校長室
死いずる村(前編)
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■後章――二日目――11:00 「もう死人になっている人もいるかも知れないけど、はりだしておこうかしら。今も生きているかは分からないけど」 ネット配信はできなかったものの、伝える手段はある。 水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)は、天津 麻羅(あまつ・まら)に向かってそう声をかけると、櫛名田 姫神(くしなだ・ひめ)を纏ったまま、人目に付く公民館前の掲示板に紙をはりつけはじめた。 「ええと、まずは、アンプルを持っていた人達ね。契約者やパートナーのどちらか一方が死人になると、もう一方も死人になるみたいだから、代表者一人で良いかな」 そう言って彼女は、『アンプル所持者』として、名前を羅列した。 ・山葉 涼司(やまは・りょうじ) ・火村 加夜(ひむら・かや) ・椎名 真(しいな・まこと) ・桐生 円(きりゅう・まどか) ・冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ) ・七瀬 歩(ななせ・あゆむ) ・東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん) ・朝倉 千歳(あさくら・ちとせ) 樹月 刀真(きづき・とうま)に関しては、オリヴィアの生死を確かめる為にアンプルを使用したとの事だったが、直接その光景を目視してはいないので、念のため除外しておく。 「今も皆の者、無事なのじゃろうか」 もっともな麻羅の声に、続いて村の地図を掲示板にはりながら、緋雨は曖昧に笑った。 「どうかなぁ。無事だと良いけどね」 それから緋雨は、アクリト・シーカー(あくりと・しーかー)の事、及び死人と秘祭について知り得た事を張り出す。 「アクリト教授は、死亡、と」 残念な事だったが、昨夜、アクリトは死人に襲われて、亡くなった。 自身が死人とならなかった事は、彼なりの誇りだったのかも知れない。 村を散策していた彼女は、朝早く、大破した山場神社と、彼の遺体を目撃したのである。 「ええと、死人の弱点、死人の弱点」 意識をあえて逸らすようにでもする風に、彼女は呟く。 ・日光に弱く、昼間は動きが鈍くなる。 ・弱点には、個体差がある。 ・共通した弱点は、首――脊髄や骨髄に打撃を受けること。そうすると、動きが止まる。 ・四肢切断や、足の狙撃でも一時的に、動きが止まる。 ・だが、すぐに再生する。脳への攻撃も同様。 ・首を刎ねても動きは止まるが、そのまま放置すると、再接着する。 ・アンプルを打つと、死人の体は崩れはて、赤いドロドロが出てくる。 ・それ以外の場合は、例え眼球を潰しても再生する。 ・赤いドロドロが死人の本体かも知れない。 ・赤いドロドロはプリオン病の特徴を帯びている。 ・赤いドロドロは、他人の体を乗っ取ることが出来るらしい。 (自分自身の肉体を失っても、『死人』は他の死後間もない肉体も、乗っ取る事が出来る) (もしかすると、これまで生存していた村人等の体を乗っ取っているかもしれない) ・傷の再生が速く、死後についた傷は残らない――生者との区別に有効。 ・しかし、生前に負傷した部分や、罹患していた疾患は、そのままの可能性大。 ・人間の生気を吸わなければ、動くことが出来なくなるらしい。 ・奈落人でも『死人』の肉体は乗っ取れない(普通の死者の体は乗っ取る事が可能) 「こんな所かな」 緋雨がそう呟いた時、そこに山場愛と山場敬が姿を現した。 「そういう事されると困るんですよね」 敬が言う。 愛も同じ意見であるようだった。 二人が構え、緋雨達の意表を突くように攻撃を放つ。 その時の事だった。 「こっちも貴重な情報提供者を攻撃されると困るんでね」 現れた高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)が、二人の攻撃をはじく。 なんどか刃をかわした後、日が高くなってきた事が悠司の強さを手伝って、彼は死人を正面から追い払った。そして二人は姿を消したのだった。彼がいなければ、緋雨達のはった情報は、破り捨てられていたかも知れない。 「有難う」 「別に」 緋雨に礼を言われた悠司は、ただただ微笑して見せたのだった。