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リアクション
chapter.4 discovery
船を降りた生徒の中には、行方不明者のことは他に任せ、島のことや吸血鬼、魔女のことを調べようとした者たちもいた。
島村 幸(しまむら・さち)はパートナーの剣の花嫁ガートナ・トライストル(がーとな・とらいすとる)が操縦する小型飛空艇にふたり乗りし、周囲を探索していた。ガートナは剣の花嫁ではあるが男性だ。あとついでに言うと幸の彼氏だ。なので言ってみればこれは恋人同士のちょっとしたイチャつきである。そんなゲームマスターの妬みなど露知らず、ふたりは完全にのろけ始めた。
「ねえガートナ、あの説話が本当ならこの島に魔女もいるはずですよね?」
「そうですな」
「どうにか、居場所を見つけられないかな……あっ、トレジャーセンスを使ってみましょうか!」
「幸、ただ使ったのでは通常通り財宝などしか察知できないでしょう。しかしこうすれば、もしかしたら他のものも見つけられるかもしれませんぞ」
そう言うとガートナはすっと後ろを向き、幸の額に自分の額をくっつけた。
「貴女に、さらなる神の祝福がありますように」
短く祈ると、ガートナは向き直り操縦に戻った。パワーブレスをかけることで、幸のスキルの効き目を上げようとしたのだ。実際に効き目がどれほどあるのかは別として、その騎士道精神全開のガートナの振る舞いは、幸の乙女心に効果てきめんだった。幸はガートナの背中にぎゅっと腕を回して言う。
「ガートナ、よそ見運転は危ないですよ」
「失礼、つい幸の顔が見たくなりました」
「うふふ、愛ってなんて素晴らしいんでしょう。こんなに素晴らしい愛という感情を分け合うカップルに悪い人たちがいるはずがありません。私は愛し合う者たちの味方、そう、愛のマッドサイエンティストなのですから!」
「幸の言う通り、愛は何よりも尊いものですな」
回された手に自分の手を重ね、優しくガートナは微笑む。この事件が無事解決したら、ここに幸と来よう。そしてあのあたりでシートでも敷いてご飯を食べよう。そんなことを思いながら。ゲームマスターの妬みも露知らず。
彼女らと同じく、空から探索をしていた生徒は他にもいた。イルミン生のカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)、そしてパートナーで機晶姫のジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)だ。カレンは蒼空の生徒ではなかったが、説話を前に聞いたことがあり、話の真相に興味を持ってこの島へやって来たのだった。
「ロイテホーンとリーシャは、本当にずっと愛し合えていたのかなぁ」
箒に乗りながら発した言葉にジュレールが反応した。
「カレン、愛とは、永続的なものなのか?」
まだ人の感情のすべてを知りえていないジュレール。もしも。我がカレンを大切にしたいというこの気持ちを愛と言うならば。永続的であってほしい、そう彼女は思った。
「う〜ん、ボクもよく分からない……けど、きっとそういう愛もあるはずだよ!」
目を輝かせながらカレンが言う。と、彼女が上から何かを見つけた。
「ん? アレは洞窟かな?」
自分たちが乗ってきた船、その船が泊まっている場所とほぼ逆の位置に、洞窟らしきものが見えた。カレンはお気に入りの赤い手帳を取り出すと、大まかなマップに×印を書き込んだ。
「ちょっとお邪魔させてもらおっかな! 行くよっ、ジュレール!」
高度を下げ始めるカレンに、ジュレールも付いていった。
その頃地上では、鈴木 周(すずき・しゅう)が単身島の捜索を行っていた。
「参ったな、勢いで先に島へ来て歩き回ってみたけど、これもしかして俺迷子ってやつじゃねーか?」
今頃パートナーは怒ってんのかなあ、それとも呆れてんのかなあ、なんてことを周は考えた。そう、愛美たちの船に最後に乗り込んだ小さな女の子――レミは、彼のパートナーだった。「先に行って、島の様子を見てくるぜ!」と元気に突っ走る周をレミは止めようとしたのだが、周が聞く耳も持たずに先行組の船に乗ったのだ。皆より早く島へ行き、吸血鬼や島の情報をゲットできれば愛美が喜ぶだろうと思っての行動だったが、そのプランを成功させるには彼はいささか猪突猛進すぎた。
「まあいっか! とりあえず真っ直ぐ歩いてりゃ何か見つかるだろ!」
直情的な彼の性格は、長所でもあった。周は木々が茂る中、進行方向をそのままに進み続けた。
同じく地上で単独捜査をしていたのは閃崎 静麻(せんざき・しずま)だ。こちらは単独と言っても、パートナーのレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)と一緒である。ヴァルキリーである彼女はカルスノウトを構え、警戒を怠っていない。いつもより張り切ってるように見えるな、と静麻は思った。珍しく自分から行動を起こした静麻にレイナは応えようとしたのだったが、彼がそれに気付くことはなかった。
「そういや、レイナはあの説話が好きだったよな」
静麻が口を開く。
「ええ、もう暗記してしまうほど繰り返し読んだ、大好きなお話です」
「だが、現実も説話と同じかは分からない」
「……そうですね、その通りです」
「どんな話にもハッピーエンドが待ってるわけじゃない。しかし、どういう結末を迎えたとしても、俺は幕引きをしっかり見届けるつもりだ。たとえその幕を俺が引くはめになってもな」
アサルトカービンを握り締め、静麻が力強く言い放つ。
「はい、分かっています」
視線を変えないまま相槌を打つレイナ。と、彼女が何かの気配を察した。
「……静麻、気付きましたか」
「ああ。てっきりコウモリってのは夜か暗い洞窟にしか現れないもんだと思ってたぜ」
それぞれの武器を構える静麻とレイナ。ふたりを目がけて、数匹のコウモリが急降下してくる。鋭い羽をレイナが剣で防ぐと、コウモリは反動で一瞬空中に止まった。その隙を、静麻は見逃さなかった。
「悪いが、これで終わらせる」
静麻のアサルトカービンが、正確にコウモリを射抜いた。ぼとりと地に落ちるコウモリを見て、静麻が言った。
「随分と凶暴なコウモリだったな」
「他の皆さんも、無事だといいのですが……」
再び警戒を強め、ふたりは先へ進んだ。
「ねーねー早くー! 追いてっちゃうよー!?」
「ほらー、男の子でしょ? しっかり前歩かなきゃ!」
周や静麻たちとはまた別に、島を歩き回っていたのは初島 伽耶(ういしま・かや)とそのパートナー、魔女のアルラミナ・オーガスティア(あるらみな・おーがすてぃあ)だった。
「げ、元気良すぎですよ伽耶さん……アルラミナさんも」
絶えず走りっ放しの彼女らと一緒に来たことを少し後悔している彼は、大草 義純(おおくさ・よしずみ)。
「ほら、時間がもったいないよ? ばびゅーんと行こうばびゅーんっと!」
「そうだそうだ、行っちゃえ行っちゃえ!」
若さか。これが若さというものなのか。だって称号のとこに【じょしこーせー】ってあるもんなあ。若さの象徴だもんなあ、女子高生って言ったら。あれ、でもよく考えたら僕も高校生だよね? 同い年だよね? なんならアルラミナさんとか、魔女って言うからにはきっと年上だよね? あ、若さとかの問題じゃないねこれ、うん。
脳内でぐるぐる考えを巡らせる義純。彼は船から降りた時、魔女を探そうと思っていた。そこで、とりあえずひとりで探すよりはと目的が同じ人と一緒に行動することにしたのだ。その時たまたま近くで魔女を探すとはしゃいでいた伽耶たちに付いてきたのだが、彼は伽耶たちのテンションを侮っていた。レベルとか体育の数値の問題じゃない、これはキャラの問題だ。義純は一刻も早く魔女の居場所というゴールに辿り着きたくなっていた。その時、今まで聞こえなかった音が3人の耳に届いた。バサバサという羽音だ。次の瞬間、コウモリが3人の前に現れた。
「わっ、何このコウモリ、目がすごく怖いよ!」
「よーし、伽耶、ここはワタシに任せて!」
アルラミナが炎を生み出すと、コウモリ数匹は危険を察知したのか、方々に散らばった。
「あっ、こら逃げるなー!」
しかし、コウモリたちは逃げたのではなかった。ターゲットを変更したのだ。ふたりの後ろにいた義純を目がけ羽ばたいていくコウモリ。その鋭い羽が、義純の顔面を襲う。ギリギリのところで直撃はかわした義純だが、かけていたメガネがカシャンと地面に落ちた。その顔には、赤い線が1本刻まれていた。
「わあっ、大丈夫!?」
慌てて駆け寄ろうとする伽耶だったが、その足はぴたっと止まった。彼の目つきが、明らかに変わったからだった。
「おぅおぅ、たいがいにせぇやこんボンクラがぁ! ちぃと大人しゅうしよったらつけあがりよって! いてこましたろかボケ!!」
口調もさっきまでとは別人の義純が上着をバッと脱ぐと、素早く手でコウモリを掴み取る。そのまま力強く地面へ叩き付けると、コウモリは動かなくなった。
「この登り鯉を舐めとうから、そがぁな目に遭うんじゃけえ、よう覚えとけ」
そんな義純の様子と背中にある登り鯉の刺青を見て、伽耶たちはちょっと大人しくなった。
「あ、あのー、その傷、ヒールしましょうか……?」
似合わない敬語を使う伽耶。当の義純はと言えば、すっかり元に戻り、「え、あ、すいません」と丁寧にお礼をしていた。
この後伽耶とアルラミナが義純の後ろを歩いたことは言うまでもない。
◇
しばらく歩き続けた伽耶たちは、やがて洞窟に辿り着いた。伽耶が入口から中をちらっと窺う。
「すいませーん、リーシャさんいませんかー?」
中から返事はない。もう一度伽耶が呼びかける。
「おじゃましちゃってもいいですかー?」
その時、3人の後ろから人影が現れた。慌てて義純が振り返ると、そこにいたのは静麻とレイナだった。
「あぁ、びっくりした、てっきり恐ろしい吸血鬼かと思いました……」
それとほぼ同時に、空からカレンとジュレールも箒に乗って降りてきた。その後ろには、小型飛空艇に乗った幸とガートナもいる。
「わ、なんか皆集まってきたね」
一同を見て驚く伽耶。と、近くの茂みからガサガサと音を立ててひとりの男が現れる。
「あれ、皆こんなとこにいたのか?」
周だった。ひたすら真っ直ぐ歩き続けた結果、彼も洞窟に運良く行き着いていたのだ。
中から返事が返ってこないことを数回確認すると、念のため10人のうち何人かを外で見張りとして置いてから、彼らはゆっくりと中へ入っていった。外からではよく分からなかったが、中は鍾乳石などがある鍾乳洞のようだった。大きさは小さくもないが、決して大きいというわけでもなく、そこそこの広さだと判断できた。人数で言えば30、40名ほどが収容できるほどだろうか。鍾乳洞の内部は真っ暗ではないが、より細部を調べるにはやや明かりが足りなかった。
小さい炎を出し、辺りを見回していたカレンがふと立ち止まった。
「どうした、カレン?」
「しーっ」
ジュレールに向かって人差し指を口に当てるカレン。
「もしかして、君が……」
そう囁いたカレンの目の前にいたのは、黒い帽子とマントに身を包んだ、小さな女性だった。
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