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リアクション
最初に仕掛けたのはベアだった。自慢のグレートソードでライゴフに斬りかかる。ライゴフは避けようともせずに、これを棍棒で受け止めた。ベアとライゴフが互いの武器で押し合う。
「俺様と力比べたあ、いい度胸じゃねえか」
ベアはライゴフに上背で大分劣る。上から徐々に押しつぶされて、片膝をついた。そこを一人離れた場所にいるテッツォが銃で狙おうとする。
「邪魔はさせないよ!」
ベアの戦いに邪魔が入らないよう常に気を配っていたマナは、いち早くこれを察知する。テッツォが銃を構えるより先に矢を放ち、狙撃を阻止した。
「助かったぜマナ」
「周りは気にしないで、存分に戦ってよね!」
マナの笑顔がベアを勇気づける。
「私たちも忘れないでください」
ベアに続いていたイエスが、ランスで横からライゴフを突く。ライゴフはこれをバックステップでかわしたが、着地点に悠里が火術を合わせた。
「っぷう。やってくれるねえ」
しかし、火術を体で受け止めたライゴフはぴんぴんしている。
「魔法が効かないですって?」
面食らった悠里は思わず声を出す。
「効かないはずはありませんわ。おそらく強靱な肉体を利用して、うまく術を受け流しているのでしょう。悠里、ここはヨシュアとあの男性の近接攻撃で急所を狙うのが賢明だと思いますわよ。あなたは魔法でそのサポートを」
悠里とイエスの後ろでサポートに徹する四季が、的確な指示を与える。
イエスとベアで前衛を固め、悠里がそのサポート。これでライゴフは仲間の援護にいく余裕はない。テッツォの介入にはマナが目を光らせているし、ピガロは元から仲間を助けたり仲間に助けられたりすることに興味がないようだった。
「攻撃する暇なんて与えませんよ」
イエスは槍で隙のない突きを連続で繰り出していく。
「おりゃあああああっ!」
一方ベアは、隙こそ大きいものの一発一発の破壊力は抜群の斬撃を叩き込む。
両脇から加えられる二人の攻撃を避けきれないライゴフは、棍棒でそれを捌
かざるをえない。
「正面ががら空きですよ。今自分の魔法を受けても、さっきみたいに平気な顔ができるでしょうか」
悠里が、先ほどのお返しとばかりに渾身の雷術をライゴフにぶつける。これにはさすがのライゴフも苦痛に顔を歪ませる。戦況は少しずつベアたちに傾き始めた。
遠距での攻撃手段をもつテッツォが、一番他の相手と戦っている仲間の邪魔をする可能性が高い。小柄で機敏なジュレールがテッツォに突撃していく。
「ジュレちゃん、ずる〜い! じゃ、あたしは子分倒して点数稼ぐんだからね。どっちがたくさん点とれるか勝負だよ」
この緊迫した場面でも、トメはすっとぼけたことを言う。散々作戦を説明されたというのに作戦を忘れ、これを何かのゲームと勘違いしているようだ。
トメはヒロイックアサルト『御神渡りの舞』で潜在能力を高め、襲い来る海賊の子分たちを退ける。一応カレンの呪文詠唱を支援する形にはなった。ちなみにこの海賊たち、逃げようとしていたところにピガロたちが出てきてそうもいかなくなった。かわいそうな連中である。
「王水よ、飛散せよ!」
カレンはアシッドミストを唱える。酸によってテッツォの銃を腐敗させ、使えなくする作戦だ。これに対してテッツォは銃を服の中に隠し、銃口だけを覗かせる。
「ああ、ずるい! それなら正攻法でいくよ!」
カレンは攻撃魔法を撃つ。しかし、身軽なテッツォはいとも簡単に避けてみせる。
「早く撃ってこい!」
ツクヨミはテッツォが発砲するのを待っていた。最初の一発さえかわしてしまえば、次弾の装填には時間がかかる。その間に片手で氷術を使い銃口を塞ぎ、もう片手で炎術を使い点火。これで銃の暴発を狙うのだ。
ジュレールがつかず離れずの距離で動き回り、時折攻撃を混ぜる。これがツクヨミの望む状況をもたらした。
いつまでも受けに回っていては押し切られる。そう考えたテッツォが攻勢に転じたのだ。ジュレールは素早くて的が絞りにくいし、カレンのアシッドミストはすぐには効果を発揮しない。テッツォはツクヨミに向かって引き金を引いた。
狙撃を回避するのは並大抵の事ではないが、ツクヨミはあらかじめ自分が狙われることを予想し、初撃の一発を避けることに全神経を集中していた。ぎりぎりのところで弾丸が頬をかすめる。
「勝った」
勝利を確信したツクヨミの目に映ったのは、自分に向かってくる銀の煌めきだった。テッツォは狙撃のフォローとして投げナイフを投げていたのだ。
「!」
予想外の出来事にツクヨミは体が動かない。
「銃弾に比べればナイフなんて止まっているようなものなのだよ」
しかし、ジュレールがソニックブレードでナイフをはじき返す。
「今がチャンスだよ! お願い、決めて!」
ちょうど辺りは日が暮れ始めたころだった。カレンはテッツォが弾を込めている間に光術を唱え、テッツォに放つ。激しい閃光にテッツォが目をくらませた。
「みんなが作ってくれたチャンス、絶対逃さない!」
ツクヨミはバーストダッシュでテッツォに急接近しながら、右拳に炎の魔力を集中させる。そして、全身全霊の一撃を放った。テッツォは強烈に吹き飛ばされて船針に激突。気を失った。
「悪にかける情けは無い! ……な〜んちゃって」
勝利のキメポーズ。こうしてまずはテッツォが撃破された。
ベアたちもライゴフを追い詰めていた。誰もが行けると確信し始めたそのときである。
「ヨシュア、危ない! 何かいます!」
悠里が禁猟区の効果で危険を察知する。
イエスが反射的に体をよじると、すぐ脇でランスが空を切った。
「あーそびーましょ」
ミネルバだ。
「まだまだー!」
「きゃっ。あ、あなた、やめてよ」
イエスは咄嗟にミネルバの技を受け止めるが、ミネルバは攻撃の手を休めない。次第に猛攻に押されていく。
挟み撃ちから解放され、ライゴフは息を吹き返した。ここぞとばかりに棍棒を振り回す。
「こいつはなんとか俺が食い止める。その間にそのおかしなねーちゃんをなんとかしてくれ……!」
ベアはライゴフに一対一で応戦する。
「邪魔をしないでください。どなたかは分かりませんが、ヨシュアに危害を加えるのならこちらも容赦はしませんよ」
悠里がミネルバに魔法を放つ。ミネルバは避けようともせずこれをもろに食らった。
続いてマナがミネルバを射る。やはりミネルバは避けようとせず、彼女の腕に矢が突き刺さる。
「アハハハハハ!」
「なんなの……この人……」
マナがおびえて方をふるわせる。
ミネルバは怯むどころか一層興奮しているようだった。ヒロイックアサルト『痛みあっての戦闘』で傷つくほど能力が上がるのだ。
ついにイエスの槍がはじかれた。ミネルバが槍を振りかざす。
「ひっ」
絶体絶命のピンチにイエスが目をそらす。
「ぐ……お……」
だが、ミネルバが矢を突き刺したのはライゴフだった。イエスはもう倒したと判断したため、次に近くにいたライゴフを狙ったのだ。ミネルバは、戦いさえできれば相手は誰でもよかった。
「てめえええええ!」
ライゴフが逆上する。それと時を同じくして、爆音とともに大きく船が揺れた。真紀の仕掛けた時限爆弾が爆発したのだ。
「アハハハ」
ミネルバは満足したのか引き際だと感じたのか、素早く海に飛び込む。どんどん小さくなっていく彼女を、イエスは呆然と見つめていた。
「ヨシュア、ぼさっとしていないで早く戦闘に戻ってください! 彼が危ないですわ!」
四季が叫ぶ。イエスは慌てて槍を拾おうとしたが、ライゴフが遠くまで槍を蹴り飛ばす。
「ちょこまかするなあ!」
ライゴフが渾身の一撃を繰り出す。これを剣で受けたベアの全身に衝撃が走る。
「くっ……」
「ふんぬううう」
ライゴフも必死だ。全体重をかけてベアを押しつぶそうとする。
「ベア、負けないで!」
マナ祈るような思いでベアにヒールをかける。疲労が限界に達していたベアが体力を回復させる。
「このようなことをするのは気が引けるのですが、そんなことを言っている場合ではありませんね。失礼します」
ミネルバによって作られたライゴフの傷。悠里はそこを狙って雷術を流し込んだ。
「うっ!」
ライゴフは膝から崩れ落ちる。
「おおおおお……!」
奇跡的に訪れた勝機に、ベアが最後の力を振り絞る。棍棒が砕け、甲板に散った。
ベアがライゴフに剣を突きつける。
「俺の、いや、俺らの勝ちだな。マナやみんながいなかったら負けていた」
セトとミアはたった二人でピガロの相手をしていた。
「ミア、こいつの攻撃は全てオレが受け止めます。攻撃は任せましたよ!」
セトはディフェンスシフトで防御力を上げ、持てる技術を駆使して全ての攻撃を自分に引きつける。
「任せるのじゃ。耐えてくれよ!」
「ほう。わしの攻撃を受けきることができるかな」
ミアは、セトがピガロの攻撃を凌いでいる間にギャザリングヘクスで魔力を強化する。そうして火術を放った。
「おっと」
ピガロはセトから離れて火術を避ける。ミアは続いて雷術を放つ。するとピガロはカトラスでこれを反射した。
「わわっ!」
ミアは自分に返ってきた雷術を必死でかわす。
「ぬう。おぬし、その武器反則じゃあ!」
「ははは、いい武器だろう。わしは武具を集めるのが趣味でな。これも随分苦労して手に入れたんだ」
ピガロは余裕で自慢する。
魔法は連発できないのが弱点だ。一度かわされるとピガロは再度接近してくるので、必然的にセトの負担が大きくなる。いくらセトが時間を稼いでくれても、ピガロにダメージを与えられなければじり貧だ。
「どうすれば」
セトはピガロの猛攻に晒されながら、懸命に考える。
「あれは……」
そして何かに気がついた。
「大丈夫ー? こっちは終わったよ! 二人だけにしてごめんね。私まだまだ元気だから、今そっちにいくよ!」
ちょうどそのとき、テッツォを倒し、しっかりと縄で縛り上げたカレンがセトのほうに走ってきた。
「こちらも無事にライゴフを倒し終えました。自分もそれほど消耗していませんので、ただちに援護に向かいます」
同じく悠里も近づいてくる。戦う力が残っているのはもうこの四人だけだ。
「グッドタイミングです! ミア、アシッドミストを!」
「アシッドミストじゃと?」
「いいから早く!」
「わ、分かった」
ミアがアシッドミストを唱える。甲板は霧に包まれて視界が悪くなった。セトはいったんピガロから離れる。
「ふん、時間稼ぎか。槍の届く距離までくれば姿が見える。遠くからの魔法はこのカトラスが反射する。そして霧が晴れれば同じことだぞ」
ピガロは慌てずに体の前にカトラスを構える。ミアたちがセトのもとに集まった。
「あやつの言うとおりじゃぞ。一体何を考えて……」
「今から説明します」
セトは三人に思惑を話した。
「すごいよ、その作戦。きっとうまくいく!」
「確かに、やってみる価値はありそうじゃの」
「どうせ他に方法もありませんし、やるだけやってみましょう」
ミアたちはセトに賛同する。
「ありがとうございます。では、霧が晴れたら手はずどおりに」
そしていよいよ、霧が晴れる。
「作戦会議は終わりか?」
「これがうまくいかなければオレたちの負けです。みんな、やってください」
「面白い。来い!」
ミアが火術を、カレンが氷術を、悠里が雷術を一斉に放つ。しかし、それらはどれもピガロから大きく外れていた。
「どこを狙っているんだ? やれやれ、期待して損をしたな。もう船も沈む。終わりにするぞ!」
ピガロが斬りかかってくる。だが、その背中を強烈な魔法がとらえた。
「なん……だと……?」
甲板に倒れ込むピガロ。
「はあ……うまくいきましたか」
セトは脱力する。
「何をした」
「あれですよ」
セトがピガロの背後を指さす。そこには一つの盾があった。
「あなたさっき、武具を集めるのが趣味だと言っていましたよね。そのおかげで気がついたんです。あの盾が甲板に落ちているのに。そうでなければ見落としていたでしょう。そしてあの盾には、そのカトラスと同じ紋様が刻まれていました。魔法を反射するカトラスとね」
「……隠してあったのだがな。先ほどの振動で出てきてしまったか。いや、見事な洞察力だ。部下に欲しいくらいだ」
「あなたも口が減りませんね」
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