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第四章 影蝋屋にて2


「わー可愛いよ、この簪(かんざし)。ルカルカさん似合ってるー!」
「歌ちゃんの和柄リボンいいなあ。ちっちゃい鈴が鳴って可愛い」
 宿屋の待合い室では遠野 歌菜(とおの・かな)ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が和気藹々としている。
 彼女たちは別行動していたパートナーたちと待ち合わせをすることになっていた。
 女二人と思って声をかけてくる男たちを適当にあしらいながら、買い物ざんまいの成果を確認していた。
「ところで、ねえ歌ちゃん。ダリル達が行くって言ってた『影蝋茶屋』ってどんなところ?」
「んー、よくわかんない。美味しいご飯食べてくるとしか聞いてないけどな」
「そっか『影蝋茶屋』っていうくらいだもんね。きっと美味しいお茶を出してくれるんだね。異文化交流だね!」
 再び談笑する歌菜とルカルカ。
 本当の知ったら彼女たちはどう思うだろう?

 その問題の『影蝋茶屋』へやって来ていた月崎 羽純(つきざき・はすみ)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は、やや緊張した面もちで見世に通されるのを待っていた。
 ある程度予想はしていたものの、周りは美男・美少年ばかりである。
 中にはそうではないものもいたが、彼らは話術に秀でていたり、芸に長けていたりと、待っている間も彼らを退屈させなかった。
「随分と楽しいところじゃないか。もっと暗い場所かと思っていた」
 と、茶屋を案内してくれた影蝋『霞泉(かすみ)』こと天 黒龍(てぃえん・へいろん)に、面識のあるダリルが言った。
「……確かに東雲遊郭が新しく立て直されてからは、少し明るくなったかもしれないな。しかし、以前のようにお忍びの者や隠れた場所を好むものもいる。そういう客のために、秘密の部屋も用意されている」と、黒龍。
「VIP用か。それはいいな。今度来たときは、ぜひそちらをお願いしようか。なあ、ダリル?」
 羽純たちが笑うと、黒龍はふと悲しげな顔を見せた。
「では、ごゆっくり。私は用があるので」
 黒龍は座を辞し、残された二人は礼を言う。
 程なく彼らの前にマホロバ料理が運ばれてきた。
 酒を注ぐのは、選りすぐりの影蝋二人である。
 はじめは慣れない様式に戸惑ったものの、酒が程良くまわってくると、羽純は饒舌になった。
 矢継ぎ早にダリルに質問する。
「ダリル、ここの酒はいける口か?」
「ああ、悪くはないな。少し辛口だがすっきりしていい」
「俺もだ。もう少し甘くてもいいな。ところで休みの日は何をしている? 俺は甘いもの食べに出かけたり、家にいるときは読書かネットサーフィンかな」
「甘いもの?」
「今の季節はモンブラン・ケーキが旨い」
「なんだ。それだったら今度作ってやるよ。ここにはケーキは無さそうだが……栗の菓子ぐらいあるだろう?」
 そういって隣の影蝋に和菓子を頼むダリル。
 繊細な菓子に楊枝を刺すと自ら羽純の口元へ運んだ。
 ダリルの甘い香りがして、羽純はちょっとためらいがちに言う。
「……近すぎるだろ」
「なんだ、顔が赤いな。もう酔っぱらったのか」
「呑んでるんだから……酔うのは、あたり前だ」
「酔ったのは酒にではなく、『俺に』じゃないか?」
 ダリルは笑みを浮かべると、髪の留め具を外して左肩から前へ流して見せた。
 異常なほど色っぽい。
「俺の髪は蒼みがかっているから、和ものは、黒髪のお前ほど似合わないのだが」
「何いってんだよ、馴染んでるじゃないか。その……そーゆうのは意中の相手だけにしておけ。お前は天然なところがあるから気づいてないかもしれないが、誤解されるぞ……」
「何がだ? こうゆうことか?」
 酒と艶ややかな雰囲気にのまれそうな羽純に、ダリルは問答無用でおでこをくっつけた。
 ダリルの蒼い髪がさらりと落ち、羽純の視界がぐるりと回った。
「やっぱり熱があるな。早く風呂に入って身体をあっためて、布団に入ったほうがいい。手伝ってやろうか」
 酒量が限界に達し前後不覚の羽純を、ダリルは介抱するといって両腕に抱き上げた。
 襖を開くと布団が敷き詰められている。
「幸せそうな顔をして。可愛いよな」
 ダリルは微笑みながら羽純を寝かせ、襖をぱたんと閉めた。


卍卍卍


 そのころ『影蝋茶屋』の別の一室では、真田 幸村(さなだ・ゆきむら)を巡っての攻防戦が繰り広げられていた。
 花魁衣装を着せられた上、縄で縛られて布団の上に転がされている幸村と、影蝋の衣装に身を包み彼を見下ろす徳川 家康(とくがわ・いえやす)
 家康はにやりと笑った。
「普段はいきがっているおまえも、こうしてみると哀れでいやらしくてなかなか良いぞ。このまま、公衆の面前へ突き出してやろうか?」
「う……うぐぅ。おのれ家康! 俺はなにゆえにこのような辱めを受けているのだ」
「さあのう? どうしてかのう玉藻……氷藍?」
「氷藍殿だと!?」
 愕然とする幸村の前に、主犯格とおぼしき皇 玉藻(すめらぎ・たまも)柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)が現れた。
 玉藻が煙管から煙を吐き出して言う。
「お姫様のお望み通り。こういうのを見ると自分の欲求も満たされていいねえ」と、玉藻。
 氷藍は幸村の姿に感激したらしく、えらくご満悦であった。
「さすがは俺の『嫁』。似合ってるぞ、似合いすぎて俺は我を忘れそうだ!」
「我が主であり兄弟であり夫婦でもある氷藍殿が、そこまで喜んでくださるなら……いやいやいや! 俺にも武士の誇りや羞恥心というものがございまする! 抵抗感というものが……!」
 赤面する幸村に家康が調子づいてきた。
「ははっ、氷藍の奴また良い趣味してるのう。見た目によらずハードプレイがお好みとは……むぐっ!?」
 言い掛ける家康の口に、氷藍はいきなり『キノコ』を放り込んだ。
 『どぎ☆マギノコ』という珍種で、食べて最初にみたものにときめいてしまうという毒性があるらしい。
 むせる家康に、彼女はせせら笑っている。
「むろん、お前もだ家康。戦国のオイシイ関係といったら主従関係だが、仇敵同士というも中々オツじゃないか? 俺が許すから、お前たち適当に絡んでろ!」
 氷藍は嬉々としながら、次々に幸村と家康の口に『キノコ』をつっこむ。
 武将英霊達による絶賛『キノコ』祭り開催である。
 これが許されるのも蒼フロ……いや『影蝋茶屋』ならではであろう。
 氷藍はすかさず携帯電話を取り出し彼らの姿を撮影していた。
「自分以外の男と絡む嫁というのも、胸が熱くなるもんだな。玉?」
「お姫様のおっしゃるとおりで……」
 『君は本当に幸せな頭の持ち主だね』と口の中で言い、玉藻は肺の中へ煙を吸い込んだ。
 心地よい刺激がじんわりと身体にしみこんでくる。
「現世にありて夢心地か。こういう空気は好きだなぁ。さあ、悔いの残らぬよう今この夢を楽しもうじゃないか」
 夜が明けて目が覚めたとき、人は嫌がおうにも現実へと引き戻される。
 ならば少しぐらいの悦など、味わってみても罪にはなるまい……。
「私もイケメン影蝋くんを探してこようかな」
 『キノコ』祭りはまだまだ続きそうである。