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リアクション
■第一章
ヒラニプラ北部、というかシャンバラ大荒野と呼ぶべきか、そんな微妙な位置に建てられた軍需工場。
そこに、小暮 秀幸(こぐれ・ひでゆき)を筆頭とした、数十人からなる輸送団が到着していた。
二台のトラックの荷台に積まれた荷物を確認して受け取りの手続きを済ませてから、小暮の合図で輸送団の面々はトラックの前に整列する。
「では、作戦内容をもう一度確認します。目的は、この荷物をシャンバラ教導団まで輸送すること。なお、周囲で蛮族の目撃情報があります。襲撃の可能性は90パーセント以上と見て間違いありません。くれぐれも、荷物に損傷を与えることがないようにお願いします」
小暮がそこまで説明を終えると、一行は整然と敬礼をもって答える。他校からの助っ人も混ざっているので、いつものように一糸乱れぬ動き、とまでは行かないが。
「小暮少尉、良いですか」
一同が「直れ」をしてから、教導団生である橘 カオル(たちばな・かおる)がぴっ、と手を挙げる。
「はい……なんでしょう」
「トラックに同乗する班と他の乗り物で併走する班に分かれるのは良いとして、併走する班はさらに、万が一の時にはトラックを護衛する班と、襲撃者を迎え撃つ班に分かれておいた方がいいのではないでしょうか」
橘の提案に、小暮も頷く。
「確かにそれは必要なようですね」
事前に教導団内部では打ち合わせはしてあるとは言え、他校の生徒とは今日合流したばかりだ。中には以前の作戦で顔を合わせた者も居るが、例えば持参した乗り物の性能や数量など、多少想定と異なる部分もある。
小暮は各々の乗り物の状況等を考え、手際よく班分けを行っていく。
「では……出立準備。各自持ち場に着け!」
一通りの班分けが済むと、作戦隊長らしく声を上げる。
その声に応えるように、一同はトラックへ乗り込んだり、或いは用意したバイク、車、箒、ソリ、その他諸々の乗り物に乗り込んで出発の準備に入る。
トラックにはそれぞれ五、六名ずつが乗り込んだ。
基本的に運輸用のトラックなので、座席には運転手以外は二人、詰めても三人しか座れないため、護衛につく面々は殆どが荷物と一緒に荷台に乗っている。
そんな中で、一人の教導団生――朝霧 垂(あさぎり・しづり)が、軽やかな身のこなしで荷台へ飛び乗ると、そのままするすると、荷物――今はビニールシートが掛かっているが六連ミサイルポッド――の上に上っていき、大の字になって寝っ転がった。
「朝霧殿、そろそろ出発しますよ」
流石に見咎めた小暮がトラックの下から声を掛けるが、朝霧は仰向けのままままひらひらと手を振って、
「世の中平和が一番だぜー」
と、呑気に答える。
「いや……でも、危険ですし」
「んなに常時ぴりぴりと警戒し続けてたら、団長みたいな顔になっちまうぜ?」
小暮の言う「危険」とは、「落ちるぞ」という意味だったのだが、朝霧は「襲撃があるかもしれないぞ」と捉えたらしい。
「自分が団長の様になるにはまだ時間が掛ると思います。とにかく、出発までには下りてきてください」
「はいはーい」
「あんまり新入生クンをからかっちゃ可哀想よ」
あまり下りてくる気がなさそうな朝霧の答えに眉を寄せようとした小暮の後ろから声がした。振り向くとそこには、同じ教導団の生徒であるセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が立っていた。
が、その姿を見て小暮は一瞬絶句する。
一応規定の教導団制服は肩に引っかけているものの、それ以外に身につけている物と言ったら、髪をまとめているリボンと、後は下着だってもっと面積があるだろうと思わせる程のビキニ水着のみ。とても、今から戦闘の可能性がある任務に着こうという人間の服装ではない。
「あ、あの……シャーレット殿、その服装は」
「あら、何か問題があるかしら?」
「い……いや、任務に当たっては、相応しい格好をした方が……その、怪我をする確率が下がるかと思うのですが」
「あなたも充分からかってるじゃない、セレン」
困ったようにシャーレットを諭そうとする小暮の様子に黙っていられなくなったのか、シャーレットのパートナーであるセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)がシャーレットの後から声を掛ける。
しかし、そのミアキスの格好も、制服を羽織った下にはメタリックシルバーのレオタード一枚という軽装。シャーレットのそれ程では無いとは言え、男子としては目のやり場に困る。
「あら、バレた?」
くすくすと悪戯に笑うシャーレットに、ミアキスはやれやれと溜息を吐く。
「と、とにかく……お二人とも、着替えることをお勧めします。では」
「別に私もこんな格好、したくてしてるんじゃないけど……」
なんとか平静を装いながら立ち去る小暮の後を見送りながら、ミアキスはもう一つ溜息を吐くのだった。
「ふぅ……」
「少尉殿、どうされましたか」
ようやくトラックの助手席に乗り込んだ小暮に、荷台に乗った大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)が背もたれ越しに声を掛ける。
「いや……なんでもない」
見知った顔に少し緊張がほぐれたか、小暮は少し砕けた口調で答える。
一筋縄ではいかなそうな先輩たちを率いなければならないという、今発生したばかりの悩みを打ち明けてしまいたくなるが、任務の途中で隊長が弱音を吐くわけには行かない、と思い直してぐっと飲み込む。
「気遣ってくれて、ありがとう。大丈夫、ちょっと緊張しているだけだ」
前回の作戦の時には、緊張と不安のあまり大熊に弱音を漏らしてしまったが、前回で得た経験や自信、そう言った物が、小暮をほんの少しだけ強くしている。
「お手伝いが必要な時は、何でも言って下さい。少尉殿のお手伝いが出来るよう、全力を尽くすであります!」
「ヒルダもだよ、少尉殿」
荷台で荷の固定を確認していた大熊のパートナーであるヒルダ・ノーライフ(ひるだ・のーらいふ)もまた、振り向いて笑顔を浮かべる。
「助かるよ、ありがとう」
大熊の励ましに元気を取り戻し、小暮はフッと口元に笑顔を浮かべた。
「よし……出発しよう」
「はいっ!」
小暮の合図で、大熊がラッパを鳴らす。
二台のトラックと、それを取り巻く護衛の面々は、合図を受けて粛々と走り出した。
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