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リアクション
1章 過去と現在と未来が交わる場所
契約者たちのイコンを乗せ、超巨大空母ガーディアンヴァルキリーが発進した。
目的はただ一つ。全高300メートルの超大型イコン型機甲虫、【サイクラノーシュ】を止める事だ。
「就役早々にこの強敵……素晴らしいですねぇ」
ガーディアンヴァルキリーの艦長であるミュート・エルゥ(みゅーと・えるぅ)がモニターでサイクラノーシュの雄々しき姿を捉え、にやりと笑う。
サイクラノーシュは文字通りの強敵だ。共生している【サートゥルヌス重力源生命体】の力を利用して時間操作を行う他、惑星間攻撃を想定とした超遠距離砲撃を可能としている。
……既に被害は出ている。都市部への直撃は避けられたものの、サイクラノーシュの砲撃で空京、ツァンダ、ヒラニプラ、ヴァイシャリー、ザンスカール、葦原島の周辺に幾つものクレーターが出来ているのだ。
「……この前、出られなかったのは幸運だったかもね。なんて化け物よ、ったく……!」
ヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)が戦慄を帯びた声で呟く。
フェイミィの言う通りだ。サイクラノーシュを放置すれば、確実にパラミタは滅びる。否応なく高まる緊張感の中、リネン・エルフト(りねん・えるふと)は静かに告げた。
「……行くわよ」
大廃都周辺は、数多の『泡』に包まれている。虹色に輝く泡が幾つも幾つも生まれては弾け、弾けては生まれ、大廃都の周囲一帯を侵食している。
サイクラノーシュが使う力の一つ、時間乱動現象だ。時間と空間を無視して発生するあの泡を避けて通る事は不可能だ。真っ正面から突っ切るしかない。
――推進機関全開。契約者たちのイコンを乗せた超巨大空母【ガーディアンヴァルキリー】が暗雲を引き裂き、虹色の泡に突貫する。
ガーディアンヴァルキリーが虹色の泡の内側に入り込んだ瞬間、リネンの意識を『未来』に飛ばした。
■再現された未来■
リネンの意識は未来に飛ばされていた。
有り得るかもしれなかった、もう一つの未来。タシガン空峡にて、【シャーウッドの森】空賊団とフリューネと王国軍が対峙する光景だ。
「リネン、今ならまだ戦いを治める事は出来る。あなたとは戦いたくないのよ」
それは、事実上の降伏勧告だった。
フリューネの言葉に応え、リネンが叫ぶ。
「なら、フリューネが私たちの仲間になればいい!」
フリューネは悲しみを湛えた表情を見せ、首を横に振る。それは、リネンも同様だった。
雲海の利権を巡り、空賊団と王国軍は一触即発の状況に追い込まれていた。もはや戦いを避ける事は出来ない。お互いに背負う物が大きすぎたのだ。
――戦闘が始まった。空賊団と王国軍が激突する。フリューネが槍で空賊を薙ぎ払い、リネンが剣で王国兵を斬り払う。
空賊が、王国兵が、次々と雲海に落下していく。リネンのパートナーが愛馬で空を駆け、フリューネに心中を吐露する。
「なんでだよ! あんたの周りには多くの仲間がいるじゃねえか! オレにはリネンしかいねぇのに……なんでリネンまであんたの方しか見てねえんだよおっ!?」
「私だって戦いたくなんてっ!!」
リネンのパートナーとフリューネが互いに突きを放つ。一瞬の交錯の後、死闘を制したのはフリューネだった。
「あんたはリネンをっ……!!」
胸を槍に突き刺され、リネンのパートナーは愛馬と共に雲海に落ちて行った。……リネンのパートナーが強かったがために起きた出来事だ。フリューネは全力を以てしか彼女に応える事は出来なかった。
リネンのパートナーが死亡した事で戦闘は王国側に優勢となった。数多の王国兵を倒してきたリネンでさえも、パートナーの死亡は心に響いた。
そして、かつての友であるフリューネに刃を向けることは出来なかった。リネンは、降伏という道を選んだ。
「私を殺せばこの戦いは終わる。お願い、罪は私が背負うから、恩情を……」
リネンは、自身の命と引き換えに配下の助命を嘆願した。フリューネは、深く頷いてみせた。
「分かってる。それ以上言わなくていいわ。……さようなら、リネン」
「さようなら、フリューネ。私、本当はフリューネみたいに……」
フリューネの槍が振るわれ、リネンの命が絶たれた。
■現在■
時間乱動から復帰したリネンは、意識を取り戻した。
「……! 今のは……!」
リネンは未来を垣間見ていた。
時間乱動現象は過去だけでなく、未来をも『再現』する。フリューネと戦う未来を見てしまったリネンは、ショックを受けた。
だが、堪えた。心が決壊する寸前でリネンは踏み留まり、揺らぐ心を制御し、真っ直ぐに敵を見つめた。
「こういう結末もあり得た……で、しょうね。けど、もう今は消えた未来よ……!」
胸中の惑いを振り払うべく、リネンは【ガンファイア・サポート】で仲間の空賊船を招集をかけた。
暗雲の彼方より幾つもの空賊船が現れ、ガーディアンヴァルキリーの下に集う。
「本領発揮と参りましょうかぁ……カタパルト接続、出撃どうぞぉ?」
ガーディアンヴァルキリーのリニアカタパルトから、11機のイコンが亜音速で射出される。コスモス、改造サイクロン、レイ、ノイエ13、魂剛、クェイル、ロッツ・ランデスバラット、{ICN0005651#マルコキアス?}、ストーク強行偵察型、SSサイズ猫耳イコン、そして、サタディ・サタディ(さたでぃ・さたでぃ)とヨルク・ヴェーネルトが駆るイコン型機甲虫【ホワイトクィーン】。
計11機のイコンの発進を確認したリネンは、残る2機のイコンに告げた。
「最後の戦い……2人に任せるわね」
「はい! 必ず、サイクラノーシュを止めてみせます!」
「……私は白き王を破壊します。全力を以てしても討ち取れなかった場合、内部でザーヴィスチを自爆させます」
「そんな事はさせません! 私は……誓ったんです! 皆を助けるって!
その『皆』の中には、佐那さんも入っているんです!」
「……ならば、好きにして下さい。私は私なりにやらせて貰います」
アンシャールとザーヴィスチの2機はサイクラノーシュ内部での決戦に向け、整備用ドッグで修理と補給を行っていた。
遠野 歌菜(とおの・かな)と富永 佐那(とみなが・さな)が互いの思想をぶつけ合う中、リネンはブリッジでミュートに語りかけていた。
「ジェネレーターの破壊とあわせて胴体に突っ込むわ……できるわね、ミュート?」
「出来ますよぉ。ああ……ぞくぞくしますねぇ」
ミュートが答えた直後、ブリッジ内のレーダーが敵機接近の警報を鳴らした。
サイクラノーシュを護衛している【ブラックナイト】の群れが接近しているのだ。窮地を見て取ったヘリワードがデファイアントを駆って空に出る。
「親衛騎兵隊、出るわよ! 艦隊を防衛する!」
ヘリワード率いる【空賊団 親衛天馬騎兵】、そしてリネンが駆るネーベルグランツがガーディアンヴァルキリーから出撃し、サイクラノーシュを取り巻くブラックナイトの軍勢と激突する。
――サイクラノーシュとの最終決戦が幕を開けた。
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