むーーっ、逃がさないにゃん」
 せっかくの情報源を逃すものかと、クマラは裁きの章を唱える。
 それに合わせて磁楠が哀切の章で抵抗する術を奪う。
「ずっと気になっていたのだが。ダリル、その中身…何が入っているのだ?」
 淵が保冷鞄を指差す。
「後のお楽しみだ。これは、食べ物ではないがな」
 鞄のファスナーを開け、冷えたガムテープを淵に投げる。
「まさか、言葉だけの謝罪で逃すわけないだろう?」
「ふむ…」
「やらないなら私がやろうか」
 ガムテープを淵の手から取った磁楠は、黒フードの者たちをそれを使い手早く拘束する。
「って、肌に直接かよ!」
「服の上からやるなどと言っていない。剥がす時、かなり痛いだろうがな」
 カルキノスの声にフッと口元を持ち上げて微笑した。



「噴火させるんだったら、やっぱり頂上だよね」
 徹底的にやるならそこだよね!と言い、スクリプト・ヴィルフリーゼ(すくりぷと・う゛ぃるふりーぜ)は活火山の火口を目指す。
「―…レスリ、なんでそんなに元気なのよ」
 さくさく進むパートナーの後ろを進み、フレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛ぃ)は顔を顰めた。
「あれ、フリッカ。もう疲れちゃった?」
「まだ平気よ、これくらいっ」
 遠征の早朝出発や長時間の実戦に耐えてきて、それなりの体力はついている。
「それにしても、噴火させてどうしようっていうのかしら」
「うーん、これ、なんかの儀式をやってるんじゃない?」
「どうかしら、尋問してみないとね」
「登っている途中で、爆発音が聞こえたけど…。そっちは、他の人が対処してくれてるのかな。聞こえる位置が、あちこち変わっていたね」
「4方角から登り進めているようだから、そう簡単に逃すことはないと思うわ」
 全員、捕まえられるか分からないが、アイデアを考えている時間がもったいない。
 無駄なロスタイムをすれば、噴火の計画がそれだけ進んでしまう。
「山肌を炎の魔術で刺激しているのは、マグマの上昇を狙っているのかもね。あとは、火口の中へ集中的に、術を使って噴火させるとかかしら」
「うわ、それなんか地道すぎない?」
「物理的な爆薬だとかなら無謀ね。でも、魔術でやられると考えれば…」
「炎の力を悪用するなんて、気に食わないなぁ、もぅ!フリッカ。ルイ姉。ボク、がんばるよ!」
 破壊の力として使われていることに怒り、絶対止めて捕まえてやると意気込む。
「魔性と融合する存在、ですか。自分の欲望のために魔性と強引に融合する。そんなの、魔性より“魔”と言うのに相応しいじゃないですか」
 さらに命の期限を対価にしていることを考えれば、とても正気とは思えない所業だ。
「フリッカ、そんなのが相手です。あんまり無茶なことはしないでくださいね?」
 外法の黒魔術を使い、強引に噴火させようとする輩だ。
 深追いしたり必要以上の接近をしたりしないように、ルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)が告げた。
「ヒトを捨て去っているんだものね」
 力を得るために寿命を縮めてまですることなのだろうか、相手はどう考えても普通じゃない。
 何の目的があって、こんな騒ぎを起こしたのかまったく理解出来なかった。
「野菜とか果物とかお肉とかお魚とか……、おいしい物が食べられなくなるじゃないの!」
 食べ物の恨みは恐ろしく、今日のセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は余計に気合が入っているようだ。
「うーん、黒フードの者は何をしたいの?仮に噴火してしまったら、人の生活…生命、食の危機ってのは分かるんだけど」
「とにかく、その黒フードの奴らをとっちめればいいのね?」
「セレンッ、こんなところで制服脱がないでよ!」
 いつもの制服を脱ぎ捨て、メタリックブルーのトライアングルビキニ姿になった恋人に怒鳴る。
「だって暑いんだもん」
「もう、だったら着てこないでよね」
 脱ぎ捨てられた制服をセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が仕方なく拾う。
 ちなみに、セレアナのほうは我慢して脱がず、制服姿のままだ。
「肌が焼けちゃっても知らないわよ?」
「そんなの、魔法で回復すればいいでしょ」
「あのね、そういう問題じゃ…っ」
「シッ、静かに」
 セレンフィリティはセレアナの唇に人差し指を当て、アークソウルで探知した方角へ目を向けた。
「ワタシと斉民は右の方角ね。章を使える人が来てくれたらよんだけど」
「じゃあアタシとシィシャが行くわ」
 グラルダは佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)に同行する。
「(弥十郎、そちらの状況は?)」
「(テレパシー…?あ、和輝さんか。えっと、今…頂上にいるよ。章使いの人、誰か来れないかな。フレデリカさんたちがいる左方角のほうをお願いしたいな)」
「(了解、俺たちがそちらへ向かう)」
「(ありがとう♪)」
「どうしたの、弥十郎」
「ああ、テレパシーが送られてきたんだよ。和輝さんたちが来てくれるみたい」
 首を傾げる賈思キョウ著 『斉民要術』は農業専門書に、彼らがこちらへ来てくれるようだと教えた。
 彼らの到着を待ち、弥十郎は気配の探知を続ける。
 しばらく待機しているとテレパシーで到着したと知らせてくれた。
 和輝による祓魔銃の照魔弾の明かりを合図に、いっせに炎の怪物たちに接近する。
「ねぇ、弥十郎は行かないの?」
「取り込んだビフロンスは無傷で返したいし、術を避けてたら少しでも相手の意識が削れるかねぇ。あ、黄色」
「これだけ囲んでるんだから、隠れてる必要ないと思う」
「あわわっ。やめてよ斉民、料理人は手が命なんだからね!」
 ドンッと背を押された弥十郎が怒鳴る。
 火口付近なんて触れたら大火傷を負ってしまう。
「倒れそうになったらつまんであげるから平気よ」
「本当かなぁ…」
 ただつまんだだけ、っていうオチはないだろうか…と疑いの眼差しで見た。



「どのようにしてビフロンスを救うか…、考えてありますかグラルダ」
 まさかここに来て、無策ではないだろうと思いながらもシィシャが聞く。
「裁きの章で、魔性を引き剥がすわ。出来るだけ痛くしないように」
「その後はどうします」
「引き剥がした魔性を優先するわ。話を聞いて、必要であれば保護する」
「グラルダ、あなたは…」
「甘いとでも?」
「いえ、皆さんはあなたが言わなくても、無闇にビフロンスを滅したりはしません」
 かぶりを振ったシィシャは、交渉するまでもないと告げた。
「私たちが注意を引きつけておくから、詠唱をお願い」
「分かったわ、よろしくね」
 セレンフィリティに頷いたグラルダはハイリヒ・バイベルを開く。
「食べ物の恨み、思い知らせてやるわ」
 破壊工作で設置しておいた機晶爆弾の爆破スイッチを押す。
 土煙の紛れて地獄の天使の翼で飛び、ターゲットの腕に両足をかけて捻る。
「―…効いてないの!?」
「まぁ全然、この程度はな」
 歪んだ骨をもう片方の手で直してニタリと笑う。
「子供はミルクでも飲んで寝てろよ」
「とっても残念だけど、そんなに小さくないのよね」
 空中を飛んだセレンフィリティは、黒いフードを被った者の顔面に掴みかかろうとするが…。
「地べたに落ちな、ディスペルッ」
 神速でかわされ、地獄の天使の翼を消されてしまう。
「んもう、何やってんのよ」
 セレアナは恋人の腕を引っ張り、祓魔の護符を投げて術の詠唱を妨害して下がる。
「えーいいじゃないの、時間稼ぎなんだからさ。私だって何も考えずにつっこんでいったんじゃないのよ?」
 叱るような顔をする彼女に、得意げに言ってみせた。
 目の前の相手から視線を外さず、親指を立ててグラルダに合図を送る。
「(この距離じゃ、避けられないわよね?)」
 シィシャの宝石の力で加速した彼女は、対象に接近して唱え終えた裁きの章の雨をくらわせ、速やかにパートナーの元へ駆け戻り相手の様子を見る。
「姿を消した…?そんなっ」
 弱っているはずのビフロンスに対する術式は破綻せず、同化を続けていることに驚く。
 リスクを負ってまで続けるとは想定していなかったのだ。
「こいつが弱ったとしても、こっちには関係ないんでなぁ〜」
「(アタシの前にいるの?)」
「グラルダ危ない、早く下がって!」
「ハッ、遅いねぇ」
 ポイズンヒートの熱毒の熱気をグラルダにくらわせる。
「―……っ!!」
 肌が焼けつくように激しく痛み、足元がぐらついてしまう。
 シィシャはパートナーを抱え、藍色の宝石の力を使いリオンの元へ駆ける。
「強制同化は、魔性の意思なくして解除はない。器のほうにも術を使わねばならぬ」
 追ってくる対象を光の波で飲み込み、逃れてきたシィシャたちに言う。
「無論、ビフロンスのほうも完全無傷とはいかん。意識を暴走させらているようだからな、沈静化させねばならんようだ」
「なるほど…そういうことでしたか」
「スーちゃんの香水を使うから、箒の高度を下げて」
「火の玉になるわけにはいぬからな。…アニス」
 高度を下げさせて終夏の方へ寄せさせる。
 終夏はスーに作ってもらっておいた香水をかけた。
「(回復される前に、ビフロンスの意思と対話しないとっ)」
 フラワーハンドベルを鳴らし、スーの花の香りを吸収する。
 カララ、カラランッ。
 2度目の音色で炎の怪物は頭を抱えて俯く。
「あなたなの?…ビフロンス。そうなら答えて」
「―…ぅうぁうっ」
「器の意思と戦っているのね」
 フレアソウルの飛行能力でこちら側の様子を見に来たフレデリカが言う。
「私たちは、あなたに危害を加えたいんじゃないの。正気に戻ってほしいからなのよ、お願い…信じて!」
「だ、…れ」
「フレデリカよ。酷い目に遭ったばかりだから、警戒してしまうのは分かるけど。私たちはね、あなたを助けたいの。その者の意思に勝って、そこから離れて!」
「チガウ、…ヤダ、許さ、…ない」
「アタシたちはこいつらと違う。怖い目に遭わないように、うちの学校に来ない?校長たちが保護してくれるはずよ」
「それ、ダレ」
「エリザベート校長よ」
「ヤダ、…怖い、許さないッ」
 表に出てきたビフロンスは、ぶんぶんとかぶりを振って耳を塞ぐ。
「彼らは元ヒトだった。それでアタシたちのことも、すぐに受け入れられないのは理解出来る」
「相手がどんな種族であっても、助けを求めているなら助ける。…それだけよ?」
 グラルダとフレデリカはゆっくりと歩み寄りながら語りかける。
「(肌や爪の色などが変わっていっている…)」
 鈍い輝きを見せていたアークソウルの光が、淡く輝きへと変化した。
「フリッカ、重なってた気配が離れたみたい。…それとあの女の子、あいつから出てきたよ」
「約束通り保護してあげなきゃね」
「ボクが迎えに行こうか?っと、その前に……こいつはぶっとばさないと、やっぱり気がすまないねっ」
 ロッドを握り、何か唱えている者の行動をスクリプトは見逃さず、エアロソウルの突風の魔術で熱く焦げた地面に叩きつける。
「小娘…っ、そいつを返しやがれぇえぇえ!!」
「穢れた手で、触らないでっ」
 フレデリカはエターナルソウルの力で飛行速度を加速し、フレアソウルの炎の魔力を込めた手で顔を力いっぱい叩く。
「大人しく寝てなさい。尋問の後は、冷たい牢で反省するといいわ」
 冷たく言い放ち、動かなくなった黒フードの者を拘束した。