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■ 深き森の杭 ■
年末年始の長期休暇を利用して、六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)はパートナーを伴って関東郊外にある実家に帰省した。
母親が海外の仕事で戻って来られないのは残念だけれど、この機会を逃すと次はいつ戻って来られるのか分からない。戻れるうちに帰省しておきたかった。
「……家に帰るのは、お父様の会社の経営が傾いて、再建のために私の縁談が勝手に進められていて、慌てて蒼空学園を休学して戻ってきた時以来、ですね」
皆でおせち料理をつつきながら、優希は懐かしく思い出す。
「あの時は大変な騒ぎだったからな」
麗華・リンクス(れいか・りんくす)は笑ったけれど、アレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)はその時優希の父の会社の建て直しのためにコキ使われたことを思い出し、渋面になる。
「でもあの時にアレクさんや麗華さんのお陰で、お父様たちと本当の意味で向き合えて……仲直り出来て良かったです」
さすがに、麗華が父の六本木 弦矢を殴り倒した上で一喝した時や、その後、弦矢がアレクセイを八つ当たり気味に働かせていた時は慌てたけれど、と優希は父の顔を見る。
「もしかして私がアレクに連れ出して貰った時の事を根に持っていたのでしょうか?」
「それはどうかな」
弦矢は笑って受け流したが、アレクセイは絶対にそうに違いないとひとりごちた。
「あの時は夫婦揃って、家と商社の存続と金のことしか考えていなかったからな。また何かあれば……殴り倒すなり、一喝するなりして矯正するまでだが」
物騒なことを言いつつマタタビ酒をあおった麗華は、それはそうとして、と弦矢に尋ねる。
「親父殿が知っている中で、あたしに似ている人は居なかったか?」
麗華は名前と『目覚めさせた者を導く事』以外の昔の記憶が無い。それでも、優希を見ていると何か懐かしくもあり、放って置けない気分にさせられる。
剣の花嫁は使い手の大切な人に似るというから、誰か似ている人が分かれば何かのヒントになるかも知れない。
「麗華君は……私の姉に似ているな。私が言うのも何だが、普段はいい加減で豪快で滅茶苦茶だったが、医者としては優秀で、『弱者が傷つくのを黙ってみていられない』と紛争地域での医療活動に進んで行っていたよ」
懐かしげに語る父の話に、優希は小さい頃、叔母がこっそりと色んな所に連れて行ってくれたり、教えてくれたりしたことを思い出した。
「今思うと、何かと気にかけて頂いていたのですね……。麗華さんは逆に放任主義というか、私自身に考えさせるようにして、足りない部分を助けてくれている感じですね。形は違いますが、麗華さんと叔母様……似ている部分があると思います」
自分自身が成長して方針が変わったのであれば、紛争地域で亡くなった叔母にも喜んで貰えるだろうかと、優希は考える。
「やっぱり剣の花嫁は契約者の縁者にどこかしら似ていると思う。雑にやっているように見えて、さりげなくフォローを入れている辺りが特にな」
アレクセイの言った『剣の花嫁』という言葉に、そう言えば、と優希は首を傾げた。
「私、自分で光条兵器をまだ一度も使ったことが無かったですね」
実戦でいきなり使うのも怖いからと、優希はこの機会に麗華から光条兵器を取り出してみることにした。
どんな光条兵器が出てくるか、と見守る皆の前で優希が取り出したのは。
「これは……槍か?」
一番使い慣れている槍が出てくるものだと思っていたアレクセイが、意外すぎる種類につい突っ込みを入れる。
優希が麗華から取り出したのは、盾に装備されたパイルバンカーだった。
麗華はそれを見て、さらりと流す。
「……らしいな」
「これが私の光条兵器……」
深緑色のその武器に見入った後、優希は命名する。
『深き森の杭』――と。
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