天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

人魚姫と魔女の短刀

リアクション公開中!

人魚姫と魔女の短刀

リアクション



【追撃・2】


「東雲……さん? 一体何が…………」
「輝さん、来ます!」
「T部隊だ」
 超感覚の銀の耳をピンと立てて暗に戦いに集中するよう促す歌菜と羽純の声に、輝はハッとして得物を構え直す。
 東雲に何かが起こった。それは分かっているが、今は残念ながら『それどころではない』。戦線に復帰して行く輝を見守って、歌菜はほっと息を吐き出すと、施設の表から時折響いてくる歌に合わせる様にしながらも、歌菜自身の歌を紡ぎ始めた。
 ワールドメーカーの創作の集大成とも言えるこの攻撃は演者自身のイメージが実体化するスキルだ。
 この時歌菜が唄いながら心に思い描いていたのは『無数の槍』だった。
 音が一等高い位置まで着た瞬間現実の者となったそれらは、施設裏に駐車されている車両のエンジンへ向かって次々に突き刺さって行く。
(キアラちゃんに『任せて』って言ったんだもの、しっかりカッコいいとこ見せちゃいますよ!)
 先輩魔法少女としてそんな事を思いながら、歌菜が瞳を閉じると、紡がれていた歌に彼女の魔力が籠もり、無数の雨となって警備員やT部隊の警備兵に降り注ぐ。
 警備員は数が多いのが厄介だったが、歌菜のこの全体に渡る攻撃――そして彼女の歌に合わせて剣舞のように、優雅とすら思える動きで刃を振るう羽純により、彼等は陣形を崩し、契約者たちを囲む事が出来ずに居た。

 警備員らにとって更なる脅威となったのは、輝率いる機晶姫の存在である。
「手加減なしてぶっ壊しますよ!!
 …………施設の中じゃなくて『裏』だから大丈夫……ですよね?」
 律儀に確認を取ると、トーヴァが「オーケー」と砲撃の音に声でも分かるようウィンクを返してくれるのに、瑞樹はニッと笑って彼女専用の汎用攻撃デバイスのデフォルト形態である大剣の柄を握りしめる。
「うおおおッ!!」
 車両が木っ端微塵になる程のフルパワーの斬撃を与えていく容赦のない姉の背を見て、真鈴は踵を返した。
(ここはお姉ちゃんに任せて大丈夫だよね)
「私は警備員たちのところに――!」
 滑り込む様にプラヴダ兵士たちの前へ躍り出ると、真鈴は彼等が対峙していた警備員に向かって強力な電撃を発生させつつ後ろを向く。
「お願いします!!」
 彼女の声に、兵士達は警備員達を取り押さえていく。
「……ありがとうございますっ」
 ぺこりと頭を下げた、真鈴の顔に浮かんでいる花が綻ぶような笑顔に、兵士達の何人かが恋に落ちたとかそうでないとか……。
 そんな様子を少し離れた位置から見て、灯は「ふぅー……む」と腕を組んだ。
「大体事情知っちゃったし、今更あたしだけ帰るなんて無理だよねぇ……。
 何しろマスターが本気になってるし……しょーがない、あたしも全力出してみようかなー」
 軽いノリで言いながら、肩に装着した大型レーザーキャノンを開いた。
「人相手じゃないし……、遠慮なく全部撃沈させるとしますか♪」
 灯がヘリコプターに攻撃を加えている間に、輝がその背中を守る。
(ちょっとまだ不安だからね)
「今度こそは、冗談抜きで全力で護ります!」
 覚悟を言葉にして、輝は槍を突き出していく。

「通信兵!」
 何処からか地面が減り込む程の衝撃と共に飛び込んできた上官に目を見張る通信兵に片眉を上げて、トーヴァは舞い上がる硝煙を剣で振り払う。
「スヴェンソン中尉……、驚かさないで下さいよ」
「ごめんごめん。定時連絡は?」
「今まさに――。『あちら』のご好意でFACを出して貰えるとの事ですが」
「丁重にお断りして」
「そう仰ると思ってましたよ」[CP(*本部)へ、こちらラビットパンチ――]
 通信兵の連絡を後ろに聞きながら、周囲をぐるりと改めて見回したトーヴァは、しっちゃかめっちゃかになった駐車場の状況に悪戯っぽい笑顔を浮かべる。どのような状況であっても不殺を貫く契約者は多いが、この場で彼等が相手しているのは卑怯者たちの逃走用車両だ。皆全く容赦が無く、下手をすれば楽しそうな位で――、というか実際笑顔を浮かべているものもいた。
 『美女の最高の戦闘服』を身に纏ったセレンフィリティ(と、もうそんなパートナーに免疫がついてしまっているセレアナ)だ。
 契約者と軍の突入により施設内部から逃げてきた職員や研究員らは、まずこの場から逃げようと揃って施設裏の駐車場へと向かう。
 その時点で職員らの多くは待ち構えていたプラヴダの兵士に捕らえられるのだが、一部が警備員によって手厚く保護を受け逃がされるのだ。しかし彼等は行き着く先で既に廃材と化した車両を前に茫然とする事となる。
 それらを誘導しようと出張ってくるのが、警備員であり、車両を破壊する契約者を止めようとするのがT部隊なのだが、職員どころか彼等も合わせて茫然とさせてしまうのが、セレンフィリティの存在だった。
 大荒野という舞台のお陰で通常よりも更に派手に硝煙が巻き起こるこの場所で、ビキニ。強く美しく、ちょっとエッチなお姉さんを前にビッチ中尉によって訓練されたプラヴダの兵士だけは異様に盛り上がっているが、一般的には頭がどうかしているとしか思えない。
「何なんだあの女は――」
 と、人間として当たり前の反応で呆けた相手が動きを止めている間に、セレンフィリティは持参していた対イコン用の機晶ロケットランチャーをぶっ放すのだ。
 『壊し屋セレン』の本領発揮だ。
「あはははは!! どっちを向いても壊し放題!! もう最高、感じちゃうわ!」
 破壊という彼女の中では性交に勝るこの快感に、恍惚とした表情で喘ぐような笑い声を上げるセレンフィリティ。
 ところで彼女、『こんなん』でもシャンバラ教導団の少尉なのである。尉官が他軍の作戦に参加してこんな危ない発言してていいのかという心配も有るかも知れないが、そもそもプラヴダ自体が外向けには『(自分達の)平和のための奉仕活動を(契約者の中隊という戦力で無理矢理捩じ伏せながら)行う組織』を唄う怪しげな団体である為その辺りは――
「まあ良い訳無いんだけど……」
 ふっと息を吐き出して、セレアナはパートナーへ防御力や攻撃力を上げるサポートのスキルを送るのを惜しまない。
 無論セレアナは知っている。
 セレンフィリティがあれを趣味だけでなく、半ばマジでやっているのを。
「ビキニの女がツインテールを振り乱して破壊行為だなんて、見ててまともじゃ居られないものね」
 言いながら数メートル先の車両のエンジンに太陽光をエネルギー源とする銃のエネルギー弾を撃ち込んで、その場から走り去る。そんなセレアナの耳に、パートナーのあだっぽい声が聞こえていた。

「で、今度はあんたらがあたしを楽しませてくれるわけ?」
 きっとセレンフィリティは今、怯えきった施設職員を前に妖艶な笑みを浮かべているのだろうと思うと、セレアナが戦いに引き締めていた唇からは、思わず笑みが溢れてしまうのだ。