First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last
リアクション
【第五章 鹿は跳ね踊り、カラスは嗤う】
青ざめた顔で逃げ帰ってきたノエルの報告を聞いたエリザベートは「分かっておりますぅ。仏像を動かしているものの正体は奈良公園の妖怪鹿なのですぅ」とまたがったゴーレムの上から言い捨てて、前進を続けた。
ノエルは呆然と通り過ぎていく校長と付き従うストーンゴーレム軍を見送ったが、自分もあわてて配布されたストーンゴーレムの元へと走る。
「すみすみ、鹿の憑りついた仏像やって。きな臭いことになってきたわ〜」
校長のそばをゆくゴーレムに乗った日下部 社(くさかべ・やしろ)が、言葉とは裏腹にはしゃいだ声を出した。
隣を行く茅野 菫(ちの・すみれ)が、ゴーレムの立てる地響きに負けないよう声を張り上げて答える。
「ますます面白くなってきたわね。絶対一番取るわよっ! ゴーレム、走れ!」
「おっやる気やな、負けへんで〜!」
社も気合をこめて、ゴーレムに「走れ」と命じた。二体のゴーレムが集団から頭一つ抜け出て、南大門に向かっていく。
「来たあっ!」
南大門の天辺に立ち、目をこらしていたクレア・ワイズマンは、唇をかみ、拳を握り締めた。当初の計画では南大門死守のため、ゴーレムを操作するマスター本郷 涼介と分かれ、金剛力士像に協力を申し出るてはずであったが、鹿角の生えた力士像はまるでぜんまい仕掛けの人形のように近づいていったクレアに襲い掛かってきたのみで、避けるのが精一杯、意志の疎通は不可能だったのである。
(こうなったらおにいちゃんと一緒にゴーレムを使って進軍を食い止めるしかないっ。どうか、早く来て)
その願いに答えるかのように、一体のストーンゴーレムが南大門向かって突進してくる。バーストダッシュを付与されたそのスピード、夜目にも目立つ、腕に巻かれた黄色のタオル。
視認した瞬間、クレアは門から飛び降り、涼介のもと目掛けて走った。
「クレア、バーストダッシュを使え!」
闇の向こうから聞こえた声に反応してバーストダッシュを使った途端、背後にどおん、という破壊音が響いた。振り返ると、巨大な金剛力士像が右拳を石畳にめりこませている。恐怖で凍りつきそうな喉を振り絞って、クレアは叫んだ。
「おにいちゃん、力士像には言葉が通じないっ!」
「分かった、早く乗れ!」
クレアが自分の座る右肩と反対の左肩に飛び乗ると、涼介はゴーレムに指示を出して、力士像の視界からはずれる左後方に回り込んだ。
「力士像と協力するのはやめだ、すり抜けようとする生徒を足止めするしかない。しかし、下手に氷術で足止めしたら、生徒が力士像にやられるかもしれない、どうすれば」
その時、先頭を走るゴーレムから、鋭く凛とした少女の声が響き渡った。
「イルミンスール魔法戦闘航空団団長、茅野菫っ! あたしが一番乗りよっ」
「同じく日下部 社! お人形には負けへんで〜!」
菫は叫ぶと同時にゴーレムの肩から背後に飛び降り、後ろから走ってきた自分とそっくりの格好をしたパビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)に「火術!」と短く指示を出した。
「了解!」
パビェーダの火術で、ゴーレムの身体が真っ赤に燃え上がる。
「そのまま突っ込め!」
力士像の膝ほどまでしかないゴーレムは、向かってくる吽形(うんぎょう)、阿形(あぎょう)のちょうど中央に突っ込んでいった。
「ちょ、ちょっ、すみすみ、火術使うなら先にゆうてや〜!」
火の塊となったゴーレムの熱に閉口して、社はゴーレムにストップを掛ける。
「仕方ない、背後から援護するでぇ! 寺美、スプレーショットや!」
「は、はいぃっ!」
望月 寺美(もちづき・てらみ)がかわいらしい巫女服をふわりと翻して、ゴーレムにスプレーショットを付与する。社自らは雷術をゴーレムに付与し、号令を発した。
「よおし、雷の弾丸、名づけてレールガン発射や! ゴーレム、力士像の足元を攻撃!」
号令と同時にゴーレムの口から、青い稲妻の弾丸が飛び出し、火に包まれたストーンゴーレムを追い越して吽形(うんぎょう)の膝に直撃する。
うおおおお、というような低い叫び声とともに、見上げるような高さの吽形(うんぎょう)がぐらりと傾き、菫のゴーレム目掛けて倒れてきた。菫の鋭い指示が飛ぶ。
「ゴーレム、しゃがめ!」
小さい分機敏な動きで、菫のゴーレムは倒れ掛かってきた吽形(うんぎょう)の足元で身体を丸めた。倒れ掛かった吽形(うんぎょう)の肩が、隣の阿形(あぎょう)にぶつかり、阿形(あぎょう)もよろめく。
「今や! ゴーレム、力士像の足をもういっちょ攻撃!」
再び稲妻が闇を横切り、今度は阿形(あぎょう)の膝にぶつかり、穴を開けた。すると阿形(あぎょう)の身体はもたれかかるようにして吽形(うんぎょう)にぶつかり、止まった。菫のゴーレムを中央にして、二つの大きな木像がもう一つの門のように南大門を塞ぐ形だ。
「あ、ありゃ、まずったか」
社のつぶやきの直後、ゴーレムの側に走りよる一つの影があった。
「祟りじゃ!」
英霊の相馬 小次郎(そうま・こじろう)である。小次郎のヒロイックアサルト、祟りが作用して、絶妙なバランスで安定していた二つの木像の力の均衡が崩れ、ぐらぐらと小次郎目掛け、倒れてくる。
「小次郎、危ない!」
菫の金切り声とともに、背後から巨大な火の玉が発射された。火の玉は倒れ掛かってきた像の動きを一瞬止め、その隙に小次郎と菫のゴーレムは退避する。そして胸の真ん中に火のついた二つの木像は、あっという間に燃え上がった。
「やったデ〜ス!! ワタシの魔砲使いの名は伊達じゃないネ!」」
大きな胸を揺らし、飛び上がって喜んでいるのは金髪の美少女、阿鳩 憐兎(あはと・あはと)である。背後から駆けつけた憐兎はゴーレムに火術を付与し、攻撃を加えたのである。
「校長の肝いりでバトルできるなんてサイコー! ふっふっふ〜、遠慮なしで思いっきり撃ちまくるデ〜ス!! 文化財の被害? その辺は校長にお任せですネ!! さあ、この調子でガンガン行きましょうミナサーン!」
拳を突き上げた菫の袖をバビェーダが引き、「ほどほどにしておきなさい」と小さい声でいさめた。
「くそっ、力士像がやられた……」
涼介は唇を噛む。生身の生徒がいつ飛び込んでくるか分からない乱戦で手を出すのは、スキルの高い涼介にとっても思った以上に困難だった。
「ここは一旦退避して、作戦を練り直そう。先に南大門の中に入り込んで手段を探すんだ」
「分かった」
クレアは大きく頷く。こうして二人はゴーレムに騎乗したまま、他の生徒たちより先に南大門へと入っていった。
燃え上がる二つの像に向け、生徒たちの氷術がかけられる。やがて火は消え、かつては二つの木像だったものが一つの氷像となり、残された。
こうして、エリザベートを先頭としたゴーレム軍は吽形(うんぎょう)、阿形(あぎょう)のなれの果ての横をすり抜け、無事に南大門を通過した。
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last