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リアクション
■ 幼馴染の女の子 ■
年末年始は実家で過ごそうと久世 沙幸(くぜ・さゆき)は地球に帰ってきた。
久しぶりの家族の団らん……は楽しかったのだけれど。
(もう、お父さんったらうるさいんだからー)
心配してくれるのは嬉しいけれど、父親がちょっとしつこすぎて沙幸は思わず、でかけて来るねと外に出た。
近所の風景を、ここはそのまま、ここは随分変わったと、過去の記憶に照らしながら歩いているうちに沙幸は見知った顔を見付けた。
「里美? 里美じゃない? ひっさしぶりー!」
沙幸が呼びかけると葉山 里美はびっくりした顔で振り返った。そこにいるのが沙幸だと分かると、大急ぎで駆け寄ってくる。
「沙幸! 帰ってきてるなら教えてくれればいいのに、水くさいぞ」
「夕べ帰ってきたんだけど、急だったし……それに、年末年始でみんな忙しいかなって思ったら声掛けづらくって。えへへ、ごめんね」
「遠慮なんていらないから帰ってきたら絶対に知らせてよ。沙幸からの連絡だったら、どんな時でも大歓迎なんだからね」
そう言うと里美は、ほんとに久しぶり、と嬉しそうに笑った。
里美は沙幸の小さい頃からの友人で、地球の学校に通っている間はずっと同じクラスだった。
ほっそりとした美少女の里美だけれど、沙幸が男子に悪戯されるのから庇ってくれていた。だから今でも里美の顔を見ると、沙幸はほっと安心した気分になる。
「って、立ち話って言うのもなんだし、どこか落ち着けそうなところに場所移そうか」
さすがに外は寒いから、長く話すのには不向きだ。そう沙幸が誘うと、里美もすぐに同意した。
「折角だし喫茶店でゆっくり話そうよ」
新しくできた喫茶店のケーキが美味しいからそこに行こうと、里美は沙幸を案内してくれた。
喫茶店でケーキと紅茶を食べながら、沙幸と里美は話に花を咲かせた。
昔話からお互いの近況まで、女の子の四方山話のネタは尽きない。
「私がよく男の子からいじめられてベソかいてたとき、里美はいつも助けてくれたよね」
「沙幸はいじめられると、困った顔して途方に暮れてるばっかりで反撃しないから、狙われちゃうんだよ」
「だって、どうしたらいいのか分かんなくなっちゃうんだもん」
今思うと、その時期の男の子が気になる女の子にちょっかいを出していたに過ぎないのだろうけれど、その頃の沙幸にはそれが分からなかった。どう対処しようかと戸惑っておろおろしていると、いつも里美が走ってきていじめっ子を追い払ってくれたものだ。
「あ、でもパラミタでは私も元気にやってるんだよ」
沙幸は里美に、向こうでは持ち前のポジティブシンキングでやっていることを話す。地球ではずっと守られてばかりいた自分だけど、今はもう大丈夫だということを伝えたくて。
「この間グラビアアイドルとしてデビューだってしたんだよ。っていってもまだ駆け出しだから、メディアへの露出っていうのは少ないんだけど……」
「グラドルデビューのことはもちろん知ってるよ。元気にやってるようで安心したよ」
「うん。でもね、そのことでさっきお父さんと大喧嘩しちゃってね……」
心配性過ぎるとぼやく沙幸に、里美は無理ないよと笑った。
「そりゃ沙幸は可愛いから、お父さんも心配なんだよ。……もちろん私だって……」
最後の一言は声には出さず、里美は沙幸を眺めた。
地球にいた頃から可愛かったけれど、パラミタに行ってからは一層活き活きと輝きを増したように見える。
「あれ、沙幸、口の周りにクリームがついてるよ?」
「え? やだ、さっきのケーキかしら……」
「私がふき取ってあげる」
慌てる沙幸の口の周りを里美は拭いてやった。
ふっくりと赤い沙幸の口唇は、艶やかにこちらを誘っているかのようで……。
気持ちが昂って我慢できなくなった里美はそのまま沙幸の口唇にキスをした。
「って、里美!? 突然キスなんかしてきたら恥ずかしいよ」
沙幸は驚いて、両手で口唇を押さえた。
「それに里美、さっきからちょっと変だよ? 一体どうしたの?」
それは沙幸が可愛すぎるから。
とは言えず、里美はすねたそぶりで答える。
「だって離ればなれで寂しかったんだもん。沙幸がどっか遠くへ行っちゃいそうで……」
「里美……。大丈夫、離れてても私たちは友だちだよ。ずっとずっと」
沙幸は両腕を里美に回して、ぎゅっと抱きしめてくれた。
「ありがと……沙幸」
友だち、というには少々濃密な抱擁を返すと、里美はまた幼馴染の顔でにこにこと沙幸とお喋りに興じるのだった。
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