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地球に帰らせていただきますっ! ~4~

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地球に帰らせていただきますっ! ~4~

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 ■ 娘の恋人 ■
 
 
 
 実家に帰るのは1年ぶりになる。
 前に帰ったときには七瀬 歩(ななせ・あゆむ)も一緒だったけれど、今日は桐生 円(きりゅう・まどか)1人での帰宅だ。
 今日は百合園女学院の友だちは集まってパーティをするらしい。そっちに行けば良かったかと後悔しつつ、円は門の前をうろうろする。
 家を見上げてみたり、庭を覗いてみたり、少し離れてはまた門まで戻ってきたり。
 そんなことを何度か繰り返した後、円は思い切ってチャイムを鳴らした。
 鳴らすとすぐに物陰に隠れて、家から誰が出てくるかと門ごしにこっそりのぞき見る。
「はい、円?」
 帰ると言ってあったから、母の桐生 周は玄関を出てすぐに円の姿を捜している。
(よかった。おかーさまだ)
 出てきたのが母なのを確認すると、やっと円はとことこと寄っていった。
「おかーさまただいまー」
「そんなところに隠れていたのね」
 周は近づいてきた円を抱き上げた。
「うわー、おかーさま、下ろしてー。子供扱いはだめだってー、もう17歳なんだからー」
 じたばたと手足を動かす円に構わず、周は円の成長具合を確かめる。
「あら、少し身長伸びた?」
「背は143cmまで伸びたよ」
 円は自信たっぷりに答えた。そんな円の様子を周は可愛くてたまらないように眺めてから、ふと周囲に目をやった。
「今日はお友達は一緒じゃないの?」
「うん。今日は1人ー」
「円も大きくなったのね」
 周は笑って円を下ろすと、部屋に荷物をおいていらっしゃいと促した。
 
 
 荷物を置いてリビングに行くと、父の桐生 忠勝は難しい顔をして新聞を読んでいた。
「おとーさまただいま」
 円が挨拶しても、忠勝は短く、
「あぁ」
 と答えただけで、視線は新聞に置いたままだ。
(忙しいのかな?)
 それなら邪魔するのも悪いかと、円はリビングのソファに腰掛けて、周にパラミタでの話をあれこれしはじめた。
「まあ、そんなことがあったの。円、大丈夫だった?」
 円の話を周は相づちを打ちながら聞いてくれる。
「いろんなことはあるけど、みんながいるからボクも頑張れるんだよ」
「そう、いい出会いがあったのね」
「うん。あとね、あとね……恋人が出来たの」
 ガタン!
 けたたましい音がして、円は何事かと忠勝の方を見る。
「あれ、おとーさまどうかしたのー?」
「いや……ゴホン」
 忠勝は椅子に座り直すと、新聞をまた読み始めた。
 周はくすりと微笑むと、円の注意を自分の方に惹く。
「円の恋人ならきっと素敵な人なのね」
「ちょっと無愛想だけど可愛くて、お洒落で素敵な大人の人なの」
 照れながらも円は恋人のことを周にのろけた。
 
 
(OK忠勝落ち着け、クールになれ……)
 そんな円の話を聞きながら、忠勝は自分に語りかける。
 そうだ、成功したはずだ。
 円との久しぶりの挨拶だって、本当はよくぞ帰ってきたと騒ぎたいのをぐっと堪えて、ニヒルに一言だけで渋く決められた。
 娘に尊敬されるには、威厳のある父親像でなければならない。
 これしきで動揺していてどうする。
 この苦みばしった横顔に、きっと円だって『おとーさまステキ』と感動しているに違いない。
 平静を装いつも、耳はしっかりと円の話に傾けている。当然、新聞の記事など1つも頭に入ってきてはいない。
(家の長女は男運が無かったからな……円はどうなんだろう?)
 心配しつつ、忠勝は抜かりなく情報収集する。
「超可愛いよ、胸も大きいし、料理も得意だし」
 円は忠勝の観察には気づかず、楽しそうに周に恋人自慢をしている。
(可愛い男など断じて認めん。たとえ胸が……胸?)
 何かおかしい。
 そう忠勝が思った途端、円の爆弾発言が耳に入った。
「とっても素敵な女の子だよ」
 ガクン!
 衝撃のあまり、忠勝は再び椅子から落ちた。
 周は椅子から落っこちている父親を見せまいと、また円の注意を自分へと惹く。
「キスは済ませた?」
 忠勝の頭にたちまち血が上った。椅子に戻ろうとしているのに、足ががくがくしてうまく立ち上がれない。
「キスまでは済ませたけど、ちょっと恥ずかしくてそれ以上は……」
「大好きならちゃんと、捕まえておいたほうがいいわよ」
 赤くなってもじもじする円にそうアドバイスすると、周はこちらを見てにっこりと笑った。
 
 
 数日間の帰省期間を周から料理を習ったりして過ごした円は、しょーげきの告白に翻弄される忠勝を残し、またパラミタへと旅立ってゆく。
 結局、父親は今回も難しい顔をしてるばかりでほとんど話をしてくれなかったけれど、もう自分も大人なんだからと、円は忠勝にもちゃんと挨拶する。
「おとーさまも病気しないようにね。お仕事忙しかったとか最近解ってきたから」
「円……」
 忠勝はしばし言いよどんだ後、思い切って円に言う。
「何時か、付き合っているその子連れてきなさい。ちょっと話をしてみたい」
「うーん、あっちの都合次第だから。無茶は言えないし、期待はしないでね」
「うむ。……帰路、気を付けてな」
「はーい。おとーさま、おかーさま、いってきまーす!」
 両親のいる地球から、恋人のいるパラミタへ。
 円は元気に帰っていったのだった。