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【創世の絆・序章】未踏の大地を行く

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【創世の絆・序章】未踏の大地を行く

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17.閑話休題〜回廊周辺の調査〜

 ところで、アッシュ達が演劇をしている間も、回廊周辺の調査隊は任務を遂行していた。
 空はいつもの如く晴れ渡り、時折学生達の楽しげな声が、野外劇場の方から流れてくる……

 ■
 
 ヤジロアイリ(やじろ・あいり)セス・テヴァン(せす・てう゛ぁん)とともに、本日は回廊周辺の祭壇近くを調査していた。
 ヤジロ達の近くには、及川翠(おいかわ・みどり)ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)アリス・ウィリス(ありす・うぃりす)の3名が。
 やや離れた位置に、助っ人要員達の関谷未憂(せきや・みゆう)リン・リーファ(りん・りーふぁ)プリム・フラアリー(ぷりむ・ふらありー)が見える。彼女達は調査だけでなく、地図の作製役も兼ねていた。
 
 
「ふーん、たいむちゃんとは面識があるんだねぇ?
 空京万博の時かなぁ? ヤジロさん」
 翠は地面を探しながら、ヤジロに言った。
 彼女は「捜索」の特技を生かして、ミリアやアリスと共に周辺を見て回っている。
「ああ、今まで大変だった、って話だ」
 アイリは銃型HC弐式の反応を見ている。
「やっと帰ってこれたのに、故郷がこれじゃ落ち込むのも無理はねぇよ。
 家族や仲間の行方の手掛かりになるものがないか、捜してやりたくもなるだろう?」
「万博でのたいむちゃんの涙は、私の胸も打ちましたよ」
 セスはダウンジングの手を止めて振り向く。
「私もアイリと同じ気持ちです。
 何か見つけて、彼女に元気を出して貰いたいですね。
 とはいえ、見つかるのは水脈ばかりですが」
「きっとみつかるよ。
 だってこんなに広いんだもん」
 翠は遠くに目を向ける。
 荒れた大地が、延々と続いている。
「生き物さんも植物さんも本当に何も居ないのかなぁ? って。
 だから私、回廊の近くに本当に何にも無いのか調べて見るの!」
「じゃ、たいむちゃんにかかわりがありそうなもんがあったら、よろしく頼むな」
「うん、まかせて!」
「その前に、この子が迷子にならないようにしなくちゃね?」
 ミリアはアリスの手を引く。
 だいじょうぶだよぉーと、笑っているが、アリスは油断するとすぐ迷子になってしまう極度の方向音痴なのだ。
「大丈夫ですよ。
 私がしっかりとマッピングしていますからね、魔界のコンパスも使って」
 セスは銃型HCを見せる。ニコッと笑って。
「妙なものが近づいてきても、安全です。
 出発前に、イナンナ様に探索の無事もお祈りしましたから」
 
 関谷未憂(せきや・みゆう)は【殺気看破】で周囲を警戒しつつ、調査を進めていた。ベルフラマントの位置を気にしているのは、万一の時はパートナー達を隠すつもりでいたから。
 彼女達がここにいる理由は簡単で、
「パラミタにとって、あるいはたいむちゃんにとって、何か希望になるものが見つかるといいんですけれど。手の足りないところって、どこでしょうか?」
 というものだ。
 北の探索隊は50名以上いたため、ヘクトルらの勧めを受けてこちらの作業に参加した。
 しかし本当に少なくて、自分達を含めても8人しかいないのでは、調査のやりがいもあるというものだ。
 
 未憂は博識、精霊の知識、トレジャーセンスと、特技の追跡、近代西洋儀式魔術を駆使して、地質や風向きなどを調べた。
 古びた懐中時計で時間の記録も行う。
 ある程度のデータが集まると、ハンドベルト筆箱の鉛筆を使い、メモ用紙に記載した。
 マッピングも兼ねているため、瞬く間にデータの入った地図が作成されていく。
 
 傍には常にリン・リーファ(りん・りーふぁ)の姿があった。
 ディテクトエビルで警戒してくれるため、多少作業に集中しても安心だ。
 それでも分からない個所がある時は、リンとプリム・フラアリー(ぷりむ・ふらありー)の力を借りた。
 彼女等は博識、精霊の知識、特技の捜索、考古学、魔女術を必要に応じて使い分け、的確な判断を未憂に提供した。 
 ただプリムだけは、気づくと2人とは違う方を向いていることがある。
 そんな時、未憂は黙って1人で作業を進めるのであった。
 
 ニルヴァーナの風が、プリムの長い金の髪をたなびかせる。
(……ここがニルヴァーナ……)
 少女は無言で荒れた大地を眺め続ける。
(……『パラミタとは別の浮遊大陸』。
 ……アトラスのような巨人が、大陸を支えている……?)

 ■
 
 獣の唸り声が流れる。
 
 ■
 
「どうしたんだ、ジャナ?」
 アイリは賢狼ジャナに問いかける。
 銃型HC弐式に反応があったためジャナを連れて行ったところ、岩陰の所で急に唸り始めたのだ。
 ジャナにはあらかじめたいむちゃんの匂いを覚えさせている。
 ジャナの唸り声から察すると、たいむちゃんの匂い、と言うよりは「怪しいものがある!」と言った感じだ。
 だがアイリの野生の勘では、「凄い発見かも?」と言う気がしないでもない。
 セスがアイリを心配する。
「私が見てきましょう。何かあっては、困りますから」
「周囲はまかして大丈夫なの! アイリさん」
 翠はパートナー達と共に、岩の周りで待機する。
 捜索の結果、ここが怪しいとでたから。
 
 セスが、岩陰をのぞく。
 そのとたん、小さなものが飛び出した――栗鼠だ。
 
「わ、栗鼠、可愛い!」
「捕まえるぞ、セス!」
「待ってください、アイリ。
 この栗鼠、なんか変ですよ!」
 セスは逃げた栗鼠を指さす。
「つぎはぎだらけの栗鼠なんて……ここがニルヴァーナとはいえ、いくらなんでも可笑し過ぎます!」
「うっ! そ、そういえば……」

「でも、アイリさん達のイナンナの加護には反応ないよ?」
 翠達は栗鼠を追いかけ回す。
 栗鼠の動きは素早い。
「えーん、栗鼠さん……追跡するね!」
 アリスは特技を駆使して追っていく……のはよいが、そのまま帰ってこない。
「……連れ戻してくるわ、皆さん」
 ミリアは冷ややかな顔でアリスがいると思しき場所を捜索し始める。
 探す対象が変わってしまったようだ。
 
「あれ? 栗鼠さんは?」
「あそこのようだ、翠」
 アイリは指さした。
 そこでは未憂達が何か大騒ぎしている。
「HCの反応があった。
 あとは彼女達に任せよう」
 
 ■
 
 未憂達は休憩に入っていた。
 目の前に、ギャザリングヘクスのスープと香辛料の小瓶! がある。
 
 リンの幸せの歌――題して「魔女のスープの歌」を聞いてから、食べよう、そういう段取りになっていた。
 
 リンがスッと息を吸って、空に歌い始める。
 
 魔女のスープ魔法のスープ
 味にはあんまり期待しないでね
 甘いの辛いの酸っぱいの苦いの
 お好みで調味料をどうぞ
 とりあえずの腹ごしらえに
 少しだけ温まるように
 魔女のスープ魔法のスープ
 朝飯前にご用意します

 持ってて良かったギャザリングヘクスと香辛料の小瓶!
 お腹空いてたら力出ないもんね

 ……そんな時、スープに栗鼠が飛びこんでしまったのだ。
 
「わっ、栗鼠?」
 リンはビックリしたが、プリムは慌てて助け出そうとする。
 このままでは栗鼠が元気になる前に、煮えてしまう!
 だが、栗鼠はスープから逃げ出すと、慌てて荒野に向かっていく。
「そいつは捕まえろ! とアイリさん達から連絡が入ったわ。
 捕まえるわよ!」
 携帯電話を切ると、未憂は栗鼠にバニッシュを放った。
 ルカルカ・ルー達の【情報網構築隊】のお陰で、ここ一帯は携帯電話での連絡が可能だ。
「繋がるって、いいわよね」
 ふっと笑うと、未憂は栗鼠の様子を窺った。
 栗鼠は混乱しているのか、グルグルとその場を回っている。
 リンは念のために氷術で氷の盾をつくるが、その必要はなさそうだ。
(……おやすみ)
 プリムが眠りの竪琴を使うと、栗鼠はその場でこてっと倒れてしまった。
 未憂の携帯電話に着信音が鳴った。
 アイリからだ。
「やったな! おまえら!
 これ、ニルヴァーナのロボットだろう?
 たいむちゃんに見せに行こうぜ!」
 
 ■
 
 アッシュ達はこの騒動を知るすべもない。
 そして、とーとつに、劇は佳境に入ることとなる。