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KICK THE CAN3! ~Final Edition~

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KICK THE CAN3! ~Final Edition~

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第四章 


「はぁい! チーム葵の胸ぺったんなほう、葵です。これが……缶蹴り? 無茶苦茶すぎるよ〜。ってなわけでみんな怪我しないよう気をつけようね♪ 葵ちゃんとの約束だぞ。次章、ヘイスト、メイクス、ウェイスト!
……え、もう始まるの!?」


・Haste makes waste.(急いては事をし損ずる)


「残る缶は二つ……ですね」
 缶が蹴られた報せを受けるも、長谷川 真琴(はせがわ・まこと)は何とか平静を保っていた。
「まさか、あの危険地帯の缶が真っ先に攻略されることになるなんてね」
 クリスチーナ・アーヴィン(くりすちーな・あーう゛ぃん)が嘆息する。
「でも、ここはそう簡単にはいかないよ」
「……ええ、確かにそうですね」
 真琴は事前に防衛計画を練っていた。
 ストレス発散、軽い息抜きというのが当初の目的だが、やるからには勝ちたい。
 フィールドの性質上、「缶に近付けさせない」「相手の動きを出来る限り制限する」ことの二つが重要となる。蹴られた缶周辺も完璧……だったが、破られてしまった。
 しかし、ここの缶の防衛には、ある「奇策」を用いている。ただ、そのせいで真琴は缶を直視出来ないわけだが。
「さあ、気合い入れていくよ〜」
 クリスチーナの言葉はどこか棒読み気味だ。
「残り一時間半、耐え切りますよ」

* * *


「これのどこが缶蹴りだと言うのじゃ……」
フォン・ユンツト著 『無銘祭祀書』(ゆんつとちょ・むめいさいししょ)は、フォレストドラゴン{ICN0003898#シューティングスター}の上でぼやいた。
 缶蹴りがしたいという秋月 葵(あきづき・あおい)に連れてこられたわけだが、話が違う。
(主は前にも参加したことがあるのは知っておったが……よく何度もやる気になれるものじゃ)
 葵もイングリット・ローゼンベルグ(いんぐりっと・ろーぜんべるぐ)も、過去の空京、海京に続いて三度目の参加である。
「ルールが在るのが救いじゃが、イコンがダメで巨大生物がオッケーって主催者は頭がお……」
 一瞬、何か嫌な気配を感じた。
 そういえばこのフィールド内は、結界とともに監視されているはずだ。缶蹴りの運営側に筒抜けであっても、不思議ではない。
「やっぱり、ダミー缶は用意されちゃってるか。……近くにも守備の人の気配がするし」
 葵が小声で口にした。
 その上で、彼女とイングリットによる作戦が伝えられる。なかなか無茶なものではあるが。
「言っておくが、バカ猫の考えた作戦なぞ、成功するものか!」
「にゃにを! 何事もやってみなければわからないにゃ!」
 どちらにせよ、何もしないで高みの見物、とはいかない。
「それじゃ、いっくよー!」
 葵がドラゴンを急降下させる。
 そのまま地上すれすれまで近付き、水平飛行に切り替えた。なお、あくまで二人乗りであるため、イングリットは何とかしがみついている、といった状態だ。それゆえ、さすがに音速とまではいかない。
 が、そうは言ってもやはりドラゴンだ。地表には突風が吹き荒れる。
「これなら『空を飛んでの遊撃』は出来まい」
 上空へ離脱。
 入れ替わるようにして、同じように空から様子を窺っていたであろう少女が、小型飛空艇を急降下させ、飛び降りていった。その顔はマスクで覆われている。
「謎の覆面レスラー結城 奈津、ここに参上!」
 爆炎波を地面に叩きつけ、爆発と共に結城 奈津(ゆうき・なつ)が、派手に着地した。
「缶蹴りとは中々変わった変則マッチだなっ。しかし、プロレスラーたる者、組まれた試合には必ず応える! ファンの皆の声援ある限り、逃げぬ! 振り向かぬ! 省みぬ! さあ、今日の相手はその缶だな!?」
 奈津の目の前には、無数の缶が立ち並んでいる。
 しかも、なぜか用意出来ないようにされたはずの「本物と同じ」柄の缶だ。何らかのトリックによるものだと考えられるが、
「おのれ、姑息な手段を。だが、こんなものであたしは誤魔化せない! それに、缶蹴りには投げがない、極め技がない! よって格闘技として不完全だっ! それをあたしが証明してやるっ! っしゃオラ! かかってこいコノヤロー!!」
 むしろ、彼女はかかっていく側な気がするが。
 奈津がビシッと一点を指差す。
 そこには、缶を守る天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)の姿があった。
 だが、鬼羅の守っている缶が本物だと普通は思わないだろう。
 なぜなら、土下座している彼の尻の上にその缶は存在しているからだ。しかも全裸で。
 
「これぞ、絶対防御の型! 人体の背筋は体中の筋肉の中で高い防御力を持つ! その背中を全面に出す土下座は、高い絶対防御の壁となるのだ!!」
 一見、愚かな所業に思われる。
 自らの上に缶を乗せるということはすなわち、自分自身はこの缶蹴りにおいて一歩もその場から動けないということになるからだ。
 缶蹴りの基本ルールには、「缶は、蹴られるまで一度設置した場所から動かしてはならない」というものがある。缶の前に立つならまだしも、自分を缶の設置場所にしたら守りの人数が一人減るのと同じだ。
 しかし「直接攻撃」が禁止である以上、缶より先に鬼羅を蹴ってしまったら、反則になる。
 ……かと思われたが、主催者側から「もし、守備の人が常に缶と接触した状態を維持し続けていた場合、ゲームにならないから『缶に触れている人も、また缶である』ってことで容赦しなくていいから」という通達があったため、攻撃側は遠慮することなくこの全裸野郎を蹴ることが出来ることになってしまた。
 とはいえ、鬼羅は曲りなりにも天学生だ。超能力の心得はある。動かずして守る方法も考えてある。
 この不利にしか見えない行動が、攻撃側に対するメンタルアサルトとして成立しているのだ。
 だが、全裸はただの趣味だ。
「そう……土下座はただの謝罪の所作ではない! 場所により、時により……刻一刻とその意味、効果が変わる!! それが土下座!! 土下座を極めんと日々精進していくなかで手に入れたこの理(ことわり)!! ここでその力をみせてくれよう!!!」
 顔を上げ、遠くに見える攻撃側の姿を鋭い眼光で捉えた。
 奈津が、眼前に炎を展開させた。ヴォルテックスファイアだ。
「これが謎の覆面レスラー結城 奈津の炎の花道だ! あたしの燃える闘魂で火傷するぜ!」
 謎の、と言いつつフルネームを(二度も)名乗っていることには、突っ込んではいけない。
「くっくっく……これなら女子に合法的に尻を蹴ってもらえる!! 通常ルールだったら防御側の女子にも踏んでもらえたのに……ぐぐぐ、悔しいぜ!」
 心の声が駄々漏れになっているが、「チャンス」を前に昂りが抑えられてないせいである。
 尻を蹴られた時点で直接攻撃判定が出て、反則に追い込めるかもしれない……という発想など、当初から鬼羅の頭にはなかった。この男、実にマゾヒスティックである。
「お、何だコノヤロー! 女装の変態男コノヤロー! 蹴って下さいだと!? それは『お前の技を全て受けきり、プロレスラーとしてお前に勝つ!』ってことかコノヤロー!
ヨッシャー! その挑戦受けて立つっ!!」
 おそらく、守備に就く前の格好を目撃されていたのだろう。ただ、今は女装していないためただの変態止まりである。
 意気込んで奈津が一歩踏み込んだ――瞬間、フィールドに仕掛けられた落とし穴に嵌った。
「おのれ、あたしを嵌めたなっ!」
 むしろ、鬼羅としてはそのまま自分のところまで来て欲しかったのだが、これが缶蹴りである以上、やむを得ない。
 クリスチーナが穴まで向かい、奈津を抱きかかえて引き上げた。
「何!? フォールからまだ3カウントされてないぞ! あたしはまだ負けてない!」
 そのままの意味でフォールしてしまってはいるが。
「生憎、あたいらに触られた時点でアウトなんだよ」
 このタイミングで、奈津とは逆方向から攻めてくる者達があった。

「じゃあ、黒子ちゃん、グリちゃん。あとは任せたよ〜」
 ドラゴンの手綱を『無銘祭祀書』に任せ、葵が空飛ぶ箒パロットに乗って離脱した。上空から、魔砲のステッキで援護射撃を始める。
 もちろん、人には当たらないように、だ。
「いっくよー♪ 当たったらゴメンね☆」
 しかし、本人に当てる意図がない以上、単なる事故である。葵のステッキの先端から光が放たれた。
 彼女の弾幕援護を受け、イングリットはドラゴンの足に括り付けられたロープにぶら下がり、一直線に缶を目指す。
「わいるどに咆えるにゃ!」
 なお、結構無茶をしているため、白黒カラーのパワードスーツを着込んでいる。ワイヤーを掴んでいる姿といい、超能力を使えるといい、どこかのヒーロー的な何かを連想させる姿である。
 謎の覆面(自称)に続き、魔法少女と共に『フレイム・タイガー』は颯爽と登場した。なお、後者は厳密には炎のフラワシの名前である。
「絶対に蹴らせるものかッ!」
 イングリット立ちを阻むのは、ネコ耳メイドあさ……ではなく、榊 朝斗(さかき・あさと)だ。
 直接ドラゴンの前に飛び出すことはせず、地面を思いっきり蹴りつけた。
 超人的肉体とシュタイフェブリーゼによる爆発的な推進力を利用することによって放たれた、蹴りによる真空波が地面の砂土を巻き上げる。
「にゃ、前が!?」
 視界が悪くなりかけるが、それを炎のフラワシで晴らす。
 直後、ワイヤークローが飛んできた。
「秘技! 分身の術にゃー」
 ミラージュによる幻影を利用し、それを避けた。ロープを掴んだままドラゴンに合わせて缶を蹴るという作戦は、諦めざるを得ない。
 レビテートで完全に地に足が着かないようにした後、勢いを利用してロープから手を離し、缶――鬼羅へ飛び込んでいく。
(フラワシが見えるにゃ。あれがきっと、本物にゃ)
 いくつもの缶が視界に入るが、狙いを定めた。この位置からなら缶だけを蹴り飛ばすことだって難しくはないはずだ。
「もらったにゃ!」
 だが、その蹴りは空を切る。
 イングリットに見えていた鬼羅と缶自体の両方が幻影だったのだ。
 そして、背後からワイヤーで捕縛される。
「悪いけど、僕も必死なんだ」
 ワイヤーを燃やそうとするものの、朝斗が自分に触れる方が速かった。アクセルギアによるものだろう。
「あー、捕まっちゃった……」
 脱落になったと分かるや否や、物質化・非物質化で消してたおもちゃの袋を実体化し、中のお菓子を食べ始めた。
「イングリッドが全力を出せるのは十分が限界にゃ……それ以上はお腹が減って動けなくなるにゃ」
 意識していたわけではないが、こうすることで結果的に葵への注意をそらすことになっていた。

(何とか成功したみたいだ……)
 朝斗が行ったのは、ソートグラフィーとミラージュの組み合わせによるちょっとした応用技だ。
 幻影に自分のイメージを割り込ませるというものだが、これは基本的に「自分が知っている」かつ「それを実際に見る人が知っている」ものでなければ効果が出ない。朝斗にはまだ、自分のイメージを一方的に相手に見せるほどの力はない。
 真空波で一時的な目晦ましをした後、発動。鬼羅と缶の位置を誤認させたのである。
(だけど、やっぱり負担が大きいなぁ)
 技を使うのもそうだが、全裸の鬼羅の土下座ポーズをイメージしなければならないというのは、キツイものがある。朝斗にはそういう趣味はない。
 しかし、一息つく間もなく、朝斗をネコ耳メイドにすべくルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)によって放たれた刺客が迫ってきた。