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■双子と記憶食い退治


 記憶食い消滅薬製作のためイルミンスール魔法学校が調薬探求会の拠点となった。
 そのため、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)は協力者と共に校長室に移動し、校内での異変対応、アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)は訪問者と共に中庭に移動した。

 イルミンスール魔法学校、中庭。

「記憶が大量に必要だからと言うが、エース、君の目的は抽出したばかりの記憶の形状が植物だから、実はそれを沢山見たいとか。そういう訳では無かろうね」
 吸血鬼故にかなりの長生きであるメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)はエースに記憶提供に最適だと連れ出され、現在ここにいる。
「それはメシエの邪推だ。俺はこの騒ぎをさっさと解決したいだけさ……まぁ、ほんの少し植物の形状に興味ない訳でもないが」
 メシエの指摘にエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は否定するがし切れず、目的がただ漏れに。
「……」
 メシエがじっと金色の瞳を向けるなり
「メシエ、そんな目をしなくてもいいだろう。俺も記憶提供はするし」
 エースはメシエが何事か発する前に封じた。
 その時、
「記憶素材化魔法薬を持って来たぞ。協力に感謝する」
 調薬探求会から記憶素材化魔法薬を貰ったアーデルハイトが現れ感謝を述べた。魔女故に長生きな彼女ならメシエの話し相手に丁度良かろうとエースが誘ったのだ。
「早速……」
 アーデルハイトは小瓶のふたを開けた。
 液体は外気に触れると同時に霧状となり、周囲に立ちこめた。
 三人は吸い込み、量は様々なれど持てる記憶が色鮮やかな植物の形となり表面化した。
 そして、抜く作業をするため近くのテーブル席に腰を落ち着け、触れる度に流れ込む記憶を肴に話を始めた。

 記憶提供作業中。
「カラフルな上に結構形状のバリエーションは豊富だな。見た事が無い形がある」
 記憶の素材化が起きてエースはすっかり植物に包まれてしまった。一つ一つどの様な形状をしているのか事細かにチェックをしていた。既存の植物に似ている物もあればそうでもない物もあり植物愛好家のエースを大変胸躍らせた。
「……しかも花を見ながら花を咲かす。今の状況は悪くないね」
 エースは中庭を見渡し自分達の状況を見て一言。
「……これが記憶か」
 メシエはざっと確認済ませるなり提供のため少し陰と蒼みのある白い花に手を伸ばした。
 その時、
「メシエ、ストップ」
 エースの鋭い制止がかかる。
 途端、メシエは手を止めるなり
「……自分の分では足りず今度は私のも検品するつもりかね」
 鋭い指摘をする。植物愛溢れるエースが考える事はお見通しである。
「検品というか、写真撮りたいなと思ってさ。素材出すと消えちゃうだろ。純潔っぽくて綺麗だからそれじゃ可哀想だ。何よりメシエの大切な記憶が形になった物だから遺したいし」
 メシエの考え通りのエースはすでに準備をしいつでも撮影出来る体勢である。
「……君の好きなようにしてくれたまえ」
 メシエは静かに手を引っ込めるやいなや
「ありがとう。早速……」
 エースはパシャリと写真に収めた。

「……長生きの証と言った所かのう(大変な事が起きておるが、何とも平和じゃな。まぁ、ジタバタした所でどうにもならぬが)」
 アーデルハイトは自身に咲いた大量の花に軽く苦笑しつつエース達のやり取りを眺めていた。
 撮影終了後、三人は記憶提供を始めた。

「……これは凄いな。まるでキメラ植物だ。どんな記憶かな」
 色鮮やかな植物の中に一つの茎に明らかに品種が違う花が幾つも咲き乱れるキメラ植物があったり。
 提供と興味で手を触れると
「……あの子達と出会った記憶か。記憶の中でも美麗な姿を見ると幸せな気分になるな」
 美しい花々との幸せな出会いの場面であった。
 幸せな気分での記憶提供をしたエースが次に選んだのは
「これは……」
 明るい色合いながら不気味な形状の植物。
 そこに込められているのは
「あぁ、あの遺跡で出会った魔法中毒者が育てていたあの子達か。長い年月を生き抜いた逞しくて素敵な子達だったなぁ」
 魔法中毒者の遺跡で出会い楽しく植物達とお喋りした記憶であった。しかし、顔色を悪くし同行していた仲間に心配されたが。
 不気味な植物も提供に回し
「これはなかなか愛らしいな」
 ふわもこ全開のネコミミの付いた猫じゃらしみたいな植物を発見して触れると
「ニャンコ達の記憶だねぇ。あの子達のためにも頑張らないと」
 愛らしい猫達と過ごす至福の記憶が流れ込んできた。それにより一層この騒ぎを解決せねばと思わせた。愛する猫と植物のために。

 一方。
「……ふむ」
 メシエが撮影後に手を触れたのはやはりエースが写真に収めた植物であった。
 込められていたのは古王国での記憶の一つであった。
 同じく自分の記憶を一つ見終わったアーデルハイトが
「こういう時は長生きが役に立つものじゃな。どのような記憶があるのじゃ。こちらはまぁ、ここで活動する前の事が大半を占めておるが」
 苦笑いを混ぜながらメシエに話しかけた。同じ長寿な種族同士感じるものがあるのかもしれない。
「古王国の記憶だね。豪華絢爛なかつての王宮やそこで行われた厳かな式典かな。王宮が復興したとは言え、以前の通りではないからね」
 メシエは古王国での幸福な生活や豪奢な宮廷人間模様を思い返していた。
「そうじゃな。当時感じていた息吹は無いからのう。あるのは同じ形をしたもの。昔の懐かしい空気を感じられるのは記憶の中だけじゃ」
 アーデルハイトはしみじみしながら素材を抜いていた。

 一人作業を続けるエースは
「……もう始まってる(長くなりそうだな、年寄りの昔話はだいたいそうだけど)」
 長生きさんの様子を口出しせずにいや出来ずに眺め胸中では苦い笑いをこぼしていた。
 そこに
「エース、お茶を用意したまえ」
 腰を据えてアーデルハイトと思い出話をしたいのかメシエはエースにお茶の用意を指示した。
「……いいけど(お茶を飲みながら昔話って完全に年寄りだ)」
 断る理由もないのでエースは引き受けるも胸中では余計な事をつぶやいていた。

 メシエとアーデルハイトのお喋りはお茶を交えながらとなった。
「……以前の王宮は今よりも壮麗な印象だったよ。そこで開催された音楽会も素晴らしい物だった。今ではあの頃に奏でられた音楽はもう伝わってはいないが、今でも思い出せる……」
 メシエは思いを馳せれば聞こえる懐かしい音楽を思い出しつつ優雅な音楽会の模様を語った。
「……さぞ、素晴らしかったのじゃな。聞いているだけ思い描く事が出来る。しかし、残念じゃな。今に伝わっておらぬ事が」
 アーデルハイトはカップの水面に目を落としつつ残念そうに洩らした。
「あぁ、今出回っている音楽よりもずっと素晴らしいものだったよ。それと以前はもっと物事がゆったりと進んでいたね」
 メシエはカップを手に軽く視線を上に向け忙しく動き回る閃光を見、忙しない人々の声を聞きつつ言った。今は緊急時だが平時でも変わらぬものだ。
「確かにのう。今は学校の事があって忙しく自分の歩幅で過ごす事が難しい。昔もあれこれあったが今よりもゆっくり出来たのう。今は今で悪くは無いが、どうしても懐かしくなるのう」
 アーデルハイトは学校に縛られる前、エリザベートと共に歩む前の生活を思い返し懐かしんだ。今の生活も決して嫌いではないが。
「記憶の大半が昔だからね。今も悪くはないのだけど」
 メシエもまた今の生活に嫌気が差している訳では無い。何せ素敵な伴侶がいるのだから。ただ、二人共昔の記憶が多いため思わず懐かしみたくなるのかもしれない。
「……そうじゃな。今は趣味の説教が存分に出来て幸せだしのう」
 アーデルハイトはよく分かると言わんばかりにメシエにうなずくなりいない誰かに嫌味を口にした。
 その時、
「嫌な事言ってるのは誰かと思えば説教ババアじゃん」
「しかも本物いるし」
 ヒスミ・ロズフェル(ひすみ・ろずふぇる)キスミ・ロズフェル(きすみ・ろずふぇる)が現れアーデルハイトとエースに声をかけた。アーデルハイトがまさに嫌味を言った相手である。
「……ほほう、説教ババアとな。口の利き方を教えねばならぬようじゃな。二人の大好きな説教でな」
 ヒスミが発したババアという単語に反応し、ニヤリな笑みを浮かべ迫る。
「えと、アーデルハイト様、何にも言っていないので説教はいりません」
 ヒスミは恐怖を感じたのか震え気味の丁寧語を口走った。
「本物って、もしかして俺が出てる記憶でもあったのかな」
 エースはにこやかな笑顔で普通に訊ねた。大方双子の騒ぎに巻き込まれている記憶だろうと。
「……まぁ、少し」
 キスミは少々青い顔で言葉を濁した。その様子こそが答えとなりエースに予想的中を知らせた。
 双子はこれ以上、いるのはまずいと思ったのかエース達に背を向け去ろうとした。
「作業するのはよいが、エリザベートに一言入れておくようにのう。何せ今は緊急事態じゃ」
 アーデルハイトは大声で去る背中に注意事を投げかけた。
 その後もメシエは古王国の幸福だった部分の思い出をアーデルハイトは学校に属する前の思い出話をあれこれと語りながら記憶提供を続けたという。エースは自分の作業をしながらそれを眺めていた。