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リアクション
12.劇〜【魔法少女 マジカル☆たいむちゃん!】・1場 始まりの朝〜
ナレーションの声:
――初日から遅刻しそうだった彼女は、パンを咥えながら
路地を曲がったところで、登校中の生徒とぶつかって
しまいます……では、その曲がり角の出会いから。
■
照明が光った。
一瞬で、舞台全体をが照らされて、路地のセットが露わになる。
たいむちゃんは学生服を着て、舞台の中央に立っていた。
舞台の手前側――曲がり角があり、運命の出会いを果たすべく、彼女にぶつかる役の学生達は、便宜上、2回に分けてスタンバイしていた。
1回目にぶつかる学生達:ユーリ・ユリン(ゆーり・ゆりん)
2回目にぶつかる学生達:アレイ・エルンスト(あれい・えるんすと)、
■
たいむちゃんはてくてく手前に歩いてくる。
1回目の運命の出会いに向かって。
そのお相手――ユーリ・ユリンは洒落たメイド服姿で、タイミングを図っていた。
その口には、なぜか鉄火巻き丸々一本を咥えている。
男性の観客受けが良いのは気のせいか???
(よし、いまだ!)
ユーリは急に曲がり角から飛び出してきて、思い切りたいむちゃんに体当たり!
ドンッ!
とてつもなく大きな音だった。
(とにかく、たいむちゃんを励ますよ!)
彼女の想いは、一生懸命で立派なのだが。
考えるよりも先に行動優先! なため、深く考えずにアタックしてしまったようだ。
たいむちゃんを突き飛ばしただけでなく、勢い余って舞台から転がり落ちてしまった。
「いったたた……どこみてんだよ! ボケェ!」
「…………」
「あーあ、鉄火巻き落ちちゃった……どーすんだよ!」
「……うん、ごめんね? ユーリ」
「あー、分かればいいんだよ……て、あれ?」
ユーリは驚いて痛む頭を押さえつつ、そろそろと舞台を見上げる。
(たいむちゃん……いま、「台詞に無い台詞」で謝らなかったか?)
そのままたいむちゃんの反応を待ったが、彼女は無表情のまま。定位置へと戻って行くのであった。
■
暗転。
再び照明が舞台を照らして、手作りセットの「路地」が現れる。
■
たいむちゃんはてくてく手前に歩いてくる。
2回目の運命の出会いに向かって。
そのお相手――アレイ・エルンストはユーリよりは対策を練っていた。
もともとアッシュの友人である。
たいむちゃんを元気づけたいが、彼の手助けもしてやりたい!
そこでアッシュに演劇要員を申し出ると、「よくぞいってくれました!」と言わんばかりに、この役が回ってきたのだった。
どんな設定だったかというと。
「役はたいむちゃんのクラスメイトで、
クールな一匹狼だが根はいい人。
髪をかき上げるのが癖。
実は使い魔の血を引く魔法使い。
力を狙っている」
などというものだ。
所詮はアッシュが練った設定だから、そんなところなのだが、
根が真面目な彼は「変な設定だな…」と思っただけで、すんなりと引き受けて、完全にハマッている。
(出会いは路地。
遅刻しそうになっていたオレは余裕で登校していた所、見たことない女子生徒にぶつかる……って、災難だな)
彼はタイミングを図って、ゆっくりと歩いてぶつかる。
「ゆっくりと歩いた」のは、「余裕で登校」という設定を台本から冷静に読み解いたから。
トンッ。
倒れたのは、たいむちゃんの方だった。
アレイは呆れた様子で、
「……おいお前怪我してないか?
気をつけろよ。」
格好良く片手を差し出す。
観客席から、黄色い声援が流れてきた。
「危なっかしいヤツだ」
たいむちゃんは、差し出された手をしっかりとつかんで。
「うん、ありがとう、アレイ」
「……え? あ、うん、わかればいいんだ。わかれば、な」
じゃっと片手をあげて、アレイ退場。
たいむちゃんは舞台の中央でとどまった。
■
暗転。
幕が下りていく――。
ナレーションの声:
――こうしてたいむちゃんは、運命の人に2回もぶつかってしまったのでした。
めでたし、めでたし……なのか?
■
「なあ、アッシュ!」
舞台裏の楽屋で、アレイとユーリはアッシュを呼びとめた。
「いま、たいむちゃんが、台本に無い台詞を……」
「ああ、そうだよ、僕も。礼を言われた」
アッシュはうーんと考え込んで、センセと振り向いた。
「やっぱりそういうことでしょうか?」
「うむ、そういうことだろう、アッシュ君」
アルツール・ライヘンベルガー教員は、楽屋の端に目を向けて、力強く頷いた。
そこにはまだ表情の無いたいむちゃんが、椅子に腰かけて、次の準備をしている。
「失われていた自我が戻りかけているのかもしれない。
皆の声、お茶会、演劇の練習……たくさんのたいむちゃんを想う声が、ここにきて彼女に気力を戻しつつあるのだ。
ここが正念場かもしれん、アッシュ君」
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