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リアクション
「砲撃距離に接近しました。レーザー、いつでも行けます」
魯粛達が時間を稼いでいる間に蛮族達の元へと忍び寄っていた相沢洋と乃木坂みとの二人が、颯爽とサンタのトナカイを駆り蛮族達の真上に姿を現した。
「敵影確認、距離よし。パワードレーザー、拡散モード。」
相沢は身につけたパワードスーツのレーザー砲の銃口を眼下へと向け、照準を絞る。
引き金を引くと、無数のレーザービームが大地を薙ぐ。
一瞬遅れて蛮族達の悲鳴。
しかし、拡散させているが故に一発当たりの出力は低く、数名の蛮族が熱い熱いと飛び跳ねている程度、致命傷や戦闘不能には至らない。
「みと! パワーリチャージに入る。全力での空対地魔力爆撃許可、操縦は私が変わる。輸送トラックに敵を近づけるな」
「魔力爆撃承認確認しました。目標、敵戦力。広範囲魔力爆撃を実施します! 友軍の皆さんは注意してください!」
トナカイの手綱を相沢に渡した乃木坂が、詠唱の姿勢を取りながら周囲へ警告する。
「っと、ちょっと待った!」
と、そこへ小型飛空艇を操るトマス・ファーニナルが割り込む。
その足元では、魯粛達ふたりが、相沢のレーザー攻撃を辛くも避けながらも、蛮族達に追われていた。
「魯先生! テノーリオ!」
ファーニナルが高度を下げて二人に接近する。と、テノーリオ・メイベアが、手にしたロープを投げ縄の要領で飛空艇に向かって投げつけた。先端に作られた輪が翼に掛かり、一瞬飛空艇がバランスを崩すが、ファーニナルが出力を上げて姿勢を立て直す。
そして、そのロープに掴まったメイベアが魯粛を抱きかかえ、二人は飛空艇に吊り下げられて素早く離脱する。
「待たせてすまない!」
パートナー二人を無事に回収したファーニナルのアイコンタクトに、みとが頷く。
そして次の瞬間、乃木坂のサンダーブラストが降り注ぐ。
致命傷こそ与えられなかったものの、出鼻をくじかれた格好になる蛮族達は統率を乱し始める。
そこへ。
「なっ、何だアレは……!」
空を見上げた蛮族達がざわめく。
ちらりと乃木坂が振り向くと、そこには巨大な注射器が飛んでいた。
もとい、注射器型の小型飛空艇――いやどう見ても注射器なのだが――レティ・インジェクターだ。それにまるでスケボーにでも乗るかのように横向きに立ち、スカートをはためかせながら仁王立ちしているのはルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)。
「残念ですぅ、覗いても見えないですよぅ。行きますよぉー!」
数人の蛮族が下品な笑みを浮かべてそれを見上げるが、見えたのは黒いスパッツだけ。そのことにちょっぴり落胆を見せる男達の頭上から、クレセントの放つ光術の光が降り注いだ。
突然の眩い光に目を灼かれた蛮族達は、顔を覆って悲鳴を上げる。
さらにそこへ追い打ちを掛けるように、クレセントのパートナーであるアルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)が放つ火術が襲いかかる。
「アルトリアちゃん、無理しなくていいですよぅ」
どうやって操作しているのか、レティ・インジェクターをくるりと空中で回転させ、クレセントは空飛ぶ箒に乗っているセイバーを守るように近くへ寄る。
「二人とも、下がってろ!」
そこへ、クレセント達と行動を共にしている佐野 和輝(さの・かずき)が、小型飛空艇を駆って飛び出した。魔鎧スノー・クライム(すのー・くらいむ)を纏っている影響で女性の姿となっているため、伸びた髪をポニーテールに纏めている。
その髪を風に靡かせながら、佐野はグレネードランチャーを肩に構えると、装填した手榴弾を蛮族たちの中心に向けて射出する!
爆音が響き渡り、次々続く空からの攻撃に混乱していた蛮族達のうち、数人が吹き飛ばされた。
「よし……奇襲成功、撤退するぞ!」
偵察と先制攻撃、という任務を負っていた佐野達は、トラックの護衛に戻るべく撤退のかけ声を掛ける。
「和輝、撤退するならそっちじゃなくて六時の方向だよ!」
銃型コンピューターで小暮へ連絡を入れながら、飛空艇の後に乗っている佐野のパートナー、アニス・パラス(あにす・ぱらす)が進路を示す。
十二時の方向へ飛び去ろうとしていた和輝は、一つ咳払いをして飛空艇の鼻先を反対方向へと向けた。
「アルトリアちゃんも、撤退するよ!」
佐野のかけ声で、クレセントもまたパートナーに声を掛けて元来た方向へ戻ろうとする。
「あっ……!」
クレセントが方向転換したのを視界の端に見付け、セイバーは一瞬そちらに目を向けた。と、その瞬間唱えていた火術が発動してしまい、予想外の方向へ向かって飛んでいってしまう。
「し、しまった!」
「げっ……!」
運の悪いことに、火術の飛んでいった先には佐野の小型飛空艇。辛うじて舵を取って直撃は避けた物の、その進路には――
「うわぁあああっ!」
「ルーシェリア殿! 佐野殿!」
クレセントが駆るレティ・インジェクターと佐野の乗る小型飛空艇が接触する。
佐野の方はバランスを崩すに留まったものの、要するに丸太の上に立っているだけのクレセントはひとたまりもなく振り落とされる。
「クレセント!」
慌てて佐野は飛空艇を急降下させる。
精神感応で佐野の意志を感じ取ったパラスは咄嗟にサイコキネシスを発動させ、クレセントの落下速度を遅くする。
そのお陰か辛うじて、佐野が伸ばした腕がクレセントの洋服を掴んだ。しかし、落下する中で飛空艇の上に引き上げるまでには至らず、佐野も巻き込まれるようにして飛空艇から落下する。それでも佐野はなんとかクレセントを抱きかかえるようにして、自らをクッションにして着地した。
「いってー……」
が、充分に高度が下がっていた所為か、二人とも大きな怪我はない。だが。
「あいたたた……って、あら?」
二人の隣で、魔鎧であるクライムが、人の姿に戻って座りこんでいた。と、いうことは。
「さ、佐野さん……まさか……!」
クレセントが驚きの声を上げる。
クライムが外れたことで、佐野は本来の、つまり男の姿に戻っている。
「お、女の人だとばかり思ってたのに……」
「ま、まて誤解するな! これは魔鎧の効果の影響で、本意ではないんだ!」
騙されたぁ、という顔をしているクレセントに、佐野は慌てて手を振って弁解する。
「あのっ、どうでもいいけど早く逃げないとまずいと思うよ!」
が、頭上から聞こえたパラスの声に、地上の三人ははっと顔を上げる。その視線の先では、良いように攪乱されたことに怒り狂っている蛮族達が、丁度良いところに落下してきた三人に向かって集まってくる所だった。
三人は一瞬顔を見合わせ――
全速力で逃げ出した。
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