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リアクション
戦場に、似つかわしくないオカリナの調べが響き渡る。
戦闘に夢中で気付かない者もいた。
しかし、数人は確かに気がついて、音のする方へ目を向ける。
そこには、ゴシックな衣装に身を包んだ、長い髪の少女――銀星 七緒(ぎんせい・ななお)が、岩の上にスッと立っていた。
誰だ貴様は! と、お約束の声がする。蛮族の誰からしい。
「……通りすがりの……退魔師……」
ぼそり、と呟くと、銀星はたん、と足場を蹴る。と、同時に超感覚が発動したのだろう、銀色をした狼の耳と尻尾がふわりと現れる。
軽い身のこなしで地を蹴ると、銀星は巨獣を操る蛮族の元へと、サイの巨体を駆け上がった。
そして、手にしたサバイバルナイフを閃かせると、乗っていた蛮族は身をのけぞらせる。そのまま追撃を掛ければ、蛮族は慌てて巨獣の上から飛び降りる。
銀星はそれを追って走り出す。
残された巨獣が制御を失っておおん、と吼えた瞬間。
「ルラちゃん、バトルパーツ出して! デカいヤツにはデカいヤツだよっ!!」
緊迫した戦場には似合わない、朗らかな声が響き渡る。
銀星のパートナー、パルフィオ・フォトン(ぱるふぃお・ふぉとん)だ。その呼びかけに答えるように、一歩後から現れたルーライル・グルーオン(るーらいる・ぐるーおん)が、コンバージョン・シークエンス、と宣言する。
グルーオンは一見するとロボットにも見えるが、よく見ればその無骨なボディの中程に、可憐な少女型の機晶姫が搭乗しているのが見える。宣言に応じて、搭載しているコンテナから、フォトン用に調整された戦闘用のパーツがカタパルトへと移動される。
「バトルパーツ…ハンガー、レッガー、シュート!」
カタパルトの準備が整った所で、グルーオンがパーツを射出する。
フォトンが射出されたパーツと座標を合わせるように飛び上がると、上半身用、下半身用のパーツがそれぞれ、射出時の形態から合体用の形態へと形を変える。
「バトル・コンバアアアアジョン!」
気合いの声を上げるフォトン。すると、展開したパーツがガシャン、ガシャンと心地よい音を立ててフォトンの身体を包み込む。
「フォトオオオオオオン!!」
気合い一発、決めポーズ。鳴り物が欲しいところだ。
パーツとの合体を終えたフォトンは、合体前と比べてほぼ倍近くのサイズになっている。巨獣と比べてしまえば些か小さいが、しかし充分に格闘戦が出来るサイズだ。
「いっくぞおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
巨大化したフォトンは、銀星によって乗り手を失った巨獣目掛けて突撃していく。
大きく振りかぶった腕が、巨獣の顔面を打ち抜く。巨獣がよろめいた隙を狙い、グルーオンがミサイルを射出する。左右六発ずつ、合わせて十二発。
半数ほどが、フォトンの横をすり抜けて巨獣を仕留め、残り半数ほどが蛮族の頭上から降り注ぐ。
ひぃいい、と幾つもの蛮族の悲鳴が上がり、蛮族達の士気ががくっと下がる。
さらに、そこへ。
ずぅん、ずぅん、と重い地響きが聞こえてきた。
何事だ、と一同が辺りを見回す。
誰かが、アレだ、と叫んだ。
全員の視線がそちらを向く。そこには。
岩山が動いていた。……いや、岩山ではない。城だ。
石造りの城塞が、大地を揺らしながらこちらへ向かってくる。
東朱鷺のパートナー、第七式・シュバルツヴァルド(まーくずぃーべん・しゅばるつう゛ぁるど)――あんな姿ではあるが魔鎧――である。
「やっと追いついたぁ〜」
その……肩、と呼んで良いのか――一応腕は着いているのでその付け根だから肩だろう――のバルコニーから顔を覗かせているのは、ブランガーネ・ダゴン(ぶらんがーね・だごん)だ。
「巨獣の足止めは私たちに任せてねっ!」
ダゴンが、タコの足の形状をした「手」を振ると、シュバルツヴァルドがずん、と足を進める。巨大化したフォトンよりさらに一回り大きなシュバルツヴァルドは、その両手で一匹ずつ巨獣を足止めする。
そこへ、するするとシュバルツヴァルドの腕を滑り降りたダゴンが、懐のデリンジャーを巨獣の眉間に押し当てて一発撃ち込む。
しかし巨獣の分厚い皮膚の前には、致命傷を与えるには至らない。
むぅ、と顔をしかめるダゴン。
と、突然辺りを眩い光が包み、巨獣が咆吼を上げた。
ダゴンが振り向くと、今し方巨獣に向かいライトブリンガーの一撃を放った大岡永谷が、ぐっとサムズアップを見せていた。
それだけではない、押され気味だった護衛の面々が、みるみる士気を取り戻して、シュバルツヴァルドと、それからフォトンが足止めしている巨獣を仕留めに掛かっている。
「これなら……行ける……!」
小暮の顔に、一縷の希望が宿る。
よし、と覚悟を決めた小暮は通信機に向かい、告げた。
「強行突破を実施する! 全速前進!」
きゅ、とトラックのタイヤが鳴く音がして、二台のトラックは急加速する。
巨大な機晶姫と城にすっかり圧倒されてしまっている蛮族たちを撃退するのは容易かった。
ヒラニプラの街まで、あと少しだ。
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