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chapter.3 search 


 船からロウンチ島に降り立ったのは、各パートナーも含め約40名ほどの生徒たちだった。
 彼らは行方不明と噂されている生徒たちの捜索・救助を行うため、また島の地形を把握するため、愛美たちより一足先に別の船で島へ向かっていたのだ。彼らは船から降りると、各々の目的のために散らばった。
 ある者は行方不明者を探しに、またある物は島の探索に。そしてある物は説話に出てくる吸血鬼や魔女を探しに。

「ある程度まとまって動いた方が効率よく物事を進められると思っていたんですが……参りましたね」
 行方不明者の捜索のため船に乗り込んでいた御凪 真人(みなぎ・まこと)が、四方八方に散っていった生徒たちを見て言う。
「真人、まだ大丈夫! 諦めるのはちょっと早いよ!」
 隣で明るく言葉を発したのは、真人のパートナーでヴァルキリーのセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)
「セルファ……そんな安易に決めゼリフを使わない方がいいと思いますが」
「? 決めゼリフ?」
「ああいえ、こっちの話です」
「ふうん、まあいっか。ほら真人、まだ同じ目的の人が残ってるっぽいよ?」
 セルファの言う通り、船のそばにはまだ何名かの生徒が動かずに残っていた。
「そのようですね。ではあの方たちのところへ行きましょうか、セルファ。幸い、俺の知り合いもあの中にいるようですし」
 そうして残った集団のところへやってくる真人とセルファを見つけたのは、鈴虫 翔子(すずむし・しょうこ)だった。
「あ、真人くん!」
「知り合いがいて助かりました。翔子さんも行方不明者の捜索に?」
「うん、ボクの知り合いにも、遭難した人を探すために何人か残ってくれてるんだよ!」
 そう言って翔子が振り返ると、そこには久世 沙幸(くぜ・さゆき)、沙幸のパートナーで魔女の藍玉 美海(あいだま・みうみ)ルカルカ・ルー(るかるか・るー)、ルカルカのパートナーで剣の花嫁のダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)がいた。
「これで7名ですか……あまり大きな島でもなさそうですし、力を合わせれば発見できそうですね」
 真人がそう言った直後、数名の生徒が彼らに近付いてきた。
「すいません、私たちも捜索を手伝いたいんですが、一緒に行動させてもらってもいいですか?」
 声の主は香華 ドク・ペッパー(こうか・どくぺっぱー)。そばにはパートナーの機晶姫ディ フィス(でぃ・ふぃす)もいる。イエローのパンツにピンクの上着という派手な服装のイメージとは逆に、丁寧で穏やかな雰囲気の香華。その香華と共に真人たちのところへ来たのは、黒峰 純(くろみね・じゅん)宮坂 尤(みやさか・ゆう)、そして尤のパートナーで機晶姫のスヴァン・スフィード(すう゛ぁん・すふぃーど)だ。
「すごい! 12人もいるよ! この人数ならすぐ見つかりそうだね!」
 嬉しそうに言う翔子の言葉を、真人が訂正する。
「いえ、行方不明者捜索班はおそらく全部で20名近くはいるはずです」
 言いながら、真人はトランシーバーを取り出した。
「船の中で同じ行方不明者捜索が目的の方がいて、手分けして探した方が効率がいいのでは、という話になりまして」
「たしかに、班をいくつかに分けて連絡を取り合った方が早く発見できそうだね!」
「キャンプに来た生徒さんたちも、ここが無名の孤島である以上ボートか何かで来たはずです。海岸沿いを歩いていけばやがてそれが見つかるでしょう。そうしたら……」
「そこから痕跡を辿れば無事発見! ってわけね!」
「その通りです」
 真人は浜辺を見渡した。いくつかの足跡が真人たちの場所から向かって右側に延びている。
「どうやらもうひとつの捜索班はあちら側から探しに行ったようですね。俺たちは左側を海岸沿いに歩いて行きましょう」
「了解! よーっし、すぐに見つけ出して助けるぞー!」
 そして一同は、ロウンチ島の外周を移動し始めた。



 歩き始めて数十分。彼らの探していた手がかりは、あっさりと見つかった。小さなボートが浜に置きっ放しになっていたのだ。そこからさらに少し歩くと、焚き火の跡があった。
「思ったより簡単に見つかったねー」
 翔子がそう言いながら周辺を調べる。付近にあったのはリュックがふたつと、建てっ放しのままのテントだった。
「あれ、行方不明の生徒さんって何人だっけ?」
「学園からの情報によると、3名だそうですよ」
「んー、だったら、あとひとつリュックがあるはずだよねえ」
「それに、テントが建てられたまま、というのも気になりますね」
 真人と翔子が現場を見ながらそれぞれの意見を出し合う。
「ねえ真人、なんかこっちに獣道があるよ!」
 セルファが指差した先には、かろうじて道と呼べるほどの、通行スペースがあった。
「何か怖ろしい獣がここから現れて、生徒さんたちは襲われてしまった可能性がありますね。下手したらもう手遅れかも」
 純がさらっととんでもないことを言う。周りからの視線を感じ、「嘘です、冗談ですよ」と慌てて手を振った。彼は容姿こそ端正で爽やかさを醸し出しているが、中身は真逆でさらっと嘘はつくわ基本適当だわで、お前は蒼空の高田○次かよと周りから時々つっこまれていた。なお、思いっきり芸能人の名前であるため、さすがにこれを称号としてあげることはできないようだ。というより、きっと貰った方も困るだろうという配慮もある。
「しかし、何かに襲われた、というのはいい線かもしれません」
 何かを考えている様子で、真人が呟く。
「ここでキャンプを楽しんでいた生徒たちのところに突然何かが現れ、慌てた生徒さんたちは無我夢中でこの獣道を通って逃げた……とも考えられます」
「でも、この島には危険なモンスターはいないって……あっ!」
 翔子も、言葉の途中で気がついた。
「そう、例の吸血鬼です」
「何にしても、ここを進まなきゃ始まらないでしょ?」
 セルファが促すと、真人たちは頷き、獣道を進むことにした。

 海岸沿いのすっきりした景色と違い、前後左右が草木で覆われた、ジャングルのような風景。一行が通っている細道は陽の光もあまり差し込んでこず、昼間だというのに浜辺と比べると大分薄暗い。
「うー……暗くて怖いよぉ、美海ねーさま」
 暗いところを怖がる沙幸が思わず出した声に、相方の美海が笑顔で言葉を返す。
「大丈夫、わたくしがちゃんとついてましてよ?」
「ねーさま、離れないでね? ちゃんと近くにいてね?」
 よほど不安なのか、ちらちらと美海の方を見ながら慎重に進む沙幸。いつもは元気な沙幸だが、その面影はまったく残っていない。そんな彼女を見て、美海はふふっと笑みを浮かべると、沙海の耳元に顔を近づけた。
「そんなに近くにいてほしいのでしたら、いくらでもくっついてさしあげますわよ?」
「ひゃっ! ちょっ、ねーさまっ……!」
 美海の吐息が沙幸の耳にかかり、彼女の体が思わずびくっとなる。そうなるのを分かっていたかのように、美海は後ろから優しく沙幸を体を抱き寄せた。
「ねーさま、やだっ、こんな、他の人たちもいるのにっ……それ以上されたら私……!」
 顔を真っ赤にして言葉で拒否する沙幸だったが、その表情はどう見ても喜んでおり、受け入れているようにしか見えなかった。
「ふふ、可愛いですわね沙幸さんは。でも、おふざけは今日のところこのへんにしておきましょうか」
 すっと沙幸から離れる美海。彼女は「あ……」と少し淋しそうな声を漏らした沙幸の手をそっと握ると、前へ進み始めた。握られた手を見つめ、照れながらも沙幸は美海に引っ張られるように歩き出した。

「随分大きな荷物ですね」
 その少し後を歩いていた香華が、近くにいた尤の大きなリュックを見て話しかけた。
「備えあれば憂いなし、って言いますしね。役に立ちそうなものを色々持って来たら、こんなになっちゃいました」
 温和そうな外見そのままの口調で、尤が答える。彼のリュックには、ロープや懐中電灯、包帯や傷薬、携帯食料に加えご丁寧に虫除けスプレーまで入っていた。
「最初は相方とふたりで行動しようと思ってたんですが、彼女に文句を言われましてね」
「尤、おぬしが考えなしにふたりで捜索しよう、などと言うからでしょう?」
 パートナーのスヴァンが会話に入ってくる。
「ふたりでは、遭難者が動けない場合困るのは目に見えているというのに……」
「あはは、スヴァンさん、お互いパートナーには苦労しているみたいですね」
 そう言って笑った香華の後ろから、恨めしそうな声が聞こえた。
「苦労とはなんでございますか香華様! ワタシはメイドとして立派にお仕えしてるのでございますよ!」
 声の主は香華のパートナー、ディだった。本人はメイドと言っており、たしかにメイド服も着ているのだが、クラスはれっきとしたセイバーだった。機晶姫である彼女には高性能メイドOSが入っているのだが、製作者の趣味なのか何なのか、「不器用」という不必要極まりない設定が組み込まれていた。いや、一部の人間には必要な設定かもしれない。しかし残念なことに、ここはそういった恋愛アドベンチャー的な世界ではなく、蒼空のフロンティアである。とにかくそういった理由で、ディはしょっちゅうドジをしては周りの仕事を増やしているのだった。もっとも、相方の香華はそれを楽しんでもいるようだったが。
「うん、そうでしたね、立派ですよディは」
 なので、彼女の扱いも手馴れたものだった。
「……なんだか、随分慣れてますね、女性に」
 尤の言葉に、嬉しそうに香華が答える。
「実は私、日本に彼女がいて、今遠距離恋愛中なんです。もしかしたら、そのおかげかもしれないですね」
「遠距離恋愛かあ……素敵ですね、愛って」
「尤、おぬしが言うとなんだか違う意味に聞こえるのは気のせいですかね」
 再びスヴァンにつっこまれる尤。尤は男性だが、一見女性にも見えるその容姿とその温和な性格も相まって、幅広い愛を持っていた。彼のポリシーは「愛に性別はない」だった。
「気のせいですよ、スヴァン」
 そう言われたものの、たぶん気のせいではないな、とスヴァンは思った。もちろん、それを口には出さなかったが。
 一行はとりあえず手がかりが見つかったという安堵感もあり、和気藹々と道を進み続けた。彼らからは見えないが、太陽はちょうど空を昇りきったところだった。



 ロウンチ島には、洞窟がふたつある。ひとつは小さな洞穴。もうひとつはそれよりもやや大きめの鍾乳洞である。
彼ら捜索班が見つけたキャンプ跡や獣道からやや離れた場所に、その鍾乳洞は存在する。そして、その鍾乳洞から影がひとつ現れた。
「朝が、終わったか……」
 年の頃は一見したところ40過ぎといったところだろうか。赤い瞳と銀色の髪を持ったその男は妖しくも端麗な佇まいをしており、開いた口からは2本の牙が見えた。その男は幾ばくかの間後ろを見つめると、聞き取れないほどの小さい声で何かを呟いた。再び前を向いた男は、ゆっくりと鍾乳洞を出た。