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リアクション
14.劇〜【魔法少女 マジカル☆たいむちゃん!】・3場 そして、放課後〜
ナレーションの声:
――そんなこんなで、放課後。
同じクラスの生徒たちと、買い食いしながら下校するたいむちゃん。
なんだか、美味しそうな匂いが漂いますね?
それでは、皆様もソアさんのクレープを食べながら、
放課後のひと時をお楽しみくださいませ。
■
3場のセットは「商店街」。
とはいえ、背景にでかでかと描かれてあるだけだ。
3場での主要な配役は以下の5名である。
生徒役:ソア・ウェンボリス
生徒役:アレイ・エルンスト
先輩魔法少女役:イリス・クェイン(いりす・くぇいん)
イリスの魔鎧役:クラウン・フェイス(くらうん・ふぇいす)
使い魔役:アッシュ・グロック
魔物役(鉄火巻きの恨み?):フユ・スコリア(ふゆ・すこりあ)
ソアは観客席や楽屋裏で、人々にクレープを配ってから舞台に立った。
イリス・クェインは魔鎧化したクラウン・フェイスの仮面と布鎧を纏い、アレイと共に一旦袖幕に下がる。
フユ・スコリアは光る箒に跨って、舞台下の見えない位置に控える。
半分折れた鉄火巻きを持ちつつ、不敵な笑みを浮かべているのが、不気味だ。
アッシュは肩で大きくぜーはーいいながら、やはり袖幕に下がった。
柔軟体操は、かな〜りハードだったらしい。
そして、3場の幕が上がる。
■
ぱっと照明が当たると、ソア・ウェンボリスがたいむちゃんにクレープを勧めていた。
「これ、例のクレープ屋さんの。
おいしいんですよー!」
元気いっぱいに渡す。
実は自作のクレープだったが、たいむちゃんはそのままもぐもぐと食べ始めた。
(ああ、ニルヴァーナとパラミタの神様お願いします!
どうか、クレープにお力を!)
食べ終わると、たいむちゃんはソアに力なく笑って……そう、弱々しかったが、確かに笑いかけたのだ。
「ありがとう、ソア。
おいしいわね?」
っ!!
「う、うん。
お、おおおいしいですよ! もっと食べます?」
ソアは嬉しくなって、楽屋裏から両手いっぱいのクレープを運んできた。
(……そっか、もう3場。
体力や気力が衰えてくる頃かもしれませんね?)
そこへ、タイミング良くおいしいクレープが提供された。
だから、たいむちゃんの気力が少し戻った。
(でも、私のクレープだけじゃ、これが精いっぱいです。
後は任せましたよー、みなさん!)
■
暗転――。
スポットライトを浴びて、「魔物」が現れる。
ふわり、と光る箒に乗って、フユ・スコリアが現れた。
片手には、なぜか折れた鉄火巻き。
「スコリアはわるーい魔物だよ!
マジカル☆たいむちゃんを調きょ……じゃなくて襲っちゃうよ!」
えっへんとふんぞり返る。
とはいえ、彼女は身長135cmの地祇。
登場の仕方もあって迫力には欠ける。
しーんとなった観客の反応に、スコリアは焦りまくって。
「べ……別にやましい気持ちで襲うわけじゃないから!
ホントだよ!!
この鉄火巻きに誓って!」
鉄火巻きを掲げて、照明係に合図を送る。
再び、暗転。
その途端。
きゃあああああああああああああーっ!
ソアの絶叫が、野外劇場に轟いた。
■
「きゃあああああああああああああああ、あ〜れ〜!」
照明がつくと、アイアンブレラでげしげしされているソアの姿があった。
たいむちゃんはヨロヨロとソアをいじめるフユの前に立つ。
■
袖幕にて。
「みたか? 今の!」
「ああ、見た! しっかりとな」
たいむちゃんは自らの意思でソアを庇ったのだ。
アッシュとアレイはたいむちゃんの変化に喜ぶ。
だが、これではまだ「元気になった」とはいえない。
「そこで、私の出番ですね?」
イリス・クェインはロングウェーブの白髪を両手で振り払う。
綺麗な髪だ。
「わるいな、イリス」
「これからニルヴァーナを調査するのに、たいむちゃんがこの調子じゃ情報も聞きだせそうにないでしょう?」
まあ、そうじゃなくても泣いている女の子を放っておくなんて選択肢はないけどね。
舌を出して、イリスはアッシュを気まぐれに見る。
「先に戦うのは、『使い魔』でしょう?」
「うっ! また俺様かよ!」
休む暇もない、アッシュなのであった。
■
舞台では、フユの攻撃が続く。
「こいつは関係ないよ!
お前みたいな奴がいるから調きょ……じゃなくて、いじめたくなるんだもん!」
さっと杖をたいむちゃんに向けて、振り下ろそうとする。
「さー、大人しくお仕置きされちゃいなさい!
ユーリちゃんにドンッしていいのは、スコリアだけなんだからね!」
どうやらこの「魔物」は、たいむちゃんとユーリ・ユリンが「運命の出会い」を果たした事を根にもっているらしい。
「スコリア、いっしょーけんめいがんばるもん!
ユーリちゃんが食べそこなった、この鉄火巻きに誓って!」
すっとたいむちゃんの前に、折れた鉄火巻きを見せる。
たいむちゃんはぼんやりと見下ろす。
「そうだよ!
たいむちゃんが折っちゃったんだよ!」
「私が? ユーリの?」
「うん、ぼんやりさんで、謝りもしなかった。
たいむちゃんは悪い子ちゃんだね?
でも、大丈夫!」
『おとこのこうちょう!』同人誌を誇らしげに、掲げて。
「これで、正しく調きょ……じゃなくて襲っちゃうから、
もう、安心だよ!
大人しく、スコリアに……」
「……わかった。
俺様が調教してやろう! 一発もんでやる!」
使い魔・アッシュはスコリアの首根っこを掴んで持ち上げた。
小さな魔物は、じたばたと宙で手足をもがくだけ。
「えーん、ユーリちゃん、たすけてぇ!」
スコリアは憐れな声を出したが、ユーリは舞台裏で額を押さえている。
「じゃ、表に行こうぜ 魔物サン」
アッシュはそのまますたすたと、本当に野外劇場の外に連れて行った。
ナレーションの声:
――こうして、偏った知識の魔物は、
あっけなく対峙されてしまったのでした……続く。
■
アッシュが戻ってくると、舞台には魔法少女の格好(実は魔鎧だが)を纏ったイリス・クェインが登場していた。
見た目「魔法少女」なイリスの登場に、観客席からはほうっと吐息が漏れる。
■
「私は、魔法少女のイリス・クェイン。
これは使い魔の『アッシュ』さん」
アッシュを指さす。
「私はこのアッシュさんと契約をして、魔法少女となったのですよ」
うんと頷いて、アッシュに囁く。
「へ? あ、うん、クラウンがそう言って欲しいって?
あー、分かった」
アッシュはひと息つくと、覚えたばかりの台詞を棒読みで読み上げる。
「今この世界は悪い魔物に狙われているんだ!
それを退治するためにはたいむちゃんの力が必要なの。
お願いたいむちゃん、僕達に力を貸して!」
観客から、どっと笑いが起こる。
「ここ、笑う所と違うから!」
アッシュはあーもう、と頭をかいた。
「でも、どうしてたいむちゃんが襲われたのでしょうか?」
「それはきっと、彼女に魔法少女の素質があるからです」
ソアの問いに、イリスは当たり前の如く答える。
「魔物は積極的に魔法少女の素質がある人間を狙いますから、
たいむちゃんには魔法少女の素質があるということでしょう。
分かったところで、いかがでしょう? たいむちゃん。
あなたもこの使い魔と契約して、魔法少女として一緒に戦ってみませんか?」
こくっと頷く。
台本にあったからというよりは、彼女の威圧がきいたようだ。
「では、決まりですね? これでたいむちゃんは魔法少女に……」
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突然暗転。
一旦幕が下りる。
ふふふふふふ……どこからともなく、不気味な声が流れてくる……。
――ナレーションの声(司):
……待たせてしまって、申し訳ない。
それでは、これより本日のメインイベント。
「悪の魔法少女ラジカル★ほろうちゃん」の始まりだ。