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第九章 花魁道中4

 花魁道中もいよいよ佳境のようだ。
 急ぎお忍びの座敷へ戻ろうとしていることろで、鬼城 貞継(きじょう・さだつぐ)は、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)に出くわした。
 アキラは貞継を待ち伏せていたらしい。
 柱の影からぬっと現れる。
「貞継、ずいぶんやつれてるな。精気吸い取られたような顔してんぞ」
「……なぜが急に意識を失って、気付いたときからけだるくて仕方ないんだ。いや、それよりどうしたんだ、アキラ?」
「なにって……俺も、花魁道中見学しちゃ悪いのかよ」
「そうじゃない。その格好は……腹はどうした」
 貞継が驚くのも無理がない。
 アキラのおなかがぽっこりと膨れ……まるで臨月の妊婦のようになっている。
「どうしたもこうしたも……正月のとき『託卵』した、ろう? あんときのだよ。俺、出産するから」
「なん……だと?」
貞継は開いた口がふさがらない。
「しかし、あれは正月の特別シナリオで……そもそも……」
「ふっ、はははバカめ! 俺にそんなモンが通用するか! 俺のアホ腐れ具合を甘く見やがって〜。ついに念願の卵ゲットだぜ!!」
 がはははと高笑いしながら、半ばやけくそ気味に光条兵器『ハリセン』を取り出すアキラ。
 これでもかとばかりに貞継の後頭部をはたく。
「おめーちょっとひっこんでろ。つか留守番してろ!」
 ぱちーんといい音がしたかと思うと、貞継はがくりと首をたれた。

 『貞継 ← OUT』『身体 ← IN 貞康』

 しょっぱい効果音とともに、鬼城 貞康(きじょう・さだやす)が現れる。
「……ん、もう一度するのかにゃ。よしよし、うい奴にゃ」
「成功か。ねぼけてんじゃねーぞ貞康(さだやす)のおっさん。ちょっとツラ貸してくれ」
 アキラは強引に連れ出すと、ゴザを敷いて場所取りをしていた漆刃羅 シオメン(うるしばら・しおめん)(故人)の元へ向かった。
 シオメンは感慨深げに二人を迎え、携帯用保温庫から餅を取り出す。
「良かった、私にまた出番があるとは……神は私を見捨てなかったガッテム! ……あ、これ『塩面餅・改』。前にあった弱点を克服したぞ。ほかほかだ。お茶請けに食すと良いぞ」
 そういってシオメンがお茶を煎れた。
 男三人が並んで餅を食べている絵は、なんともいえないものがあった。
「なんで儂が男と餅を食わねばならんのだ」
「男で悪かったな。でも俺、卵産むんだぜ。それにさ……今日、あんたを呼んだのはもう一度、マホロバをみせてやりたかったんだ」
 アキラはまじめな顔に戻って、貞康に言った。
「会いたい人には会えたか?」
「おかげでな。儂は夢が叶った。今度はお前たちの番だ」
 貞康は穏やかな笑みを浮かべていた。
 アキラもつられて微笑む。
「ああ、もちろん。愛だけで悲しみや憎しみを打ち消すことはできないかもしれない。でも、俺たち人は、その憎しみを越える知恵がある。きっとその知恵を見つけだして、憎しみを踏み越えていくよ」
「……うまいことまとめようしたな。まあいい。ならば、儂はしかと見届けようぞ」
「見ててくれ。世界はもっと良くなると、俺は信じてる」
 貞康たちは酒杯を互いにあわせた。
 今の誓いは、桜の世界樹『扶桑』そして『天子』のもとへ届いたであろうか。
 季節はずれの桜がちらちらと舞っているのが、その答えかもしれない。

卍卍卍


「お戻りになられましたか? 花魁道中を近くでご覧になったのでしょうか。いかがでした?」
「あ、ああ。綺麗だった。とても」
 樹龍院 白姫(きりゅうりん・しろひめ)に尋ねられて、鬼城 貞継(きじょう・さだつぐ)は多少決まり悪そうに答えた。
 今日は幕臣の一部や大奥の女官たちとともに、お忍びで楼閣の二階を借り切っていた。
「皆はどうか」
「大奥の人たちも楽んでおられます。白姫も久しぶりに羽目をはずしてみたくなりました……どうかされましたか?」
「白姫のそのような姿をみたのは初めてな気がする。思えば鬼城の、将軍の血に縛られて、周りの人々のことも、世の中のことも、あまりにも多くのことを知らなさすぎたのかもしれない」
 甘酒を飲んだのか、ほんのり顔が赤くなっている白姫を見て貞継が言った。
「お前も今日は休め。たまには遊んでいいぞ」
「そう……ですか。そのようなお言葉がいただけるとは」
「お前もだ、葉莉。警備は今日はいい。側近の武士がやるから」
 突然に話しかけられて、土雲 葉莉(つちくも・はり)は「は、はい!?」と返事した。
 忍犬の音々(ネネ)と呼々(ココ)は貞継から大好きなおやつをもらっている。
「でも、急にお仕事がなくなっちゃうと、何をしたらいいのか困りますぅ〜」
 葉莉はおろおろと落ち着かない様子だった。
 貞継はちょっと考えて、女官たちを連れて奥のほうへと消えていった。
 ややあって戻ってきてみたら、前将軍は見事な花魁衣装を身にまとっていた。
「さ、貞継さま!?」
「……余興だ。お前たちが……喜ぶかと思って……」
 貞継は恥ずかしくなったのか、「もういい。似合わんだろうから、脱ぐ」といって、引っ込みそうになった。
 白姫が笑いを抑えながら引き止める。
「そんな、お似合いですよ。皆のためにと貞継様自らそのような気を遣って、白姫は嬉しく思います」
「そうか? もう将軍ではないしな。多少の無礼講は……許す」
 白姫も、役目や立場など関係なく過ごせればと語った。
「これまでの艱難辛苦(かんなんしんく)を思えば、心穏やかに過ごされることが白姫の一番の願いでございます。今までの鬼城の血でつづってきた想いは、白継(しろつぐ)とともに伝えていきます。そしてマホロバが豊かでありますように……それ以上望むのは我侭でしょうが、貞継様のお心のすみにでも住むことができればと存じます……」
 人々はマホロバ幕府の存続を選択した。
 同時に、鬼城家の『鬼の血』も残すことになった。
 この選択が正しかったのかどうかは誰にもわからない。
 ただ、人の輪廻が桜の樹とともに繰り返していく。
 この物語はそのたった一瞬を切り取っただけに過ぎない。

「花魁たちだ。あの者たちが、マホロバ復興の手助けをしてくれたのだ。礼を言わねばならん」
 貞継が声を上げた。
 お囃子のともに美しい女たちが歩いていく。
 桜の花びらは、彼女たちの晴れ舞台を輝かせるため、何度も何度もその周りを巡っているようだった。


卍卍卍




 季節はずれの桜の花びらがちらちらと舞っている。
 まるで何かを探しているように――

 もう一度、違う自分になれるのなら。
 もう一度、違う立場で出会えたなら。
 もう一度、あの人に会うことができるのなら。


 たくさんの夢を乗せて、明日への希望へと、桜の花びらは飛んでゆく――



担当マスターより

▼担当マスター

かの

▼マスターコメント

 こんにちは、ゲームマスターのかのです。
 ご参加いただきまことにありがとうございます。
 おまたせしてしまい申し訳ありませんでした。

 今回は楽しいアクションをたくさんいただきました。
 全部を採用することができなくてごめんなさい。
 本編ではできなかったことを少しでもお手伝いすることができたのなら、このシナリオをやって良かったかなと思います。

 それではまた、お会いできるその日まで。
 ありがとうございました。


【NPC一覧】

鬼城貞継(きじょう・さだつぐ)……マホロバ前将軍。扶桑の噴花を止めるため将軍職を白継に譲ったが、廃人となる。噴花後に復活

睦姫(ちかひめ)……瑞穂藩姫。行方知れず。貞継との間に子「雪千架」がいる。正識の後を継いで、瑞穂藩主となる

鬼城貞康(きじょう・さだやす)……マホロバ初代将軍。扶桑の噴花により転生を果たした
鬼城慶吉(きじょう・よしき)……鬼城御三家の一人。将軍後【見】職

白継(しろつぐ)……マホロバ将軍。貞継と(SFM0033439) 樹龍院 白姫の子
貞嗣(さだつぐ)……貞継と(SFM0002869)秋葉 つかさの子

蒼の審問官・正識(あおのもんしんかん・せしる)……七龍騎士の一人。瑞穂藩主。マホロバ名では(まさおり)。生死不明
日数谷現示(ひかずやげんじ)……瑞穂藩士。瑞穂藩を追われ流浪していたが、瑞穂藩の侍大将として復帰。財政難を救うため絵師を兼業


胡蝶(てふ)……ティファニー・ジーンの源氏名
明仄(あけほの)……『竜胆屋(りんどうや)』元No.1の売れっ子。姉遊女。ランクは天神。現在は同人作家
海蜘(うみぐも)……妓楼(ぎろう)『竜胆屋(りんどうや)』楼主
正識(ごしき)……美形の影蝋。正識の源氏名

漆刃羅シオメン(うるしばらしおめん)……エリュシオン帰りの龍騎士(故人)。奇跡の再登場

【付録】

●瑞穂藩(みずほはん)
マホロバ西国一の大大名。
二千五百年前の戦国時代、鬼城・葦原に破れ、西国に追いやられた。
現在は若き藩主、正識(マホロバ読みでは『まさおり』)が治めている。
瑞穂藩はエリュシオン帝国との貿易により栄え、その文化や風土の影響を受けてきた。
新しい藩主正識はエリュシオンのユグドラシルに強い感銘を受け、七龍騎士として働いており、臣下にもそれが影響されている。

●暁津藩(あきつはん)
マホロバ西国の藩のひとつ。
二千五百年前の天下二分の戦いでは鬼城家につき、「戦功大なり」の褒章に預かった。
現在まで続く大名として優遇されてきたが、藩政改革は進んでいない。
暁津勤王党(あきつきんのうとう)という一派が藩内で一大勢力となり、扶桑の都で活動を行っている。
しかし最近では、その反体制運動に懐疑的な複数の同志達が決別、脱藩者を出している。

●マホロバ二大遊郭
東雲(しののめ)遊郭……マホロバ城下にある幕府による唯一公許の遊女街。幕府の規制もあり、出入口は大門のみ。
水波羅(みずはら)遊郭……扶桑の都にある伝統ある花街。一般に出入りは自由。

●遊女の階級
太夫(たゆう)……最高位の遊女。遊郭における伝説的存在
天神(てんじん)……高級遊女
花扇(かおう)……一人前の遊女
雛妓(ひよこ)……見習い遊女。
的矢女郎(てきやじょろう)……最下級の遊女。病に冒されたものも多く、あたると死ぬという意味
芸者・舞子(げいしゃ・まいこ)……遊興時の舞や三味線、唄などを行うもの。身体は売らない
楼主(ろうしゅ)……遊女屋の主人

※『花魁(おいらん)』と呼ぶのは『花扇(かおう)』以上の遊女

『影蝋(かげろう)』……男娼。客は男だけでなく女もいる

●花魁道中(おいらん どうちゅう)
花魁が雛妓などの見習いを引き連れて揚屋や茶屋まで練り歩くこと

●揚代(花代) 
遊女を呼んで遊ぶ時の代金のこと。
高級花魁(太夫)と一回遊ぶのに揚げ代、人数分の料理代+酒代、ご祝儀などで100〜200万円前後、三度通って馴染みになるまでには1,000万円はかかる。。
座敷で芸者や舞子などをたくさん呼んで、賑やかに騒ぐ金払いの良い客はお大尽(おだいじん)として喜ばれる。
『天神(てんじん)』で10〜20万円程度。
『花扇(かせん)』で5〜6万円程度。
一番安い『的矢女郎』は3,000〜6,000円程度。

●身請け 
遊女の身代金や借金を支払って勤めを終えさせること。
相場は、
花扇で三百小判〜百大判(300万〜1000万円)
天神で三百大判(3,000万円)
太夫だと七百大判(7,000万円)

●マホロバの通貨
マホロバには大判・小判(金貨)、銀(銀貨)、銅(銅貨)がある。
一銅=1円
一銀=1,000円
一小判=10,000円
一大判=100,000円

(参考)1ゴルダ=100円〜500円