リアクション
* * * 「しっかし、ほんとに妙なもんだ。荒野の連中ってなぁこんなに行儀がいいもんなのかねぇ?」 「オレが前にこの辺りを通りがかった時は、三町歩く度に喧嘩を売られたくらいだ」 芹沢 鴨(せりざわ・かも)と藤堂 平助が訝しげにそんな会話をしている。 「芹沢さん、平助」 近藤 勇(こんどう・いさみ)が、二人に歩み寄った。 「おう。おめぇらも来てたのか」 「会場の警備をするという噂を耳にしてな。そうとくれば、新撰組の出番だろう」 勇だけではない。 土方 歳三(ひじかた・としぞう)も、缶蹴りの話を聞きつけてやってきていた。が、目的は勇とは違う。 「なぁに、俺もちょいと次の仕事の仕込みにもってこいな話を聞いたものでな」 今回のイベントは、漫画のネタとしても使えると歳三は判断したのである。そのための取材を行うために都合がいいので、警備へ志願したのであった。 「で、何でお前もこっちにいるんだ?」 「しっかたないでしょ? 稼がないとやってらんない状態なんですもの」 日堂 真宵(にちどう・まよい)に視線を送る。缶蹴りに参加しようとしていたようだったが、事情があって断念したらしい。 「まあ、そんなわけで俺達も警備に協力するぜ」 一行は、それぞれの持ち場に移動し始めた。 「鴨ちゃん、発見!」 東條 カガチ(とうじょう・かがち)はちょうど警備の配置につこうとしていた鴨の姿を発見した。 そして、いつものように挨拶をするため、彼に近付いていく。 「かーもちゃーん!」 抜刀して斬りかかろうとすると、鴨が振り返り、鉄扇で受けようとしてきた。 カガチは斬ると見せかけて、振り向き様に前に出た鴨の片脚を踏み台にして飛び上がり、膝蹴りを喰らわせようとする。 シャイニングウィザードと呼ばれるプロレス技だ。 だがギリギリ顔の前で鉄扇に阻まれ、カガチは膝を押さえて苦悶の表情になった。 「いってぇ……!」 膝は割れてはいないだろうが、痛いものは痛い。 「ったくいきなり蹴り技たぁ、最近はこういうのが流行ってんのか?」 「い、いやあ、鴨蹴り……じゃなかった、缶蹴りにちなんでせっかくだから蹴ってみようかと」 「なんだ、そんなことか。つっても、今のは一瞬でも反応が遅れてたら間違いなく喰らってたぜぇ。ちょっと見ねぇうちにやるようになったじゃねぇか」 防がれはしたものの、ちょっとは驚かせることが出来たようだ。 「にしても珍しいな、あの娘っ子達も連れねぇで来るとは」 「あのちみっこどもを、こんな危険極まりない所に連れて来れるかよ」 缶蹴りそのものも危険だが、それを知らない恐竜騎士団の人達が不用意なことをすれば想定外の被害が出てしまうかもしれない。それに巻き込まれてしまわないように、ということである。 「ってなわけで、俺にも警備の手伝いさせて下さい」 「そりゃあいいが、あんまり無理はすんなよ。嬢ちゃんの話だと、この辺りにいんのは、なかなか骨のある連中らしいからな」 「何、大丈夫だって。俺は適当にモヒカンやリーゼントの皆さんと遊びますんで。さすがに神に喧嘩売れるほど自惚れちゃいませんよ」 有象無象の輩なら、今のカガチの実力をもってすれば十分蹴散らせるだろう。 そのまま鴨に付き従うようにして、カガチは配置についた。 「よう、平助。お前も芹沢さんとこっちに戻ってきてたんだな」 ちょうど鴨とカガチが話し込んでいる間に、原田 左之助(はらだ・さのすけ)は平助に声を掛けた。 平助がしばらくパラミタ各地を巡ったり、マホロバの動乱に関わっていたりということがあったため、なかなか彼と話す機会がなかったのである。 「しばらくしたらまたマホロバに行くけどな。まだ、『修行』の最中なんだ」 「修行?」 「向こうで一人の師と出会ったんだ。最初は挑戦したが、まるで歯が立たなかったぜ。それからは弟子入りして、『居合』の稽古をつけてもらってる」 その達人の名は、林崎 甚助。居合の開祖の英霊である。 「常に先陣を切ってた魁先生が居合とはな」 彼の姿を見れば、シャンバラを去ってから色んな経験をしたのだろうことが窺える。心境の変化も、推し量れるというものだ。 「藤堂さん!」 ふと、女の子の声が耳に入った。遠野 歌菜(とおの・かな)である。 「久し振りだな」 彼女に続き、月崎 羽純(つきざき・はすみ)が声を発した。 「二人も来てたのか。缶蹴りとやらに参加か?」 「いえ、会場の警備に来ました。よかったら私達もご一緒してもいいですか?」 ちょうど円形になっている会場を囲むように、警備担当者が配置についている。が、如何せん範囲が広いため、まだ完全にカバーし切れてはいない。 「構わない。ただ、『神』って呼ばれてる奴には気をつけろよ? 連中、妙な力を使うのが多いからな」 パラミタにおける神の強さの秘密は、聖霊の加護によるものとされている。驚異的な再生能力だったり、桁外れの魔力だったりと、持ち得る能力は千差万別ではあるが、その特殊な力が神を「神」足らしめていると言っても過言ではない。 「とはいえ、一番厄介なのはそういうのを抜きに強い奴だ。まあ、奴がこんな場所に現れるとはさすがに思えんが……」 「奴、ですか?」 歌菜が小首を傾げた。 「前に戦った龍騎士のことだ。あの時は何とか勝てたが、本当に強かったぜ。師と出会う前だったら、間違いなく負けてた」 それでも、今の平助には一対一で神に勝てる実力があるということだ。 「ま、今は奴のことより、襲撃してくる連中を追い払うことを考えねーとな。いくら何でも、こんだけ静かなのは不自然だし、大方軍団を率いて一斉に仕掛けてくるだろうさ」 「そうだ! 藤堂さん。どっちが多く敵を追い払えるか……勝負しません?」 勝負、という言葉に平助が俄かに顔をしかめた。 「勝った方は負けた方にディナーをご馳走する罰ゲーム付きです」 「でぃなー? ああ、夕餉のことか。それはいいが……質より量か? 『神』とか恐竜と、普通の無法者を同数扱いだと釣り合わねーぞ?」 「じゃあ、点数制はどうでしょう? 神十五点、恐竜十点、神の取り巻き五点、不良なお兄さん達一点で」 「それならいいか。よし、乗ろう」 こうして、平助と歌菜の二人が勝負することになった。 * * * (今のところは、特に問題はなさそうだな) 国頭 武尊(くにがみ・たける)はジェットドラゴンに乗り、会場上空を巡回していた。 荒野の地域の一部を借り切って「あの」缶蹴り大会が行われるという噂を聞いた時は、よく地域担当者が許可を出したものだと思ったが、どうにも話し合いではなく何らかの「強引な」手段を缶蹴りの主催者が取ったらしい。 そのため、武尊は面倒事が起こらないように、恐竜騎士団所属の風紀委員として大会の警備に協力するよう、キマクから派遣されてきたのである。主な仕事は監視だ。 空からは武尊だが、地上は猫井 又吉(ねこい・またきち)が出魂斗羅で見て回っている。 (嵐の前の静けさ……なんて言葉もあるくらいだ。油断は出来ねーな) |
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