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リアクション
●Good Vibrations
「はい、ワイバーンドールズはスイーツの店がたっくさんならんでる一角、通称『スイーツストリート』に来ています」
ワイバーンドールズのロケはまだ続いている。
「さっそくお奨めの期間限定ソフトクリームをご紹介しますね。はい、理沙どうぞ」
理沙がアイスを頬張っているところが映し出された。カメラに向けて放つ言葉は、
「おいしー☆」
「なるほど美味しそうですね。他に感想は……」
「とってもおいしー☆」
「いえそれが一番大切なことですけど……もうちょっとこう、ね……。というかさっきのたこ焼き屋さんでも同じコメントしかしてなかったのでは?」
タイミング良く休日で、タイミング良く好天だ。
サイアス・カドラティ(さいあす・かどらてぃ)とルナ・シャリウス(るな・しゃりうす)も、ポートシャングリラの一日を満喫していた。
もちろんデートなのであるが、いきなり手をつなぐのもためらわれ、かといって好き同士なのだから、くっつかない程度には近づいている。
まずはこの時期用の服を選んだ。
サイアスはポロシャツ、ルナは黒っぽいスカート。ルナは、それにあわせる小物もじっくりと選ぶ。
「こういうのどうかな」
黄金虫をかたどったイヤリング、決して悪くはないが、サイアスはもっとシンプルなほうが好みだ。
「その……意見するようで申し訳ないんですけど、このほうが似合うと思います」
赤が混じった銀色、幾何学的なデザインの装飾がついていた。
「そうね、それも悪くないわ。両方はいらないし、どちらにしようかな」
「あの……僕のはあくまで参考意見ですから、気にしなくたっていいですよ」
「うーん」
と、ルナはしばし悩んだが、
「こっちにするわ」
結局、サイアスが提案したほうを選んだ。
「いいんですか?」
「もちろん。だって、イヤリングってつけている自分は見えないでしょう? だったら、見てくれるサイアスが好きなほうがいいもの」
言いながらするりと、ルナはサイアスの腕を両手で抱いた。
「ね、ここからはこうやって歩いていい?」
「……あ、は、はい。もちろんです」
ルナのひんやりした体温を感じながら、サイアスは逆に、自分の体温が上昇するのを感じていた。ふつふつと。
「サイアス。貴方と契約してから、もう結構長いよね」
「そ……そうですね」
サイアスは、自分の顔が紅潮しているのを感じていた。顔から火が出そうだ。照れくさくて、でも、誇らしくて。
「今日は誘ってくれてありがとう、サイアス……とても嬉しいわ」
サイアスにはまだ余裕がなかった。彼女……ルナも、紅潮していると感じ取るほどの余裕が。
「そう思ってもらえて……僕も、嬉しいです」
あと一歩、を埋めるには、きっかけが必要だっただけ。
イヤリングがそのきっかけとなったわけだ。
そこからはもう、どこからどう見ても恋人同士の雰囲気でサイアスとルナはショッピングモールを回った。
五月の風を受けて躍るルナの髪は銀色、つやのある光沢が眼にまぶしい。
自分はルナにふさわしい恋人だと、周囲の人間の目には映っているだろうか――そんなことをサイアスは考えたが、すぐに気にするのをやめた。
他人から見てどうとか、そんな話じゃない。
今、こうしてルナの体温を感じながら自分は歩いている。
それでいいじゃないか。
ポートシャングリラの規模に、及川 翠(おいかわ・みどり)は圧倒されてしまった。
大きい。本当に大きい。広い。
当初、
「全店制覇なの!」
と、翠は勢いこんでやってきたのだが、店を回るだけでも一苦労だ。なにせ、行っても行っても知らない店が出てくる。
当然、ほしいものも次々と出てくる。ついつい手に取ってレジに行きたくなるがそのたびに、同伴の椿 更紗(つばき・さらさ)(お目付役)から、
「………翠ちゃん、買い物は計画的に、ですよ」
という風にやんわりとたしなめられていた。
「じゃあせめて探検するの!」
翠はそう宣言して『スタッフ・オンリー』とか書いてあるドアに突撃しようとするも、
「他のお客様やお店の方に迷惑になるのはダメなのです!」
と、やはり更紗に制止されてしまう。
「え〜っ、探検はダメなの〜っ!? もどかしいの〜!」
仔猫みたいにじたばたとする翠だが、言うなれば更紗はその母猫役だ。
「わがままいってはダメですよ……要は、決められたルールのなかでいかに楽しむかということなのです」
とたしなめて歩かせる。
「さあさあ、行きましょう。そんなところミリアちゃんたちに見られたら笑われちゃいますよ」
ところでそのミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)とスノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)とは、実はにすぐそばにいるのである。
互いに存在に気づいていないだけで、現在も翠と同じファンシーショップにいるのだった。
「このストラップとか〜、ミリアさんに似合いそうですねぇ〜」
「すっごく可愛い! 買っちゃおうかな。スノゥさん、こっちはどう思う?」
「いいですねぇ〜、でもそれだと大きすぎるかも〜」
髪飾りも見ません? とスノゥはミリアの手を引いて、ヘアバンドを彼女の銀のロングヘアに当ててみたりする。水色、緋色、黄緑色……さまざまな色がミリアの髪を彩った。
夢中になって二人は遊ぶ。女の子同士わきあいあい、まるでつがいの小鳥のように。
翠には悪いんだけど、とミリアは思った。
――スノゥさんと二人っきりって最高! 妹ができたみたい。
はっ、と気づいてミリアは言う。
「……でも、なんだかハタから見ると、私が妹でスノゥさんが姉な構図よね? これって」
そうかもしれない。服だろうとヘアバンドだろうと、ほとんど選んでくれるのはスノゥで、ミリアは飾ってもらうばかりなのだ。それに、いつのまにか繋いだ手を、弾いてくれるのはほとんどスノゥだった。
「ですかねぇ〜、それじゃぁ今日はぁ〜、ミリアさんが妹さんなんですかねぇ〜」
「えへへ、これからは二人きりのときだけ『お姉ちゃん』って読んじゃおうかな」
「いいですよぉ〜」
「でも、恥ずかしいから翠たちには内緒ね」
なんだか、甘酸っぱい気持ちになる。
姉と慕うことも。秘密を共有するということも。