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KICK THE CAN3! ~Final Edition~

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KICK THE CAN3! ~Final Edition~

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間章 


 大会前日。
「おにょ、缶蹴りすっごいとこでやるんだぁねえ、しかも鴨さんがくると」
 佐々良 縁(ささら・よすが)は、缶蹴り大会のビラを眺めていた。
 場所が場所であり、しかも缶蹴りだ。荒野はどんぱち賑やかなことになるだろう。そんな中を警備するというのは面白大変そうなので、縁は差し入れを持っていくことにした。
「よすが、楽しそうだけど何かあるの?」
 佐々良 皐月(ささら・さつき)が尋ねてきた。
「んー、久しぶりに缶蹴りやるみたいでねぇ」
 ビラを彼女にもちらつかせた。
「刺激がほしいってやつなのかな……うーん」
「今回は警備も募集してるみたいだよぉ」
 空京での缶蹴りのことは、前に皐月に話してある。どうにも命懸けの危険なものだと思っているようだ。
「缶蹴りの警備にいくの? ちょっと違うって?」
 警備に加わるつもりはない。あくまで、弁当を差し入れに行くのが目的だ。
「よし! 頑張ってお弁当作るよ!」

 そして当日。
「おや、差し入れに行くのですか」
 孫 陽(そん・よう)が弁当を見て、縁に聞いた。
「うん、そだよぉ」
「では、私も行きましょう」
 縁のトラック、佐々良移動書房 いちご号への搬入を手伝い始める。
「あ、睦月ー」
 彼女が佐々良 睦月(ささら・むつき)に声を掛けてきた。
「ん、これ持っていってほしいって?」
 差し入れとは別の包みを、睦月は受け取る。
「中は後で、向こうに着いてから見てねぇ」
 とはいえ、何だか重いし気になったのでこっそりと確認することにした。
(……差し入れって口実で飲みてーだけじゃねーの?)
 中に詰まっていたのは、キノコと調味料、そして酒だ。
(あぶりでも作れってことかこれ……さつきねーに渡したらまた説教だもんなー)
 それを知っているため、見つからないようちゃんと包みに戻した。
 それから、睦月も出掛ける準備を行う。
 危険な場所であるため、ちゃんと武装を整えた。

* * *


「んーどの辺にいるのかなぁ? あ、いたかな?」
 縁達は思っていたよりもすんなりと荒野の会場へ到着した。
 結界の周りを囲うようにしている警備の中から、馴染みの顔ぶれを探す。
「鴨さん、かがっちゃん、弁当いかがっすかー?」
 トラックを降りて、声を掛けた。
「んじゃ、頂くとすっかねぇ。どうにも暇なもんでな」
 どうにも退屈そうだ。
「恐竜とか暇を持て余した神と戦えるかもしれねぇって聞いたんだが、見ての通り来やしねぇ」
「暇を持て余した神ねぇ……『私だ』『またおまえか』とか言い合っている双神とかいないかなぁ。上半身裸の」
 いたらいたで、リアクションに困りそうだが。
「にしても、缶蹴りってのはこんな派手なもんなのか? まるで戦争だ」
「前にやったのは街中だったからここまでじゃなかったんだけどねぇ。音だけ聞いたら、誰もあそこでやってるのが缶蹴りだなんて思わないさね」
 会場の方からはやけに爆発音が聞こえてくる。深夜の空京でやった時とは大違いだ。
 が、別に缶蹴りやってる人達のことだ、この程度なら特に問題ないだろう。トラックのコンテナから普段は本を読む際に閲覧スペースとして使っている机と椅子を出し、食事の準備を進める。
「出来ればこのまま仕事がない方がいいのですけどね」
「だねぇ。大荒野にしては平和過ぎるけど、このまま終わってくれればいいなぁ」
 陽が声を漏らした。
 一応、何かあった時の備えもしてきている。とはいえ、何事ともなければそれに越したことはない。
「おーう、平助ぇ。おめぇもこっち来い」
 鴨が手招きして、平助を呼び寄せた。
「芹沢さん、一応仕事中だぜ?」」
「あの嬢ちゃんも言ってただろ? こっち側の警備は任せるから好きにしていいって。のんびり酒でも飲みながら待ってようぜぇ」
 酒瓶を開け、鴨がそれを口の中に流し込む。
「……っと、ほとんど残ってなかったか」
 どうやら彼にしては珍しく、酒を切らしてしまったらしい。
「睦月、例のやつお願いー」
 睦月に出掛ける前に渡しておいた包みを持ってこさせる。
「なんだ?」
「鴨さん用でっすよー」
 その中にある日本酒の一升瓶を鴨が掴むと、彼は笑みを浮かべた。
「分かってるじゃねぇか。うっし、おめぇら宴にすっぞー!」
 警備そっちのけで、酒が飲める者達で宴会をする流れになった。実際、缶蹴りの会場は
ともかくとして、暇なのだから仕方がない。
(あっるぇー、どうしてこうなった?)
 が、それならそれで、と縁も楽しむことにした。

* * *


「お、気がついたか」
「うう、まだふらふらする」
 涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)の休憩所で、コニワ・ヒツネ(こにわ・ひつね)が目を覚ました。
 トラップに引っかかって気を失ったためにタッチされてしまい、その後ここに運ばれてきたのである。
「幸い、怪我は軽い。感電したみたいだけど、そっちの影響はもうほとんどない。あってかすり傷程度だった」
 その傷も涼介は治療済みだ。
「ありがとうございます。休む場所があって助かりました」
コニワが丁寧に頭を下げた。
「お疲れ様でした。よろしければ、お茶とお菓子をどうぞ」
 エイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)が至れり尽くせりでお茶を淹れる。菓子は、涼介が作って持ってきたクッキーだ。
「では、頂きます。それにしても、契約者同士の缶蹴りって、壮絶なものですね」
「以前、空京で開催された時はもっと『缶蹴りらしかった』んだけどなぁ」
 隠れる場所が少ないから仕方ないとはいえ、缶蹴りと呼ぶにはいささか大袈裟な戦いが繰り広げられている。
「まあ、噂によれば海京の時はイコンが出てきたりしたっていうから、場所に合わせてみんな工夫してるみたいだ」
 単に自重していないだけにも思えるが。
「おっと、BGMが切れてたか。今度は……ちょっとレトロなものにしてみるか」
 携帯音楽プレイヤーの楽曲リストを開き、黒色餅乾のアルバムを選んだ。
『そーれもきーみの タイミング♪』
 二十一世紀に生まれ育ったパラミタの多くの学生にとって、二十世紀のミリオンヒット続出のCDが全盛期だった頃の曲というのは、なかなか趣深くもある。
「それにしても、ここは平和ですわね」
「まあ、このまま何事もなければそれでいいさ。って、何か警備の人達が宴会の準備をし出してるように見えるんだが……」
 まあ、腕は確かな人達だから大丈夫……なはずだ。
 そこへ、缶蹴りの途中経過が伝わってくる。
「一つ目の缶が蹴られたか。だけど、あの状況じゃ怪我人や脱落者も多そうだ。少し、忙しくなるな」