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リアクション
「羽純くん、この世界を守るためにもう食べ過ぎってくらい私達の記憶を提供して、特殊な平行世界には退いて貰おう!!」
事情を聞いた遠野 歌菜(とおの・かな)は即協力する事を決めた。
「あぁ、当然だ」
隣にいる月崎 羽純(つきざき・はすみ)は賛成の意を示した。反対する要素は一つもない。自分と歌菜のこれからを守るために。
「それじゃ、行こう! みんなに協力をお願いしに!」
羽純に賛成を頂いた歌菜はあっという間に駆け出してしまった。
「……歌菜」
羽純は溜息を吐き出した後、いつものように振り回される形で妻の後を追った。
二人は協力を求めてザンスカールの街を巡りある三人組と出会った。
ザンスカールのどこかの街。
「お久しぶりです!」
発見して早々歌菜は元気に挨拶をした。
すると
「あぁ、久しぶりじゃな」
派手な格好のバッザが三人を代表して歌菜達を迎えた。歌菜達が声をかけたのは最近サンタクロースになった新人ブラウニーである。新人といえど見た目は茶色の髪と髭が伸び放題で恰幅のある若者には見えぬ姿である。
「一体、何が起きている? あちこち巡っている時にあれが現れて気になってな」
シックな服装をしたドゥルスがおかしな状況に目を向けつつ事情を訊ねた。
「実は……」
歌菜が事情を細かくブラウニー達に伝えた。
そして
「出来れば記憶提供で協力して貰いたいのだが」
羽純が協力を求めた。
「あぁ、構わん」
「それしかなかろう。この地に住まう人々のためにも」
バッザとドゥルスはすぐさま承諾した。皆に奇跡と幸せを配る者としては当然なのだろう。
「ありがとうございます」
歌菜はぺこりと二人の協力に礼を述べた。
その横では
「確か、オルナの家に厄介になっていたはずでは……」
羽純がここにいるはずのない者がいる事に気付いた。
「久しぶりにこっちに来るって聞いて会っているって訳さ。まぁ、家出も兼ねてるかもな。ここ四日間、食べ物くれねぇから。忘れっぽいとは聞いてたけどさぁ、続くようなら別の家に行こうかなとか」
年若いブラウニーのブラッツは溜息を吐き出していた。現在一人前になるべくオルナ宅に厄介になっているものの家主の超忘れ癖の被害に遭い引っ越しを考える所まで来ている模様。
「それはもう少しだけ待って下さい。オルナさんに伝えておきますから」
お人好しな歌菜はオルナとササカのために必死にブラッツを引き止めた。
「家出という事は……(確かオルナは掃除下手だったな。大変な事に……)」
羽純は家出という単語から掃除下手なオルナの自宅がどのような有様になっているのか容易く想像し呆れていた。
「あぁ、頼むぜ。戻った時に無かったらもう別の家に行くからさ」
ブラッツは軽い口調でオルナにとっては大打撃の事をさらりと言ってのけた。
「きちんと伝えて食べ物を用意するようにして貰うから」
「……心配せずにこの騒ぎが収束したら帰宅したらいい(……まさかこんな状況で頼み事を聞く事になるとは)」
歌菜と羽純はブラッツに必ず帰宅するよう念押しをしてからササカが経営する雑貨店に向かった。ちなみにバッザとドゥルスはサンタ業の思い出、ブラッツはオルナ宅での掃除の日々を渡した。
雑貨店『ククト』。
来店するなり歌菜は遊びに来ていたオルナを発見しブラッツとの約束を果たすべく彼の要求を伝えた。
「あぁ、忘れてた。何か家がすごく汚くなってると思ったら……引き止めてくれてありがとう!! この後忘れずに何か置いておく!! さり気なく!!」
オルナは自分の落ち度にあわあわなるわ歌菜達に感謝を言うわと大慌て。
「念のため私も行くから。はぁ、仕事で様子が見に行けなかった間にやらかして……ブラウニーがいてもいなくても世話が焼ける……やっと、床の穴が元に戻った思ったら……」
馴染みの展開にササカは溜息を吐き出していた。
ブラッツの約束を果たした所で歌菜達は改めて現在の危機敵状況を伝え協力を頼むと二人は快諾した。
それにより歌菜達とオルナ達は記憶素材化魔法薬吸引を受けに行った。
「うわぁ、とても明るくてカラフルだよ!(確認しなくても全部羽純くんとの思い出に決まってる。だって、私の幸せな記憶には全部羽純くんがいるんだもん)」
歌菜は明るい素材まみれとなっていた。歌菜には分かっていた。自分に生えた素材にどんな記憶が込められているのか。
「……(安全な物に改良したというのは本当みたいだな)」
羽純はちらりと歌菜の無事な様子に胸中で安堵していた。黒亜の記憶素材化騒ぎで歌菜に心配掛けられたため余計に。
そんな羽純の隣で歌菜は
「……早速」
素材を抜くために手を触れた。その瞬間、何気ない一日の夫婦の日常が流れ込んできた。他人がみればありふれた一日だが歌菜にとっては大切な記憶。歌菜にとって羽純といるだけでとても幸せだから。
その横で
「……俺も」
羽純も提供のため素材に触れると流れ込むは歌菜と過ごす記憶ばかり。
「…………(歌菜との記憶ばかりだな、これは少し照れ臭いな。しかし……)」
羽純は触れて記憶を読んでは空へと飛ばしていく。あまりにも歌菜との記憶が多く少し照れるも歌菜は自分の素材に込められた記憶に夢中で気付いていない。
記憶提供の作業をしながら
「……(俺は歌菜と出会ってからは本当に恵まれているな。楽な事ばかりではないが、それでも、歌菜が居れば……何時だって世界は光に満ちていた)」
羽純はしみじみと自分がどれだけ歌菜に幸せにして貰っているのかを感じ
「……歌菜」
思わず隣の歌菜の様子を伺った。
その歌菜は
「これってあの時のだ。あの時の羽純くん、格好良かったなぁ」
羽純と過ごした普通の一日やイベントでの記憶などにほっこりし自然と表情がゆるんでいた。
「……(俺と似たような記憶を見ているのか)」
羽純は歌菜が自然と洩らした言葉に自分と同じ記憶を見ていると知り口元がほのかにゆるんだ。大切な人と同じ記憶を共有し同じように感じているというのはとても幸せに満たさせる事。
一通り感慨に耽った後、
「歌菜、何にやけてるんだ」
羽純は嬉しさと照れ隠しさにニコニコしている歌菜にツッコミを入れた。
「えっ、ニ、ニヤけてなんかないって、何も恥ずかしい事なんか考えてないから……さぁ、私の記憶、世界を救うために光となって飛んでけ!」
我に返った歌菜は頬を幸せ色に染めたまま隠しきれない動揺を露わにしながら素材を次々と抜いて天へと届けていった。
そんな歌菜の様子に
「……(ばればれだ)」
羽純は嬉しさを口元からこぼしていた。
ちなみにオルナ達も無事に記憶提供を終えた。オルナはササカに世話をして貰っている記憶でササカはその逆でオルナを世話をしている物であった。騒ぎ後、無事にブラッツへの食べ物は用意され事なきを得たという。
無事に騒ぎが解決した後。
「無事に解決して良かったね。これでこれからも羽純くんと一緒に色んな記憶を作る事が出来るね。そう思うと何か幸せで嬉しい」
歌菜は世界が守られこれから先も最愛の夫の側にいられると思うと感極まり、羽純の腕に抱き付いた。
「……あぁ、俺もだ」
羽純は自分に笑いかける歌菜に答えた。言葉少なではあるが歌菜には十分。
その証拠に
「うん!!」
歌菜の笑顔はさらに幸せに輝いていた。
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