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リアクション
【第八章 そして戦いは続く】
南大門前にて、突撃してくる生徒たちのゴーレムを次々と氷術で足止め、更に雷術とクレア・ワイズマンのバーストダッシュで縦横無人に破壊していた本郷 涼介も、さすがに疲弊してきた。
既にエリザベート校長は通過して、大仏殿を目指して進撃を続けているであろう。
「いつまで続くんだ……」
思わずつぶやいたとき、南大門から侵入してくるあらたな一軍を発見した。
「誰だ? こんな時間に入ってくるなんて」
驚いて目を凝らすと、彼らが今まで戦ってきた生徒たちと異なる空気を纏っているのを感じた。
戦いの場に似合わないほのぼのとした雰囲気の彼らは、手に手に大きな荷物を持っている。一体のゴーレムは巨大な鍋をぶら下げ、もう一体のゴーレムは派手な赤と白のカラーに塗り分けられていた。
「ねえおにいちゃん、あれはなあに?」
クレアも、眉をひそめる。
明らかにイルミンスールの生徒で、更に戦いの意志が感じられない以上、こちらも敵意を見せるわけにはいかない。かわりに涼介は彼らに自ら近づいていって、声を掛けた。
「あなたたちは、」
その瞬間、あやしいにおいが涼介の鼻を直撃し、思わず手で鼻と口を押さえる。「何をしているのですか」と続けるつもりだった質問のかわりに、涼介は「このにおいは何ですか」と苦しげにたずねた。
保険医の戸隠 梓が、にこやかに答える。
「お鍋ですわ」
「鍋?」
いつのまにか後ろに来ていたクレアも、においのせいか大きく咳き込んで涙をこぼした。
「みんなお腹が空いているから戦うのでしょう。私たちは戦いを止めるために、ごはんを作ってきたんです。さあ、みんなを呼んできて!」
梓の号令で、数人の生徒が集まってきた。
大仏殿でなく境内にあるほかの建物の掃除を続けていた水無月 睡蓮や、鉄 九頭切丸、同じく菩薩像に向かって一心に祈りを捧げていた、はるかぜ らいむ、そして仏像を傷つけることが出来ず、破壊された石畳の修復や、後片付けを黙々と行っていた水橋 エリスなどの面々である。
旅館を出発する前にエリオットと同じく、周りの生徒に思いとどまるよう説得してまわった、アルステーデ・バイルシュミットとシェーラ・ノルグランドの姿もあった。
「どうだった?」というエリオットの問いに、二人は沈んだ表情でかぶりを振る。まるで月の魔法に掛かったかのように、血にはやった生徒たちに説得は全く通じなかった。もちろん、率いる校長はいわずもがなである。
ただ一組、明るいのがマリオン・キッスであった。彼女はお気に入りの赤いゴーレム「インコちゃん」が破壊される前に、涼介の氷術によって足止めされ、戦線離脱したのである。隣に座った魔楔 テッカは、もう少し戦いたかったと言いながら口いっぱいにおかずをつめこんだ。しかし、赤いゴーレムは明らかに、他のゴーレムに比べてかわいらしく、弱すぎた。
エリスは整った賢そうな顔に渋面を浮かべ、
「ひどいものですわ。みんな好きなように暴れまわったものですから、滅茶苦茶です。どのくらいの補償をすべきなのかまったく見当もつきません」
クローディア・アンダーソンは手作りのおかずを皿に取り分けてねぎらいながら、「大仏殿はどうですの?」とたずねた。
まっすぐ大仏殿にむかったらいむが、ふるふるとかぶりを振り、
「鍵が掛かっていて入れなかった。入り口を破壊して入るわけにはいかないから、ボクは違う建物に移動したんだよ」
その答えに、みな一斉に頷き、戦いの喧騒が聞こえてくる大仏殿に視線を向けた。
「一体、この戦いはいつ終わるんだろう」
らいむの問いに、睡蓮はまるで自分に言い聞かせるように小さな声で、「夜明けまでには、きっと」と答えた。
「みなさん、ここにいらしたんですね!」
銀色の三つ編みを揺らして駆けてきたのは、篠月 流玖(しのづき・るく)。その後ろに続いて現れたのは端正な顔立ちの少年、藤原 和人(ふじわら・かずと)である。二人もまた、仏像との戦いを選ばなかったという点でここに集まっている面々と共通していた。だが、流玖は校長軍、仏像軍関係なく負傷者の手当てに走り回り、和人はなるべく被害が大きくならないよう、自分のゴーレムにバーストダッシュを付与してこれも敵味方問わず、流れ弾や流れパンチから守っていたのである。和人は照れたように頭をかき、
「まいったよ。奈良公園の鹿を誘導しようと思って大量の鹿せんべいを持ってきたのにさ、仏像の正体が鹿だもんな。しかもさすがは仏さま、乗り移ってるのが鹿でも、せんべいにぜえんぜん反応しないんだぜ」
そしてタッパーの中のウインナーをひょいとつまみあげて口に入れると、「そろそろ大仏との戦いが近いから、俺は行くよ」と行って走り去った。
流玖もらいむから形の崩れたしゃけ入りおにぎりを受け取り、礼を言ってから、「僕も行きます」と言って和人の後を追った。
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