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KICK THE CAN3! ~Final Edition~

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KICK THE CAN3! ~Final Edition~

リアクション

 ちょうど新風 燕馬達が缶へ向けて移動していた頃、コニワ・ヒツネ(こにわ・ひつね)もまた点在している岩場の陰に隠れながら缶のある場所を目指していた。
 とはいえその場からはまだ動かず、ペットとして連れてきた賢狼をもふりながら、会場の様子を眺めていた。
(あわわ、契約者の缶蹴りってこんなに凄まじいんですね)
 まだパラミタに来てから日が浅いコニワには、開幕ロケットランチャーで始まった「戦場」に足を踏み入れるのは躊躇われる。
 しかし、ここは勇気を出して一歩踏み出すことも大切だ。この戦場を華麗に駆け抜け、堅牢な守備を突破して缶を蹴ることが出来れば、さぞかし気分がいいものだろう。
(少し考えなければ……)
 思考を巡らせる。
 今はちょうど、場が乱れようとしている状態だ。そこに、賢狼を飛び込ませれば、拍車をかけることにもなるかもしれない。そうして隙が出来れば、缶を蹴るチャンスも生まれるはずだ。
(よし、これで計画は完璧です)
 状況を見据えた上で、自分なりに攻略法を見出した。あとは、実行に移すのみ。
 だったのだが……、
「わっ!」
 ロケットランチャーによる攻撃が、コニワが隠れている岩場に直撃した。それに巻き込まれ、吹き飛ばされる。
 缶蹴りのフィールド内は、どこにいても何らかの危険があるため、イナンナの加護があったところで気休め程度にしかならない。
 そのままフィールド内に投げ出される。無論、見通しのいい荒野だ。その姿は守備の人間に目撃されたことだろう。
「パラミタの厳しさを……」
 ふらふらとしながらも立ち上がり、一歩踏み込んだ。
 しかし、
「ぎゃー!! パラミタの厳しさぁおおおおおおお、刻んでる暇もないいぃいいいい!!??」
 トラップとして仕掛けられていた超電磁ネットに引っ掛かり、身体に電流が流れてくる。
 そのまま彼女の意識は遠のいていった。

* * *


 上空。
 朝霧 垂(あさぎり・しづり)は、ジェットドラゴンに乗り、結界ギリギリの高度から会場全体を見渡していた。
 半径四キロメートルのフィールドに合わせてか、高度の上限は四千メートルだ。守備の人間がホークアイによる視力を得ている場合はジェットドラゴンの姿まで特定されるだろうが、単なる目視ならば問題にはならない。
 一応、攻撃側にはこれまでの缶蹴り大会の経験から、「缶を蹴った後は、速やかに移動すべき」であると伝えてある。それだけではなく、上空から見ると隠れる場所なんてほとんどないのが見て取れる。これまでと違いエリア分けがないため、一つずつ倒していくことになってしまった場合、最終的に密度の濃い防衛網を突破しなければならなくなる。
 フィールドには大量のトラップも存在している。守備側も設置している現場を見られないよう注意していたこともあり、現時点ではまだ慎重にならざるを得ない。
 これまでと違い、守りの方に高いアドバンテージがあるのが今回の缶蹴りの特徴だ。
 と、思っていたら開始早々派手に動き出した人がいたおかげで、攻撃側は勢いづいている。
(だが、これは……なかなか厳しいな)
 常に三ヶ所を同時に攻めるのが理想だが、これも守備の布陣が崩れきっていない今は難しい。下手をすれば、攻撃側の人員が一気に削られる可能性がある。
「……っ!」
 雷撃がさらなる上空から降ってきた。
 おそらく、天のいかづちであろう。
 こちらが「地上から目視出来ない高度」であるとするならば、当然地上からは「直接狙って攻撃」は出来ない、と言い張ることが出来てしまう。
 毎回のことながら、この「直接攻撃」と「間接攻撃」の境界が曖昧なため、事実上「近接攻撃」以外は反則として判定されにくいというのが最も厄介なのだ。
(今の爆発……どこかに防衛側のスナイパーが潜んでるな)
 缶に近付こうとすれば、何らかの形で妨害してくるだろう。
 そのことを、攻撃側に伝えた。

 戻って、地上では。
「で、一体どんな作戦なんだよ……『霞憐アタック』って?」
 緋桜 霞憐(ひざくら・かれん)は、訝しげに緋桜 遙遠と顔を合わせた。
「そのままですよ」
「へ……?」
 地面のトラップの一つが爆発したタイミングで遙遠が霞憐の身体を掴み、思いっきり缶のある方向へ放り投げる。
「そんな訳で、宜しくお願いしますね♪」
「僕が投げられるのかよぉぉぉおおお!? よ、ようえんんんん!!!」
 しかし、こうなった以上は仕方がない。
 オートガードとディフェンスシフトで受身を取って、着地。あとは、トラップに注意して缶に接近……
「どうやって気をつけろっていうんだ!?」
 缶までの距離はおよそ五十メートル。だが、ほとんど地雷原と化しているこのフィールドを、無傷で駆け抜けるのは容易なことではない。
(ええい、こうなりゃヤケクソだ!)
 攻撃を受けようが、守備の人に直接捕まらなければいい。
 地面を蹴り、缶へ向かって走り出す。
 だが、霞憐の真横で爆発が起こり、缶の五十メートル圏内から弾き出されてしまった。大魔弾『タルタロス』が着弾し、魔力の奔流が巻き起こったのである。
「ぐ、まだだ……」
 何とかすぐに立ち上がる。
 が、正面からはヒルデガルド・ゲメツェル(ひるでがるど・げめつぇる)が迫っていた。
「それ以上先にはいかせねぇヨ!」
 獲物を見るような目で、霞憐の前に立ちはだかる。
 その間、遙遠がバーストダッシュで霞憐の対角線上まで回り込み、缶を挟み込む形となっていた。なお、遙遠は氷翼アイシクルエッジで飛行状態にある。
 だが、彼を取り囲むように炎が巻き起こった。
 ローザ・オ・ンブラの焔のフラワシ――ピーピング・トムの大罪の業火によるものだが、コンジュラーでない者にフラワシは視認出来ないために、不意を突かれる形となっていた。
「これは……キツイですね……」
 炎に弱くなっている遙遠にはひとたまりもない。
 だが、ちょうど二人が守備を引きつけたことで、手薄になっている。
「最後は、頼みましたよ……」
 機晶爆弾を上空に投げ、遙遠がそれを起爆した。
 注意が完全にそちらに向いたところで、紫桜 遥遠(しざくら・ようえん)が上空からライドオブヴァルキリーで急降下してきた。
 速度を上げつつ、缶へ肉薄する。
「用意出来ないはずの本物と同じ缶が複数あるということは、本物以外は実体ではありません」
 おそらくはメモリープロジェクターによる投影映像。
 どれが本物かを瞬時に見抜くのはそう簡単ではないが、爆発によって砂煙が上がり、風が巻き起こっているおかげで「映像が乱れる」という現象が起こっている。
 すなわち、ぶれないものが本物だ。
 しかし、」
「さすがに速いのう」
 守備側のファタ・オルガナが缶の近くまで迫っていた。
 魔法仕掛けの懐中時計の効果で、彼女から見た遥遠の速度が遅くなってたのである。それでも、十分な速さは保っているのだが。
 だが、缶まであと二十メートルくらいのところで、遥遠の動きが乱れた。ファタのその身を蝕む妄執による幻覚が発動したのである。それによって狙いが逸れ、缶を蹴るには至らなかった。
「よ、遥遠!?」
 缶の方を辛うじて見るも、霞憐もまた捕まりそうな状況だ。
 しかし、ヒルデガルドが缶へ向かう別の影へ一瞬視線を移した。
 それを見計らってなのか、巨大な影が霞憐の前に現れる。
「な、今度は一体……ぎゃぁああああ!!」

* * *


 時間は開始寸前に戻る。
「んむ、良い風じゃな」
 ラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)のパートナー、シュリュズベリィ著 『手記』(しゅりゅずべりぃちょ・しゅき)触龍に乗って――というより一体化して上空に飛び上がり、様子を窺おうとしていた。
「ちょwwwおまww何勝手に飛んでんだよwwwオレ忘れてんぞwww」
 クロ・ト・シロ(くろと・しろ)が、彼女を見上げて文句を言っている。
「すまぬな、クロ。我は一人用なんじゃ」
「何で今更蒼フロのシステムにケチつけねぇといけねぇんだよwwww大体、イコンだって定員二人でも無理矢理押し込めりゃもう一人入ってるじゃねぇかwww良いから乗せろやwww」
 なお、搭乗者はあくまでイコンやイコン扱いのものの能力に影響する人員であるため、決して定員以上人が乗れない、というわけではない。
「……分かった、口で良いんじゃな?」
「ちょい待ちwwww何でそんなガッチガッチ歯ぁ鳴らしてんの?wwwガチで喰う気なの?wwwwバカなの?ww死ぬの?ww」
「大丈夫じゃ。直ぐに何も感じなくなるぞ?」
「ガチで殺す気じゃねーかwwww乗せる気ねぇだろwww」
 しかし、実際のところ、手記はこう思っていた。
 「此奴、使えるな」と。
「缶が蹴れるよ! やったねクロ!」
「……」
「無言は止めてくれぬか? 死にたくなる。そこはせめて『おいやめろ』くらいは言って欲しかったぞ」
「いや……うん……まあ、ちょっと蹴ってくるわ」
「ああ」
 テンションがだだ下がりになっていたが、そのまま触龍にしがみつかせ、手記は飛翔した。
 直後、開始の合図と共に爆発音が会場に響き渡る。
「お、始まったのぅ」
 
* * *


 そして現在。
「折角だから、オレはこの赤の缶を蹴るぜ!!wwwwww」
 まあ、ドクターヒャッハーの缶は赤っぽいからそれほど間違ってはいないのだが、三つとも同じ色である。
 クロが触龍から飛び降りて缶へ向かって走り出した。
 レビテートで浮いているから地面のトラップは大丈夫……かと思いきや、狙撃によるグレネードの起爆であっけなく吹き飛ばされた。
「あー、早速やられてしもうたか」
 が、そちらに守備の注意が向いた瞬間に、捕まりそうになっていた霞憐を触龍の口で丸呑みにする。
「何か聞こえたような気がしたが……まあよかろう」
 叫び声を意に介すことなく、そのまま上空へ飛び立とうとした。
「逃がすかァ!」
 だが、ヒルデガルドが力ずくで触龍を止めようとする。
 ラヴェイジャーとしての驚異的な怪力を持ってこそだが、それでもイコン相当対生身だ。手記の方に分がある。
「生憎じゃが、この触龍は我の一部。そう、我が触龍じゃ」
「やかましいわwww」
「ん、生きておったのか?」
 突っ込みの声が聞こえたのでそちらを向いたら、クロが立ち上がるのが見えた。が、その声の勢いとは裏腹に、身体はフラフラである。
「……ってか身体の一部だったらこの時点で捕まえたことになるんじゃねっすカ?」
「あ……」
 気付いた時にはもう遅い。
「マジざまあwwwwwww」
 それだけ口にすると、クロは力尽きた。
 こうして、捕まりそうな人を救出するはずが、自分が捕まる羽目になってしまった。