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22)藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)

「先ほどの放送事故を深くお詫びいたします」
(さっきもあったのかよ!?
これからお嬢とか一番ヤバい人が出演するってのに……。
番組終了まで、
トッド・ブラックウィローの首と胴体が繋がったままなのを祈るぜ)
宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)は、
ゆる族の性(さが)として、テレビ番組の現場にやってきてしまったが、
パートナーの性格を顧みるに、
どう考えても惨劇しか予想できず、
観覧席で縮こまっていた。

「こんにちは、トッドさん。
お会いできて光栄の極みですー」
「こちらこそ、よろしくお願いしますね。
優梨子さんは、首狩り族について研究している
文化人類学者なんですってね。
わたくし、以前から干し首に興味があったの。ぜひ、ここでいろいろ見せてくださらない?」

(な、あのババア!?)
正しく状況を認識している蕪之進が慌てるが、
優梨子は、10年来の友人に向けるような笑みを浮かべていた。
「うふふ、そうおっしゃっていただけるのは嬉しいですねぇ。
まだまだ学生の身で恐縮ながら、では、材料を刈りとるところから作成の実演を――」

(やめとけ! やめとけ!)
蕪之進の必死のジェスチャーにより。
「――と思いましたが、時間がかかりますので今回は完成品がこちらに」
スタジオの平和はひとまずは守られた。

「普通のいわゆる干し首に、さくらんぼ、だんご、けん玉と、独特の風趣がありますのです」
「へえー、わたくしも初めて拝見しますわ」
トッドさんが至近距離で優梨子がずらりと並べた首を見る。
観覧席からは息を飲む音も聞こえたが、
あまりにも優梨子とトッドさんが普通に話しているため、
誰もパニックにはなっていなかった。

「元来の意義を申し上げれば、首に魂が宿っているという信仰に基くもの。
神聖な戦いで倒した者の首を持つ事で、自分たちが強くなれる、と。
近年では、そのようにしてドージェさんに近付く意図がありましてねぇ」
「まあ、勇壮な気風ですこと!」
「一方で、“さくらんぼ”は恋のお守りとパラ実女子には認識されていまして。
トッドさんも機会がありましたら、一組お持ちになればよろしいかと♪」
「それはぜひ、手に入れたいわ!」
(地球じゃ非合法だろ!?)
この中で、チュパカブラのゆる族がもっとも地球における常識的発想をしているという、
大変な事態である。

「そういえば、優梨子さんのお友達の、
サクラコ・カーディさんから質問が届いているんです。

熱狂的なP−KOファンとして知られるゆりちゃんですが、
正直なところ三人のうち誰が一番お気に入りなんですか?」

「むむ、クリティカルなところを」
優梨子は少し考えたのちに、微笑を返した。

「そうですねぇ。
一番とんでもないのは、
数多の宇宙を気まぐれに創造・破壊なさるのみならず、
我々生命の直接の造物主たるフライング・ウドン・モンスターを作り出した
高木 陽子(たかぎ・ようこ)さんだと存じております」
陽子は香川出身である。
渡部 真奈美(わたなべ・まなみ)さんは、
近接する学問分野の先達としても尊敬しております。
あの方のフィールドノートには唸らされました」

ふと、優梨子は一層目を細めた。
「――けれど、ご質問の趣旨からすれば、
ここは小倉 珠代(おぐら・たまよ)さんのお名前を挙げて、ご回答とするところなのでしょうね。
示してくださる行動力と知識が快く、
こう申すのは不遜ながら、お側にいて殊に楽しいのです」