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リアクション
騎沙良 詩穂(きさら・しほ)からバトンを受けたセルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)は堅実にソリを走らせる。
パスファインダーで雪面対策を施しつつ、パラミタセントバーナードとチルーを操った。
「ここまで来たのですから……」
コースアウトを避けて、懸命にペットとソリを押さえ込む。他のソリから妨害行為と思しきものがあったものの、いずれも堅実な操縦で切り抜けた。
「ちょっと厳しいかな」
「スピードを落としましょう」
芦原 郁乃(あはら・いくの)と荀 灌(じゅん・かん)は、相談して賢狼達に無理をさせるのをやめた。彼女達を引っ張ってきた“はやて”と“いかづち”は、足取りこそ変わらないものの、息が絶え絶えになっている。
「少し休憩ね」
コースの外側にそれる2人の脇を、1台のソリが走り抜けていった。
救護班のヴァイス・アイトラー(う゛ぁいす・あいとらー)が、スノーモービルで駆けつけたが、「大丈夫。怪我とかじゃありませんから」と答え、布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)からココアだけを貰う。
「事故が無かっただけ良しとしよう。後は完走をめざそ」
郁乃が言うと、荀灌も「はい」と返事した。
交代ポイントで一部の賢狼を取り替えた桐生 理知(きりゅう・りち)達だったが、それがまずかったのか、最初のカーブで大きくコースをそれる。
「賢狼達の息が合わないな」
理知の連れてきた賢狼と翔の賢狼が、やや反目し合っている。
「私達みたいには行かないんですね」
言ってしまってから、理知はハッを翔を見る。翔はニッコリ笑って理知の頭を撫でた。
「そうだな。俺達が仲良くなれたんだ。狼もそうなれないわけがない」
コースに戻ると、双方の狼を引き合わせる。
「俺は負けず嫌いだからな。お前達にも頑張って欲しいんだ」
賢狼は分かったのか分からないのか、翔をみつめた。
「よし、いくぞ!」
随分と遅れてしまったが、それでも諦めることなく、翔と理知はソリで下って行った。
交代ポイントで残りの救世主達と交渉を終えたクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)は、泣きべそをかきながら斜面を下っていった。
財布どころか貯金の残高も狙われては、雪だるま王国の威光ななどなすすべない。
しばらく進んだところでスノーマンの背中が見えた。とっくに先に行っていたものと思っていたため、驚いて声をかける。
「おお! クロセル殿!」
スノーマンはこれまでのいきさつを語った。
「お互い入賞も難しいでござろうが、ここは完走目指して……」と言いかけたところで、クロセルの涙の後に気付く。
「どうしたでござる?」
今度はクロセルのいきさつを聞いたスノーマンは、真っ白な雪の顔に、いくつも青筋を立てた。
「そこまでひどい行いをするとは、もはや救世主とは言えぬでござる。この童話スノーマンが退治してくれるでござる」
救世主4人は強敵かと思われたが、雪の中のスノーマンは強かった。引き手を務めていた雪だるまやミニ雪だるまの加勢もあって、救世主達を散々な目にあわせて追い払う。
「クロセル殿、拙者のソリで一緒に行くでござる。なーに、事情を話せば失格にはならんでござろう」
クロセルは男泣きに泣いた。
「ペースを落としましょうか」
白波 理沙(しらなみ・りさ)の提案に雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)も「そうね」と了承する。
理沙の指示を受けてランディ・ガネス(らんでぃ・がねす)はセントバーナードに、ピノ・クリス(ぴの・くりす)はペンギンに足を緩めるように伝えた。
ここまでさしたるトラブルには巻き込まれなかったが、さすがにペット達に疲れが見えてくる。
「どこかで交代させるべきだったかも……」
「もしくは回復ね」
練習と本番では違うことが多すぎる。痛感する4人だった。
「でも完走を目指しましょう」
「ええ、もちろん」
下りに入り、ペースを落とすソリが出る中で、ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)とジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)のソリは大きく順位を上げつつあった。
「ようやく我がダークサイズの時代が来たな」
引き手を交代した上に、乗員との息もしっかり合っている。ジャジラッドは露骨に笑みを隠さない。
少し前に中段グループが見える。あれを追い抜けば、上位も夢ではなくなってくる。
「行けい!」
親衛隊と先行するブルタに指示を送った。
「あれを追って!」
上空から撮影していた藤原優梨子は蕪之進にジャジラッド達に接近するよう頼んだ。
「了解。でもどうして?」
「うーーん、なんとなく」
優梨子の行動予測で不穏な気配を感じ取ったのだが、今は黙っていた。
ブルタとジャジラッドのソリが多少強引に中段グループを追い越した。
ジャジラッドがマントでジークリンデ・ウェルザング(じーくりんで・うぇるざんぐ)の視線を遮る。サルガタナス・ドルドフェリオン(さるがたなす・どるどふぇりおん)が運んできた土を愚者の黄金で砂金や金塊に変える。
「滑り止めよ。す・べ・り・ど・め」
抜いたばかりの中段グループ目指して撒き散らした。あくまで滑り止めであって、他のソリの乗員が気を取られても仕方がない……はずだった。
「あら?」
気を取られるどころか、気にする態度すらなくジャジラッドのソリを追ってくる。
「どうしてー? なんでー?」
「やめろ! 無駄だ!」
ジャジラッドはサルガタナスを止めた。
「全然目立たん! これでは足止めにならんぞ!」
雪に塩、ではないが砂金(元は土)を巻いたところで、スピードの出るソリに乗っている人間からは見分けがつかなかった。
「あーん、札束とかなら良かったのかしら」
ジークリンデがマントを避ける。
「無駄? 何が?」
「なんでもない。他のソリが小細工したようだが、所詮は無駄と言うことだ」
小細工扱いされたサルガタナスは『ジャジラッドだって賛成しましたのに』と思ったが、そっぽを向くだけに留めた。
「うーん、何か撒いたように見えたんだけど……」
藤原優梨子はカメラを覗いたまま不振がる。
「何も起こらなかったのよねぇ」
念のため映像を運営本部に解析するように依頼した。