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リアクション
【第九章 ついに大仏殿へ】
数々の障害を乗り越え、大仏殿前へたどり着いた生徒たちの前に立ちはだかったのは、黒山のような鹿の群れであった。
無言でにらみつけてくる無数の瞳は、月光を撥ね返して不気味に赤く光っている。それに負けぬほど真っ赤に燃える目で、エリザベートは鹿たちを眺め渡した。
「よく集まったものですねぇ」
もちろん鹿は答えない。その変わりに、鹿の群れの前へ突然宙に現れたものたちがいた。
南大門で攻撃を加えてきた、【国宝防衛隊】メンバー、緋桜 ケイ、悠久ノ カナタ、ソア・ウェンボリス、雪国 ベアの四名である。彼らは、ソアがゴーレムに付与した光学迷彩で身を隠していたのだ。
「俺たちは誰かを倒したいわけじゃない。最後通告だ、校長、ここで思いとどまってもらえないか」
ケイの言葉にも、エリザベートはまつげ一本動かさず、冷たく言い放った。
「そこをどきなさぁい。時間をつぶしている暇はありませぇん」
その言葉に答えるかのように、【国宝防衛隊】の前へ、更にゴーレムに騎乗した生徒達が立ちふさがる。茶色の瞳で校長をにらみかえす大人びた少女は、各務 竜花(かがみ・りゅうか)である。
「私たちを受け入れて、楽しませてくれた奈良の街、日本の大切な文化財、奈良の大仏を何だと思ってるんですか!? ライバルって、この子たちはかわいい鹿じゃないですか! 西洋魔法と東洋魔法はライバル? 勝手なきめつけや行動は許せません! どんな処分になってもかまわない、私たちは大仏を守ります!」
普段は内外から軽薄、変態、ドMの称号を欲しいままにしている譲葉 大和(ゆずりは・やまと)も、今日は真剣な表情だ。
「校長、俺は元奈良県民です。想像してください。もし、アーデルハイト様が学生を引き連れて貴方の故郷を、実家を攻撃したら……貴方ならどうなさいますか? これは俺にとってそういう戦いなんですよ!」
この言葉には、エリザベートではなく、隣の肩にまるで石のように押し黙って腰掛けていたアーデルハイトが反応した。
「私がそんなことをするわけないじゃろ!」
「例えばの話です!」
「そうよっ! 大和ちゃんの生まれ育った町の宝を壊すなんて、許さないんだからっ!」
まるで天使のような美少女、ラキシス・ファナティック(らきしす・ふぁなてぃっく)も声を張り上げる。
そして最後に、エリザベートと同じ赤い瞳の少女、メニエス・レインが静かに口を開く。
「郷に入っては郷に従えという言葉をごぞんじでしょう、校長。ここはパラミタじゃないんだから、遊ぶなら、パラミタへ戻ってから、蒼空学園相手にやりなさい」
するとエリザベートはやっと口を開き、
「あなたは本当に蒼空学園と戦うのが好きですねぇ」
「はい。『戦う』のは」
「私も大好きなのですよぉ。蒼空学園と、そして大仏と『戦う』のがぁ。だから譲るわけにはいきませぇん。つまり、お互い引けないようですねぇ」
緊張が波のように高まっていく。
「仕方がありませぇん。皆さん」
エリザベートの呼びかけで、ゴーレム軍の生徒たちもざざっと前に歩み出る。
大和の前に立ちふさがったのは、日下部 社と望月 寺美、そして桃色のモアイ像のバッチを燦然と輝かせた、【魔導人形兵団】のウィルネスト・アーカイヴスである。
社は少し困ったような笑みを浮かべ、
「まさか大和さんが豪華料理につられないとは思わなかったなぁ」
「さっきも言った通り、俺は元奈良県民なんですよ。君こそ実家が神社なんじゃないの?」
「飯のほうが大事です!」
「大和さんとは戦いたくないですぅ〜」
「俺も残念だよ。巫女服、今日もかわいいね」
「おいっ! 大和! 俺の話も聞けっ!」
「何だウィル、君か」
「何だとは何だ! 今回俺様はお前に手心も哀れみも慰めも愛も涙も一切、加えないからそう思え!」
「光栄だな」
「何だと!」
「ウィル! 落ち着け!」
ゴーレムの足元に駆け寄ってきたヨヤがあわてて止めに入った。
メニエス・レインの騎乗するゴーレムの前に進み出たのは、三笠 のぞみの乗るゴーレムである。
「あら、また会ったわね」
メニエスの言葉にのぞみも微笑み返し、
「勝っても負けてもうらみっこなし」
「いいわよ。正々堂々戦いましょう」
二人の間に音もなく、火花が散った。
竜花のゴーレムの前に立ちふさがったのは、青色の長い髪をさらりとかきあげた色白の少女、日堂 真宵(にちどう・まよい)である。もう一つの肩には、いかにも吸血鬼、というオールバックの髪型のアーサー・レイス(あーさー・れいす)が腰掛けていた。
「お話聞かせていただきましたわ。わたくし、今回の戦いにあなたと北極と南極ぐらい違う考えて参加しておりますの。そう、校長は神仏の類と戦えだなんて、本当になんてふざけたこと言ってるんでしょうね。ああなんて罰当たりな校長先生。ステキ、ステキ、ス・テ・キ♪」
「……確かに北極と南極ね」
「オオ、かわいらしい少女、我輩はあなたを全く憎んでおりませーん。ですがしかし、超豪華カレー店ご招待を譲るわけにはまいりませーん!」
「アーサー、さっきからあなたカレーがどうのと言ってますけれど、なんなんですの?」
「さっき校長にカレーを食べさせて下さいと言ったら、うんともすんとも答えませんでしたー。否がないのは応の証ですー!」
「まあ何でもいいですわ。手加減しませんから、そのおつもりで」
「かまわないわよ」
こちらにも、火花が散った。
「さあおしゃべりはそのくらいでぇ。イルミンスール生らしく、正々堂々と戦いなさぁい! 戦闘、開始ぃぃぃぃ!!!!」
エリザベートが叫んだ瞬間、その場にまばゆい閃光が走った。
和原 樹(なぎはら・いつき)がバニッシュを追加して光らせたゴーレムを走らせたのである。
その場にいたものは目がくらみ、そして……何も起こらなかった。
緊迫した空気が一瞬狐につままれたようになり、そして戦いがはじまった。
「いい演出だったよなあ! みたか、みんなの顔!」
ゴーレムに乗ったまま、あははは、と大声で笑いながら樹が叫ぶ。まるで王子のような冠をかぶった端正な横顔を見れば、誰もいたずらを仕掛けたあとだとは思わないだろう。負けずおとらず端麗な容姿の青年、フォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)はあきれたように微笑み返した。
「まったく。だが、早めの離脱には我も賛成だ。こんな戦いを真面目にやっていられるか。
校長がはしゃぎすぎて、建物ごと崩壊させねばよいと心配していたが、想像以上の被害だな」
フォルクスのいうとおり、石畳にはあちこち焼け焦げたあとや穴が開いている。夜闇に立ち上る灰色の煙は、まだ消えていない炎に違いない。
「まあ、大仏殿にたどり着くまで適当に頑張ったんだからもういいよな。思ったよりゴーレムは仏像相手に健闘したと思うけど、さすがに大仏が相手では勝負にならないだろう。枕投げみたいな気分で参加したけど、最後は花火を打ち上げてやったし、結構満足した。あとは宿に帰ってゆっくり休みたいなあ」
「それにしてもこのゴーレム、宿まで乗って帰っても構わないのだろうか。おそらく、あの気まぐれ校長の魔法で動いているのだと思うが」
「大丈夫だろ。それとも夜が明けたら、元のカラスにドロン、と戻ったりしてな」
「十分ありうるであろうな」
二人は楽しげにしゃべりあいながら、元来た方向を目指す。もし何も知らない人が見たら……王侯貴族の狐狩りにでも見えたかもしれない。
ドオオン! ウィルネストのゴーレムの放った炎球は、大和のゴーレムに付与されていたファイアプロテクトに防がれ、足元の石畳だけを穿った。
「どこまで我慢できるかな〜! あはははは〜!」
シルヴィットも高笑いを上げて火術で攻撃する。
「にゃははは! イルミン生のくせにそっちに加担するからこーなるのですよ!」
ヨヤだけは二人の暴走を制止しようと必死である。
「ウィル! やりすぎだ! 大仏殿に火が燃え移ったらどうする!」
大和はウィルネストの火術、そして社のゴーレムの雷術という嵐のような攻撃を避けながら、突然くるりと背中をむけ、大仏殿を目指しだした。
「くそう、二体がかりとは卑怯な! こうなったらロボ合体しかないッ! このゴーレムと大仏を合体させます! ここは奈良、我が故郷! 戦いを制するのは俺なのだ!」
「ボク、覚悟できてるよ! 合体って何すればいいの!」
「知らん!」
「え、ええー?!」
「おほほほほほ! 歯応えが足りませんことよっ!」
真宵はゴーレムの口から雷をぶっぱなしながら、竜花のゴーレムを追い掛け回す。その姿は端から見ると鬼神のようであった。その隣の肩に乗ったアーサーは、カレー、カレーと歌っているだけである。
竜花は隙を見てドラゴンハーツを付加したゴーレムで反撃しようとするが、間断ない雷の攻撃でそばになかなか近づけない。
「くそう、見てなさいよっ!」
のぞみはバーストダッシュを付加したゴーレムでメニエスめがけて突進したが、光術の目くらましにあって目標を見失った。その時左側から大きな衝撃が襲い、のぞみの体は硬い石畳目掛けて投げ出される。あっと思った瞬間、手を握られて地面の激突は避けられた。
「あたしの勝ちね」
メニエルは自分のゴーレムにのぞみの体を引きずり上げ、大仏殿を指差した。
「見て。鹿が大仏殿に吸い込まれていく。これから最後の戦いがはじまるんだわ」
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