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第一章 前情報は確実に

「さー皆さんフリップは行き届いてますねー? それじゃ、れっつしんきんたーいむ!」
 金元 ななな(かねもと・ななな)の言葉を皮切りに、一斉に皆手元のフリップボードへ何やら書き込みだす。が、時折手が止まったり考え込む様子が見られる。
「みんな筆が進んでいないみたいだけど」
 アゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)が言うと、なななが顎に手を当て唸る。
「うーん、みんなちょっとお題が難しかったかな?」
「難しいとかそう言う問題じゃないと思うんだけど」
「いや、難しいと思うよ? 事前に皆口々に『良く知らない』『そもそも絡んだことが無い』『そんなの居たっけ?』とか言ってたし」
「やめて。それ以上いけない」
「あ、これアッシュくんの事ね?」
「だから追い打ちとかやめてあげて! 彼向こうで凄い事になってるよ!?」
 アゾートがそう言って曇りガラスを指さす。その向こうではシルエットしか見えないアッシュ・グロック(あっしゅ・ぐろっく)ががっくりと膝を着いていました。
「と、言うわけで事前にアッシュ君がどういう人か簡単に解説を行っちゃうよー! 皆よーく聞いて参考にしてねー!」
「ねえそれやるなら思い出すとかこの行動必要なくない?」
「はい、というわけで今回はこの人をお呼びしましたー!」
 なななに促されて、実況席までミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が拍手で迎えられた。
「どーもどーも♪ いやー何か照れるねー♪」
「では早速だけど、アッシュ君について教えてくれるかな?」
「はいよー。えーっとアッシュ・グロックだっけ? 確かイルミンの熱血少年だね。今ある情報だとぉ……」
 そう言うとミルディアは何処からかメモ帳の様な物を取出し、ペラペラとめくる。
「まず名前からだね。名前は『アッシュ・グロック』かな
「へー、そんな名前だったんだー」
 なななが感心したように頷いた。
「さっきから何度もボク言ってるけど、キミさっきから『アッシュくん』って言ってるよね?」
「他には?」
「話聞こうよ」
 相変わらずアゾートのツッコミはスルーされてしまっている。
「ちょっとまってねー……んーと、身長はっと……かなり低い印象だね。160センチ台だったはず
「うーん、なななと同じくらいなのかなー。でも低いかどうかってのはよくわからないねー、どう思う?」
「148センチのボクに聞く?」
 ジロリとアゾートがなななを睨む。
「っし!」
 そして曇りガラスの向こうのアッシュがガッツポーズ。
「なんか向こうで喜んでるね」
「何だろ。ちょっとイラっとしたよ、ボク」
 アゾートが曇りガラスを睨むが、アッシュは全く気付いていない。
「はいはい続けるよー。で、体重に関しては……小太り?
「それだけ?」
「それだけ」
 ミルディアが頷く。
「おいちょっと待て! それだけって何だよ!? 具体的な数字あるだろ!? 俺様の体重は57……」
「なななは45キロだよー。アゾートは?」
「……それ+1キロ」
「聞けよお前らぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 アッシュが叫ぶ。まぁこいつらが話なんて聞くわけがないのだが。
「んーと、後解ってる情報っていったらけっこう熱血で、正義だ何だって騒いでるっぽいね
「……さ、騒いでるわけじゃないが、まぁ間違っちゃいないかな?」
「後なんでもイルミンの森で一角を燃やしちゃったとか何とか聞いたかな……」
「それはデマだ!」
「「うわぁ……」」
「信じるなよ!」
「と、まぁ以上かな。あ、大した情報じゃないから料金はサービスってことで」
「おお太っ腹! ミルディアさんありがとー!」
「いえいえどーもっと……そうだそうだ」
 ふと、帰る前に何か思い出したかのようにミルディアが足を止める。
「彼、アッシュだっけ? 会う事があったら伝言頼める? 『悪の根絶という義もいいが、義のために己が悪になるなよ』って……面と向かって言えるキャラじゃないけど、善と正義を履き違えてるのって、昔のあたしを見てるみたいで……ね?」
 ミルディアがそう言うと、なななが力強く頷いた。
「わかった、覚えてたら伝えておくよ!」
「いやしっかり伝えろよ! つーかお前も目の前にいるんだから直接言え直接!」
「頼んだよー、そんじゃねー」
「おいぃぃぃぃぃぃぃ!」
 徹底的にアッシュがガン無視される中、ミルディアが退場していった。
「なんて不憫な……」
 ただ一人、アゾートが同情したような目で曇りガラスを見る。だが何もしない。何かしたところで痛い目を見るだけなのは理解しているのだ。
 がっくりと項垂れ膝を着くアッシュを、曇りガラス越しにアゾートは憐みの目で見つめる。まだ話は始まったばかりなのだ、と。

「ところでさ」
「ん、なーに?」
「彼女は何なの?」
 アゾートがちらりと横を見る。そこにはリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)がハリセンで自分の肩をポンポンと叩いていた。
「ああ、リカインさんはツッコミ役だって」
「ああうん、格好は本当その通りだね」
 アゾートがそう言うと、リカインは笑みを浮かべる。
「安心してアゾート君、キミだけに今回は苦労はさせないから」
「それは本当助かるよ……」
「今回はちゃんと、ななな君がちゃんとボケられるようにツッコむからね! ななな君にどれだけツッコミ入れられるかって意味だとライバルかな!?」
「助かってなかった……」
 軌道修正役を投げっぱなしにできると一度期待したアゾートががっくりと肩を落とす。一方なななは頬を不満げに膨らませていた。
「えーなななツッコまれるのー? 今回正直ネタ出すのが限界だっていうからボケとかその辺り全部投げっぱなしジャーマンするつもりの企画だっていうのにーって今電波が」
「何でもかんでも電波のせいにしないッ!」
 スパーンと小気味のいいハリセンの音が響いた。
「い、痛いよ!? 結構強いよ!? ネジ飛んじゃうよ!」
 涙目でなななが頭を押さえた。
「もう充分飛んでると思う」
 アゾートが小さく呟いた。というより最初からネジなんてあったのか。あってもおかしくないが。
「……で、こっちは何?」
 そしてアゾートがちらりと横目で見ると、全身黒タイツの何者かが立っていた。
「ああ、そっちはレオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)さんだよ。『今回デッドリストシステムが無いのが納得いかん。このままじゃ夜眠れず昼寝ばかりしてしまう』って言う事で回答権を犠牲にしてSATUGAIに回ってくれるんだって」
「意味が解らないよ」と頭を抱えるアゾートに、レオーナがサムズアップ。きっとタイツの向こうは満面の笑みだろう。もう片手に持っている【魔槍ゴボウ】が輝いている。

「……これ、本当に俺様が主役なのか?」
 曇りガラスの向こうのカオスな状態に、今回の主役……というかおもちゃ状態のアッシュが呟いた。