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【創世の絆・序章】未踏の大地を行く

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【創世の絆・序章】未踏の大地を行く

リアクション


13.劇〜【魔法少女 マジカル☆たいむちゃん!】・2場 運命の教室〜


 ナレーションの声:
   ――教室に入ってみると、先ほどぶつかった生徒と、
     まさかの同じクラス!(びっくり)。
     ではその、教室に入ってくる場面から。
 
 ■
 
 ナレーションの間に、幕が落ちたままの舞台では、忙しく準備がなされていた。
 
 2場のセットは「教室」。
 黒板と教壇、学習机と椅子が幾つか並べられている。
 まぁ教室に見えなくもない。
 
 2場での主要な配役は以下の5名だった。
 
 先生役:トリア・クーシア(とりあ・くーしあ)
 生徒A子役:雷霆リナリエッタ
 生徒B役:アレイ・エルンスト
 生徒C役:ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)
 生徒D役:アッシュ・グロック
 
 トリアは教壇に立ち、アッシュとリナリエッタは席についた。
 アッシュは教壇前の席。
 ソアは窓際の席。
 リナリエッタはアッシュの隣にいる。
 
 アレイは教室の戸の向こうに控えて、同じくその場にいるたいむちゃんの背をそれとなく眺めていた。
 
 2場の幕が上がって、照明が5人を照らす。
 
 ■
 
 トリア・クーシア先生は、琴音の巫女服で教壇の上に立った。
 小柄で大人びた彼女がこんな服装をすると、何となく「萌ェー」な雰囲気ではある。
 
 クーシア先生、かわいー。
 
 男性観客の声援が飛び交う。
「あらー、だめですよ、君達。
 いまは授業中ですから、ね?」
 ウィンクをしてから、生徒達に向き直った。
 ちなみに、ウィンクをした方角はユーリがいて、
 彼女がそれゆえに「残念な美少女」と言われている事実を、観客席の野郎共は知らない……。
 
「では、出席を取るわよー」
 クーシア先生はそれは優しげな笑みで、「生徒」達の名前を呼ぶ。
「アッシュ・グロックさん」
「おうっ! 先生!!」
「元気な返事ね。
 ソア・ウェンボリスさん」
「はーい、先生」
「うーん、これもよい返事ね。
 それでは、雷霆リナリエッタさん」
「ハーイ、アッシュ」
 先生ではなく、アッシュに返事をしてしまう。
「同じクラスだし仲良くして、ね?」
「え? お、おうっ!」
 その点は鈍いアッシュは、いつもの笑顔で元気に返事を返す。
 
「リナリエッタさん、先生にも返事して欲しかったかな」
 あははーと、クーシア先生は気弱に笑うと、気を取り直して。
「アレイ・エルンストさん……アレイさん? あれ?」
 きょろきょろと教室中を見回す。
 アレイはどこにもいない。
「アレイさんは、今日も社長出勤ですか」
 はああ、と大仰に息を吐く。
 社長出勤、と出席簿に大きく記載した。
 
「はい、アレイさん以外は全員そろってますねー。
 それでは、本日は転校生を紹介しましょう!」
 黒板にチョークで、転校生の名前を書き書き。
 チョークをおいて、生徒達に向き直る。
「『空京 たいむちゃん』と言います。
 皆さん、仲良くしてあげて下さいね?」
 
 はーいセンセ。
 
 3人はバラバラに手を挙げる。
 クーシア先生は胸をなでおろすと。
「たいむちゃん、中へ」
 これ以上ないくらいに優しい声音で、たいむちゃんを呼んだ。
 戸を開けて、たいむちゃんが入ってくる。
 
 たいむちゃん、何か反応してくれ!
 
 祈るような思いで、アッシュはたいむちゃんを見たが、今のところは無表情のままだった。
 アッシュは、目でアレイに合図を送る。
 アレイは大きく伸びをしながら、ガラガラと教室の戸を開けた。
 
 驚いた顔。
 あーっ! とたいむちゃんを指さす。
 
「お前は、あの時のオンナ!!!」
 多少棒読みでも、そこは御愛嬌。
 要は、たいむちゃんさえ反応してくれればよいのだから。
 だが、たいむちゃんはアレイを振り向いただけだった。
(ま、振り向いただけでもよし、とするか)

 ナレーションの声が被さる。
 
 ――あいつこのクラスだったのか。
   関係ないと思いつつ気にかかって仕方ない。
   あいつにはきっと何かある。
   そうだ! 放課後。
   クラスメイト達の輪に、そっと入って話を聞くことにしようぜ!
   そんなことを、1人決意するアレイなのであった……。

 ■
 
 場面は変わって、放課後。
 スポットライトが当たると、教室では、たいむちゃんを中心にクラスメイトの輪が出来ている。
 たいむちゃんと話しているのは、ソア・ウェンボリス。
 アレイはナレーションの説明通り、輪に埋もれて彼女達の会話を聞いている。
 
 輪の中に、アッシュとリナリエッタの姿は見えない。
 スポットライトの外にいるようだ。
 
 ■
 
「私、ソアっていいます。
 よろしくお願いしますね、たいむちゃんっ」
 にこっと笑顔。
 普通の学生であればつられてしまいそうなほど優しい笑みだが、たいむちゃんは、うん、と頷いただけだ。
(でも、うん、て頷いてくれましたよね? いま)
 たいむちゃんの表情は相変わらずだ。
 そこからは喜びも悲しみも感じとることはできない。
 それでも演劇の練習初日から比べれば、これは格段の進歩なのだ。
 
 台本を見た時は、そのぶっとんだ発想に驚き。
(アッシュさんも凄いあらすじを考えましたねー)
 そう考えたソアだったが、やはり「想いの力って凄いのだな」と感心する。
 アッシュばかりではない。
 皆の力で、たいむちゃんはここまで変わってきているのだ。
(きっと、あとひと押しですよー、皆さん!)
 ソアは周囲の演劇要員達と連携しながら、次はどうしようかと考える。
 
 何しろ――。
 
 次の台詞からはアドリブなのだ。
 実はこの演劇は、勢いで企画したせいか当初からアドリブが多く、
 台本を担当する者がアッシュ1人だけだったのでは、当然と言えば当然の結果だ。
 
(たいむちゃんの設定って、どんな感じでしたっけ?)
 ソアは忙しく頭の中を動かす。
 たしか、と思う。
(転校初日で不安という設定でしたよね。
 これは実際のたいむちゃんが故郷の現状を見て落ち込んでいるのと、似ている気がします……)
 ソアは立った。
 ニコッと笑って、たいむちゃんの手を取る。
(たいむちゃんの気持ちをよく考えて、少しずつ打ち解けていきましょう。この役も)
 それがいいと思った。
 自分には、『虹色スイーツ≧∀≦』と『みらくるレシピ』がある。
 心を込めたクレープを作って、たいむちゃんに食べてもらおう、と。
 準備自体は台本を読んだ時に「放課後に買い食い」の設定があったので予め用意してあった。
 あとは『たいむちゃんにおすすめのクレープ屋さんを紹介する』という場面を設けるだけだ。
(でも、その前に。
 舞台セットを変えなくっちゃ! ですよね?)
 お願いしますよー、と照明係を見る。
 照明係がソアに合図を送った。用意は出来たということだ。
 暗転の準備をはじめつつ、ソアはたいむちゃんの手をにぎって、もう一度笑いかける。
 
「一緒に帰りませんか?
 美味しいクレープ屋さんがあるんです」
 
 ■
 
 だが、そのころ。
 スポットライトの外ではアッシュの貞操の危機が迫っていた。
 
 ■
 
 同刻・教室の最後尾にて。
 
 暗がりの席では、アッシュがリナリエッタに押し倒されそうになっていた。
 既に生徒役の面々は、放課後に向けさっさと楽屋に下がっている。
 
「本当は、たいむちゃんと君がだいぶ仲良くなってきた所を狙って、
 教室で一人になったところを狙い、押し倒すって、
 そういう設定だったんだけどー」
 
 いきなり、スポットライトが当たる。
 何しろ、ただでさえアドリブが多い劇なので、臨機応変に対応しなければならない。
 照明係も大変だ。
 そして、彼はこれはまだ劇の続き、と認識していた。
 
「リナリエッタ?」
「だめ、同級生A子と呼んで!」
「は? A子。 たしか……生徒A子役だったんじゃ?」
 アッシュの声は奇妙に裏返る。
 役の中の劇だというのに、何なのだろう? このA子さんの違和感は?
(ごめんね? アッシュ。
 私の特技は『誘惑』なのよー)
 リナリエッタはシェルタンアーマーからはみ出した部分の胸を、ぐりぐりと押し付けて、アッシュの反応を見た。
 アッシュは怪訝そうに彼女を眺めて……まぁ、うつろであるようにも見えなくはない。
 
 ガラガラッ。
 
 戸が開いて、タイミング良くたいむちゃんが入ってきた。
 ここが見せ場、とばかりにリナリエッタは無理やりアッシュと絡み合う……ようにみせた。
「ふふ、私達こういう関係なのよ」
 アッシュに抱きついて、リナリエッタは勝ち誇ったように、たいむちゃんを挑発的に見る。
 だが、アッシュは怪訝そうな目つきで。
「そうだぜ! さっきからこうして柔軟体操してるんだよ。
 へんだよな? 舞台の上なのに」
「そうよ、私達『柔軟体操』を……て、へ?」
 リナリエッタの目が点になる。
「何だか妙な気持になる、変則的な柔軟体操だったけど。
 これからは俺様が、本物の『柔軟体操』って奴を教えてやるぜ! リナリエッタ」
 
 ……そうして、リナリエッタはしばらくアッシュのちょーハードな「柔軟対応」の犠牲となるのであった。
 そもそも、そこも「アレ」なアッシュは、誘惑以前に「男女の仲の概念」自体が無いのであった……合掌。
 
 ■
 
 同刻。
 楽屋裏では、ソアが3場に備えてクレープ作りにいそしんでいた。
 意外と時間が取れたので、急だったが、全員分作ることが出来た。

「よかったです、調理の時間がとれて。
 ありがとうございました、リナリエッタさん!」
 
 きっとこのためにリナリエッタは時間を稼いでくれたのだ。
 勘違いをして、リナリエッタに感謝するソアなのであった。