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リアクション
先発の部隊が見事な先制攻撃を決めたお陰で、蛮族達の足並みは乱れた。
「これで、安全に通過できる可能性は65パーセントから75パーセントまで上昇か……でも、まだ巨獣が残ってる……」
「少尉殿、お客さんだぜ!」
偵察部隊から送られてきた情報を集約している小暮の頭上から、相変わらず荷物の上で、しかし油断無く警戒に当たっていた朝霧垂の声が響いた。
足並みが乱れたとはいえ、向こうも素人衆団ではない。数匹の、サイに良く似た巨獣を先頭に、数十人の蛮族が押し寄せてくる。
偵察部隊に寄って少し人数は削られたとは言え、その数はまだ二十以上だ。
「よし……迎撃準備を! ただし護衛班はトラックから離れ過ぎないように!」
小暮は通信機を手にすると、固い声で指示を出す。
通信機特有の少しざらついた音声を受け、トラックに併走していた三船 敬一(みふね・けいいち)は走らせていた自動車のブレーキを踏んだ。
古めかしいツードアクーペの乗用車は、停止の反動でがくんと大きく揺れてから停まる。
「おでましだな」
錆の浮くドアを開いて、トレンチコート姿の三船が下りてきた。愛車は、格安なものだけあって機動力は今ひとつ。小回りも利かないし、なにより巨獣に踏まれたらひとたまりもない。
三船は車から降りると、ダッシュローラーを手早く装着し、空を仰ぐ。その視線の先では、パートナーのコンスタンティヌス・ドラガセス(こんすたんてぃぬす・どらがせす)が、レッサーワイバーンに乗って待機している。
作戦開始だ、と目で合図して、三船はずん、ずんと揺れ始めた地面の先を睨み付ける。
数体の巨獣が、こちらへ向かってくるのが見えた。すぐに輸送部隊と衝突するだろう。
三船は登山用のザイルを握りしめると、ダッシュローラーの機動力を活かして巨獣の足元目指して駆け出す。
小さい山のように見えていた巨獣、そしてその後に続く蛮族達との距離が、一気に詰まる。
はばたきの音でドラガセスが追従してきている事を確認し、三船は懐から機晶爆弾を取り出し、一匹の巨獣の足元へと投げつけた。
高性能な機晶爆弾とは言え、分厚い皮膚を持つ巨体を一撃で倒す事は不可能。かといって、複数の巨獣が密集している現状で、あちらのふところへ切り込むのは不利。そう判断しての、陽動である。
予想通り、至近距離で爆発に巻き込まれた一匹が、怒りの形相で三船の方へと向いた。
「さあ、来い!」
挑発的に手招きする三船の方へ、一匹の巨獣が突進してくる。大きなツノを持つ、サイに良く似た四つ足の巨獣、その名もパラミタサイだ。ただしサイズは普通のサイとは比べものにならないが。
三船は勢いを付けて地を蹴る。
巨体に任せて体当たりをしようとしている巨獣の足元に潜り込むと、登山用のザイルをその足へ絡めた。
死角に回り込まれ、巨獣を操っている蛮族は慌てて手綱を取るが、三船はちょこまかと四本の足の回りを回ってザイルを張り巡らせる。すると、ついに足を縺れさせた巨獣は、その場にドォと横倒しになって倒れた。
「今だ!」
三船は空を見上げて叫ぶ。
十二分な高度まで上昇していたドラガセス操るワイバーンが、その声と共にくるりと地面を向いた。
そして、そのまま加速しながら垂直に降下してくる。
重力が手伝って、ワイバーンの落下速度はどんどん上がる。狂気とも言える速度に達した、その瞬間。
轟音と共に、ドラガセスの手にした槍が深々と巨獣の皮膚を貫き、肉を抉っていた。
オオオォ、と巨獣の喉から悲鳴が漏れる。
激痛に藻掻くが、
足がザイルに絡まっている為立ち上がることが出来ない。
しかしドラガセスの方も、急激な落下の衝撃から、すぐには立ち直ることが出来ずにいる。
そこへ上空から、パンと鋭い銃撃の音が響き渡った。巨獣が再び悲鳴を上げる。
三船とドラガセスが視線を上げる。
するとそこには、黒い翼で宙を舞う、グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)の姿があった。
エンドロアの足には、今し方銃撃を放ったファイアヒール。サッとエンドロアが右の足を振ると、仕込まれた銃が再び巨獣目掛けて弾を発射する。
「アウレウス!」
エンドロアが吼える。
パートナーであるアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)がエンドロアを追い抜くように、強化された光翼で空中を駆ける。
「ハァアアアアッ!」
そして、構えた幻槍モノケロスを勢いに乗せ、空中からの鋭い一撃を叩き込む。
ドラガセスが破った皮膚をさらに抉るように、アルゲンテウスの一撃が決まる。
身体の深いところまで抉られた巨獣は、ついにその場にぐったりと力なく倒れた。
「よくやった!」
エンドロアは快哉の声を上げ、アルゲンテウスの元まで下りてくると、拳を握ってみせる。
「主!」
が、アルゲンテウスの鋭い声と背後からの殺気に、咄嗟に振り向く。
モヒカンを振り乱した蛮族が、大鉈を振りかぶってエンドロアに襲いかかる。
しかしエンドロアは、軽い身のこなしで咄嗟に飛び退く。歴戦で培われた経験が有ればこその動きだ。
さらに素早くアルティマ・トゥーレの一撃を放つと、蛮族の男はその場に凍り付く。そこへ、アルゲンテウスのランスバレストが決まった。
「いくよっ、陽子ちゃん、芽美ちゃん!」
巨獣をその視界の端に捉えた霧雨 透乃(きりさめ・とうの)が、自分の足元を低空飛行している緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)と、霧雨よりもさらに上空を飛行している月美 芽美(つきみ・めいみ)に向かって合図の声を上げる。
足に装着したプロミネンストリックの出力を上げる。それに従うように、緋柱と月美の二人も、各々の操るフレアライダーとプロミネンストリックを加速させる。
三人は高度差を保ったまま、一体の巨獣目掛けて突き進む。
「美味しいお肉を手に入れるチャンス、逃すわけにはいかないよ!」
「ええ、分かっています」
護衛の面々のうち、数人が同時に巨獣を目指して走り出している。貴重な食材――巨獣の肉を手に入れる為には、後れを取るわけには行かない。
と、空気を裂いて衝撃と閃光が走る。誰かが投げた手榴弾か何かが炸裂したらしい。巨獣が一匹、それに釣られて方向を変える。
そちらに行かないまでも他の蛮族や巨獣達の意識が一瞬逸れる。
その瞬間を狙い、霧雨は眼下の緋柱と視線を交わすと、一気に加速する。見る間にサイの巨体が迫る。
霧雨は握りしめた左の拳に全身の力を集める。防御に回す力は疎かになるが、気にも留めない。
緋柱の方も、フレアライダーを加速させながら自らの光条兵器――左手用の真っ赤なナックルを具現化させる。
小さな存在が二つ、自分へ向かってくることに漸く気付いた巨獣が吼える。その上に乗っている蛮族もそれでやっと気付いたか、手綱を取って霧雨達の方へと巨体を走らせる。
どちらも飛び道具などは持っていない。躊躇なく、両者の距離が縮まり――
ぱあん、と小気味よくさえ聞こえる音が二つ、巨獣の分厚い皮膚に叩き込まれる。
顔面に霧雨の左拳による疾風突き、腹に緋柱による光条兵器の一撃を食らった巨獣は、反動で大きくのけぞる。乗っている蛮族がうわぁとバランスを崩した。と、そこへそのタイミングを見計らったかのように、月美が狙い澄まして蛮族の真上から急降下する。
バランスを失った蛮族は為す術無く上空を見上げる。次の瞬間、月美の足が蛮族の身体を踏みつけるようにして捉えた。と、同時に鋭い電撃が蛮族を襲う。
ぎゃぁあああ、と喉から絞り出すような悲鳴を上げた蛮族は、ひくひくと身体を痙攣させながらのたうちまわる。
「散りなさい」
うふふ、と愉しそうに笑いながら、月美は未だに痺れている蛮族の鳩尾にしなやかな蹴りを叩き込む。ぐへ、と声とも呼気ともつかない音を漏らす蛮族にさらに追撃を加えて地面に叩きつけた。
乗り手を失った巨獣は、耳障りな鳴き声を上げて首をぐるりと巡らせる。その視線がぎろりと霧雨達を捉えた。
霧雨は怯まずに再び拳を握りしめると、ツノを避けるように身軽に回り込み、その眉間に向かい左の拳を叩き込む。
サイの分厚い皮膚越しでも、その一撃は充分な衝撃を与える。ぐらり、と目を回した巨獣が足元をふらつかせた隙を逃さず、緋柱が再び腹の下から内臓を揺らすような左アッパーを放つ。げぇ、と苦しそうに鳴いて、巨獣はその場に横倒しになった。
「よし、次行こう!」
満足げな顔で笑うと、霧雨達はさらに多くの巨獣を仕留めるため、方向を変えて飛んでいく。
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