蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

【新米少尉奮闘記】甦れ、飛空艇

リアクション公開中!

【新米少尉奮闘記】甦れ、飛空艇

リアクション

 実際の作業が始まってしまえば、参謀科の面々はほぼ手出し出来ない。
 出来たとしても、言われた工具を持ってくる、ゴミを捨てる、右のものを左へ動かす、程度の軽作業だ。指示もなしに不用意にふらふらしていては、逆に邪魔だ。
 カーンカーンと小気味よい金属を打つ音が響く中、頭脳労働担当の面々は隅の方で大人しく見守っている。
「さ、ちゃっちゃと取り付けちゃおう!」
 一方、技術屋たちは瞳を輝かせて作業に取りかかっていた。
 ルカルカ・ルーとダリル・ガイザックは船体横に取り付ける武装の搭載作業を、戦部小次郎は他の数名と共に、翼部分に搭載する武装の取り付け作業を開始する。

「うーん、なかなか気の強い子ですね……」
 管制室で火気制御プログラムを組んでいるのは、一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)だ。
 下手にシステムに侵入すると鹵獲防止プログラムが発動するということは既に判明している。
 自爆装置の類は既に物理的に除去しているので、ここで飛空艇が大爆発、ということは無いが、システムにヘソを曲げられてしまっては新たな制御プログラムを組み込むことができない。
 一条は、小暮が朝野未沙から渡されたファイルの、システム関連の記述を片手に少しずつ、プロテクトを解除していく。
「良い子ですから、ちょっと入れてください」
 システムに語りかけるように、一条は手にしたノートパソコンのキーを叩く。
「アリーセ殿……自分には、そんなに優しくしてくれたことないであります……」
 その足元で、計算などのサポートをしているアタッシュケース型機晶姫・リリ マル(りり・まる)がちょっぴり寂しそうに呟いた。

 一方、飛空艇の船底部を修繕しているのは湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)だ。
 慎重に外板を外し、必要と感じられれば資料とするためにデジカメで写真を撮っておく。
 それから、痛んだ外板は外して新しい物と取り替える。
 その調子で、次々に外板の交換を進めていく湊川に、パートナーの高嶋 梓(たかしま・あずさ)がクッキーを差し出す。
「お疲れ様です、無理なさらないでぐださいね」
「ん……おお、ありがとう。悪いけど、そこのモンキーレンチ取ってくれ」
 差し出されたクッキーを銜えながら、湊川は少し離れた所にある工具箱を指さした。
 しかし、高嶋が振り向くより早く、ソフィア・グロリア(そふぃあ・ぐろりあ)が工具箱から言われたモンキーレンチを取りだして、湊川の元まで運んだ。
 その横では、アルバート・ハウゼン(あるばーと・はうぜん)が外された外板をどこかへ片づけている。
 三人のサポートもあり、湊川の作業は順調に進んでいく。

「火気制御プログラム、完成しました」
「オッケー、配線してみるぜ!」
「内壁の設置、出来たぞ」
 ガイザックが制作した図面に、次々色が付いていく。
 それをただ見守るしかできない小暮は、じれったい思いで立ったり座ったり、パソコンを覗き込んだりしていた。
「小暮君……じゃない、少尉、疲れてない?」
 そんな小暮に、進捗を報告に来たルーが声を掛けた。
「いえ……自分はなにもしていませんから」
 手伝った方がいいのかじっとしている方がいいのか、という気配を滲ませている小暮に、ルーはふふ、と笑った。
「大丈夫、みんなプロよ。作戦隊長は、どーんと構えてればいいの」
「……はい」
 ルーの気遣いに、小暮はふっと笑顔を見せた。

 そして、日もとっぷりと暮れたころ。

「よし……気密チェック……OK。完成だ!」
 最後の点検をしていた湊川が、快哉の声を上げる。
 一瞬遅れて、その作業を見守っていた面々からも、喜びの声が上がる。
 飛び跳ねて喜ぶ者あり、ガッツポーズを見せるものあり、表情一つ変えずに、しかし嬉しそうに口の端を歪める者あり、思い思いにひとつの仕事をやり遂げた達成感を表出する。
 外装を修繕され、マットシルバーに塗り直された機体は、まるで新品のようにぴかぴかに輝いている。
「みんな……お疲れ様でした!」
 一つの任務をやり遂げた小暮もまた、少しだけ喜びに任せて声が弾む。
「小暮少尉に、敬礼!」
 号令を掛けたのは誰だったのだろう。誰からともなく上がった声に、一同は笑顔で敬礼の姿勢を取った。

「……ありがとう」
 
 そして小暮もまた、敬礼をもって返す。
「なあ、みんなで記念撮影しようぜ!」
 そう言い出したのは、先ほどまで作業にデジカメを使っていた湊川だ。
 反論など出ようはずもなく、作業に参加したメンバーは飛空艇の足元に集合する。
 机の上にデジカメを置き、湊川がタイマーをセットした。
 かしゃ、と小気味良い音を立てて、オイルや塗料にまみれたみんなの顔が記録される。

 その真ん中で、小暮は誇らしげに微笑んでいた。


−幕− 



担当マスターより

▼担当マスター

常葉ゆら

▼マスターコメント

ご参加頂いた皆様、ありがとうございました!
無事に飛空艇は甦ることができました。
これも皆さんのご協力があってこそ。小暮も喜んでいることでしょう。

今回は、PCさん同士の絡みを増やそう、と密かな目標を立てて執筆させて頂きました。
また、軍事ものなので……ということで、地の文での呼称を名字に統一させて頂きましたが、如何でしたでしょうか。次回からは多分、普通に戻ります。

また次回シナリオでお会いできれば幸いです。ありがとうございました。