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リアクション
■ 父と娘の食卓 ■
父、ディーグ・ウェンボリスは相変わらず仕事で忙しく飛び回っていて、年末年始もあったものではない。
けれど、ちょうど今日から日本での仕事に移るところだということで、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)は東京のホテルで待ち合わせをすることにした。
ロビーに到着したソアはディーグに電話してみたが、繋がらない。
「少し早く来すぎてしまったでしょうか……」
しばらく待ってみようかと、ソアがロビーのソファのほうに行こうとしたその時。
後ろから肩を叩かれた。
「はい?」
振り返ったソアは、そこにドラゴニュートを見付けて驚いた。
けれどすぐに、それが龍のお面であることに気づく。
「あけましておめでとう、ソア」
お面の下から挨拶してきた声は、聞き覚えのあるものだった。
「そ、その声は……お父さん?」
「あっという間に当てられたな」
ディーグは笑って龍のお面を外した。
「び、びっくりしましたー。……というか、なんでそんな恰好なんですかー?」
まさかホテルのロビーでかぶり物をした父と対面するとはと、ソアが言うとディーグは満足そうに良く出来た龍のお面を叩いた。
「たまにはこういう挨拶もいいだろう。パラミタでは今年は辰年なんだろう?」
2022年。地球は寅年だけれど、パラミタでは辰年だ。それを知っているディーグは、龍のお面をかぶってソアを迎えたのだった。
少し厳格な部分もあるディーグだが、こうしたユーモアを持ち合わせてもいる。変わらぬ父の茶目っ気を、ソアは嬉しく思うのだった。
ホテルの部屋に荷物を置くと、ソアはディーグと夕食をとった。
パラミタでの出来事、友人のこと等々、離れていた間のことを色々報告するソアの話を、ディーグは感心して褒めたり、質問を差し挟んだりして熱心に聞いてくれた。
「そうそう、この前、お父さんがパラミタで会いに来てくれたのは嬉しかったです」
ソアとディーグが会ったのはほんの短い時間だったけれど、まさか向こうでディーグに会えるとは思っていなかったから信じられないくらい嬉しかった。
「お母さんの行方を捜しに行った後、お父さんはそのまま地球に戻ってしまいましたけど、何か手がかりは見つかったでしょうか?」
忙しい父が1週間の時間をやりくりしてパラミタに来るのは大変だったことだろう。
それだけ父も母を見付けようとしていてくれるのだと思うと、ソアの胸の内は温かいものに満たされる。
「母さんについては……どうやらシャンバラ王国外にいるようだ」
「そうなんですか?」
「ああ。母さんのことを知っている守護天使と会ってな。彼女に協力を頼んだので、時間はかかるだろうが行方がつかめるかも知れない」
思わぬ母捜しの進展に、ソアは椅子から飛び上がりそうになった。
おぼろげな記憶しかない母とまた会えるかも知れない。
「いつかお母さんと再会できたら、3人で仲良くご飯を食べたりしたいですねっ」
父と差し向かいでする食事がこんなに楽しいのだから、ここに母が増えたらどんなにか楽しいことだろう。
ディーグも3人で囲む食卓を想像するように視線を巡らせる。
「そうだな。娘らしくなったソアを見たら、母さんもきっと喜ぶことだろう」
いつか家族3人で、笑顔で食事が出来る日が来ますように。
そう願いをかけながら、ソアとディーグは美味しく食事をするのだった。
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